魔法銃士ルーサー、ジョロネロ漬けの生産風景を見学する
ジョロネロ国の腐敗状況をしっかりと記録した後、ペンを動かしながら俺は言った。
「マルフク殿、次は人間の国やドワーフや獣人の国に輸出しているジョロネロ漬けの生産している所を見せて欲しい」
「え? そりゃまたどうしてミャ?」
「大規模な食中毒を引き起こしたからだ。
光輝の陣営に所属する国々でトータル6000人くらいが苦しんで寝込む事となった。
一体どういう環境で作ってるのか見てきて欲しい……とな」
「そんなもの輸送した奴が悪いか、保存状態が悪いに決まってるミャよ。
私達は毎日食べてるけどピンピンしてるミャ。
まぁ、見たいって言うなら見せてあげるミャ。
ついて来るミャ」
ミツールが俺に聞く。
「ジョロネロ漬けって何ですか?」
「ジョロネロ国の名産品、他の国々で、ジョロネロ国の名前が製品に付けられるほどにヒットした漬物だ。
白菜やキュウリ、角切りにしたダイコンを唐辛子やオキアミの塩辛などと一緒に漬け込んだ、かなり辛い漬物だ。
臭いも超キツイが、逆にそれにハマる人も多い」
「私は無理だなぁ」
「ペッパーワーキャットも猫と体質同じようなもんでしょ?
唐辛子なんか食べて大丈夫なんですか?」
「獣人族は種族の分かれた祖先の獣と違って体が大きいからな。
その分耐性も上がっている。
そして何よりペッパーワーキャットは唐辛子に対して特に耐性が強い。
ほら、あれを見て見ろ」
二匹のペッパーワーキャットが口の開いた紙袋を持ちながら並んで談笑しながら歩いていた。
二匹とも片手で紙袋を持ち、片手を何度もそこに突っこんでは赤い実を摘まんで口に運び続ける。
パリポリ、パリポリ
ポリポリ、パリポリ
「はぁぁあ! やっぱ唐辛子は美味いミャー!」
「モグモグ、ん? おミャアの持ってる奴いつもの乾燥唐辛子じゃないミャね?」
「これは乾燥した大唐辛子の中に、粉末状の激辛のブルーオーガ・トウガラシを詰め込み、ひも状に切った死亡級激辛のガルーダ・クロウ・トウガラシで縛った、凶王ジョロネロという新発売のお菓子ミャ」
「いいミャァ、一つくれミャ」
「仕方がねぇミャ」
俺はそのペッパワーワーキャットに近寄って言った。
「旨そうな物を持ってるな、一つだけ俺にも分けてくれないか?」
「人間、人間ミャよ」
「じゃぁ、一つミャ」
「ありがとう」
気前のいいペッパーワーキャットから凶王ジョロネロを一つ貰った俺はミツールに聞いた。
「お前、辛いの得意か?」
「ルーサーさん僕を甘く見てますね?
言っときますけど、僕は地獄の辛さで9割以上の客が食べきれずに残す、東極ラーメンを制した男ですよ」
「よし、じゃあ半分やろう」
俺は凶王ジョロネロを半分に割ってミツールに渡し、半分をパクリと自分の口へ……。
(スキル・毒薬飲んだ振り)
口へ運ぶ振りをして指で弾き、近くの草むらへ捨てた。
クイックショットを放てるようなグランドマスター魔法銃士の人差し指で弾くと、人間の反射神経の限界を超えたスピードなので、目の前で見せられても分からない。
これは敵に捕らえられた場合や、やむを得ず毒を飲んで見せなければならないという超レアなシチュエーションの為に伝えられた秘技である。
俺はバリバリ食ってる振りをして口をモゴモゴ動かした。
「うむ。旨い旨い」
「ぐおおおおおおおぉぉぉ! ゴッ、ゴホッ!
ぐああぁぁぁっ!
ヒィィィ――!
フォ――ォォォッ!」
ミツールは顔を真っ赤にして口を開けて叫んでいる。
ダイヤはカバンから水筒を取り出し、黙ってミツールに渡した。
そしてジト――っとした目で俺を見る。
ひょっとして気付かれたか?
