魔法銃士ルーサー、ミツールと共に冒険者ギルドへ行く
ミツールとエリック、そしてダイヤともに兵舎へ向かう途中、ミツールはこう切り出した。
「ルーサーさん、僕は冒険者ギルドに行ってパーティー登録したいんです。
取りあえずエリックとダイヤとの三人で」
「ギルドだぁ? 何で?」
「僕はいま異世界転移者だからって国費から宿代や生活費出てるけども、自分の自由になるお金が無いんですよ。
それじゃぁ馬も豪華な鎧や剣も買えないし、遊べないじゃないですか。
そもそも最初が間違ってた。
最初にギルドに登録すべきだったんです。
そしてドラゴン討伐とかの依頼を受けて成り上がるべきだった」
「お前は知らないんだろうが、冒険者ギルドは登録者の実績を見て、そもそも依頼を受けさせるか判断する。
コボルド一匹倒したことの無いお前如きの要求するままには受けさせて貰えねぇよ。
いや、そもそも兵団の訓練生の課程すら終えてないお前は登録すらさせて貰えねぇはずだ。
それにエリックやダイヤの了解を得てないだろ」
横で黙って聞いていたエリックは、決心の籠った声で言った。
「私は……ミツール殿に賛成です。
実は私も外に出て色々なモンスターと戦う、冒険者に憧れて兵団に入ったんです。
分不相応とは思いますが、冒険者ギルドの依頼を受けて本物の冒険をしてみたいなぁと」
ダイヤは言った。
「私は一週間前に登録を希望して断られました。その為にギルド本部のあるドーラにまで来たのに……」
「まぁ、そりゃ冒険者ギルドに見る目があったという感じだな……」
俺は少し考えこむ。
確かに実戦は人の成長にとって最大の教師でもある。
本当の生き死にの現場を見ていれば、ミツールのようなあんな甘えた事は自然と言わなくなるだろう。
ミツールは正直、異世界転移者でなければ関わりたくないレベルのクズだが、これも世界の為。
仕方が無いかも知れない。
「しょうがねぇな。今日の訓練が終わったら行ってみるか。
俺が掛け合ってやるよ。
あと、ダイヤ、お前この後どうするつもりだったんだ?」
「主婦になってヌクヌクと暮らすつもりでした。
ルーサーさんと一緒に」
「行くところが無いなら、とりあえずお前も兵団に入れて貰え。
足を引っ張らない程度に実力をつけて貰わないとな」
「結婚」
「エリック、悪いがミツールだけでも辛いだろうが彼女の事も頼む。
兵団の中での事、色々教えてやってくれ。
入団については俺がスラールさんに頼んでおくから」
「分かりました。
大歓迎ですよダイヤさん。
一緒に頑張りましょう」
***
兵団の訓練を終えて夕方になった頃、俺はミツールとエリックとダイヤを連れてドーラの町の冒険者ギルド本部へ来ていた。
受付嬢の顔を見たダイヤは俺の腕を掴み、受付嬢を指さして言った。
「ルーサーさん!
コイツよコイツ。
私の事、子供の遊び場じゃ無いとか言って門前払いしたのよっ!
酷いでしょぉ!?」
「つーかな。
触るなぁっ!」
「ひっ」
ダイヤはびっくりして俺の腕を掴んでた手を離す。
俺は受付嬢の居るカウンターへ歩み寄って言った。
「えーと、すまないが、新米冒険者のパーティーの登録をさせて貰いたい」
受付嬢は驚きの混じった顔で言った。
「る、ルーサー様がですか?
そ、それは構いませんが、あの人達と?」
受付嬢は俺に顔を寄せて小声で言った。
「やっぱり勇者サリー様達との間に何かあったという噂は本当なのですか?
ルーサー様のパーティー離脱手続きは数日前にセレナ様がされていきましたが……。
でもあんな子供とパーティー再結成はどうかと思いますよ?」
「いや、俺じゃない。
パーティーはあそこの異世界転移者のミツール、クレリックで戦士のエリック、そしてお荷物のダイヤの三名だ」
「異世界転移者! あれがあの噂のミツール様ですか。
……失礼ながら私も大勢の冒険者の方々を見てきましたが、とても強そうには見えませんよ?
むしろ病み上がりの老人よりもヘナチョコですよ?」
「分かってる。
だが異世界転移者と言うのは本当らしい。
教会の司教様に神託があって、その予言通りに登場したそうだ。
実際に異世界から持ってきた『スマホ』とやらが有ってな、ダイヤの頭のティアラに変な物が貼り付いてるだろ?
