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魔法銃士ルーサー、ジョロネロ国の食糧生産工場を見学する

 夕刻もせまり、太陽が徐々に西の方へと傾きかける頃、俺とミツールとダイヤはジョロネロ国の脱穀や製粉を行う工場へと視察に向かっていた。

 エリックはクレオと一緒に聖ハースト修道院で即入院状態、ココナはクレオの付き添いで同じ場所に行ってしまい、残ったのは三人である。

 先を歩く外交官のマルフクはぼやく。


「ジョロネロ国の食糧生産性が想定より全然上がってないとは失礼な話ミャ。

 人間達の国がちゃんとした技術を教えないのが原因ミャ。

 工場ではジョロネロ国の最高峰の頭脳を持つ天才達が頑張っているミャ」


 ミツールが俺に聞く。


「ルーサーさん、何故ジョロネロ国の食糧生産工場なんて見に行くんです?

 他国なんだし、余計なお世話ってもんじゃないんですか?」

「ジョロネロ国が光輝の陣営に入ってから……まぁ怪しいんだが、魔王軍への支援行動を止める条約を結んだのは説明したな?

 人間側だって鬼じゃない、交換条件として水車の技術を提供したんだよ。

 建国以来、代々のジョロネロ国の特使が人間の国に視察をするたびに人間の使う水車を驚愕の目で見ながら感心して羨ましがっていたからな。

 水車の力を使えば田んぼへ水をくみ上げたり、穀物を脱穀したり、製粉してパンの材料にしたりと言うのが自動で大量に出来る。

 それであまり裕福とは言えなかったジョロネロ国の食糧事情が大幅に改善するはずだったんだ。

 だが、余りに効果が薄く、人間側がジョロネロ国に与えたはずの『うま味』が理不尽に薄れているらしくてな。

 水車の使用状態も見てこいとさ。

 世の中ギブアンドテイクだからな。

 ほら、あそこだ。

 川にいくつもの水車が回っているだろう」


 俺が指さす方向では大きな川に隣接して5、6の巨大な水車が水流を受けてゆっくり回転していた。

 水車の回転軸は川辺の大きな建物へと繋がっている。

 食糧生産工場である。

 俺達はその食糧生産工場の中へと入っていった。


 ***


 工場の中では幾つもの歯車や木製の機械部品がギコギコとあちこちで動いていた。

 下働きのワーキャットが何匹も袋詰めしたり、荷物を運んだりと動き回っている。

 その中に居た大柄で前髪を73分けにしたペッパーワーキャットの肩に手を置いてマルフクが紹介する。


「この方が超天才技術者のテツトラさんミャ。

 ジョロネロ国はおろか、人間、エルフやドワーフの国を合わせた中でも五本の指には入るくらいの天才と言われているミャ」

「おぉぅ、俺がテツトラミャ。

 何か用ミャか?」


「凄いなこの工場は。

 あちこちが何かしら動いててまるで時計塔の中に居るみたいだ」

「そうですね」

「からくり屋敷みたいよね」

「ふんっ。

 おミャーらには100分の1も理解出来ねぇミャよ」


 俺はギコギコ動いている機械を指さして尋ねた。


「凄いなこのからくりも。

 ところでこれは何をしてるんだ?

 ちょっと説明をして欲しいんだが」

「ちっ……ったく忙しいのにミャ。

 仕方がねぇミャ。

 耳の穴かっぽじってよく聞くミャ」


 水車技術者ペッパーワーキャットのテツトラはからくりの方へと歩いて近寄り、一つ一つ指さしながら解説を始めた。


「まず水車に合わせて回転するこの横軸が全ての大元ミャ。

 ここに歯車が5ついてて5つの別の機械へと力を分けるミャ。

 一つ目の歯車、これは8個の歯車を経て向こうの花瓶が載ってるテーブルを回転させるミャ。

 二つ目の歯車、これはシャフトを通じてあっちのボウルの溜まっているビー玉を天井付近まで持ち上げる階段昇らせ機を動かすピストン運動になっているミャ」

「ビー玉?

 ビー玉を天井まで持ち上げてどうするんだ?」


「ったく素人さんには理解が苦しいと思うがよぉく聞いて理解するミャよ?

 天井に上がったビー玉は2本の針金で作ったレールを伝い、ここで渦巻回転、ここで宙返りを3回した後に隣の機械へと運ばれるミャ」

「隣の機械?

 隣の機械はまた別の水車で動いてるのか?」


「その通り、このビー玉を運び上げる機械と、ビー玉が入っていく先の機械は動力が別ミャ。

 だから両方が動いていないと機能しないミャ」

「そ、それで?」


 テツトラは隣の機械に走って行って解説を続ける。

 俺とミツールとダイヤも慌てて後を追った。


「ここに運ばれたビー玉はここのシシオドシ、シシオドシしってるミャか?」

「あぁ、水が溜まる様に竹を斜めに割った奴だろ。

 ちょろちょろと水を流してある程度溜まればカコーンと倒れて石を打って音を立てる、東方の国の機械だ」


「ほぉぅ、思ったより博識ミャ。

 ビー玉はこのシシオドシにどんどんと溜められて行き、57個溜まったタイミングでガッコンと倒れるミャ」


 ガッコン!

 カンッ!

 チュウチュウ!


