勇者パーティー、最前線メイウィルドでの攻防
人類と魔王との苛烈な戦争の最前線。
城塞都市メイウィルドはその最も苛烈な戦いの渦中にあった。
本来は勇者達と共に魔王の棲む本拠地へと総攻撃を掛ける予定であったが、魔王軍の勢力は当初の想定を上回る規模、いや、不思議な再生力を持っていた。
一日に平均で三度魔王軍の部隊が進撃して外周の城壁を破壊。
人類軍は必死でそれを撃退し、防護を修復。
勇者サリー率いる精鋭も城壁の外に出て魔王軍を追い払うことで疲弊し、進軍など出来る状況にない。
その上、いくら倒してもいくら倒しても魔王軍の軍勢は減る様子も無いのである。
今日も勇者サリーとそのパーティーメンバーは2000騎の騎馬に乗った騎士達、1000騎の馬に乗った弓兵を従え、メイウィルドの城壁の外へと遠征していた。
目的はメイウィルドの外5km地点でたむろする魔王軍幹部、竜人将デス・ヘリントの率いるエビル・リザードマン軍5000体を追い払う為である。
「うぉ――!」
「キシャァ――!」
キンキンキンキンキン!
キンキンキンキンキン!
両軍の最前線、人類の騎士とエビル・リザードマンの重装盾兵が最前線で激しいバトルを行い……。
「撃て撃て撃てぇ――!」
「キシャ、キシャ、キシャァ――!」
ヒュンヒュンヒュンヒュン
ヒュンヒュンヒュンヒュン
その後ろから両軍の弓兵が雨のように矢を飛ばし、空中で激しく交差する。
そんな中、黒と深緑の鎧に身を包んだ竜人将デス・ヘリントは16人のエビル・リザードマンに担がれた神輿のような台座の上で立ち上がり、人々を畏怖させる大声で叫んだ。
「愚かなる人類よ!
我が力を見て絶望せよ!
恒久スキル・枯死オーラ!」
竜人将デス・ヘリントが両手で天を仰ぎながら叫ぶと、そこから赤黒いマナの衝撃波のようなものが広がっていく。
そして戦場全体を重苦しいオーラが覆いつくす。
「ぐぅお……体が……重い」
「力が……指に力が入らぬ……」
「苦しい! 空気がっ、空気が薄い」
「気のせいだしっかりしろ! 空気は重いが息は出来ている!」
人類の軍勢はオーラに包まれて一斉に弱体化、半数以上は馬と一緒に地面にへたり込んだり、体中に重りを付けられたような鈍い動きでエビル・リザードマンに蹂躙され始める。
竜人将デス・ヘリントはオーラを維持したまま両手を下ろして叫ぶ。
「我らの力の源は死の力。世界を破滅に向かわせ、受け継がれる血を途絶えさせ、種の滅びを導く力。
それに対し貴様らの力の源は男と女の愛情、人類同士の愛情、その先にある子孫繁栄という光の力。
我ら魔王軍にとってこのオーラはヒーリング効果すら生む能力向上の追い風となるが、貴様ら人類と動物共にとっては立っている事すら困難なデバフとなっているはずだ。
生存、血脈の維持、それが貴様らの全ての本質だからだ!
さぁ、絶望せよ!
そして死ねっ!」
人類軍が弱り、バタバタと倒れていく中、中央では激しい戦闘を続ける者が居た。
「はぁっ! どりゃぁぁ! 舐めんじゃないわよぉぉ!」
勇者サリーは聖剣を振り回して、エビル・リザードマンを次々となぎ倒す。
「スキル・劫火旋風脚!」
モンクの戦闘鬼神テンライは炎の気を両足にまとって開脚、高速回転して敵を四方八方へ吹っ飛ばす。
「皆さん! 諦めてはいけません! さぁ、立ち上がるのです!
チェイン・ヒーリング!」
聖女セレナは兵士達の方を向いて大規模神聖魔法を詠唱。
まるで大勢の兵士達に電撃がが連鎖して走るように、白いヒーリング魔法が連鎖して癒していく。
「はぁ……はぁ……ア……アイス・スパイク・トルネード」
辺境の魔導士キャロルはオーラの影響で苦しみながらも、大魔法を詠唱。
氷のスパイクを含んだ竜巻が敵陣の奥に発生して、敵を薙ぎ飛ばしていく。
周囲の人間の兵士達も勇者パーティーを見て勇気付けられている。
「見ろ……勇者パーティーの姿を……。
辺境の魔導士キャロル様だけは少しダメージを受けてるが、他のお方達はピンピンしているぞ!
