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魔法銃士ルーサー、見習い兵士達の野外訓練に付き合う

 ミツールに素振りの指導をした翌日。

 俺は今日もおたゑちゃんに朝食をお世話になった。

 そして見送られながらドーラの町へと出勤だ。


「フーファファン、ホウホハフハヘ(ルーサーさん、今日も頑張ってねぇ)」

「あぁ、そんじゃ行ってくるぜ」


 村を出る前にノーバちゃんに分けて貰った畑で育てる野菜や薬草の種に水をやるのを忘れない。

 あれっ?

 なんか勇者のパーティーに居た時より忙しくね?

 っと思ったがまぁそういう時もあるさ。


 ***


 ドーラの町に入って少し歩いていると、とある民家の前に大勢の人々が集まっていた。

 全員が黒装束、このあたりでの喪服を着ている。

 一人の老婆がハンカチで涙を拭きながら『スミス家→』と書いた木の板をもって道に立っている。

 俺は彼女に尋ねた。


「誰か亡くなったのかぃ?」

「グズッ。

 孫のゴンゾが山菜取りに山に出かけたまま帰らず、魔獣に殺された死体の状態で見つかりましてな」


「そうか……そいつぁ残念な事だ」

「まだ13歳、わしの何分の一も生きとらんのに……グズッ。

 死ぬならわしが代わりに死ねば良かったんじゃ……」


「そんな事いうもんじゃねぇ。

 で、魔獣ってのはどんな奴だ?」

「検死をした兵士の方は、エビル・アナグマの仕業じゃというとりました」


 エビル・アナグマ。

 危険度レベル30の魔獣で体高1メートルほど、もちろん四つん這いの状態でだ。

 俺が勇者と共に戦ってきた魔獣に比べれば雑魚だが、瘴気の影響を受けてない普通の大人の熊くらいの力はある。

 無防備な13歳の少年じゃ、敵わなかっただろう。


「亡くなったお孫さんに関してはお悔やみを言うしかできないが、そのエビル・アナグマ。

 もし俺が出会ったらブチ殺しておいてやるよ」

「お願いしますだ……。これ以上犠牲者が出ないためにも……」


 ***


 すこし寄り道をしてしまったがようやく目的地に着いた。

 ドーラの町の兵舎にある食堂。

 机で待っていたのはスラールさんだ。


「おはようございます。ルーサーさん」

「おはよう、スラールさん。

 ……ミツールはまだ来てない……かな?」


「そのようですね。

 また使います?」

「すまんな」


 俺はスラールさんから魔導会話貝を受け取り、額に当ててミツールの泊る宿屋のスウィートをイメージして念じる。


 ポワンポワンポワン


「(ガトゴト……)はい」

「ミツール、もう時間だぞ。いい加減に」


「すいません、ちょっと急に行けなくなりまして」

「あぁん?」


「急な事故で友達が亡くなりまして……。

 今日その葬式に行かないといけなくなったんです」

「友達? ドーラの町の?」


「そうです」

「お前異世界から転移してきて今日でまだ三日目だろう。

 それですでに友達がいるのか。ちなみにその友達の名前は?」


「……スミス、スミス君です!」

「スミス……そういやドーラの町で今日葬式してるのを見たな」


「そうでしょう!? それが僕の友達のスミス君です」

「えーと、確かマイケル・スミス君だっけ?」


「そう、マイケル・スミス君です。ちょっと今週は喪に服さないといけないので、訓練は行けなくなっちゃうかも……」

「山で頭上に落ちてきたサクランボで頭蓋骨陥没骨折して亡くなった……」


「え? ……え? サクランボ……。

 そ、そうです。確かそうでした!」

「出てこい! 今日の訓練が待ってるぞ」


「酷いっ! ルーサーさん! あんたは鬼ですか!?

 友達が死んだんですよ?

 ちょっと人間としての常識が足りないんじゃないですかね?

 こんな人見たことないし、有り得ないですよ!

 だいたい……」

「お前の元居た世界のサクランボがどうかしらんが、この世界のサクランボは上から落ちてきてぶつかってもアリンコすら死なねぇよ。

 それと今日葬式やってた死んだ少年の名前はゴンゾ・スミスだ」


「……」

「出てこい」


 ***


 ビュッ! ビュッ! ビュッ!


