魔法銃士ルーサー、おたゑと出会う
俺はドーラの町へと引き返す街道をトボトボと歩いていた。
勇者一行の一員としてあの町を旅立つ前日、町をあげた送迎会が行われた。
そして豪勢な料理が並べられた机をパーティーメンバーと取り囲み、大勢の人々に祝福されもてはやされたものだ。
今日大勢の町の人に見送られ、一行は魔王の本陣を攻める為、最前線に構築された砦、メイウィルドへ馬車で移動する途中だったのだ。
メイウィルドには各国から集められた大勢の兵士達が、自分たちのリーダー、人類の希望の象徴として勇者達を待ちわびているだろう。
「帰りたくねぇな。今更ドーラの町にどんな顔して戻ればいいんだよ……」
だが一本道の街道。
後ろに戻れば勇者たちのいる最前線メイウィルド。
前へ進めば自分を勇者一行として送り出した人々の居るドーラの町。
左右にあるのは延々と続く魔獣の棲む森と山。
ここに居ては夜に魔獣に食われるか、食料が尽きて死ぬのを待つのみ。
どこかへ身をくらますにしてもドーラの町を通り抜けるしかない。
グルオォォォ――!
「きゃぁぁぁ!」
ドーラの町へ向かう街道の先、少し曲がった奥から女性の悲鳴と魔獣の唸り声が上がった。
これでも元勇者のパーティーメンバー。
見過ごすわけにはいかんだろう。
俺は声のする方へとかけていく。
***
街道の真ん中で、馬が荷車と一緒に横倒しになってもがいている。
メイウィルドへ物資の輸送をしていたんだろう、大量の果実やイモ類、野菜類がぶちまけられている。
馬に乗っていたらしき十代の少女は地面にへたり込んだ状態で、二匹の黒い巨大なイノシシのような魔獣に囲まれている。
散らばった野菜をむさぼり食っている魔獣が一匹。
荷車に乗っていて放り出されたのか、腰を打って腹ばいでもがいている老婆一人と、その老婆に歩み寄ろうとする魔獣が一匹。
こいつらはエビル・ボア。
育ってリーダー格になれば体高3メートルまで成長する危険度レベル70程度の雑食性魔獣。
武装した人間の兵士5、6人で一体ようやく対処出来るかといった強さで瘴気の強い森に棲む。
だが腐っても勇者の元パーティーメンバーの俺なら一人でなんとか対処出来るだろう。
エビル・ボアはイノシシ同様にタワシの様な剛毛に固まった泥の鎧を纏い、通常の弓矢程度は寄せ付けない。
「あれを使うしかないか」
俺は二丁の魔法銃を懐から取り出すと、同時に上に放り上げる。
そして素早くベルトに並んだいくつものカートリッジから、貫通弾入ったものを選び、片手に一本ずつ持って構える。
カシャッ!
カシャッ!
放り投げた魔法銃が俺の構えたカートリッジの上に落下。
そのまま両方とも装填された。
俺は両手に持った魔法銃をクルクルと回し、片方を少女を囲む魔獣、もう片方を老婆に歩み寄る魔獣に向けて構えた。
「Let’s Rock!」
バシュバシュバシュッ!
魔法銃の銃口からは鋭くとがった黒曜石の弾丸が飛び出す。
無論普通の弾丸ではない。
キャロルに地属性の魔力を込めて貰っており、幅3センチの鋼鉄すら貫通する。
少女を囲む二匹の魔獣と老婆に近寄る一匹の魔獣の体に何度も貫通し、こちらを向いて毛を逆立て威嚇を試みるも俺の射撃に圧倒されて後ずさる。
バシュバシュバシュッ!
ウグォォ――ン……
ドサッ!
ドサッ!
ドサッ!
圧倒的火力で有無を言わさず三匹始末完了。
そして……。
「黒曜石カートリッジ二つ、6万ゴールドの花火は気に入ったか?」
俺の強さの源は散財にある。
多分これも勇者のパーティーの中で、俺の知らぬ間にヘイトを買ってた原因だろう。
「あっ、危ないっ!」
目を閉じて余韻に浸っていたが少女の叫びで目を開ける。
俺の目前5メートルまで、残り一匹の魔獣が突進して来ている。
「スキル・回避!」
俺の体は横一列の半透明な分身となり、魔獣は真ん中を突き進むが素通りする。
回避の効果中は敵の攻撃のヒット率を問答無用で3分の1にする。
「ヒュ――! ラッキーだったぜ」
「ルーサーさんっ! 後ろ!」
俺は二丁の魔法銃を両肩の上で後ろ向きに構えて乱射する。
バシュバシュバシュッ!
ウグォォ――ン……
ドサッ!
敵は八方より来る、我八方の構え有り。
これくらい出来なきゃ勇者のパーティーは務まらなかったさ。
「ルーサーさん! ありがとうございました! わざわざ私達を助けに戻ってくれたんですね?」
少女が駆け寄り、目を輝かせながら俺に感謝の言葉をかける。
確かコイツはミス・ドーラだとか、ドーラの町一の美人で勇者パーティーのお酌までさせられてた気がするな。
……喜んでたよ。
……セレナがな。
それにしてもこんな少女まで食料の輸送させられてるなんて、人類の魔王との闘い、情勢は相当に悪いという事か。
「あぁっ、こんなところにお怪我をしておられますねっ!」
少女は俺の腕の擦り傷を見つけ、駆け寄って手当をしようと触れる。
「まっ、まて、それよりあの老婆が先だ。手を放してくれ」
俺は少女の手を振りほどいて老婆の方へと歩き出す。
「……オォ……。ウェッ! ウェェッ!」
「……? ルーサー様、今何かおっしゃいましたか?」
「気のせいだろ」
青臭くて吐き気がするぜ。
俺は地面に蹲っていた老婆のそばで膝をつき、抱き起こす。
「お婆ちゃん、大丈夫かい?」
「ハワヒウェホレ(助けてくれて)、ホリハフォウホヘホヘ(有難うございますだ)」