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魔法銃士ルーサー、光輝の異世界転移者達に志を示す

ご愛読ありがとうございました。


 ドーラの町での戦いが終わり、レッドホーン前哨基地の近くからも魔王軍が完全に退却した。

 ギルドの酒場は勝利の宴で沸き、松明の明かりと笑い声が響く。

 主賓となるのはドーラ防衛を指揮した士官候補生、チェスター。

 同じく士官候補生でありながら騎馬突撃を敢行して防衛線を支えたユリアン。

 最終防衛ラインを堅持した冒険者達に、スラール隊訓練生約300名。

 そしてミツールの率いる『打倒魔王アバドーン』パーティである。

 最終的に町を奇跡の勝利に導いた大きな立役者でもあるチェスターは、それでも自分の指揮で何名もの訓練生を死なせてしまった事を負い目を感じているのか、その指揮を称えられても祝杯を握り締めて苦笑する。

 逆にミツールは思い切りはしゃぎまくっている。

 机の上に乗ってミスリルソードを抜き、自分の武勇伝を語りまくる。


「そこで僕がですねぇ!

 リッチの放つ炎の衝撃波の前に突っこんで、こう!

 必殺技を放ったんですよっ!

 スキル・エレメント・デタッチャー!」

「「「「おおおおぉぉ――――!」」」」

「……おそらくパルス・ファイヤ・ノバだな。

 集団で取り囲んだ兵士が壊滅に追い込まれる事がある上級魔法だ」


「そして炎の輪をこのミスリルソードで吸収!

 5連続です!

 シュバッ! シュバッ! シュバッ! シュバッ! シュバッ!

 そして逆にリッチに飛び掛かって炎をまとったミスリルソードで斬りつける!

 パーティーメンバーも僕の攻撃に合わせて一斉攻撃!

 そしてリッチの無敵オーラを貫通し!

 リッチは燃え上がったんです!

 でもあんま効いてない!」

「リッチは魔法耐性がくそ高いらしいからなぁ」


 隣の机ではミツールの自慢話にうんざりしながらダイヤがピーネに尋ねた。


「そういえばルーサーさんが居ないけど、どこいったの?

 知ってる?

 エリック」

「たけのこ村に帰るって言ってましたよ。

 クロリィお婆ちゃんを送るって。

 ナオミさんとも一緒に牛車でさっき町を出ました」


 ダイヤは机に手を置いて立ち上がった。


「よし!

 じゃぁ私達もたけのこ村に行こう!」


 ***


 たけのこ村にある古風なかやぶき屋根の大きな家、カエデちゃんの家にて。

 村のお婆さん達もあつまり、俺とクロリィちゃんを中心に勝利を祝う宴が開かれていた。

 俺の隣ではナオミがお酌をしている。


「いやぁ、本当にクロリィちゃんが居なかったらドーラの町は壊滅してたぜ。

 ほんと、今回はクロリィちゃんがMVP。

 ドーラの英雄だよ」

「ひゃひゃひゃ。

 よしてくれやい、ルーサーさん。

 照れくさいよ。

 じゃがルーサーさんの護衛が無ければわしもニールのインフェクテッド・ウルフに食い殺されて町まで辿り着けなかったじゃろう。

 ルーサーさんこそ、英雄だよ」


「おいおい、俺に英雄を押し付けるなよ」

「「「はははははは」」」


 その時、外から誰かが戸を叩く音がなった。


 コンコン!


 カエデちゃんが玄関の方を向いて大声で尋ねる。


「誰だい!?」

「光輝の陣営を指揮しているサリー。

 あと連れが居ます」


 その場の皆が驚いて玄関に注目する。

 カエデちゃんは答えた。


「鍵はかかって無いよ!