まさにあれが天が我々に遣わした勇者達、約束された勝利の剣を振るう勇者達だ!」
「……そうだ!
俺達は必ず勝つ……必ずだ……」
だが、後ろを振り返って兵士達の惨状を見たサリーは舌打ちをした。
「ちっ!
このペースでは損害が大きい。
可能ならリザードマン軍を削りたかったがそれも無理なようね。
セレナ!
私とテンライに可能な限りの補助魔法を!
キャロル……敵将の周囲を重点的に荒らして!
テンライ! 一緒に敵将を直接叩くわよ!」
号令を聞いてセレナがサリーとテンライに可能な限りの補助魔法を掛け、キャロルはゼェゼェ言いながら敵陣にランダムメテオを降らす。
そしてサリーとテンライは同時に敵陣のど真ん中に突入した。
「キシャー」
「キシャー」
ドンッ、シュバッ、ドガッ、ドゴッ
目的は敵将一人、道中の雑魚は適当にいなしながら進む。
「デス・ヘリント様を守れぇ!」
敵軍のエビル竜人族の親衛隊10人が寄り集まり、襲い来る。
それをサリーは一人で受け止めた。
「テンライ! あれを!」
「……、ハァッ!」
親衛隊と激闘するサリーの上を、テンライは人間離れした跳躍で飛び越えた。
そして竜人将デス・ヘリントの背後に立ち、羽交い絞めにする。
「きっ、貴様!
放せこのっ」
「俺は気功を極めたモンク。
俺の強さの極意は、手先や足先、頭といった体の先端に気を凝縮した突きの破壊力にある」
「はっはっは!
馬鹿め! 自分で弱点をさらけ出しやがって!
スキル・五体封呪!」
竜人将デス・ヘリントの目が赤く光り、テンライの両手首、両足首、額に呪文の紋章が出現して封印された。
「もうお前は只の彫像だ!
俺を攻撃することは出来ん!」
「お前は俺の最も強い部分を封じ忘れている。
さぁ、俺の攻めだ。
ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
ドゴッドゴッドゴッドゴッ
テンライは激しく腰を振った。
テンライの腰から盛り上がった槍のような何かが何度もデス・ヘリントの尻尾の付け根周辺を突き、徐々に血に染まっていく。
「いやぁ――やめてぇぇ!」
「やっ、やばい! デス・ヘリント様が襲われているぞ!」
「なんて奴だ、助けに行かねば」
「貴方の相手はこっちよっ! どっせぇ――い!」
後ろで待機していたエビル竜人族の宮廷魔導士が両手を上げ全軍撤退魔法を詠唱し始めた。
魔王軍兵士達全員の体に白いもやがかかり始め、状況を察した兵士達は手を止める。
「勇者パーティー、なんて奴らだ。
デス・ヘリント様のオーラを受けながらピンピンしてやがる」
最後に激しい白い光が戦場を包み、魔王軍は一瞬にして消え去った。
撤退したのである。
両膝に手をついてぜぇぜぇ息を上げるサリーにテンライやセレナ、キャロルが走り寄る。
セレナが言った。
「勇者サリー、貴方は勇者の血筋の不思議な力がある。
テンライは気の力。
そして私は神のご加護。
枯死オーラを使う相手とは以前戦ったこともあるけれど、今思えばルーサーはピンピンしてたわよね。
何故かしら?」
「……そういえばあの戦いの時だけは奴の存在感がキャロルより大きく感じたな」
「気のせいよ! それにあいつの魔法銃の弾のチャージ、あたしが一つ一つしてたのよ?
時には1000発とか。
なんであたしがそんなみみっちいきっつい内職しないといけないのよ」
息を整えたサリーが答える。
「私の決断が間違っていたと?」
「いや、そんな事は……」
「そうは言っておらぬ」
「大正解よ大正解。あたしずっと楽になったもん」
「ならもう終わったこと。
あんな雑魚居なくても問題ない。
私達だけで魔王を倒すのよ」