 ちょうどテツトラが指さして説明しているタイミングでシシオドシがくるっと回って倒れ、溜められた57個のビー玉を吐き出した。

 その音に驚き、打ち付けられたプレートに繋がった籠に入っているネズミが走り始める。

 ネズミは必至で回し車をまわし始める。


「こうやってネズミが回し車をまわすと、その回し車に付けられた糸が徐々に巻き上げられていくミャ。

 そうするとその力で結び付けられたレバーが引っ張られるミャ」

「……レバーを引っ張るとどうなるんだ?」


「さらに隣の機械、これも動力が別の水車に繋がってるミャ。

 この機械の軸がスライドして歯車が噛み合うミャ。

 そうすると徐々に……ほーら、そこの溝の彫られた木の板が起き上がり、ボーリング玉が転がり始めるミャ。

 そして転がったボーリング玉は皮の剥かれた小麦が敷かれた通路を通り、徐々に粉にしていくミャ」


 それを聞いて周囲の労働ペッパーワーキャット達が歓声を上げる。


「おおおぉぉ! いつ見ても意味が分からないけど凄いミャ!」

「流石はジョロネロ国一の天才のテツトラ様だミャ!」

「おっかしいミャ、この前仕組みを理解したはずなのに忘れてるミャ!」


 ダイヤが呆れた顔で突っ込む。


「そのボーリング玉と、ビー玉はどうやって元に戻してるの?」

「なぁに馬鹿な事言ってるミャ!

 こうするに決まってるミャ!

 ホント、女と言う物は人間もワーキャットも愚かだミャ!」


 労働ペッパーワーキャットは転がって止まったボーリング玉を持ち上げて運び、元の位置へと戻す。

 そしてバケツを持ってきて下の籠に溜まったビー玉を回収し、一番最初の機械の開始位置へと運んでジャラジャラと入れた。

 俺はミツールに尋ねる。


「ミツール、確かお前が元来た世界はここよりももっと技術が発展してるんだったよな?」

「そうですよ。

 相対性理論とかルーサーさん知らないでしょう?

 もう魔法みたいに、いや、魔法よりももっとすごい物でいっぱいですよ」


 俺はミツールに言わせることにした。

 俺の知らないミツールの能力を確かめる意味もある。


「この機械について、ミツール。

 ビシッと言ってやってくれ」

「分かりました」


 ミツールは最初の機械の方へと歩いて行った。

 そして一番最初の動力、5つある歯車の説明されていない歯車を示す。


「テツトラさん、この歯車はどう動くの?」

「それはこの歯車に掛けられたチェーンを伝い、三つ目の機械へと連結されてるミャ。

 同じ速度で回らなければ最高効率で動かない。

 一番苦労した部分ミャ」


「へ、へぇ……。

 ……なかなかやるじゃないですか」

「当然ミャ」


 俺とダイヤはこの瞬間、『こりゃ駄目だ』と悟った。

 俺が歩み出て行った。


「あのな。

 要するに回転する力で粉ひきしたいんだろう?

 そしてテツトラさんは横向きに寝て回転する水車の動力を、歯車で縦回転にする方法を知ってるよな?

 ここで使ってるもんな?

 だったらこの縦回転する棒の先にザラザラした石板を付けて、その下にも地面に固定した臼型の大きな石板を付ける。

 そうすりゃここに麦入れてたら臼が勝手に回ってひいて粉を作るじゃないか」


 テツトラは腕組みして不満げに呟く。


「そんなの簡単すぎるじゃねぇかミャ」

「簡単な方がいいだろう?」


「そんなの誰にでも理解出来てしまうミャ。

 そうすると俺の優位性が失われるミャ」


 (あっ!)

 (あっ!)


 俺とダイヤはペッパーワーキャットの社会の根本問題を理解したような気がした。


「こんだけ複雑だと誰もメンテナンスも出来ないだろう?

 もしテツトラさんが病気になったらどうするんだよ?」

「ちゃんと従業員には教えてあるミャ。

 従業員は別の従業員に教える事が出来るミャ」


「どういう風に?」

「見てみるミャ、あそこに新人のタロが居るミャ。

 タロは機械を前にしてどうやって操作していいか分からずにフリーズしているミャ。

 そこで先輩のシロの出番ミャ。

 シロ!

 タロに教えてやれ!」

「了解したミャ!」


 ベテラン作業員のシロはタロの方へ走り、機械を指さしながら口頭で説明をしていた。

 ダイヤが尋ねる。


「ちなみにシロさんはこの機械の事理解してるの?」

「当然ミャ。長くやってるから動作原理も、仕組みも何もかも理解してこの完璧なシステムを動かしているミャ」


 俺はふと反対側を見る。

 そこには工場の反対側でフリーズしている新人らしきペッパーワーキャットが居た。

 テツトラは俺の視線に気が付き、再度シロに指示する。


「シロ!

 新人のミルクが困ってるミャ!

 そっちも教えるミャ」

「了解ミャ!」


 シロは今度は雌の新人ペッパーワーキャットの方へと走って口頭で教えている。

 俺は言った。


「ちょっとシロ君をここへ呼んでくれるか?」

「シロ! こっちへ来い」

「はいミャ!」


「まず問題点だが、ペッパーワーキャットにはジョロネロ語の文字が有るだろう?

 学校が有って就労年齢のペッパーワーキャット全員が読み書きできるのは知っている。

 絵付きの分かりやすいマニュアルを作れ。

 それを新人全員に渡せば、一人一人に説明する必要が無くなる。

 だいたいだ、シロ君よ。

 君一人一人の所に駆け寄って親身に教えるのはいいけど、その情報はその場限り。

 君と相手の二人でしか共有されてないだろう?

 例えばマニュアルに無い事を教えるにしても、新人を集めて一斉に教えたりとか」


 シロが反論する。


「そ、そんな事をしてしまえば……。

 僕に頼らずに誰でも仕事が出来てしまうミャ。

 僕の優位性が失われるミャ」


 ミツールは納得顔。

 俺とダイヤは揃ってため息をついた。

底辺技術者ならば分かってくれる

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