 入りな!」

「それでは」


 戸を開いて入って来たのは勇者サリー、戦闘鬼神テンライ、辺境の魔導士キャロル、奇跡の聖女セレナの4人である。

 慌てておたゑちゃんとノーバちゃんを隅によって俺の前に場所を作り、ナオミが走って座布団を用意する。

 4人は並んで俺の方を向いて座布団に座った。


「久しぶりね。

 ルーサー。

 まずはいきなりパーティーを追放した事を謝らせて。

 ごめんなさい」

「おいおい、勇者サリーが謝るなんて明日は地震でも起こらなきゃいいが」


「表面的な戦闘力と浪費コストの弱点だけに囚われて、私には本質を見る目が無かった。

 まだまだ未熟だったわ。

 もしまだパーティーに戻る気があるんなら歓迎する」

「有難いが気持ちだけ受け取っておくよ。

 俺にはまた、やるべき事が出来た」


「伝説の英雄、異世界転移者を導く使命。

 そうね。

 それは貴方でなければ務まらない事かも知れない。

 それならばこれも宿命だったのかも知れないわね。

 ところで貴方の隣に座っている人が、ドーラを救ったネクロマンサー?」

「そうだ。

 既に求道者の域に達している、グランドマスタ―・ネクロマンサーのクロリィちゃんだ」

「どっ、どうもでしゅ」


 勇者サリーは周囲のお婆さん達とクロリィちゃんを見回して口を開く。


「これほどの力を持つ人間が、いや、お婆さん達がこんな山奥に隠れ住んでいたなんて。

 驚いたわ」


 テンライもキャロルも驚いた表情である。


「ネクロマンサーだけではない。

 かなりの気と格闘の使い手も居る」

「普通にあたしに近い魔力もってるお婆さんが居るんですけど……」


 勇者サリーは続ける。


「聞いていると思うけど、レッドホーンの最前線で私達が対峙した魔王軍の戦力は私の想像を超えていた。

 戦えば敗北は確定していたし、私達が敗北すればこの世界は魔王軍の手に渡る、そのギリギリの瀬戸際にあった。

 魔王軍が撤退した理由は明確にはなっていないけれど、貴方とクロリィお婆さん、そして異世界転移者達がニール率いる1万のアンデッドを退けたからだと私は思っている。

 魔王軍は得体の知れない戦力に恐れをなしたのよ」

「そうかもな。

 以前俺が言った事があるだろう。

 軍隊において秘密(シークレット)(パワー)だって。

 実際はドーラでもギリギリの戦いで辛うじて勝ったが、それで秘密(シークレット)を守り切ったんだ」


「えぇ。

 ありがとう、ルーサー。

 貴方は世界を救ったわ」

「いや、お前達、勇者サリーの一行が居たからこそ最前線が維持出来たんだ。

 それに俺が仲間に加わった時の事もな。

 貸し借りは抜きだ。

 元パーティーの仲間同士じゃねぇか」


 コンコン!


 再び外から戸が叩かれ、カエデが声を掛ける。


「今度は誰だぃ?」

「異世界転移者のミツールですよ!

 後、仲間達です!」


「入りな!」


 入って来たのはミツール、サーキ、エリック、ダイヤ、フィリップ、ココナ、カルーノである。

 ナオミも大忙しで座布団を準備する。

 いつの間にか俺の前後左右はサーキ、ダイヤ、ココナ、ナオミに取り囲まれていた。

 俺はため息をつきながらもミツールとサーキに言った。


「ミツール、サーキ。

 お前達の先輩だ。

 こちらが勇者サリー、戦闘鬼神テンライ、辺境の魔導士キャロル、奇跡の聖女セレナ。

 普通の一般人ならこうして近くに寄る事すら許されない英雄達だ。

 ちゃんと敬意をもって接するんだぞ?

 勇者サリー様、こいつが異世界転移者のミツール、そしてサーキです。

 ほら、スタンダップ!

 ちゃんと礼をしろ!」

「ど、どうも」

四露死苦(よろしく)ぅ!」


 勇者サリーはミツールとサーキを見ると、驚きの表情で俺の方を見返す。


「えっ……と、この二人が伝説の異世界転移者?」

「そうです、勇者サリー様。

 短期間ですが、剣聖ブラーディ様のご指導を受けたとはいえ、まだまだ未熟者です」


 勇者パーティーのメンバーはしばらく驚きの表情で沈黙していたが、サリーが俺の方を見ながらポツリと言った。


「……さすがね。

 大したものだわ。

 私の想像を超えている」


 その真意をくみ取れないミツールは純粋に褒められたと思って得意げにニヤついている。


「ま、ルーサーさんの作戦が決め手になったとはいえ、今回の奇跡の大勝利は僕の力が大きく貢献したことは間違いない。

 そうですよね?

 ルーサーさん。

 見ててください?

 この勢いにのって、いずれ僕達が大魔王アバドーンを倒してこの世界の光輝の陣営を勝利に導いて、異世界転移者の新たな伝説を作り上げて見せますよ!」

「「「「「……」」」」」


 まぁ若いから仕方がない面もあるが、これはまだまだ先が長そうだ。

 俺はミツールをたしなめた。


「ミツール。

 そしてサーキもだ。

 剣聖ブラーディ様の言葉を思い出せ。

 真実を見極めよ。

 幻想に惑わされてはいかんと言っておられたんだろ。

 今回のこの大勝利もまた、ただの結果に過ぎない。

 お前達は今回、何のために戦った?

