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魔法銃士ルーサー、ニール本陣に威力偵察を行う

 俺は自分が目にした敵の情報を皆に伝えた後、近場にあった木の幹にもたれ掛かりながら座り、息を整える。

 腹に受けた傷はエリックのヒールのお陰で治癒済みである。

 ミツールは既に森に分け入ってパープル・マウンテン・アップルの実を探しに行っている。

 塔の上ではダイヤとフィリップさんが慎重に周囲を監視し続けている中、サーキが俺に尋ねた。


「ルーサーさん、このままワイバーンとミツールが荷物を持ってくるまで待つんすか?」

「いや、こうしている間にもニール達は動いている。

 恐らくニールとスーパーアンデッドの肉達磨がピーネを倒した後、森の南の道を通って俺達の本陣に向かっているはずだ。

 そして本来ならばインフェクテッド・ウルフを先行させて俺達の背後を取るのがベストだが小川を越えられないからな。

 ウルフは森の中央道の奥を見張らせているだろう。

 自陣の穴を警戒して防ぐためと、俺達を前後から挟み撃ちにするか、撤退の時の陽動に使う為だ」


「すげぇなルーサーさん。

 まるで森の木々の向こうの敵の動きが全部透けて見えているかのように断言しちゃうんすね。

 しかも今の状況だけじゃなくもっと先の未来の動きまで」

「ニールはミツールと違って馬鹿じゃないからな。

 戦場で最適の行動を取る。

 俺からしてみれば逆に読みやすい」


 サーキは木刀でポンポンと自分の肩を叩きながら周囲を警戒しながら続ける。


「で、どうするんすか?」

「よし、息は整った。

 サーキ、二人で敵の本陣に突っこむぞ」


「え!? マジすか? 行っちゃうの!? でも何で? 荷物届いてないっすよ?」

「ある程度敵の姿を俺達は掴み始めている。

 だがまだ明らかではない部分がある。

 ニールは自分を中心として手下を周囲に侍らせるのではなく、明らかにこの森の奥を守るために3つの小道に手下を分けて配置した。

 つまり守るべき何かが奥にあると言う事だ。

 戦場では常にこういった謎と闇と影が渦巻いているが、勇気と時には蛮勇を持ってそれを明らかにしなければならない。

 それが威力偵察って奴だ」


「何かよく分からねーけど、ルーサーさんが言うって事はその価値と勝算があるって事だな!

 よ、よし、行ってやらぁ!」

「ダイヤ! フィリップさん! 塔の中のココナの事を頼む。

 ニールは恐らく裏回りしてここを目指すだろうがフィリップさんのオーブ・ジェクトルに阻まれて歩みは遅れる!

 俺とサーキは奴らがここへ来る前に戻って来るからな!」

「分かりました!」

「了解です!」


「エリック、ここでワイバーンの到着を待っていてくれ。

 あと、ピーネが戻ってきたらここであった事や作戦も全部忘れている可能性が高い。

 その時は説明してやってくれ。

 あ、囮にしてココナを救出した事は内密ににな」

「それは構いませんが……分かりました。

 必ずルーサーさんとサーキさんが戻って来る事を信じています!」


「行くぞ! サーキ!」

「おう!」


 俺は走って小川を越え、森の奥へと続く道を走る。

 サーキも木刀片手にその後に続いた。


 ***


 森の小道を走りながら作戦をサーキに伝える。


「いいか、もしインフェクテッド・ウルフに出会ったら二手に分かれて挟み撃ちにする。

 ウルフを中心に俺が北側、サーキが南側だ。

 位置取りが重要だ決して間違えるな?」

「分かったよ!」


「もしウルフがお前を狙えば素早く伏せろ、俺を狙ったら素早くウルフのケツをぶっ叩け!」

「あいよ!」


 俺達はしばらく走り続けた。

 もうすぐ森の奥の三又に到達、だがその前に予想通り奴は居た。

 こちらに気付き、身を低くして唸り声を上げる。


「行くぞ!」

「おらぁっ! かかって来いやぁ!」


 ―――――― 森の奥三又 ―――――――


 ww_____死死死死____陣陣___

 _木_w____死死______陣陣陣陣

 木_w木木木______________

 __木___w____________死

 木_木_木木ル_______死死死_死死

 _木_木w__________死死死死_

 木_木w___狼狼___________

 _木w木____狼狼__w木_____死

 w木_______狼_w木w______

 木w_______サw___木w____

 _________w木_木_木w____

 ________w木_木___木木w__

 ______w木_木__木_木__木w_


 木:森の木々

 w:草

 陣:地面に動物の血で描かれた巨大な魔法陣の一端が見える。

 死:ニール本陣を守るアンデッド達。オークスケルトンやオークゾンビ、ケンタウロスオークの集団だ。

 サ:緑の涎を垂らすインフェクテッド・ウルフの口から距離1メートルで睨み合いながら地面に伏せるサーキ。本当にこの娘は肝が据わっている。

 ル:インフェクテッド・ウルフの背後に回るルーサー。既に2丁の魔法銃には風属性弾(ウィンド・シェル)がセットされている。

 狼:サーキを睨みつけて頭を下げながら口を開くインフェクテッド・ウルフ。ワンアクション挟まなければ噛みつき攻撃がサーキに届かない、絶妙な位置だ。


 ――――――――――――――――――――


 俺はケツを向けているインフェクテッド・ウルフの方へ走り、その股の下に滑り込んだ。


 ズザァァァ――――!


「スキル・シルフ小隊の突撃アサルト・オブ・ザ・シルフ・プラトゥーン!」


 ビュオォォォ――!