あれが異世界の道具らしい」
「ほぅほぅ」
「やはり鍛えるには実戦が一番だからな、色々と試練を与えてやりたいんだよ。
俺が責任をもって見守るから頼むよ」
「上の方と相談してくるので少々お待ちください」
受付嬢は後ろの事務室へと小走りになって消えた。
しばらくして頭の禿げあがった中年男性と一緒に現れる。
「どうも、冒険者ギルドのサブマスターのワスプと申します。
ルーサー様、いつもいつもお世話になっております。
で、新米だけでパーティーを作りたいというのはその後ろの三名ですね?」
「そうです。よろしくお願いします」
ワスプはミツールを見て一瞬だけ表情が険しくなって曇ったが、すぐににこやかな笑顔に戻り、言った。
「分かりました。
歓迎致しますよ異世界転移者のミツール様。
そちらの酒場を見て頂ければお分かりかと思いますが、普通は百戦錬磨の兵士がギルド登録の最低ラインです……が、特例と致しましょう。
登録を致しますのでこちらの部屋へお入りください」
***
パーティー登録用の小部屋で、ミツールとエリックとダイヤは受付嬢に様々な説明を受けていた。
相変わらずミツールはふんぞり返って腕と足を組み、ダイヤは頷いてはいるが、分かってるかちょっと怪しい。
エリックは必死にメモを取っている。
奴はかなりしっかりしている。
どんな道に進むにせよ、将来有望に違いないだろう。
「ルーサー様」
遠巻きに離れてみていた俺に、ワスプが近寄って話しかけた。
「ちょっとご相談がありまして」
「何です? 出来る限り協力させて貰いますよ。彼らの事もありますしね」
「冒険者ギルドは民間だけでなく、王国から依頼をある程度みなしで受けている事はベテランのルーサー様はご存知だと思います。
そして個人依頼よりも王国の依頼の方が入る金額的に大部分を占めている事も」
「そうらしいな」
「実は期限が近づいているのに、誰も受けてくれない困難な依頼や、色んな意味で厳しい依頼がこれだけ溜まってまして……受けて頂けませんかねぇ?」
ワスプが出してきた紙にはいくつかの依頼が並んでいた。
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〇糞尿ゴーレムの駆除依頼
魔族の魔術師が人間の都市の下水道、そこに流れる大量の糞尿に目を付けた。
数十トンに及ぶ糞尿を数か月間掛けて集め、ミスリル鉱山に数百体の糞尿ゴーレムの形で使役して放ち、鉱員は全員休業状態である。
報酬15万ゴールド、残り期限7日
〇魔術起爆壺の撤去依頼
バンシュ地方の広大な農地が魔族に襲われ、兵団の活躍で一か月かけて農地は取り戻したものの、あちこちの地面に魔術起爆壺がトラップとして埋められている事が判明した。
土地の広さは3キロ四方、魔術起爆壺は人が上を踏むと各種属性の大爆発を起こし、即死ではなく負傷させる事、それによる恐怖で農地を使用させない事を目的としている。
報酬20万ゴールド、残り期限10日
〇ペッパー・ワーキャット族の国の内政監視の視察
ペッパー・ワーキャット族は人と同じ程度の体をしながら、猫耳と猫の尻尾を持つワーキャット族。
そのワーキャット族の中でもある意味最悪の性格を持つことで有名。
人間領と魔族領の境界に位置し、どちらとも交易があり、情勢に応じてどちらにも付く。
内政官が条約順守を確認するために既に8人赴いたが、全員がノイローゼになって一日持たずに帰国した。
ペッパー・ワーキャット族の国、ジョロネロ国に出張し、三日間滞在をしつつ和平条約、軍事協定、商業協定の順守状況、最近酷い伝染病を巻き起こした特産品『ジョロネロ漬け』の製造環境の視察を行い、報告して欲しい。
報酬30万ゴールド、残り期限3日
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「いや、勘弁して下さい。
つーか、残り期限と掛かる日数同じのあるじゃないか。
いくら何でもこれはちょっと地獄過ぎだよ。
大丈夫誰かが受けるさ」
ワスプは突然、ミツールの方を向いて手を振った。
「ミツール様! どうです? パーティー登録の状況は?」
「うん、いい感じだよ。俺達の冒険はこれからって感じ」
「ワクワクしますねぇ」
「私も冒険者なのねぇ、感慨深いなー!」
「そうですか。
それは良かった。
これからいっぱい、貴方達のパーティーに最適な依頼を見繕ってお送りしますからねぇ」
「任せろ!」
「がんばります!」
「ありがとう!」
ワスプはさっと俺の方に向き直って、再度『お願い』する。
「お願いしますよルーサーさん。
これを出来そうなスキルが有って、受けてくれる希望のあるのは今、ホントにルーサーさんだけなんです。
私達も必死なんですよ。
王国からの依頼未達成なんて出したらギルドの存亡にかかわりかねない。
申し訳ありませんが、『お願い』致します。
この通り」
(くっ……ミツール達が『人質』かよ……)
俺は黙り込む。
「し、しかし三つともと言うのは……」
ワスプは再びミツール達に手を振った。
「どう? そろそろパーティー名とかは決まったかい?
君たちの輝ける未来に私も期待してるよぉ?
私も楽しみだよぉ!」
「まだ考え中!」
「どうしよっか」
「ダイヤを名前のどっかに入れてよ」
ワスプは再びさっとこっちを振り向く。
「『お願い』しますよルーサー様」