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魔法銃士ルーサー、異世界転移者の戦いを傍観する

 ユリアンを隊長とするユリアンチームは小高い丘の上の本陣で、チェスターを隊長とするチェスターチームは森と野原の境目辺りの大きな木の横の本陣で集まり、しばらく戦術の意識合わせを行っていた。

 異世界転移者のミツールは頭脳派で勝算8割とスラールさんが評するチェスターチームの方に入らせている。


 ***


 丘の上で、ユリアンチームは肩を組んで円陣を組んでいた。

 ユリアンが言う。


「いいかっ! 今回の作戦は速攻、全員突撃で行く!」

「ユリアンさん……それいつもと同じでは……」

「また負けますよ?」


 ユリアンは顔を真っ赤にして苛立ちながらも続ける。


「同じではない! 途中まで、チェスターの本陣まではゆっくりと侵攻をすると見せかけるため3チームに分かれてそれぞれ一人は盾を見せびらかしながら前進しろ!

 俺が大声で叫びながら突撃を始めたら、全員盾を捨てて訓練用両手剣だけをもって全力でチェスターの本陣に突っ走るんだ!

 一人の遅れも許さん!

 いいな!?」

「チェスターさん相手にその作戦、今回で3回目ですよ?」

「さすがにバレますよ」


 ユリアンは再度、念を押す。


「……分かったな?」

「……はい」

「分かりました」


 ***


 チェスターチーム本陣にて。

 チェスターは新兵達と、隣で切り株に座り足を組んで腕組みしてふんぞり返るミツールに作戦を伝えていた。


「私がユリアンの指揮するチームと対戦するのはもう10回以上になるが、ユリアンは未だに自覚していない弱点がある。

 常に全軍で進んでくるので、本陣に一人も守りを置かないのだ。

 5、6回は無防備の旗を潜入兵に倒させる作戦で勝っているが、あいつは未だに改めようとしない。

 下手するとその戦術的な必然的敗北の理由に気付いてさえいない可能性がある。

 なので今回もその手でいく。

 恐らくまた突撃してくるだろうから、本陣の防御にまず重点を置き、訓練用弓を装備した伏兵を君と君、あと君と君。

 弓使いには自信があるよね?」


 チェスターに指さされた4人の兵士は驚く。


「はっ、はい」

「アーチェリーの成績トップ4人、全部把握しておられるんですね。

 ただ隣で訓練してただけなのに」

「凄いなぁベテランって」


 チェスターは本陣の右奥と左奥の木を指さして言った。


「君たちは二人ずつ向こうの木に登って潜み、突撃してくるユリアンチームを撃て。

 各自訓練用弓一つ、訓練用矢を10本、訓練用ダガーをもって試合開始直後に走るんだ。

 そして他の者は半分は盾と訓練用ショートソード、半分は訓練用槍を持ち、本陣と少し前に進んだ2か所を守れ。

 防衛中は、じりじりと後ろに下がって生存を最優先にするんだ。

 そして一番の大役、潜入して敵本陣の旗を倒す役は、異世界転移者であるミツール殿にやってもらおうと思う」


 ミツールは腕を組んだまま首をひねり、眉間に皺をよせながら口を尖らして不満そうに黙り込んだ。


「ミツール殿、何かご不満でもありますか?」

「俺が一人で行くわけ? そんなの自殺特攻じゃないか」


「もちろんど真ん中を入っていけなどと言いませんよ。ユリアンじゃあるまいしね。

 武器を所持するものしか旗を倒せないルールなので、訓練用ダガーをもって森の中を身を屈めながら抜けて貰いたいんです。

 大丈夫、常に私が反対側に陽動を行うので……」

「ダガー? そんなの敵に出会ったら負けるじゃん」


「い、いえっ、出会わない。絶対に出会わないです。ルール上旗を倒す為だけに武器を持つわけで。

 むしろ大きな武器を持つと目立つ上に音を立てやすくなりますから」

「ロングソード持たせて下さいよ」


「いやっ、大きな武器を持つと木や草に当たって気付かれやすくなるんです」


 ミツールは黙り込み、口を尖らして不満げに唸る。