 ミツールは昨日と同じく木の棒を振り回して素振りを行い、俺は傍で椅子に座ってそれを眺める。

 俺の隣にはスラールさんも座っていた。


「ルーサーさん、今日うちの兵団に入隊したばかりの見習い兵士30人で野外訓練に行く予定なんですよ」

「へぇ、野外ねぇ?」


「うちの兵士の経験3年くらいの小隊長候補らに率いさせてね。

 見習い兵士は集団行動の訓練、小隊長候補達には用兵の訓練ですな」

「ほぅ、そいつは面白そうだ。

 ミツールも連れて行ってそれを観戦させてやりたいんだが、いいかぃ?」


「構いませんよ。勇者、いや勇者に近い存在となるなら、いずれ兵士達を率いる立場になりますからね。

 こういう物には触れる機会は多いにこしたことはない」

「まさにその通り、助かるぜスラールさん」


 素振りをしていたミツールの動作が少し硬くなり、ぎこちなくなった。


「どうしたミツール! 動きが悪いぞ」

「ふっ! ふっ! えいっ! やぁっ!」


 こいつさっきの会話聞いてやがったな。


 ***


 しばらく訓練場で訓練をした後、スラール隊の見習い兵士30人、小隊長候補のベテラン兵士二人、スラールさんと俺とミツールはドーラの町を出発し、1時間ほどかけて伐採された山の中腹へたどり着いた。

 木材伐採で訓練場よりはるかに広大なエリアが下草があるだけの空き地になっており、大規模な用兵訓練にはもってこいである。

 俺とスラールさんは倒木に腰かけ、少し離れた場所でミツールも腰かけて兵士達を見守る。

 兵士達は15人ずつの2チームに分かれ、それぞれをベテラン兵士が指揮していた。


「全員突撃ィ!」

「全員後退!」

「円陣!」

「横陣!」

「戦闘移動! 方角10時ィ!」

「全速移動! 方角5時ィ!」


 見習い兵士達はハァハァ息を切らしながらキビキビと指示に従って動く。


「大したものだ。さすがはスラール隊、精鋭部隊と言われるだけあるな」

「いやいや、まだまだですよ」

「ふーん」


 ふとミツールを見ると、いつの間にか足を組んで両腕を組み、ふんぞり返って兵士達を値踏みするように眺めていた。


 こいつ……絶対何か勘違いしてやがる。


 スラールさんが立ち上がって兵士達に叫ぶ。


「よし! 通常訓練はそこまで!

 続いて2チームでの対戦形式の訓練に移る。

 ユリアンのチームはあそこにある丘の頂上を本陣として旗を立てろ。

 チェスターのチームは反対側、むこうにあるあの大きな木の前が本陣だ。

 そして相手の旗を倒したチームを勝ちとする。

 個々の兵士の勝負は模擬戦闘のルールに準ずる。

 戦術は二人共、自分で考えるんだ。

 新兵達は両名の指示に従う事」

「了解しました! スラール隊長!」

「了解しました! スラール隊長!」


 俺はスラールさんに頼み込んだ。


「スラールさん、迷惑をかけてしまうことになって済まないとは思うんだが、どちらかのチームにミツールを参加させてほしい」

「え? それは構いませんが、ミツール殿は用兵の訓練がまだ……」


「いえ、あの二人の小隊長、どちらかに従う新兵として」

「えぇ? し、しかし異世界転移者殿ともあろう方をあんなところには」


「彼に学んでもらいたいんですよ」


 スラールは俺の目を見て沈黙し、狙いを悟ったようだ。


「分かりました。ルーサーさんの頼みですからね」

「ちなみにユリアンとチェスター、用兵術としてはどちらに分があるとスラールさんは見てるんだ?」


「ユリアンは脳筋タイプで細かな計算が苦手です。

 チェスターはそれに比べて優秀だ。

 こういう模擬戦闘を何度か行っているが、彼の繰り出す戦術、用兵センスには軍の上層部も注目しています。

 8割がたチェスターチームが勝つでしょう」

「ミツールをチェスター隊に入れてくれ」


「いいでしょう」

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