 高速連射される風属性弾(ウィンド・シェル)が周囲の風を集め、腹の下からインフェクテッド・ウルフを空中に吹き飛ばす。

 ウルフは体をくねらせながら空中に吹っ飛んで打ち上がり、遠くに飛ばされていった。


「すげぇ! あの犬コロどこに行ったんすか!?」

「森の南側の小道、小川を渡り切らない範囲の限界まで遠くに飛ばした。

 恐らくこれで1、2分の時間は稼いだ!

 進むぞ!」


「い、1、2分……シビアっすねぇ」


 5、6匹のオークスケルトンが迎撃に出てくるが横からすり抜ける。


「相手にしている暇はない!

 下っ端は無視しろ!」

「おっと、こいつら生きたオーク兵より薄ノロっすねぇ」


「数で戦うモンスターだからな。

 だがブラーディ様の訓練を受けていたお陰でお前の技術も上がっているからだ。

 この世界へ来たばかりのお前なら負傷する危険性もあったろう」


 俺とサーキは開けた空間のさらに奥へと突き進む。

 その中央には簡易の祭壇が作られ、動物の血で作られた魔法陣があった。

 中央から直径半径20メートル程の空間を開け、周囲を取り囲むように待機しているオークスケルトンやオークゾンビ、ケンタウロスオークが俺達に注目する。

 だが俺とサーキはそのまま走って祭壇へと近づく。


「ん?」


 祭壇の奥に人間が居る。

 腰が抜けたかのように地面に尻もちをついた状態で、後ろへ下がろうともがいている。

 その顔とビール腹には見覚えがあった。


「お前は、ミルトン王国の元国王のウオラ!」

「ああぁ――っ! てんめぇあの時の事は忘れてねぇからな!」

「ルーサーっ! ひぃぃぃっ! 撃たないでくれぇ! 殺さないでくれぇ!」


 周囲のアンデッド達はゆっくりと俺とサーキを迎撃に動き始める。

 だがそれを待たずに俺はウオラに走り寄り、胸倉を掴み上げた。


「状況が何となくわかったぞこの野郎!

 ニールと一緒に進軍していた太った男と言うのはお前だったか!

 お前の逆恨みでどれほどの人間が死んだか!」

「許して下さい! お願いします。この通り!」

「ルーサーさん! 時間が無い周囲のアンデッド共がウチらを包囲し始めてる!」


 ケンタウロスゾンビ共が放つ矢を俺は回避し、サーキは木刀で叩き落とす。

 だがオークスケルトン達は武器を手にじりじりと全周から距離を詰めてくる。

 これ以上は限界だ。

 俺はウオラを地面に突き飛ばし、サーキと一緒に後退しながら指を指して言った。


「ニールを倒してこの件が片付けば、お前はその罪に相応な裁きを受ける事になる!

 覚悟しておけ!

 そしてそれまでそこで一人で震えてろ!」

「ひぃぃっ!」


 俺は背後に迫っていたオークゾンビ3匹を魔法銃で始末し、サーキと一緒に走って離脱した。


 ***


 命乞いして拝み倒しながらルーサーを見送ったウオラは、しばらくの間両手を地面について項垂れていた。

 その手は恐怖ではなく、怒りでガクガクプルプルと震えている。


「おのれルーサーめ!

 この私にこのような無様な真似をさせおって!

 私は王だぞ!

 100万の人間の頂点に君臨し、全てを統べる王だ!

 あのような若造如きに膝を屈して許しを請うなど、そんな事があってはならぬ!

 ルーサー!

 ルーサァァァ――!

 収まらぬ、どうにも私の怒りは収まらぬ!

 若造め! 身の程という物を思い知らさせてやる!

 貴様など只一人の兵士に過ぎん、王とは格が違うのだぁ!」


 ウオラは上半身を上げた。

 そしてニールから受け取った小瓶をポケットから取り出し、血走った目で凝視する。


「殺してやる! ルーサァァァ――!」


 キュポンッ ゴクッゴクッゴクッ

 シュオォォォ――!

 キョアァァァァァ――! アゴアァ――!


 ウオラの体から白い煙が噴出し始め、同時に複数のゴーストが叫び声を上げながら飛び出した。

 血走った目で小瓶の液体を飲み干すウオラの周囲をゴースト達がグルグルと飛び回り、最後はウオラの鼻や口に吸い込まれて体内に消えていく。


「ブッフゥゥウウウ――――」


 気付けばウオラの髪の毛は真っ白となっていた。

 何割かはパラパラと剥げ落ちて頭皮が見えている。

 皮膚は血色が消え、白く変わり、さらにやせ細って緑に変わる。

 体から脂肪が消えるように全身がやせ細り、目は窪んで人の顔の中にあるガイコツの形が浮き出てくる。

 手足の指が異常に伸び始め、爪がさらに長く伸びる。

 ウオラは立ち上がって右手の平を上に向けた。


 ボッ ボワァァァ!


 手の平から発生した火炎は一瞬で巨大化し、直径3メートル、高さ10メートル程の巨大な火柱を上げてから消える。

 犠牲となった複数のウィザードのゴーストを吸収して瞬間的に魔法の知識を得たウオラが先ほど放ったのはマジック・トーチ。

 本来は指の先に直径3センチほどの火球を出して松明の代わりに暗闇の中で灯りを得るだけの魔法である。

 リッチと化したウオラにとってはその程度の魔法ですら、ウィザードの放つ必殺の業火の魔法級の威力となるのだ。

 ちなみにフィリップの放つファイヤーボールのランクは業火の魔法の2階級下に位置する。


「フゥゥゥ――……、ルゥゥ……サァ……」


 もはやウオラを動かすのは憎悪と執念だけであった。

 ゆっくりと森の中へ歩いて進んでいく。

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