「では何かミツール殿に名案がありますか? そうであればお聞かせ願いたい」

「俺に指揮を取らせてくれる?」


 新兵達は困惑して顔を見合し、チェスターも眉がピクリと歪む。


「し、しかし私達はまだミツール殿の事をよく知らないので……」

「俺って信頼されてないんだ?」


「そっ、そんな事はありませんよ」

「一人で潜入? 上手く行くわけ無いでしょ。馬鹿じゃないですか?」


 チェスターの眉間に皺が寄る。


 こいつ、せっかく旗を倒す大役で花を持たせてやろうとした私の計らいを踏みにじりやがって。


 そう思いながらも冷静に答える。


「軍隊の規則でして、未経験の者は例え位が上であっても、戦場では経験者の指揮に従わないといけないんですよ。

 これは決まり、どうしようもない事なんです。

 もちろんミツール殿を信頼してないわけでもない、従っていいなら従いたい気持ちは満々なのですが、仕方が無い。

 仕方が無いんです。

 どうか私の策に従っていただけませんか?

 この通りです」


 チェスターはミツールに頭を下げる。

 ミツールはさらにふんぞり返りながら答える。


「ちゃんと僕が納得するまで説明して貰わないと従えないですよ。

 大体ねぇ、未経験者の位が上でも経験者に従わないといけない。

 そんなルールがあるんならね。

 ちゃんと先に言ってくださいよ!

 遅いでしょうよ!」


 遠巻きに眺めていたスラールが立ち上がり、ユリアン本陣にもチェスター本陣にも聞こえる大声で叫んだ。


「兵士達よ!

 もうそろそろ作戦は決まった頃だろう!

 それでは試合を開始する。

 両者定められた武器を取れ!

 いくぞ?

 5、4」


 チェスターは焦りながらミツールを説得する。


「お願いします。お願いしますからダガー……、いやもういいや、ロングソードでいいから持って左の森の中を屈みながら抜けて下さい!」

「それが人に物を頼む態度ですかねぇ?」


「2、1、試合開始!」


 試合は問答無用で始まった。

 ユリアン隊は15人の兵士を5人ずつの3隊に分け、白々しい態度で先頭のメンバーに盾を構えさせながら前進してくる。

 チェスター隊も各々が武器を手にし、決められた防衛地点へ走る。

 二人を除いては。


「お願いだから言う事聞いて下さいをミツール殿!

 もう試合が始まってしまった!

 時間の勝負なんです!

 潜入にしても一秒一秒が大事なんです。

 このままじゃチームが負けてしまいますよ!」

「えぇぇ?

 ――ちっ」


「ミツール殿!」

「知らないっすよ」


 そうこうしている間にユリアンチームの3隊がチェスターチーム本陣まで30メートルまで迫って来た。

 狙いに感づいたチェスターは叫ぶ。


「皆気を付けろ! ユリアンチームは一斉に突撃してくる!

 防衛! 死守だ! 戦いに備えろ!

 一気に来るぞぉ!」


 チェスターの横でミツールが苛立ちながら声を荒げる。


「来ないかも知れないじゃないですか!」


 その時、ユリアンが声を上げた。


「全軍突撃ぃぃぃ!

 レッツゴー

 ゴー! ゴー! ゴー! ゴー!

 ムーブ! ムーブ! ムーブ!」


 ユリアン隊のメンバーは全員盾を捨て、チェスターチーム本陣に突撃した。

 チェスターチーム防衛隊は槍や弓で削り取るものの、抑えきれない。


「いったれぇぇl!」

「ああぁぁ! やられてしまうぅぅ!」


 バサッ!


 チェスターチーム本陣の旗は引き倒された。

 スラールが遠くから声を上げる。


「勝負有りっ! 勝者ユリアンチーム!」


 ***


 試合終了後、俺とスラールは倒木に並んで腰かけ、その前に喜びを抑えきれない笑顔のユリアンと、ため息をつくチェスターが立つ。

 ミツールは近くの切り株に足を組んで腕組みしてふんぞり返り、他の新兵達は周囲を取り囲む。

 スラールが試合の総評を行った。


「ユリアン、チェスターの率いる隊と戦うのは何度目だったかな?」

「はいっ!