いや、人には見えないはずだ。
「ゴホッ。(ゴクゴク)
ケホッ、何という辛さ、ヤバイっすよこれ。
つーかルーサーさん、絶対食ってないでしょ」
状況からバレたか。
「ま、まぁ、そういうのを平然とバリバリ日常的に食ってるんだよ。
ペッパーワーキャットは恐らく世界でトップレベルに辛さ耐性が高い。
別に世界トップと言っても何か役に立つわけでもないがな」
***
俺達は外交官のマルフクに案内され、ジョロネロ漬け生産場へと辿り着いた。
マルフクは扉に歩み寄ってドアノブに手を掛けながら言った。
「我が国ではジョロネロ漬けは雌が大勢、手作りで丹念に製造しているミャ。
たまに野菜にカタツムリやカエルが付いてたりするのも自然の事ミャ。
そういう物は間違いなく作業員が取り除いているので安心ミャ」
「まぁ、それは分かってるよ。
どこでもそんなもんだ。
山のように積んだ野菜に小さなバッタが一匹紛れてたとして、間違いなく発見して取り除くなんざ無理。
クレームを付ける奴は大体おかしいよ」
「ルーサー様は物分かりが良い方で安心したミャ。
それじゃぁご覧くださいミャ」
外交官マルフクは扉を開けた。
―――――――――――――― ジョロネロ漬け製造工場 ―――――――――――――――
糞 鼠
糞 ゴ 鼠 糞
作 作 作 作 作 作
机机机机白白白机机机机辛辛辛机大大大机机机机辛辛辛机机机机キキキ机机机机白白白机机
机机机机白白白机臓臓机辛辛辛机大大大机臓臓机辛辛辛机臓臓机キキキ机臓臓机白白白机机
机机机机白白白机机机机辛辛辛机大大大机机机机辛辛辛机机机机キキキ机机机机白白白机机
作 作 作 作 作 作 菌
糞 菌菌菌
作 作 作 作 作 作 菌
机机机机白白白机机机机辛辛辛机大大大机机机机辛辛辛机机机机キキキ机机机机白白白机机
机机机机白白白机臓臓机辛辛辛机大大大机臓臓机辛辛辛机臓臓机キキキ机臓臓机白白白机机
机机机机白白白机机机机辛辛辛机大大大机机机机辛辛辛机机机机キキキ机机机机白白白机机
作 作 作 作 作 作
蛆 親鼠<チュー
蛆糞蛆 子鼠<チュー
蛆 子鼠 子鼠 子鼠<チュー
白:白菜
臓:魚介系の素材
辛:唐辛子
大:ダイコン
キ:きゅうり
作:雌のペッパーワーキャット作業員
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ガチャン
俺は即座に外交官マルフクの手を払いのけ、扉を閉じた。
一行は工場の外で立ち尽くす。
「ど、どうしましたミャ?」
「うむ。根本的な問題だが、ジョロネロ国は毎年疫病でどのくらい亡くなったりするんだ?」
「そうですねぇ、残念な事ですが毎年伝染病で何千人も亡くなってるミャ」
「そうか。
実は俺達人間も同じだったんだ。
昔は糞尿は適当なところに捨てる。
遠くの森まで大便をしに行くなんて面倒だろう?
だから結局近くでするような状況になった。
そうすると大勢の人間の集まる大都市は、時間が経つにつれて凄い事になったんだ。
そして町に蔓延する汚物が伝染病の大流行を引き起こした。
その結果、町を丸ごと捨てて別の場所へと遷都する。
そういう事が繰り返された」
「人間も同じだったミャか」
「地域によっては豚を町で放し飼いにして、豚に汚物を食わせて処理するという事を考え付く賢い人たちも居た」
「名案だミャ」
「だがな、それで解決を行った地域では汚物を食べた豚が、逆に人間に疫病を広める事に繋がった。
その因果関係を突き止めたのは当時のその地域の宗教指導者でな、豚を不浄な物として食べる事を禁止したんだ。
それは今でもその地方の風習として残っている」
「豚でも駄目かミャ」
「人類の歴史は汚物との戦いの歴史、色々な文明はそれぞれの方法で解決策を見つけ、そのテクニックを蓄積してきた。
でだ、今人間の町での最新の解決策がある」
「それは何かミャ?」
「スライムだよ。
糞尿を下水道から流して隔離された施設へ運び、そこで育成している特殊なスライムに消化させる。
スライムはそれを食って成長を続け、ある程度巨大化したら別室に誘導して電撃系魔法で完全に殺す。
その死体を乾燥させると肥料の粉末になるというわけだ。
野生には存在しないスライムで、人間が何十年もかけて交配して作り上げた種だ。
だがそれをジョロネロ国に分け与えるように進言しておこう」
「それは有難いミャ」
「ルーサーさん今回妙に優しいですね」
「回り回って結局苦しむ事になるのは自分たち、人間の国だからな。
これは決して優しいとかお人好しとかで片付くものじゃない。
長い歴史の中で、人々が辿り着いた進化、文化という大きな生き物としての知恵なんだよ」