 祝杯をあげて酒場でヒーローになる為か?」

「いや、そりゃぁ、もちろんドーラの町のみんなを守る為ですよ」


「そう、その通りだ。

 一つお前達に有難い昔話を教えてやる。

 それは何百年も前の、お前達と同じ異世界転移者カズーの物語だ。

 彼は魔王アバドーンの軍団を壊滅させ、アバドーンにも致命傷を負わせて退散させ、一度この世界を救ったんだ」

「アバドーンは一度異世界転移者にやられてたんですか!?」

「だから今回も過剰に警戒したのか」


 ミツールとサーキは座布団に座り、物語に耳を傾ける。


「異世界転移者カズーはこの世界に降臨後、お前と同じく伝説の英雄としてもてはやされた。

 彼の武力は一般人の中ではかなり強い部類だった。

 ミツール、お前と違ってな。

 人々もいずれ彼がレベルアップして光輝の陣営を勝利に導く勇者になると期待した。

 彼は正義感が強く、当時与えられた配下の兵を率いて魔王軍に襲われた町や村に何度も駆け付けて戦いを重ねた。

 だが月日が経つにつれて、彼の評判は落ちていく。

 強いと言ってもそれなりのレベル、知略が凄いわけでも優れた特別なスキルがある訳でもない。

 そして魔王軍との戦いも拮抗して平行線をたどるのみ。

 そのうち彼は年齢を重ね、30歳になり、40歳になり、50歳を越え力も普通の人間と同様に衰えていく。

 最初こそ彼を恐れていた魔王軍にも鼻で笑われてまともに相手にされなくなっていった」


 その場の人々は皆俺の話に聞き入る。

 もちろん、お婆さん連中の何人かと、勇者サリーはこの物語の結末を知っている。


「勇者カズーと初期にパーティーを結成したメンバーも体力の限界から次々に引退していき、代わりに若いメンバーでパーティーメンバーは入れ替えられていった。

 もちろん若いメンバーは伝説の勇者として彼を立ててはいた。

 だが勇者カズーと一緒に苦しみ、戦い、同じ時代を同じような年齢で過ごし、同じようなイベントを一緒に潜り抜けた初期パーティーとは違う。

 勇者カズーとはどこか心の壁があったし、いろいろなイベントで何度も経験した勇者カズーと若手パーティーメンバが情緒を分かち合うことは出来なくなっていった。

 パーティーメンバー達も遠慮がちに彼に最前線に立つ事を引退する事を勧めた。

 そして後続となる新たな勇者を指導する立場になるべきだとな。

 だが勇者カズーは拒否し、最前線で戦い続ける事にこだわり続けた。

 人々も、彼のパーティーメンバーもその内裏でヒソヒソと囁き合う。

 『彼は自分が伝説の異世界転移者でありながら何も大きな成果を出せなかった事を悔やんで、執着し続けているのだ』

 『さすがにここまでくれば老害だろ』

 『ここまでくると哀れだよ』」

「確かに」

「ミツール、おめぇも人の事いえねーかもしれねーぞ」


「だが勇者カズーに迷いはなかった。

 彼は勝利して称えられる事を求めていたんじゃない。

 彼は人々を助け、最前線で戦い続ける事そのものに喜びを感じていたんだ。

 その戦いを継続する日々に喜びを感じ、普通の人々が諦めてしまう勝てるわけの無い脅威に立ち向かい続ける事を恐れず、人々の評判など意に介す事も無い。

 それが彼の本質だった。

 そしてそれこそが彼に隠されたスキルの片鱗だったんだ」

「(ゴクリ……)」


「魔王アバドーンの居城に無謀にも兵を率いて突撃し、当然のごとく圧倒的戦力で包囲され、もはやそれは戦いというよりも魔王軍による弄びになり始めた時、勇者カズーは60歳の誕生日を迎えた。

 そして覚醒した。

 全てのステータスが極限まで上昇。

 剣の一振りで数百のタイタンを切断し、一蹴りで魔王軍の武闘派幹部を粉砕する。

 彼はその場で突如として魔王軍にとっての歩く大災害と化したんだ。

 集結していた魔王軍は壊滅、幹部も壊滅。

 魔王アバドーンも体を肉片にされ、首だけが川に流れて辛うじて生き延びる事となる。

 後に判明した勇者カズーのユニークスキルは『超大器晩成』。

 60歳までどれ程鍛え続けても何も身につかないが、60歳になった途端にその努力が何百倍にもなって適用されるという尖り過ぎたスキル。

 もしも彼が途中で諦めていたら、彼が普通の一般人と同じメンタルをしていたら決して最大威力を発揮することなく、覚醒にも気付かなかったであろうスキル。

 与えられるか分からない報酬を目当てに戦う者であれば、分が悪すぎる賭けで絶望する者であれば決して使いこなせなかったであろうスキルだ。

 もし、彼がこの奇跡の大逆転勝利を得る事が出来なかったとしても、彼は最後の最後まで戦い続けただろう。

 結果は時の運、天の采配と言える。

 重要なのは日々の生き方だという事だ。

 それを貫き通すという事は普通の人には出来ない。

 勇者カズーは真の英雄だったという事だ」


 パチパチパチパチ……


 気付けば勇者サリーは拍手をしていた。


「さすがだわルーサー。

 異世界転移者のミツール、そしてサーキ。

 貴方達は素晴らしい師を得たわね。

 彼の言う事をよく聞いてこれからも励むのよ。

 そうすればいずれ、魔王アバドーン討伐という結果がついて来るかも知れない。

 ま、私達もそれは別の場所で目指し続けるけどね」

「よーし、じゃぁ競争だな!」

「お、おい、サーキ」


 寡黙だったテンライが口を開く。


「お前達も精進するのだぞ。

 今回の勝利に浮かれることなく、気を引き締めていけ」


 俺は締めに入る。


「そうだ。

 俺達の戦いは、これからなんだからな!」

「「「「「おう!」」」」」


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