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魔法銃士ルーサー、異世界転移者のパーティー結成を見守る

 俺は博物館でミツールのやらかした事を謝罪した後、エリックとミツールを連れて兵舎へ戻る為、商店街を歩いていた。

 すると街角でキョロキョロ周囲を見回していた30代くらいと思われるおばさんが俺を見つけ、走り寄って来る。

 おばさんは俺の前に走り出て俺の顔を覗き込み、確認するように言った。


「あの! 貴方はルーサー様ですよね? 勇者サリー様のお仲間の!」

「(まだ追放に関しては伝わり切って居ないか……)そうだが何か?」


わたくし、ドーラの結婚活動支援ギルド『ドーラ・ブリリアント・ベル』の結婚アドバイザー、メアリと申します。

 この度は『ドーラ・ブリリアント・ベル』の結婚希望独身男性としてご登録して頂きありがとうございます!

 まさかあの、ルーサー様にご登録頂けるなんてわたくし共のギルドも光栄の限りです。

 つきましては少しお願いがございまして、ルーサー様がご登録された事、公開させて頂いても宜しい……ですよね?

 その方が女性会員様が増えてルーサー様にとってもお得ですし……」

「いや、一体何を言ってるんだか。

 俺はそんなもの登録した覚えは無いんだが?」


「いえいえ、確実に登録頂いていますよ?

 えーと、ほら、あった。

 登録内容の写しです。

 ルーサーさんの紹介欄もありますよ?

 えーと。

 『産まれた頃から今の年までずっと女性に縁がなく、毎日の癒しは右手のみ。

 モテない事は自覚してたが、このまま枯れてしまっては親不孝この上ないので登録しました。

 おっぱいが大きくて美人で性格が良くて、なおかつお金持ちのお嬢様を希望しますが、駄目だったら豚でもいいです。

 とにかく童貞を捨てさせてくださいお願いします。』

 ……。

 ルーサーさん、悲観なさらなくても大丈夫ですよ。

 うちのギルドに任せて頂ければ絶対大丈夫。

 それにルーサーさんは元はいいんですからちょっと見た目を気を付ければ……」


 俺はニヤニヤしながら黙って立ち去ろうとするミツールの肩に手を置き、強引に引き留めた。


「おぃ、ちょっとまてミツール。

 どこ行くんだ?」


「え? いや、ルーサーさんお忙しそうだから先に兵舎に行こうとしてただけで……」

「お前、俺の事勝手に登録したか?」


「酷いなぁ! してないっすよ!

 なんで僕のせいにするんですか!?」


 ミツールの顔を見ていたエリックが悲しそうに言った。


「ミツール殿……、ルーサー様にはルーサー様の都合と言う物が有るからそういうのは余計なお世話と言う物ですよ。

 もういい年なんだし、そういういたずらは止めましょうよ」

「エリックまで!

 ……はいはい、いいですよ!

 どうせ俺なんて信じて貰えないんですから!」


「お前、信じられるような事今までやってきたのか?」

「信じてます。

 信じてますよミツール殿。

 でも勝手に本人の同意を得ないで登録するのは良く無いです」


 俺とミツールとエリック、そして結婚アドバイザーのメアリが言い争っている所へ、紙を手にした少女が走り寄った。

 おたゑちゃんの孫のナオミである。


「ルーサーさん!

 結婚相談所に登録されてるって友達の中で噂になってますよ!?

 本当にルーサーさんなんですか?」

「いや、それはコイツのいたずらで……」


「酷いっ!

 私の事を愛してるって言って下さったじゃないですかっ!?

 私じゃダメなんですかっ?

 お金持ちではないけど、胸なら自信はあります!」


 ナオミは俺の腕に両手でしがみ付いて訴える。

 彼女はミス・ドーラであり、最低でものこの町一番の美人、つーか道行く男どもが全員振り返る、高嶺の花といった存在である。

 ミツールは思わぬ美人の登場と、俺への張り付きに驚き、茫然と見ている。


「いや、話を聞けって。

 登録はイタズラで俺の意思じゃねぇ。

 メアリさんよ、そういう訳だから登録は取り消しておいて……」

「ルーサーさんっ!

 どうしてそんなに意固地になって私を遠ざけようとするんです!?

