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魔法銃士ルーサー、クレオの無事を祈って見送る

 俺は右手で牢獄の金属扉に張り付けのように押さえつけたペッパーワーキャットの牢番に、左手で向けた魔法銃、デス・オーメンの引き金に指を掛ける。


「こっ、この〇×▽□の糞人間め、止めるミャァアア!

 イギャアアアアァ!」

「駄目ですよ!

 ルーサーさんっ!

 人殺しは駄目ですよ!

 殺人良くないっ!」


 ミツールがデス・オーメンを持つ俺の左手に両手で掴み、必死で押しのける。

 気付けば右腕にもダイヤが必死でしがみ付いていた。


「ルーサーさん、大きな音を立てたら……ココナちゃんの弟がどうなるか……。お願い、止めてぇ……」


 俺はどんな時でも平然とした態度で、平常心を保っている。

 そう思っていた。

 だが今、自分の両腕にしがみ付く二人、必死で治癒魔法を発動し続けるエリック、10歳のクレオに呼びかけ続けるココナを見て我に返った。

 俺は今、大きな間違いを起こそうとしていた。


「すまんな、俺としたことが……少し頭に血が昇り過ぎてたようだ」


 俺は牢番から手を離し、銃をホルスターに収める。

 ミツールは俺に必死で尋ねる。


「ルーサーさんっ!

 この世界で一番大きな病院はどこですか?」

「病院? なんだそれは?」


「一番怪我や病気を治す専門家が集まる大きな施設ですっ!

 どこなんですかっ!?」

「恐らく……グロリア王国の首都サラエナ、そこから南へ数キロ行った海岸にある聖ハースト修道院だ。

 周囲には貴重なハーブ、薬草が多数自生して、王族すらも難病に掛かればそこで療養する」


「ダイヤ!

 魔導会話貝あったろ!

 本国の内政府と連絡用に鞄に入れて来たやつ!

 早くっ! 早く出して!」

「ちょ、ちょっと待ってね、今探すから……あった!」


 ミツールはダイヤから魔導会話貝を取り出してしばらく見つめ、俺に渡す。


「そういえば僕は本国の内政府に行ったことが無いから通話先がイメージ出来ませんでした!

 ルーサーさんっ!

 はやくっ!

 そこに連絡してクレオ君を聖ハースト修道院へ運び込む為の迎えを読んでください!

 緊急でっ!」


 俺は何度か立ち寄ったことが有る。

 たしか魔導会話貝の受付をしていたのは……金のサークレットがお洒落ポイントのマリナお婆ちゃんだったか。

 本国の内政府はサラエナの王城のすぐ先にある。

 魔導会話貝を手に取り、連絡を取った。


 カカッ ガタゴトッ


「もしもし、こちらグロリア王国内政府です」

「あー、マリナお婆ちゃんかな?」


「あらぁ、その声はルーサーさん」

「今ギルドが受けた査察の代行依頼でジョロネロ国に居るんだが」


「あらぁ、大変ねぇあそこから帰って来たうちの外交官全員心を病んで療養とっちゃって大変なのよねぇ。

 ホントに迷惑かけてごめんねぇ」

「いいんだ、それより緊急、本当に緊急でこっちに危篤状態の重病人が居る、急いで聖ハースト修道院へ運びたい。

 今すぐだ。

 患者は国家レベルの重要人物、ミィム王家のミィム12世だ。

 今すぐ転移魔法でそこの修道士を迎えに派遣して欲しい」

「ミィム12世!

 任せてルーサーさん、直ぐに手配するからねぇ。

 国家緊急用の公式転移先、ちゃんと開けといてねぇ。

 じゃぁ、一旦切るからね」


 ガチャッ


 マリナお婆ちゃんは通話を切った。

 恐らく大急ぎで手配してくれているだろう。

 俺は少し離れた場所でモジモジしていた外交官のマルフクに言った。


「マルフク殿、今すぐ国家公式の転移魔法の転移先を開けて欲しい」


 転移魔法では転移先に障害物があれば発動しない。

 その為、国ごとに公式の転移先が決められ、障害物が無い事を保証してメンテナンスされている。


「しかし、わが国にもシャーマンが居るミャ。

 病人の治療の為に他国を頼るなんてしたら国家的な恥ミャ。

 何なら今から最高のシャーマンをつれて」

「おいっ! マルフクゥゥ!

 つべこべ言わずに準備しろよっ!」


 ミツールが即座に威圧する。


「はいっ、分かりましたミャ」


 マルフクは慌てて牢獄の外へと駆け出し、ミツールも後に続く。

 俺は一瞬牢獄の中を振り返った。

 必死でクレリックの法術の呪文を唱え続けて魔力を集中し続けるエリックを見る。


(頑張ってくれエリック、今のお前の背には二人のワーキャットの運命が掛かっている。

 クレオと……ココナだ)


 ***


 俺とミツールはジョロネロ国の公式転移先、中央公園へと移動する。


「早くっ! 早くっ! 走るんだよぉっ!」

「は、はいミャ!」


 マルフクはぜぇぜぇ言いながら走り中央公園に来た。

 その中央には草木などの障害物を出さない様に半径5メートルほどの石板プレートで保護された公式転移先があり、その上は何もない状態が維持されているはずであった。


「なんですこれ?」

「慰安ペッパーワーキャットの銅像ミャ。

 人間の国がペッパーワーキャットのお婆さん達を強制連行したという歴史を後世にまで残す為の……」


 ドォォ――ンッ!

