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魔法銃士ルーサー、最後の対決の場へと急行する

 俺はカルーノと協力してスーパーアンデッドのドローラを本陣の方へと誘導していた。

 ミツール達が作戦通りに持ちこたえてくれている事を期待、いや信じるしか道はない。


(スキル・幽霊の行列ゴースト・プロセッション


「おおっと!」


 再び幽霊集団が行列になって俺の方へと飛んで来る。

 ミツールの心配以前に、こっちも全く気が抜けねぇ。

 石に躓いて一発貰ったら終わりだからな。


「ルーサー殿! あれを!」

「ん?」


 カルーノが森の向こう、中央道の上空を指さしている。

 そこには激しい火災旋風のようなものが上空高く巻き上がっていた。


「ニールか、もしくはもう一体のスーパーアンデッドとミツールパーティの者が戦っているのではござらんか?

 だがどう見てもあの魔法の威力、彼らが立ち向かえるキャパを越えているように見えるが」

「……ニールじゃない。

 ネクロマンシーにあんな攻撃魔法は無い。

 インフェクテッドウルフも魔法など使えるとは思えねぇ。

 奴がファゴスと呼んでいたもう一体のスーパーアンデッドも、俺のカンでは肉弾戦をする戦士タイプだ。

 キャスターじゃねぇ」


「我らの把握してない戦力が加わったという事か?」

「敵側にな。

 予定変更、このまま中央道へコイツを誘導するぞ」


「あい分かった」


 俺はカルーノと協力してドローラを誘導しながら考えを巡らせる。

 あの火災旋風……キャロルが時々使っていた。

 たしか名前はプロミネンス・ストライク。

 グランドマスター・ウィザードでも唱えられる者は滅多に居ない。


「ルーサー殿! 今度は空から光が指している。

 光も中央道へ降りているぞ」

智天使の祝福ケルビム・ブレッシングだ。

 同時に4つまでの物理・魔法ダメージを無効化する最上位のバフ。

 さっきのプロミネンス・ストライクも合わせて考えれば超級の魔導士が居る。

 辺境の魔導士・キャロルに匹敵するレベルのな」


「ミツールパーティーの者達は持ちこたえられるでござるか?」

「キャロルクラスの魔導士にある程度の詠唱を許したら……それこそ混沌の稲妻旋風ケイオス・サンダーストームのような広範囲魔法とかを唱えられたらミツール達は壊滅する。

 智天使の祝福ケルビム・ブレッシングが効いてるんだ。

 自分自身はダメージを受けず、敵の攻撃も高確率で無効化してな。

 実際、キャロルは同じバフを付けてハイオーク・ブルートやミノタウロスの数十匹の群れに単身突っこんで壊滅させている」


「くそっ、では無理だと」

「いや、大魔法はその威力に比例して詠唱時間が長い。

 だから普通は魔導士は単独行動をせずに後衛として立ち回る。

 詠唱を妨害されたら只の的だからな。

 何とかしてそこを突ければ……」


 俺はドローラを誘導しつつも中央道側の観察を続けた。

 だが不意に遠く、中央道の方から激しい爆発音が響く。


 ドゴオォォ――ン!


「今の音! 何か大きな爆発が起こったようでござる!」

「ミツール達は今、必死で持ちこたえてるんだ」


「持ちこたえてると!?」

「さっきから俺でも感じるくらいの大規模な大地のマナと風のマナの流動があった。

 だがそれらは消え去った。

 恐らくミツール達が、詠唱妨害に成功してキャストを止めたんだ。

 今の爆発はここから見えない程度の規模、ランクを落とした魔法だ。

 きちんとフィリップさんがバフを掛けてエリックがヒールすればギリギリ耐える事が可能なレベル。

 だが危うい事に間違いは無い。

 急ぐぞ」


 ***


 ミツール達は必死でリッチ・ウオラの大魔法を詠唱妨害し続けていた。

 だが情勢は圧倒的に不利、すでに全員の防具は焦げ跡や裂けでボロボロである。


「ヒール・ウェイブ!」


 エリックが地面を這いながらパーティー回復を行い、何とか皆立ち上がる。

 だがリッチ・ウオラは片手を上げて人差し指を立て、容赦なく次の呪文を唱え始める。

 エリックは再び回復魔法の詠唱中。

 ダイヤは身を屈めてダメージ覚悟でリッチ・ウオラに近づきながらココナを見て叫んだ。


「ココナちゃんは軽装な分ダメージが重いわ!

 あいつがまたうつファイヤ・ノバに耐えられない!

