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魔法銃士ルーサー、ジョロネロ国の兵士の駐屯地を視察する

 三日目の朝、俺達は外交官マルフクにジョロネロ国の兵の駐屯地まで案内して貰っていた。

 ジョロネロ国の駐屯地は町外れの丘陵地にあり、その広大な敷地は高い塀で覆われている。

 ミツールが俺に尋ねた。


「そういえばルーサーさん、何で兵団の駐屯地って、ここもドーラの町も高い壁で囲われているんですか?

 どっちもやたら高いくせに薄いから防壁としてあまり使えそうに思えないんですけど」

「中身を見せないためだよ。

 お前が逆に町や兵団の駐屯地を襲撃する立場になって考えてみろ。

 まず何をする?」


「偵察しますね」

「そうだ。

 戦争は遊びじゃ無いんだ。

 襲い掛かる側は離れた場所に何日も潜み、兵士は何人居てどんな兵種がいるか。

 一日の活動は何時ごろにどんなことをしているか。

 襲撃するならどこからどう攻略するか、じっくり望遠鏡で見て調べようとする。

 それを不自然に高いあの壁が阻止するのさ。

 あの壁があるせいで内情を探るには中へ侵入しないといけなくなる。

 ハードルがぐんと上がるだろう?」


 駐屯地の門番としばらく話していたマルフクはこちらを振り返って言った。


「それでは皆さん、中に入るミャよ」

「よし、行こうか」


 俺達がギギギギと開かれた門をくぐり中へと入った。


 ――――――――――――――――― 兵舎の広場 ―――――――――――――――――

 笑

           兵        兵        兵        兵

           兵        兵        兵        兵

           兵        兵        兵        兵

           兵        兵        兵        兵

           兵        兵        兵        兵

           洗        浸        塗        転

           糞        糞        糞        糞


                 左        鬼        右


 兵:一般兵ペッパーワーキャット

 左:教官ペッパーワーキャット

 右:教官ペッパーワーキャット

 鬼:鬼軍曹ペッパーワーキャット

 糞:糞尿で満たされた大きなタライ

 洗:糞尿を両手で救って顔を洗う一般兵ペッパーワーキャット

 浸:糞尿の樽に首まで浸かっている一般兵ペッパーワーキャット

 塗:体に糞尿を塗りたくっている一般兵ペッパーワーキャット

 転:薄く糞尿を満たしたタライでゴロゴロ転がっている一般兵ペッパーワーキャット

 笑:不気味な微笑みと共に横になって鉄の矢を磨くデブ気味の一般兵ペッパーワーキャット

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ダイヤが思わず鼻をつまんで叫ぶ。


「くさっ! 何この臭い!」

「訓練か? うわぁ……」

「ルーサーさん、あの人達が体に塗る付けてる樽の中の茶色い物ってもしかして……」

「…………」


 外交官のマルフクにとっても予想外の光景だったのか、言葉を失っている。

 俺は鼻をつまみながら鬼軍曹の右に居る教官ペッパーワーキャットに歩み寄り、聞いてみた。


「すまん、ちょっと教えてくれ。

 酷い臭いがするんだが、一体あれは何をしているんだ?」

「根性を鍛えているミャ。

 勇気と根性を鍛えるために、糞尿洗顔や糞尿風呂、糞尿を体に塗りたくったりゴロゴロしているミャ」


「……いや、確かに根性や忍耐力は必要だがわざわざ糞尿を使う必要は無いだろ。

 これじゃただの虐めじゃねぇか。

 一体だれがこんな事を決めたんだ?」

「あそこの鬼軍曹と呼ばれているお方ミャ。

 我々としては正直嫌ミャが、階級上あの鬼軍曹に逆らえないミャ」


「まぁ、純粋にジョロネロ国の内輪の問題なんだからあまり突っこむ気は無いよ。

 それより俺達が来た理由は、魔王軍への物資輸送を隠れてジョロネロ軍補給部隊がやっている疑惑の調査だ。

 まぁいきなりだが一応聞いておく。

 魔王軍への隠れた物資支援はやっているのか?」

「やっているミャ」


 平然と答える教官ペッパーワーキャットに驚きながらも聞き返す。


「駄目じゃないか。

 光輝の陣営からの様々な支援の対価として、魔王軍への物資支援は一切やらないという条約にジョロネロ国は調印したはずだぞ?

 それに君達は魔王軍が今までどんなことをしてきて、何をやろうとしているのか分かってるのか?

 略奪と搾取の限りを尽くし、いくつもの反抗的な民族や組織構成員が全部殺され、スケルトン兵団に変えられたりしている。

 奴らはひたすら自分たちが支配者として君臨しようとし、逆らう者を恐怖と暴力でねじ伏せる事しか考えない。

 奴らの心には『我』と『欲』しか無いし、他者との融和など理解すら出来ない。

 永久に絶える事の無い殺しあいと悲劇しか未来が無くなるんだぞ?」

「分かっているミャ。

 支援を主導しているのは鬼軍曹の左に居る教官ミャ。

 あいつは反ミィム王家の学生運動上がりで、魔王軍との融和派ミャ。

 残念ながらあいつと同じ思想の勢力が何割か居るので止める事は難しいミャ」


 俺はその教官ペッパーワーキャットから離れ、鬼軍曹の左側で立っている教官ペッパーワーキャットの方へと歩み寄る。


「よぅ、俺は光輝の陣営の特使としてここに派遣されて来ているんだが、貴方に聞きたいことが有る。

 貴方は魔王軍の勢力をどんな風に捉えている?

