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魔法銃士ルーサー、異世界転移者パーティーを木の大賢人に会わせる

 俺は冒険者ギルドのサブマスター、ワスプさんの依頼を半ば強引に受けさせられ、ため息をつきながらミツール達の方へ近寄った。


「どうだ?

 パーティーの方は?」

「パーティー名が決まりましたよルーサーさん!

 あ、でも発表はミツール殿からした方がいいですよね?」

「そう? 聞きたい?

 ルーサーさん、パーティー名聞きたい?

 どうしてもっていうなら教えてもいいけど」


 ミツールはニヤニヤしている。


「早く言え」

「えー、どうしよーかなー。

 言っちゃおうかなー。

 そんなに聞きたい?」

「もったいぶってないで早く行っちゃいなさいよ、ミツール」


「おま、俺は異世界転移者で将来の勇者でパーティリーダーなんだぞ?

 なんだよ、せめて『さん』を付けろよ」

「貴方ね、そうやって事あるごとにマウント取ろうとするのやめなさいよ。

 ほんとうっとおしいんだから。

 キ・モ・勇者様」

「おいおい、パーティー結成時から内輪揉めかよ」


「仕方ないなぁ。どうしても? どうしても知りたいですか?

 教えなーい」

「……」


 (ダイヤの言う通り、うっとおしぃっ!)


「言いますよ! 『打倒魔王アバドーン』パーティです」

「そうか、下らん名前ならスルーしようと思ってたが、直接的な名前で好感が持てるな。

 お前魔王の名前知ってたのか」


「一応この世界に転移する前に白い部屋で女神に聞いてましたから」

「ほぅ。よし、じゃぁ一応ギルドの登録手続きは終了だな?」


「はい」

「はい」

「終わりました」


「それじゃぁパーティー『打倒魔王アバドーン』は今日から三日間、ペッパー・ワーキャット族の国、ジョロネロ国への視察と監査という発任務に挑戦してもらう。

 安心しろ、ギルドでこの依頼を形式上受けるのはお前達だが、俺が付いて行ってやる」


 エリックが心配そうに言った。


「でもルーサーさん、僕達には兵団での訓練がありますが」

「俺が話を付けておいてやる。

 そして丁度ジョロネロ国へ行く途中の森で、大賢者の木に立ち寄る。

 勇者パーティーにとっては代々行われてきた習わしのような物だ」


「大賢者の木……、木の大賢人タカーシに会うんですね?

 緊張するなぁ、まさか自分が直接行くことになるとは想像すらしませんでした」

「話には聞いてたけど一度も見たことが無かったのよね。

 楽しみだわぁ」


 俺は一人だけきょとんとした顔をしているミツールに言った。


「木の大賢人タカーシは300年間以上生きている仙人だが、ミツール、お前にとっては勇者としてだけではなく会っておくべき人間だ。

 彼もまた、異世界転移者だと言われている」

「まじですか?」


 ***


 ミツール、エリック、ダイヤの三名のパーティー『打倒魔王アバドーン』は、俺と一緒に馬車に乗って揺られていた。

 スラールさんには三人の事は話しておいたが、新人勇者パーティーとしての発任務として快く承諾してくれた。

 ま、正直なところスラールさんの本心は分かる。

 ミツールは関わってるだけで神経擦り減らされるからな。


 そしてなぜ今回、ジョロネロ国へ行く依頼を彼らに受けさせたか。

 それはジョロネロ国の特性、人間側にも魔王側にもフラフラ行ったり来たりで味方するその特性にある。

 あの国では魔王側の人間を普通に見る事が出来る。

 酒場で隣のテーブル同士になり、どちらかが血気盛んな性格であれば最悪殺し合いにまで発展することもある。

 極めて危険だが、生の魔物を実際に間近で見る事が出来るのだ。

 そしてジョロネロ国の国民性もまた、反面教師として光輝の陣営としての精神をミツールに学ばせることが出来るだろう。

 ……出来たらいいな。


 ヒヒーン!

 キキッ


 馬がいななき、馬車がブレーキをかけて停止する。

 そして御者が客室の窓を覗き込みながら言った。


「お客さん、大賢者の森に付きましたよ」

「おう、ありがとう。

 じゃぁこれからそうだな、多分長くても2時間くらいで戻って来るから、悪いがここで待っていてくれ。

 万が一モンスターに襲われたら信号ワンドを空に撃ってくれたら駆けつけるからよ」


「分かりました。キセルでも吸いながら待ってますよ」

「蜂蜜系のフレーバーの奴は止めとく方がいいぞ、熊系や虫系モンスターを誘うからな」


「大丈夫、その辺は心得ています」

「それじゃぁパーティー『打倒魔王アバドーン』よ、木の大賢人の場所へ案内してやる。

 付いて来な」


 ***


 俺と新人勇者パーティーは森の中を十数分歩き、光り輝く巨大な大木の前に立っていた。

 木の幹は直径6、7メートルくらいはあるだろう。

 そして木全体が光り輝き、上を見上げればはるか高くまで伸びた枝にびっしりと木の葉が並ぶ。

 木に歩み寄りながらミツールが聞いてきた。


「すげぇぇ、なんですかこの木は?」

「大賢者の木と呼ばれている。

 聖なる力が木全体を覆っているのでどんな魔法も、剣や槍と言った武器の攻撃でも傷一つ付かない不思議な木だ。

 そして勇者は代々、この木の洞に住む木の大賢人タカーシの助言を受けるのが習わしだ。

 俺も勇者サリーと共にここを訪れ、助言を頂いたのだ。

 ミツール、そこに格子戸のように蔓が覆った穴が見えるだろう?