 12回、今回が13回目でありますっ!」


「今までの勝敗は?」

「全敗、12敗でしたが今回初めて勝利致しましたっ!」


「そうか、最後の突撃、中々見事であった。

 あれは君の号令と、統率無しには成しえない最高に息の合った作戦だった。

 今回の勝利は今まで君の積み重ねてきた経験によってもたらされたもの。

 誇るべき一勝だ。

 だが慢心することなく、これからも訓練に励むように」

「有難うございますっ! これからもさらに精進致しますっ!」


 スラールはチェスターの方を向いた。


「チェスター、今回の君達の動き、見るに堪えない状態だったぞ。あれは軍隊とは言えん」

「申し訳ございませんっ!」


 チェスターは俯く。

 ここから先、俺の役割だろう。

 俺はチェスターに聞いた。


「チェスター君、今回の敗因は何だったと思う?」


 少し沈黙したチェスターはミツールをチラ見した後、再び項垂れる。


「……私の未熟さが原因でございます」

「君は奇策を立てて寡兵で勝利する逆転を何度もやって来たと聞いている。

 だが奇策はあくまでも奇策、本道から外れたやむを得ない場合に使う物だ。

 今回、君が奇策に固執していなければあそこまでも一方的な敗北はしなかったはずだ」


 ミツールが大きな声でチェスターを責め立てる。


「そうだよ。俺に一人で敵本陣に潜入して旗を倒せだって?

 あり得ないんだよ!

 奇策に頼るのも大概にしろよ!」

「そしてもう一つの敗因は、この馬鹿の言う事をまともに聞いてしまった事だ。

 今回は訓練だったがもしこれが実戦だったら?

 大勢の仲間の兵士を死なせている」


「……おっしゃる通りです……」

「いいか、指揮官たるもの、特にこういう命を扱う指揮官たる者は一度の失敗も許されん。

 軍人であれば、例えミツールをその場で切り殺してでも統率を乱すな!

 いいか!?」

「えっ?」


「……ルーサー様の重いお言葉、この胸に今、焼き付けました。

 これからも決して忘れずに励みます」

「よろしい。で、ミツールよ」


 驚きの表情から一変してむくれた顔のミツールが答える。


「……なんすか?」

「お前は生の兵士達の対決を目にした。

 統率の大切さ、そして集団で一致団結する事がどれほど大きな力を生むか、嫌でも学んだはずだ」


「……」

「実際の戦場でお前に向かって襲い掛かるのは訓練用ソードを手にしたユリアンじゃない。

 本気でお前を殺しに来る魔王軍、言葉すらも通じない魔獣共だ。

 お前は甘えてるんだよ」


「待ってくださいよ。今回はチェスターが使えもしない愚策を行おうとして失敗したのが敗因、俺が悪いんじゃないです。

 後ルーサーさんも悪いですね。

 こんな愚将の所に俺を送り込むなんて、ハンデが酷すぎますよ。

 これじゃ誰だって勝てない。

 チェスターさんもですねぇ、俺が最後に『俺に指揮させろ』と助け船を出したのに従わなかった」

「お前が指揮してたら勝ってたと?」


「勝ってましたね」

「おぃ、ミツール。

 その言葉、お前の本心で言ってるか?」


「……」

「分かってるだろう?

 指揮どころか、剣の扱いすらここの新兵誰にもお前は勝てない。

 本心では間近で見て、お前自身たんこぶと痣貰って分かってるだろう?」


「……」

「お前は今、お前が原因となった大失態、敗北という事実に対して、言葉で誤魔化そうとしたな?

 誤魔化す対象は……お前自身だ。

 自分自身を浅はかな嘘で騙してなだめようとしていただけだ」


「……」

「逃げるな!

 事実は事実として受け止めろ!

 それが本当の強さだ」

 

SFは面白いですよ。

皆もっとSF小説を読みましょう。

そしてSF小説を書きましょう。

最高にワクワクしますよね?

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