 ガラガラガラガラ……


 俺は目にも留まらない早業でデス・オーメンを抜いて撃ち、公式転移先のプレートの上に置かれた邪魔な物体を粉々に粉砕した。


「なんて事するミャアアアッ!」

「ミツール、急いでプレートの上のゴミの破片を片付けるぞ」

「わかりました! おぃ! マルフクゥ! お前もだぁ」


「は、はいミャ」


 ***


 ボワワワ~~ン


 公式転移先のプレートの上に青く輝く異空間の門が開く。

 そして六人の魔導士がぞろぞろとその中から現れた。

 魔導士の後に続いて、担架を持った二人の修道士、大きな鞄を肩から下げた高齢の修道士、手伝いの修道女三人が現れる。

 高齢な修道士は俺を見て尋ねた。


「緊急で治療が必要な患者というのはどこです?」

「こっち! こっちですっ! 早くっ!」


 ミツールが先導して牢獄の方へ案内する。

 俺は修道士たちと並走しながら現状の状態を伝えた。


 ***


 修道士たちと共に俺も牢獄の中へと駆け込む。


「エリック! 待たせたな! 助けが来たぞ!」

「これは酷い……、このワーキャットの親族の方はおられますか?」

「姉のココナニャ」


「この少年の血液型は?」

「ノーム型ニャ」


「ノーム型、直ぐに血を直接注入する準備を!」


 高齢の修道士はテキパキと指示し、修道女たちはそれに従って緊急治療を行う。

 その様子を見て安心したのか、エリックはフラッと後ろへ倒れた。

 慌ててダイヤがその背を支える。

 クレオの体を隅々まで診察していた修道士は隣で意識を失ったエリックを見て言った。


「彼はクレリックですか?」

「はい、まだ見習いだったそうですが」


「良くここまで保ちましたね。

 今はもう栄養の補給も血から強制的に行って少しは落ち着いていますが、我々が来るまでの間、常にこのワーキャットの少年は死の淵へ落ちようとしていたはず。

 それを強制的に引き留め続けるのはクレリックの使う法術の中でもかなりの高位の術のはずです。

 マスタークラスのクレリックでも数人がかりで5分おきの休憩で持ち回すもの。

 見習いが一人でやるというのはとても無理、尋常ではない力を使い続けていたはずです。

 どうやら修道院に運ぶ患者は二人になりそうですね」


 ***


 クレオの緊急治療を終え、クレオとエリックが担架に乗せられ、俺達は再び中央公園へと戻っていた。

 公式転移先のプレートを六人の魔導士が等間隔で取り囲んだ状態で俺達を待ち受けている。

 魔導士の一人が言った。


「それでは転移のゲートを開いてもよろしいですね?」

「お願いします!」


「転移術式準備、目標地点は聖ハースト修道院、裏庭の石板サークルの上」

「準備良し」

「準備良し」

「準備良し」

「準備良し」

「準備良し」


「術式開始!」


 ***


 魔導士が開いた異空間の門へ運ばれていくクレオとエリックを見送った後、ミツールは俺に尋ねた。


「そういえばあんな便利な魔法があるのに、僕たちは何故馬車で来たんですか?」

「見ての通り転移魔法は大ベテランの魔導士六人の力が必要だ。

 しかも最高位の大魔法なので必要触媒も高級品。

 一回の転移に百万ゴールド以上掛かる。

 王族か貴族か、軍隊などの組織でなければそうそう使えるもんじゃ無いんだよ」


 今回の件で分かったことが有る。

 ミツールは緊急時に、動けるタイプの奴だ。

 勇者としては申し分ない才能の一つと言えるかも知れん。

 それにしても『殺人良くない』か……。

 ふっ……月並みなセリフを吐きやがって。


 ***


 ルーサーがデス・オーメンで慰安ペッパーワーキャットの銅像を打ち抜いた弾丸は銅像を貫通後、向かいにあったジョロネロ漬け販売店の看板の支え棒をも破壊していた。

 ジョロネロ漬け販売店は大繁盛している大きな店舗で三階建て、看板はその屋上で支え棒の一つを失い、風でユラユラと揺れている。

 その下をあの牢番のペッパーワーキャットがぶつくさ言いながら歩いていた。


「まったく、あの人間、反革命分子のミィム王家の手先に違いないミャ。

 付け狙って背後から襲ってやるミャ。

 いや、一緒にいたあの人間の女、いい香りがしていたし上物だったミャ。

 先にあいつが一人になるのを見計らってから……」


 ギギギギギ……バキッ、ヒュゥゥゥゥッ!


「んミャ? 何か上から音が……ヒギャァァァァ!?」


 グジャッ!


「ん? 何か店の外で音がしたミャ!」

「大きな音だったミャ、何だミャ?」


 ジョロネロ漬け販売店の扉を開けてペッパーワーキャットが数匹外にでる。

 そして地面に倒れた牢番の姿を見て悲鳴を上げた。


「うひぃミャァァァァ!」

「頭がっ! 頭がっ!

 頭がアミの塩辛になってるミャアアアッ!」

「ちっ、違うミャよ、あれはネギトロミャアア!」

「シャーマン! シャーマンを呼ぶミャァ!」

「馬鹿ミャ!

 どう見たって手遅れミャァァ!」

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