 夜さみしくてずっと右手だけが恋人なんてしなくても、私を呼んで頂ければお傍に……」


「……ん? ちょっと待ったメアリさんよ、あんた登録の公開の同意を俺に今取りに来てたよな?

 なんでナオミが知って……、ちょっ、ちょっと見せてくれ!」


 俺はナオミが手に持っている紙を取り、刷られている内容を確認する。

 ギルド『ドーラ・ブリリアント・ベル』のタイトルの下にデカデカと一面トップで俺が出ている。

 自己紹介内容そのままである。

 結婚アドバイザーのメアリさんは静かに背を向けて立ち去ろうとしている。


「ちょっ、メアリさんよ! これはどういう事だ?

 まだ俺は同意してないのに一面に載ってるぞ?」

「いえ、それはその、女性会員に配った紙でして。

 女性会員に男性会員を紹介するのは当然でしょう?」


「私の友達はこの紙を大通りで配って回っているのを受け取ったと言ってましたよ?

 で、ルーサーさん、私じゃ駄目ですか?」

「メアリさん!」

「えっと……、おかしいな……、何か事務手続き上の手違いが……」


 人が増え、騒動が大きくなり始めた頃に別の少女が俺を見て駆け寄って来た。

 全身フィメールプレートで頭にティアラを付けた騎士っぽい少女である。


「あっ、見つけた!

 この間はゴブリンの巣で襲われていた所を助けて頂き、お礼を言いたいと探してました!

 本当に一日中探してたんです!

 やった! ついに見つけたわっ!」

「あん? てめぇとっとと鎧を着る職業止めてろ。

 あと今それどころじゃねぇんだよ」


「町の人に聞き歩いて知ったんです!

 二丁の魔法銃を使う強い人、ルーサー様とおっしゃるんですよね?

 私は騎士のダイヤモンド! ダイヤとお呼びください!」

「騎士のダイヤモンド? ひょっとしてそれ名前か?

 ……まったく、ちょっと同情してしまったが」


「毎日右手で自分を慰めておられるんですって!?

 クスッ。

 洞窟であんな剣幕で私を叱りつけておられながら……。

 でも私はこの結婚活動ギルドに登録しようと思います。

 そして真っ先にルーサー様をご指名致しますので宜しくお願い致します」

「ちょっ、じゃぁ私も登録します!」


 ダイヤはナオミの顔からつま先まで眺め、冷たい顔で言った。


「私の家は貴族で、私は一人娘です。

 大きなお屋敷と領地を持っています。

 あと胸はフィメールプレートで押さえつけてるだけで、そこの方より大きいかと」


 俺の右手はナオミが掴み、左手はダイヤとかいう変な女騎士が掴んでいる。

 ダイヤも正直かなりの美人、かつ金持ちらしい。

 ミツールは想像外の俺のモテっぷりに不機嫌になっていた。

 そして大声を上げて場を冷まそうとする。


「ルーサーさん、異世界転移者である僕の指導でお忙しいんですよね!?

 僕には魔王を倒すという大変危険な使命が有るので、それにかかわるルーサーさんも同じく危険です。

 女性なんかと付き合ってる暇なんて無いですよね?」

「まぁそうだが」


 ダイヤはすかさず声を上げる。


「それならルーサー様のパーティーに入れて下さい!

 私は騎士として魔王と戦います」

「いや、俺がお前に職業変えろと言ったのはだな、その場の思い付きとかじゃねぇ。

 あの後俺はゴブリンの巣に居る全てのゴブリンを確認したが、俺の銃撃以外の傷を負ってるゴブリンは一匹も居なかった。

 ダイヤ、お前その剣、一振りすらも出来て無かっただろ」


「あれは……、なんか人型をしているモンスターだから人間の子供を傷付けるみたいで……。

 でもルーサー様が居て下されば大丈夫です!

 私が震えて固まっても、必ずお救い下さいますから!」

「いきなりお荷物宣言かよ。

 だが俺は当分ソロをやるつもりなんだ。パーティーなんて募集してねぇよ」


 不機嫌そうなミツールは叫ぶ。


「僕のパーティーは募集しています!

 異世界転移者のパーティー、いずれ魔王を倒す伝説のパーティーです。

 今はクレリックの戦士のエリック一名が確定、後2、3枠空いてます!」


 ダイヤはしばらく黙り、再び俺にすがり付く。


「ねぇ、お願い。パーティーは募集をしてなくても、人生のパートナーは募集しておられますよね?」

「わ、私も……」


 不機嫌そうなミツールは再度叫ぶ。


「ルーサーさんは僕の教育係です!

