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魔法銃士ルーサー、食糧生産工場のマネージャーに忠告する

 俺は水車技術者のテツトラよりもさらに上の、食料生産工場のマネージャーを呼ばせて話を聞いていた。


「どう考えても雇ってる人数と時間からしたら、成果物が出てないはずだろう?

 本当は水車の力を使えば桁違いに生産性が上がるはずなんだぞ?」


 背広を着たペッパーワーキャットのマネージャー、オリバーは困り顔で答えた。


「しかしテツトラさんは天才なので、彼が最善を尽くしているなら信じるしか無いミャ」

「当然ミャ。疑うならまた第四水車から伸びた機械がいかにすごいか説明し直そうかミャ?」


「いえいえいえ、私には難しすぎて良く分かりませんミャア。

 勘弁して下さいミャァ。

 テツトラさぁ――ん」


 ガラララララ


「おおぉぉ、凄い凄――ぃ!」


 離れた場所でダイヤの歓声が上がった。

 俺は一旦オリバーさんから離れてダイヤの元に駆け寄る。

 見てみると新人のタロが縦横1メートルくらいの箱の上にバケツに入った小麦粉を入れ、横に飛び出た台のようなものに空の紙袋を積み重ねている。

 そして箱についたクランクを両手でクルクル回すと、小麦粉が袋に綺麗に詰め込まれ、自動的に口に封がされた状態で次々排出されていた。


「ほぅ?」


 俺は近寄ってタロに聞く。


「凄いなこれ。これもこの工場の施設の一部なのか?」

「手作業でやるのが面倒だったからオイラが作ったミャ。

 元々パズルとかオイラ大好きミャが、この工場には色んな機械が有って触発されてアイデアが沸くから楽しいミャ」


 横を見るとテツトラも着いてきている。

 俺はテツトラに向き直って言った。


「テツトラさんよ、このタロが作った袋詰めマシン凄いと思うんだが、もっと作って皆で使ってはどうだ?

 あとタロは今袋詰め係?

 だそうだが、機械の開発をやらせてやってはどうだ?」

「ほぅ、タロ。

 皆はまだノルマの20%も終わってないのにもう仕事終わったのかミャ。

 今日は帰っていいミャ。

 あと明日特別にお前休みでいいミャ」


「で、でも皆頑張ってるミャ。

 他の連中にもこのマシンを使わせて……」

「いやいやいや、いいから。

 ちゃんとそのマシンは見えない場所に片付けて帰るんだミャ?

 あとお前は頑張ってるから特別に明後日から一番楽な清掃係にさせてあげるミャ」


 一連のやり取りを見ていて俺はテツトラを他の従業員から離れた場所に連れて行って詰め寄った。


「おいおいどういう事だ?

 タロは才能が有るし、頑張る意思もあるんだ。

 やらせてやればいいじゃねぇか?

 大体なんで明後日から清掃係なんだよ?」

「皆が一定時間適当に働いて過ごしているのにアイツだけ頑張って成果を出したら他の皆が相対的に評価が下がるミャ。

 足並みを揃えるってのが一番重要ミャ」


「いやおかしいだろう?

 お前はタロという貴重な才能を潰そうとしてるんだぞ?

 タロの才能は本物だ。

 俺は人間の国の色んな場所へ行ったが、あの袋詰めマシン。

 あれほど上手いカラクリは見たことがねぇ。

 お前も水車技術者なら分かってるだろう?」

「分かってないようだから言っておくミャが、俺はあえて本気を出していないミャ。

 一連の機械に関してもそうミャ。

 もし本気を出してしまったら、俺の責任が増大して任される仕事が増えるミャ。

 そうすると仕事尽くめの人生になって、朝から晩まで引っ張りだこになって、有意義な人生を送れなくなるミャ。

 わざと愚か者かつ話が通じにくい触り辛い頑固者を演じているミャよ。

 そうするとあれもこれもと俺に仕事を押し付けてこなくなるミャ。

 『あぁ、あの人に言っても無駄ミャ。そっとしておこう』という扱いになるミャ。

 そして馬鹿な真面目君に全ての負荷が流れ込む様して、俺は優雅なアフターファイブを過ごしつつ、そこそこの地位を維持して高給を貰い続けるというクレバーな人生を送ってるミャ。

 タロ?

 はっ、お笑いミャ。

 本気を出せば俺はもっとすごい物を作れるミャ」


 ようやく分かった。

 コイツは駄目だ。

 タロの才能を見せつけられたコイツのプライドを支えているのは『俺は本気を出していない』という事なんだろうが、才能は常に働き、戦い、磨き続けて光る物。

 寝ている奴が育つ事など無い。

 多少はカラクリの経験を詰んでいるんだろうが、本気とやらも底が知れている。

 俺は再びマネージャーのオリバーの元へ行き、言った。


「オリバーさんよ。

 あんたどうやって自分の管理下のペッパーワーキャットを評価している?」

「そ、それは……話し合いミャよ。

 テツトラさんにはいつも難しい技術の話を聞かされて感心させられてるミャ。

 もぅ勝てないミャよ。

 彼がこの工場の労働者の中でトップなのは妥当だミャ」


「あのな、錬金術師達が暇つぶしでやってる魔導ゴーレムチェス。

 知ってるかぃ?」

「あぁ、16体の膝ほどの背丈のゴーレムを駒にして、自分で動かさせて石板の上でチェスをやる競技ミャ。

 私はインテリだから知ってるミャ。

 この前人間のプロがゴーレムに負けたミャよ」


「その人間を打ち負かすゴーレムを作り上げた錬金術師に聞いたことが有る。

 ゴーレムの思考ってのは魔導エメラルドの表面に小さな魔術回路を彫ったコアが担っているそうだ。

 強いゴーレムを作るコツ、なんだか分かるか?」

「さぁ、ゴーレムには詳しくないミャ」


「評価回路と言うんだそうだ。

 今回の動きは、どれほど有効だったか、どれほど勝利に貢献しそうかを評価する。

 そして次の動きをする時には、やっぱりそれぞれの手がどれほど有効そうかを評価する。

 そして一番評価が高い手を選び続けていく。

 ゴーレムの強さのキモは、その評価回路がいかに正しいか、いかにしっかりした評価回路を作れるかだそうだ。

 判断がいい加減なゴーレムは強くなれねぇ。

 だが正しく良い悪いを判断出来るゴーレムは、常に戦局を自分の勝利へと導いていく。

 それはこの食糧製造工場でも同じだ。

 アンタが正しくペッパーワーキャットを評価出来なければ、業績は上がらずに地を這うし、最悪倒産するぞ。

 確かにアンタは技術者じゃない。

 だがこの工場の行く末を決めるのはアンタの評価なんだ。

 もっとしっかりと工場内を歩き回って、しっかりと見極めろ。

 そうすりゃこの工場を3個、4個増築、下手すればジョロネロ国以外の人間やエルフやドワーフの国にまで工場を広げる事も可能だ。

 俺は断言しておく。

 この工場にはそれを可能にする光る才能が存在する。

 アンタはそれを自分の目で見つけ出せ」


 マネージャーのオリバーは顎に指を当てて黙り込み、考え込む。

 俺は傍で聞いていたミツールと、タロと話し込んでいたダイヤを呼び寄せた。


「よし、工場視察は終わり。

 今日の予定終了だ。

 帰るぞ」

「ルーサーさん、タロちゃん凄いのよ。

 まだまだ考えてるアイデア有るんだって」

「ルーサーさん……引くわぁ。

 なんか目茶苦茶頭いいじゃないですか……。

 中世風ファンタジー異世界の地元民なのに……。

 チートですよ……」

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