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魔法銃士ルーサー、エビル・アナグマに遭遇する

 俺の言葉を受けてミツールは沈黙。

 その気まずい空気を変えようと思ったのか、スラールさんが声を上げる。


「よし、模擬戦闘訓練はここまでにしましょう。

 さぁ楽しい楽しい昼食です、各班薪を集めて準備に掛かるように!」

「了解しました!」

「了解しました!」


 兵士達は立ち上がって敬礼後、あらかじめ決められた班ごとに集まり、薪を拾いに向かったり、水場に水を汲みに行ったりとテキパキと行動し始めた。

 ミツールは相変わらず切り株に腰かけて足を組み、ふくれっ面である。


「はぁっ、はぁっ」


 一人の若い新兵が片手に3つ、合計6つほどの金属製の取っ手付き深鍋に水を入れて走って来た。

 まだ基礎体力が出来ていないのか見てて危なっかしい状態である。

 案の定、ミツールの近くに石に躓いて転んだ。


「あっ」


 ドタッ

 バシャァッ! ガランゴロン


 ミツールの足元に水がぶっかけられる。


「ごっ、ごめんなさい!」

「ちょっと。何やってるんだよ?

 濡れちゃったじゃないか!」


「すいません、拭かせて頂きます」


 ミツールは立ち上がり、大声で周囲で駆け回る新兵達を見回しながら叫んだ。


「あー、あー。

 何こいつ、すっとろいなぁぁ!

 ほんと、どうしてくれるんだよぉぉ!

 ……何? それだけ?」

「すいません」


「反対側の足にも掛かってるだろぉ!?

 ちゃんとやれよぉ!

 あーあー!」


 はぁ……。

 ホント嫌になってくるぜ。

 ここまで面倒くさい奴なのか、異世界転移者って奴は。


 俺は必死でミツールの足を拭く新兵の所へ歩み寄り、まだ転がったままの深鍋3つを拾って傍に置く。


「気にしなさんな。ミツールの馬鹿もちょうど水が掛かって涼しくていいくらいさ」

「しかし……」


「君、名前は?」

「エリックと申します」


「兵士の生活にはまだ慣れてないって感じだな」

「はい……まだ2週間目です。

 それにミツール殿のすっとろいというご指摘も割と言われがちと言いますか……。

 私は本来クレリックの家系で、剣を持って戦う兵士などに向いてないと親からも散々言われてきたのですが、どうしても悔しくて無理矢理志願したんです」

「何だよクレリックぅ? 迷惑だから教会に帰れよ、うすのろエリック!」


「クレリックか!

 それなら回復魔法とか治癒魔法を使えるのか」

「はい、多少は。

 でもなんか、そんな事女々しいじゃないですか」

「ぷ、女かよ」


「黙れミツール。

 ……そんな事はねぇよ。戦場でもダンジョンでもクレリックの力は必須だよ。

 兵士をやりたいってなら止めはしないが、お前の能力は必ず必要とされる時が来る。

 ちゃんと誇りを持つんだ。

 よしっ、じゃぁまだまだ基礎体力を鍛えないとな。

 さぁ、水の汲み直しだ。

 行ってこい」

「はいっ!」


 エリックは敬礼し、再び深鍋をもって小川の方へと走り去った。

 それを見送った後、俺も立ち上がる。


「ようし、ミツール。俺達も行くぞ」

「行くって……どこへですか?」


「恐らくお前も作ることになる勇者パーティーってのはな。

 普通の兵団とは違う。

 少数精鋭で敵地深くやダンジョンの奥まで潜入し、魔王軍の施設を重要施設を破壊したり、VIPの人質を救出したり、時には魔王軍幹部を暗殺する。

 所謂特殊部隊なんだ。

 当然多少の保存食は持ち歩くが、基本は食べ物は現地調達をしなければならない。

 その為には何を食べる事が出来て、何が食べられないかといった知識も必要となる。

 俺がそのサバイバル術を教えてやる。

 お前は狩猟用の弓だけ借りて付いてきな」


 ***


 俺は苔むした崖から垂れ下がって生える青菜を指さした。


「これがイワタバコって野草だ。

 こうやって葉っぱが2枚出ているときはだな。

 一枚貰って、一枚は残しておくもんだ。

 そうしないと枯れてしまうからな」

「ルーサーさん。

 さっきから食材といって取ってるものって、キノコとカエルとセミと酸っぱいだけのちっちゃな実だけじゃないすか!

 こんなもの食ったら腹壊すし、カロリー無いし、何より気持ち悪いですよ!」


「馬鹿野郎!

 実際に生き死にの状態になれば食えるものが取れるだけ有難いもんだ。

 この知識だって俺がカメーゴ・ロウさんという伝説的なレンジャーに直々に教えて頂いた知識。

 それを教えて貰えるなんてどれほど幸運か!」

「まじすか……」


「しっ! 静かに!」


 何か遠くで音が聞こえた気がする。


 ガサゴソッ! ドタッ! ドタドタドタッ!


 50メートルほど先の茂みが揺れ、そこから体高1メートルほどの黒い生き物が飛び出る。

 そしてまっすぐこちらに突き進む。


「うわっ、イノシシ……いや、熊? 熊?」

「あの赤く輝く目は瘴気に侵された動物の目。エビル・アナグマだっ!