 今回は下がってしのぐのよ!」

「はぁ……はぁ……、(ズテン)」


 片膝をついて立ち上がろうとしていたココナはよろめき、地面に倒れた。


「危ない! フィリップさん、ココナちゃんに魔法防御のバフを!」

「我はイオータ、精霊界、不帰の谷の守護者なり。

 不帰の谷の妖精……だ、駄目です、間に合いません!」


 リッチ・ウオラの腹部が赤く発光した。


「パルス・ファイヤ・ノバ!」


 リッチ・ウオラの腹部から炎の輪っかが現れ、拡大しながら周囲に拡散する。

 それも一回ではなく、5回連続である。

 パルス・ファイヤ・ノバは上級魔法であり、パーティー壊滅級のダメージは無いが、少し前にうたれた際は皆がダメージを受けながらポーションを飲んでなんとか切り抜けたのである。

 今のココナにはこれを回避する力も、耐え切る生命力も残っていなかった。

 炎の輪は拡大しながらココナに迫る。


「スキル・エレメント・デタッチャー!」


 シュバァァァ!


 ココナの前に走り出たミツールが、迫りくる炎の輪をミスリルソードで切り裂いた。

 ミツールの周囲1メートル分程の炎がミスリルソードに吸収され、代わりに刀身に炎のオーラが宿る。


「うぉぉおおぉ――!」


 シュバァァァ!

 シュバァァァ!

 シュバァァァ!

 シュバァァァ!


 一瞬の間に5回、ミスリルソードを切り返して5連続で炎を吸収する。

 そして剣を振り上げながらリッチ・ウオラに向かって跳躍した。

 それを見てダイヤは燃える衣類や髪の毛に構わず、突進してウオラに突きを放つ。

 せっかく新調した新しい制服が燃えて半裸になりながら、サーキも駆け寄って木刀を振りかぶる。

 ピーネも状況を察し、2本の矢を一気に弓につがえた。


「くらえ――っ!」

「スキル・シャドウスパイク!」

「おらぁ!」

「スキル・ツイステッド・ツイン・アロウ!」


 キンキンキンキン

 ズバァッ! ボワァァァ……


 ダイヤとサーキとピーネの攻撃で智天使の祝福ケルビム・ブレッシングを貫通。

 ミツールの炎を宿したミスリルソードがリッチ・ウオラの背を切り裂き、ウオラの体は燃え上がる炎に包まれた。


「やった!」

「気を抜かないで下さい!

 アンデッドは炎に弱いですが、元々リッチは魔法耐性が高い!

 今回程度の炎では20発当てようとも倒れません!」

「ヒール・ウェイブ!

 ……はぁ、はぁ。

 ミツール殿、私はポーションを使い切りました」

「私もです」

「私も」


 エリックは呼吸を荒げながら呟いた。


「こんなの……無理なんでは……」


 エリックだけではなく、それはその場の誰もが内心感じていた事であった。

 だがミツールはリッチ・ウオラの至近距離でミスリルソードを構え、しっかりと見据えている。


「真実を見極めよ!

 それが剣聖ブラーディ様の教え。

 今、僕達が絶対に勝てそうにないと思ってたなら、それは幻想だ!

 今、追い詰められつつあるのはコイツとニール達だ!

 僕達は耐え切ればいい!

 そうすれば勝利がその先にある!

 絶望的?

 恐ろしい?

 圧倒的に不利?

 そんな事は……」


 リッチ・ウオラは初めて、じりじりと後退してミツールから距離を取り始めた。

 ミツールはゆっくりと歩いてリッチ・ウオラを追った。

 ウオラは後ずさりながら両手を胸の前に上げて上級魔法を詠唱する。

 

「サンダー・ウェイブ!」

「スキル・エレメント・デタッチャー!」


 ウオラの両手から放たれた激しい電撃を、ミツールはミスリルソードに吸収する。

 そして切り替えしの斬撃を放つ。


 シュゥンッ

 バリバリバリバリバリ


 ウオラを守っていた光のオーラが消滅した。

 智天使の祝福ケルビム・ブレッシングの効果時間切れである。

 直後にミツールの斬撃と刀身の電撃を胸に受け、一瞬ウオラは身を硬直させる。


「ぐぉぉぉ……」


 それを見てフィリップが叫んだ。


「チャンスです! 一斉に……」


 ミツールがその言葉をかき消す。


「エリック、全員にヒールを!

 フィリップさん、皆に可能な限りのバフを!

 ピーネさん、ワイバーンが置いていった荷物からポーション類を取ってきて皆に配って!

 ダイヤ、サーキ、ココナさんは僕と一緒に取り囲んでコイツの詠唱を全て止め続ける!

 コイツをここで倒しきるのは真の活路じゃない!

 僕達に勝利を運んで来るのはルーサーさんです!」

「し、しかし、うかうかしてたらスーパーアンデッドやニールやインフェクテッド・ウルフが来てしまいますよ?」

「どう考えても不利になるわよ?」


「絶望的とか、圧倒的に不利とか、恐ろしいとか……そんな事はもう慣れた。

 それに怯えていたら、その中にある勝利への真実の道を見る事が出来なくなる!」


 ミツールは論理や思考を超えた、剣聖ブラーディも持っている新たな感覚を身に付け始めていた。

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