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魔法銃士ルーサー、残り二日を思ってうんざりする

 俺達はジョロネロ国の公館にたどり着き、門をくぐった。

 

 幅300メートル四方ほどの敷地内は石ころが転がる荒れた土の地面で覆われ、中央に二階建ての大きな木造の建物がある作りになっている。

 そして門からその建物の玄関まで、平たい石を敷いたまっすぐな道が繋がっていた。


「着いたぞ。

 ここが『ジョロネロ内政庁舎』だ。

 ジョロネロ国内では王城に次いで大きな敷地、建物の場所だ。

 ここでは主に外国の特使などの接待を行ったり、ジョロネロ国全体の行政を司る政府組織が働いて……、中に入ってる」

「警備も何もありませんねぇ……」

「国で一番重要な施設でしょうし、普通は門番くらいいるわよねぇ」


「ふぅ……まぁ、行くぞ」


 俺達は石の敷き詰められた道を進み、庁舎へと近づいていく。


「ミャハハハハハ、それでそれで、その雌はどうしたミャ?」

「知りたいミャか? 驚くミャァァ」


 庁舎の中で平日の就業時間と思えない下衆な会話が聞こえてくる。

 何匹ものペッパーワーキャットが居るのが見えるが、仕事しているようには見えない。

 だがそのうち一匹が窓からこっちを見て俺達が着ているのに気付いた。

 しばらく沈黙した後、何かを思い出したように慌てて奥へと消える。


 ガタンッ!

 シュタタタタタッ!


 俺達が玄関まであと30メートル程に迫った頃、玄関のドアが開いて赤い蝶ネクタイをしたペッパーワーキャットが走り出て来た。

 そして俺達の前で止まって言った。


「よ、ようこそミャ!

 人間の国からの特使ミャ?

 ミャーは外交官のマルフクだミャ。

 歓迎しますミャ、ささっ!

 この上を通ってどうぞミャ」


 外交官のペッパーワーキャット、マルフクは丸めて持ってきていた布を石畳の上に転がして広げ、玄関まで続く絨毯のように敷いた。

 一行はその絨毯を見る。


「……ふぅ」


 エリックとダイヤは言葉を失い、俺はため息をついて絨毯を踏まずに横によけて進む。

 ココナはため息をついてしばらく沈黙し、絨毯をよけて俺の後に続いた。

 ミツールは他のメンバーの様子を伺っている。

 だがエリックはフリーズしながらも背後から俺に聞いた。


「ルーサーさん!

 この絨毯、光輝の陣営の国々の連合旗の紋章が描かれてますよね?

 中央に輝く女神の光、人間の国や獣人族、エルフやドワーフなど12の国々を象徴する12の紋章がそれを取り囲む。

 ちょっと私、今の状況が理解出来ないのですが……」

「あの外交官のワクワクした目を見て察してくれ。

 そしてもうつっこむな。

 あと二日間もあるんだ、体力は温存しておくんだ」

「えぇぇ……うっそでしょぉ……?

 ……。

 ……まじ?」


 俺達は全員絨毯を踏まず、その横の土の地面を歩いて玄関まで到達した。

 外交官マルフクは若干残念そうな顔をした後、玄関から入ろうとした俺達を押し留める。


「ま、待ってくださいミャ!

 そういえば他国のお客様をお迎えする際には玄関に自国と相手国の旗を並べて掲げるのが規則だミャ!

 お願いすぐ持ってくるから待っててミャ!」


 ガチャン、カチッ


 マルフクは玄関に一人だけ走り込み、中から鍵を掛けて消えた。

 俺はうんざりしながら玄関の敷石に座り込む。


「ふぅ……」


 俺達一行は足止めを食らう。

 玄関の横、3メートルほど道から外れた場所では三匹のペッパーワーキャットの子供がしゃがみ込んで泥遊びをしていた。

 その存在を無視して焦点の合わない目で空を見上げて待つ俺。

 ニヤけながらペッパーワーキャットの子供を見たり周囲を見回すミツール。

 驚きの連続で落ち着きのないエリック。

 だがダイヤは子供たちの方に近寄ってしゃがみこみ、ほほ笑みながら子供たちを眺めていた。

 ダイヤはこっちを振り返って言う。


「ペッパーワーキャットも子供たちは可愛いで……」


 ノシノシノシノシノシッ!


「チャチャ坊! チャチャ坊! もうっ! こんなにズボンを泥だらけにしたら駄目ミャ!」


 子供たちの誰かの母親と思われるワーキャットが走り寄って来る。

 そして自分の子供と思われるワーキャットの隣にしゃがみこみ、泥を払った。

 さらに手提げかばんからバナナを取り出して子供に手渡す。


「ほぅら、私の可愛いチャチャ、甘ぁい、甘ぁい、バナナでちゅミャァ」

「わぁぁ、バナナミャア!」

「いいなぁ! 僕も欲しいミャ」

「頂戴! 頂戴! おばさん、僕も欲しいミャ」


 母ワーキャットは立ち上がり、よその子二匹を容赦なく蹴り飛ばした。


 ドガッ!


「うミャ」


 ドゴッ!


「ひぎゃミャ」


 母ワーキャットは自分の子を片手で抱いて言った。


「汚い手で触るなミャ!

 おーぅ、よちよち、チャチャ、ん? どうしたミャ?

 あの子が持っているお人形が欲しいミャ?」


 母ワーキャットは顔を抑えて泣くよその子に歩み寄り、脇に抱えていた人形を奪った。

 そして地面の土を掴み、二匹のよその子に投げつけながら追い払う。


「とっとと消えるミャ!

 ここはチャチャ坊の遊び場ミャア!」


 ダイヤは立ち上がり、母ワーキャットに抗議する。


「貴方何してんのよっ!

 相手は子供でしょう?

 大人があんな理不尽な暴力を振るっていいと思ってるの!?

 ちゃんとあの子から奪ったお人形、返しなさいよっ!

 なんなら私が貴方をぶん殴るわよ!?」

「御免ミャア、チャチャ坊。

 あの不細工な人間が怒るから、このお人形は諦めるしかないミャァ」


 ダイヤはプンプン怒りながら母ワーキャットから人形を奪い取り、泣いている持ち主の子供ワーキャットの傍にしゃがんでなだめながら返す。

 それを見ていたエリックは信じられないという顔で俺に聞いた。


「ああいうのが普通なんですか?」

「価値観の違いという奴だ。

 ワーキャット……失礼。

 ペッパーワーキャットにとってはな、例え他人を蹴落とそうとも、ルール無視で他人に理不尽な被害を与えようとも、自分の子を最大限に甘やかす事が美徳なんだ。

 今の母親の行動、この国の他のペッパーワーキャットから見たら涙が止まらない程の美しい光景なんだよ」


 カチッ、ガチャリ


「お待たせしましたぁ。急いで旗を飾りますね」


 外交官のマルフクはジョロネロ国の国旗を右の壁、頭ほどの高さから斜め上にポールが伸びるように飾る。

 そして左の壁、地面スレスレから光輝の陣営連合旗を立てた。

 旗は半分ほど石畳にこすれて汚れが付いている。

 子供をなだめ終わってこちらに戻ったダイヤが、旗を見て小さくつぶやいた。


「えぇと、国旗って右上位じゃなかったっけ?」

「つっこむな。

 いいか?

 つっこむんじゃない。

 俺も無駄に気力を消費をしたくない。

 さぁ、中にはいろう」

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