 僕の面倒を見続けるのが仕事です!

 そして僕は今パーティーを募集しています!

 つまり、僕のパーティーに入れば、今後ずっとルーサーさんと関わらざるを得ない!」


 黙ったダイヤはしばらく考え、俺の腕から離れてミツールの前へ行った。


「パーティーに参加希望します」


 ミツールは突然、顔面が緩んでニンマリと笑う。


「いいでしょう。認めます」

「よろしくお願いします。

 で。

 ルーサーさんもこれからよろしくお願いしますね!」


 ミツールはまた不機嫌な顔に戻る。

 そしてポケットに手を入れ何かを取り出した。


「いいですか?

 僕は異世界転移者。

 この世界よりもはるかに科学も文化も進んだところから来たんです。

 信じられないかも知れないけど凄いんです。

 君達知らないでしょう?

 スマホとか?」

「スマホ?」

「?」

「なんです? それ」


 その場に居たエリックも俺も、ダイヤもナオミも聞いたことが無い言葉に首をかしげる。

 全員沈黙すると、ミツールは得意満面に手のひらサイズの平たく四角いものを片手で持って掲げた。


「これがスマホです。

 君達原始人には分からないだろうなぁ。

 これの凄さが」

「そのスマホって何なんだ?」

「何が出来るんです?」


 ミツールは沈黙する。


「離れた人と通話したりとか……」

「それなら既に俺とミツールでやってるよな?

 魔導会話貝を使って。

 同じことをその小ささで出来るというのか?

 それなら大したもんだ。

 やって見せてくれ」


「いや、ちょっと電波が無くて……。

 というか基地局がこの世界に無いというか、そもそも二日前に電池が切れたというか……」

「可愛いっ!」


 ダイヤが突如声を上げた。

 目をキラキラ輝かせてスマホとやらを見ている。

 ただ単に小さく平たい黒曜石の石板みたいなものにしか俺には見えんが。


「そう?」


 ミツールが機嫌を取り戻した。


「チョ――可愛い! 欲しいぃぃ!」

「異世界なのに何か伝わる物があるのかなぁ?

 しょうがないなぁ。

 正直こっちじゃ使えないしなぁ。

 あげよっか?」


「欲しい欲しいぃ!」

「じゃぁ、あげよう! はい、プレゼント」


「ありがとう!!

 ねぇ、ちょっと近くに宝飾店があるから行ってくるね。

 すぐ戻って来るから待っててね!?」


 ダイヤはスマホとやらを片手に、時折こちらを振り返りながら立ち去った。


 ***


 待っている間、俺達は近場のベンチに座り、パーティーについてミツール達に語っていた。


「あのなミツール、パーティーってのは入れるのは簡単だが、お前はそれをずっと面倒見続ける事になるんだぞ?

 それにそこらの職人とかならともかく、勇者のパーティーってのは命を預けるんだ。

 人選ミスが土壇場で己の死を誘う事もある。

 ダイヤは正直、根が優しすぎて戦闘に向かねぇんだ。

 お前は顔だけで選んだんだろうが、もうちっと考え直せ」

「でも強いかも知れないじゃないですか!

 ルーサーさんは彼女を見ただけで実力が分かるとでも言うんですか?」


「ん――。

 身のこなしからして、今の所ミツール、お前の2倍くらい強ぇ」

「え?」


「だがよ、物事ってのは根っこのところは心なんだよ。

 エリート教育を受けて、技術を教えてもらってそれで良しってんじゃねぇんだ」


 俺が語っている所へ、ダイヤが手を振りながら戻って来た。


「お待たせぇ――!

 チョ――可愛いスマホを職人さんに加工して貰いましたぁ!」


 ダイヤの頭に載っているティアラ、それの中心部分にはスマホとやらを横に倒したものが備え付けられていた。

 まるでバースデーケーキのデコレーションの、名前の書かれたチョコレートプレートのように。


「見て見て――!

 超可愛いでしょ――!」

「お前、俺が言っただろう。

 戦う人間なら頭に飾りなんて付けるなって。

 どう見てもそれ防御力無さそうだぞ?」


 ミツールの顔は何故か少し半泣きになっていた。

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