 どいてろっ!」


 俺はミツールを横に払いのけると素早く魔法銃マジック・ピストルをホルスターから取り出し一発撃った。


 パァ――ン! キンッ!


「なっ、馬鹿なっ」


 パァ――ン! パァ――ン! キンッ! キンッ!


「間違いない、銃弾を弾いてやがる! 只のエビル・アナグマじゃねぇな!?

 スキル・ガンナー・アナライズ!」


 スキル・ガンナー・アナライズは敵の魔獣の鑑定、いや分析を行うスキル。

 俺が勇者パーティーに居た頃、割と重宝されたスキルだ。

 ま、俺が居なくてもキャロルが集団ターゲットの上位互換魔法を使うがな。


【ガンナー・アナライズ、分析結果】

 種族名:エビル・アナグマ(ユニーク個体)

 個体名:アナグーさん

 危険度レベル:89

 付加属性1:アストラルボディ(物理無効)

 付加属性2:バーサーカー(狂暴化によりステータス値2倍)

 付加属性3:リアクティブ・エレクトリック・スパイク(攻撃被弾時に硬質化されて電撃を帯びた毛針をまき散らす)

 付加属性4:大地の化身(土属性・地属性攻撃無効)

 付加属性5:風の祝福(風属性耐性95%)

 付加属性6:ファッション・リーダー(固執衣装:帽子)


「何て事だっ!

 ユニーク個体だとっ!

 しかも俺の持つ魔法弾マジック・シェルにことごとく耐性を持ってやがる!」

「ユニーク個体って何ですか!?」


「魔獣の中に1%くらいの確率で突然変異した奴が現れるんだよ。

 大体の場合は同じ種族の魔獣に比べて2~5倍強くなる!

 そして群れで行動する魔獣ならば、その中のチャンピオンやリーダー、キングとなっている事が多い。

 コイツの付加属性の内容は激ヤバ!

 とくに『ファッション・リーダー』がヤバイ!」

「『ファッション・リーダー』?

 どこがどうヤバイんですか!?」


「『ファッション・リーダー』個体は特定の衣装、こいつの場合は帽子に固執し、それを奪おうとして襲い掛かって来る。

 そして奪い取った後はその所有権を脅かされない様に、所持者と目撃者を必ず殺す!

 その奪おうとする執念で能力が3倍になる。

 よく見ろっ! 奴は今子供用の帽子を被っているだろう?

 あれも元の持ち主の犠牲者が……はっ!」

「ルーサーさんの帽子狙いかっ! あぁぁ! もう駄目だぁ!」

「グオオォォォ――ッ(その帽子はアナグーさんの物なのだぁ!)」


 ついにエビル・アナグマは俺に到達。

 両手を広げて爪を使って攻撃をし始める。


「くっ! スキル・イベージョン!」


 俺は分身を出しながら必死で回避する。

 なんとかっ、なんとか辛うじてまだ一発も貰っていない。


「わぁぁぁぁ!」

「ちょ、おま、やめ」


 ミツールは少し離れた場所に移動し、狩猟用の弓を引き絞って何発も何発を矢を放つ。

 俺の背後から。

 俺は必死でエビル・アナグマの攻撃を回避しながら、ミツールの矢も回避するはめになった。


「止めろミツール! 弓を止めろっ! いでっ!」


 パスッ!


 ついに一発の矢が俺の太ももの裏に突き立った。


「こっ、このっ! いい加減……」

「うわぁぁぁぁぁっ! 死ねっ! 死ねぇぇ!」


 ミツールはバンバン矢を放つ。

 その内2、3本がエビル・アナグマに命中する。


 キンッ! パリパリパリ バヒュゥ!

 キンッ! パリパリパリ バヒュゥ!

 キンッ! パリパリパリ バヒュゥ!


 エビル・アナグマに矢が当たった箇所の毛が十数本逆立って電気を帯び、反射弾としてこちらに飛びまくる。

 もはや回避不能、俺はいくつもの毛針を受けた。


 パリパリパリパリ


「ぐあぁぁぁぁぁ!」


 俺はその場に倒れ込み、エビル・アナグマは上に伸し掛かる。


「ウォオオオオォ!(この帽子はアナグーさんのなのだぁ! 誰にも渡さないのだっ!)」


 大きく口を開けて俺の顔に噛みつこうとする。


「ちっ」


 ガギィィィ!


 顔の肉を魔獣に食われた被害者を見たことが有る。

 あれは悲惨だった。

 俺は反射的にオリハルコン製の魔法銃マジック・ピストル一丁をエビル・アナグマに噛ませた。


 ギギギギギ……パリィンッ!


「まじかよっ!

 オリハルコン製と言えどもアストラルボディの魔獣にはかみ砕かれてしまうのかっ!

 やむを得んっ!

 ミツール!

 時間を稼げ!」


 俺はエビル・アナグマに伸し掛かられたまま、帽子を脱いでミツールの方へ投げ飛ばした。

 帽子は見事にミツールの頭にぱさっと被さる。


「ビンゴッ!」

「グオォォォ!(アナグーさんのなのだぁ!)」

「ひえぇぇぇ」


「スキル・どんなに暴れても外れないハードボイルド帽子!」

「とっ、取れない! 帽子が取れないよぉ!」


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