 人の頭くらいの高さの場所だ。

 お前がその前に立ち、こう言うんだ。

 『聖なる木に住む孤高で崇高にして偉大な木の大賢人タカーシ様、私は勇者ミツールと申します。魔王アバドーンに挑む者として、貴方様のお知恵をご助言を頂きたく参上いたしました。

 どうかその尊きお姿をお見せください』」


 ミツールは大賢者の木の穴の前へ歩み出て言った。


「聖なる木に住む孤高で崇高にして偉大な木の大賢人タカーシ様、私は勇者ミツールと申します。

 魔王アバドーンに挑む者として、貴方様のお知恵をご助言を頂きたく参上いたしました。

 どうかその尊きお姿をお見せください」


 すると白髪で髭もじゃの仙人のような人が奥から現れ、蔦の檻を両手で掴んでミツールを隙間から覗いて言った。


「コピペのセリフか? 誠意が籠っとらんのぉ」


 俺もエリックも、ダイヤもあわててその場に跪く。

 ミツールは一瞬驚いた顔をしたが、聞き返した。


「この中にずっと住んでるんですか?」

「そうじゃ」


「300年以上、一歩も外に出ずに?」

「そうじゃ」


「食事とかトイレとか風呂はどうしてるですか?」

「神聖な木の加護の力でな、腹も減らんし排便もせん。

 体の老廃物も出ないんじゃ。

 しかしなんだお前、こんななれなれしい勇者滅多に見んぞ。

 教育がなっとらんのぉ」


 俺は慌てて謝る。


「申し訳ございません!

 彼は異世界転移者でして、この世界に来たのも一週間ほど前、この世界の常識をしらないのです」

「異世界転移者……ほんとうか?」

「タカーシさんもそうなの?」


「……地球か?」

「そうです!」


「見たところアジア人じゃの。

 ミツール……ミツル、日本か?」

「当たり、ひょっとしてタカーシさんも!

 どこ出身ですか?」


「埼玉じゃ」

「ちけぇ! 俺東京」


「そうか東京か、西暦何年から来た?」

「2020年」


「けもの〇レンズの二期はどうなった?」

「あー、それ好きだったの? 残念だけどもう永久に出ないよ」


「そんなっ……」


 木の大賢人タカーシは蔦を掴んだまま、がっくりと項垂れた。

 ミツールは木の洞の内部を色々覗き込みながら尋ねる。


「タカーシさん何でここから出ようと思わなかったんですか?

 何の娯楽も無いし、狭いし、独房みたいじゃないですか?」


 ぐったりした木の大賢人タカーシは力ない声で答えた。


「女神の奴がな、機密漏洩してやがってな。

 わしが転移してくる場所と時間を1000年前からこの世界に流布してやがったんだよ。

 それを知った当時の魔族の王、魔王は中々ずる賢い奴でな。

 わしが出現する場所、ぴったりの位置にこの聖なる木の苗を植えやがった。

 聖なる木が本当の神聖な力を帯びて、物理無効、魔法無効の特性を得るのはちょうど樹齢1000年。

 その前にこの大木の洞を掘り、蔦を格子のように成長させた。

 わしはこの世界に転移した瞬間からこの洞の中。

 所謂スポーンブロック? みたいなもんじゃ」

「ひでぇ」


「出現した瞬間から何も出来ん。

 わしに出来るのは勇者候補の人間に、神のお使いとしてのもっともらしい助言を与える事のみ。

 要するにハッタリじゃ」

「地獄ですね。

 今まで何人くらい転移者が来たんですか?」


「3人かな。

 自称転移者なら100人以上来たが、嘘っぱちばかりだった。

 本物はお前を除いて3人のみ。

 それぞれ活躍はしたそうだよ。

 当時の魔王を本当に倒してた」

「そうかぁ、そいつらチートとか貰ってたんですか?

 俺なんてスマホ持たせてって言ったら、その願い聞きとげましょうと言われて、後は言い返す暇もなく転移させられて、ぶっちゃけチート貰ってないんじゃないかと不安で」


「お前を送り出した女神、髪の毛の色覚えてるか?」

「たしか金髪で後頭部に髪の毛丸めて纏めたような感じで……」


「わしの時と同じ、エレーナじゃな。

 残念。

 あいつは堅物だから何のチートもありません!

 ぷ、ぎゃははははは。

 コリャ愉快、他人の不幸ほど笑えるもんは無いわい」


 ミツールは悲し気な同情の籠る顔でそれを流し、さらに尋ねる。


「過去の3人はあったんですか?」

「3人とも青髪の女神だったらしくてな、3人とも始めっからそれぞれ個性の違う神剣を持たせて貰っておったよ」


 ミツールは俺を振り返って言った。


「ルーサーさん、僕チート無いみたいなんで。

 やっぱ勇者辞めます」

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