 奴らはまさに悪の権化、殺戮と恐怖を振りまく悪魔共だ、違うか?」

「とってもいい奴らだミャ。

 彼らが世界を支配すれば、全民族は完全にハッピーになって労働すら不要になるミャ」


「貴方は実際に魔王軍に支配された町や村を見たことが有るのか?

 あれは地獄だぞ?

 家の代わりに牢獄が並んでるんだ。

 あちこちで串刺しの死体や吊るし首の死体がぶら下がっている。

 見せしめとしてな。

 それに貴方が言う、全民族がハッピーになれるという根拠は何だ?」

「見たことは無いミャが、反ミィム革命協会機関紙によると素晴らしい統治がなされているミャ。

 全人民が一軒家に大勢の召使いを働かせて住み、毎月山ほどの宝石と金塊が給料として払われていたミャ。

 根拠?

 ミィム王家は光輝の陣営に媚びて国を活性化させたと国民を騙す悪党ミャ。

 そのミィム王家が敵対して、非難していた相手なんだから素晴らしいに決まっているミャよ」


「ミィム王家が悪党だという根拠は?」

「学生時代に配られた機関紙に書いてあったミャよ。

 いかに奴らが非道な奴らか。

 そんな奴らにのさばられて国を弄ばれ、ミャー達は悔しくて悔しくて毎日涙を流したミャ。

 でも一年前にようやく悲願が叶い、クーデターが起こってこの国は正しい道を歩み始めているミャ」


 俺はその教官ペッパーワーキャットから離れて沈黙する。

 俺と一緒に左と右の教官ペッパーワーキャットの話を聞いていたミツールとダイヤも俺の左右に立つ。


「ルーサーさん、アイツら隠す気も悪びれる気持ちも皆無ですね」

「魔王軍の非道は世界の常識なのに、何故魔王軍に心酔するのか私には理解できないわ」


 俺はしばらく考え込み、言った。


「俺は勇者のパーティーで、純粋に武力で戦って来ていた。

 でも別の次元での戦いがあったという事だ。

 左のペッパーワーキャットは、最初のインプットからして幻想を見せられている。

 そして強いトラウマを植え付けられ、学生だった幼さ、持っている情報の少なさ、性格的な物、知性の低さなどの要因で、ミィム王家を心から憎まされた。

 それはミィム王家が敵対しているなら、それは良い奴なんだという捻くれた結論を導いた。

 だって悪い奴に負かされているなんて教えられてたら悔しいからな」

「ち、知性が低いなんて失礼よ。

 ミツールじゃあるまいし」

「失礼はお前だろう……馬鹿でわるぅございましたね」


「矛盾に気づいていないからな。

 大邸宅に大勢の召使いを雇って住み、働かずに山ほどの金銀財宝が支給される。

 そんな事あるわけ無いだろう。

 だれが金銀財宝を発掘するんだ?

 雇われている召使いは『全員』に含まれないのか?

 労働無くして利益無し、能力が高い物、頑張ったものが多くの報酬を受け取る。

 それが世界の真理だ。

 当たり前の事が分かっていない。

 現実的な話、知性の低い奴はどんな時代も一定割合居る。

 魔王軍は巧妙に彼らを若いうちから扇動し、この国を裏から操っていたんだ」

「どうするんです? 説得するんですか?」


「聞く耳など持たんさ。

 俺達は極悪非道のミィム王家の手先、彼らにトラウマを植え付けた悪者だからな。

 どんなに正論を言おうが、事実を示そうが、彼らは全て拒絶する。

 それが彼らの感情であり、結論は決まっているからだ。

 だが、裏で彼らを扇動する魔王軍の手の者、かなり頭が良くて狡猾な奴がこの国に潜んでいる。

 俺達はジョロネロ国を去る前に、そいつを見つけ出さなければならないだろう。

 一旦ここは引いて酒場で情報収集するか」

「でもルーサーさん、せめてあの糞尿訓練は止めてあげましょうよ。

 あんなの酷すぎるわよ」


 ダイヤがそういった直後、俺の背後の広場で兵士達が大騒ぎを始めた。

 何かトラブルが起こったようだ。

 俺は振り返って様子を伺う。


「や、止めるミャ――!」

「おぃ、そこの微笑みデブ、貴様わしに逆らう気かミャ!」

「弓を、弓を下ろすミャアアア!」


 広場の隅っこで寝転んでた太ったペッパーワーキャットがニヤニヤ笑いながら矢を弓につがえ、鬼軍曹を狙いながら歩み寄っていた。


「わ、分かったミャ。話せば分かるミャ」

「へへへへへ……、ピアーシング・アロウ……ミャ」

「止めるんだミャアアア!」


 バシュッ! グサッ ドサッ


 矢は放たれ、鬼軍曹の胸を貫いた。

 鬼軍曹はその場に倒れ、太ったペッパーワーキャットは二発目の矢を自分に向けて構えて引き絞り、自分の胸を貫いて倒れた。


「え、衛生兵ミャァァァ――!」


 ダイヤは俺の腕を掴んで訴える。


「大事になっちゃったわよ!? ルーサーさん、何とかしないと!」

「手遅れだな。矢は二発とも完全に心臓を貫いている。

 あの太ったペッパーワーキャット、生きていれば相当な弓の名手になれただろうにな」

「でも結果的に糞尿訓練の問題は片付きましたね。

 あの鬼軍曹がやらせてて、皆嫌がってたならもう中止でしょうし」

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