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魔法銃士ルーサー、ドローラの攻略を開始する

 ニールの放った人造魔獣、クロリィちゃんの言う所のスーパーアンデッドの一体、冥府の王キング・オブ・ハーデスドローラはついに俺とカルーノから距離、50メートル程の位置まで進み出た。

 戦いを繰り広げるスケルタルナイトやオークスケルトンの背後から、じっとこちらの様子を伺っている。

 体高が2メートル弱で人間っぽい上半身をしているが二回りはデカイ。

 よく見るとナーガのような蛇の尾だと思っていたのはどうも不気味に変形した人間の下半身だ。

 しかも全身のありとあらゆる場所に人面瘡が浮き出て、苦悶に満ちた顔があちこちで動いて見える。

 上半身は皮膚から突き出て変形、肥大化した肋骨が不気味なアーマーを形作っており、顔は白目を剥いた人間、頭部から無数のねじ曲がった角が生えている。

 その顔はどこかで見おぼえがある気がしたが、世の中には似た顔など沢山あるし気のせいだろう。

 俺は懐から5センチ程の大きさの、全身にルーン文字が小さく刻まれた人形を取り出すとカルーノに投げて渡した。

 カルーノは右腕で抱えていた岩を地面に落としてからそれを受け取る。


「カルーノ殿、それを片手に持ったまま俺の姿に重ね合わせるようにかざし続けていてくれ」

「分かったが、これは何だ?」


「さっき無人の錬金術師の店から貰って来たマジックアイテム、身代わり人形だ。

 対象が受けるダメージや魔法、呪いを身代わりとして受ける。

 使用者の視界内で、その人形と対象者の姿を常に重ね合わせておく必要がある。

 大丈夫、代金は後で払っておくつもりだ。

 俺がまず探りを入れる」

「任されよ。

 だが気を付けるのだぞ」


「頼んだぞカルーノ殿」


 俺はゆっくり歩き、カルーノから距離を取った。

 そしてデス・オーメンをドローラに向けて構えて、まずは一発、単発火力の高い技をぶち込む。


「スキル・エクスプロード・ショット!」


 爆発性の魔力を凝縮した弾丸は……ドローラに命中しなかった。

 代わりに不気味な声が辺り一帯のどことも特定出来ない場所から鳴り響く。


 (デボゥゥグゥゥ・スキルゥゥ……)


 弾丸は空中で姿を消し、代わりにドローラの頭の上に四角い石板を持ったインプが出現する。

 その石板に光る筆跡を残しながら何かが記述された。


 ――――――― インプの持つ石板 ――――――――


 回回回回回フィールドからの封印スキル回回回回回

 回 一、エクスプロード・ショット

 回 二、NULL

 回 三、NULL

 回 四、NULL

 回 五、NULL

 回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回


 ―――――――――――――――――――――――――


 俺は不気味に笑うドローラを注視し続けながらカルーノに尋ねる。


「カルーノ殿! その人形に何か変化はあったか!?」

「いや、何も変化はござらん!

 しかしなんだあのインプと石板は?」


「まさか!」


 俺は再びデス・オーメンをドローラに向けた。


「!」

「どうしたのだ!? ルーサー殿!」


 出来ない!

 スキル・エクスプロード・ショットが撃てない!


「どうやらあの石板に書かれたスキルを封印されたようだ!

 撃とうにも撃ち方が思い出せない。

 いや、それどころかそのスキルを得る為に行った修行の事すら思い出せない!」

「ルーサー殿のスキルが封印されてしまったというのか!?」


「俺のスキル?

 だが石板の記載はフィールドからの封印スキルとある。

 カルーノ殿、カルーノ殿はマセた子供が最初に覚えて遊ぶスキル、スモール・ストーン・スロウィングは使えるか?」

「筋肉魔法のロック・ブラストの下位スキルだな?

 もちろん使えるが、某が使えば人が死ぬ威力になるぞ」


 俺は地面に落ちていた小石を拾って構えた。


「スキル・スモール・ストーン・スロウィング」


 ドローラに向かってぶん投げる。

 が、結果は同じである。


 (デボゥゥグゥゥ・スキルゥゥ……)


 インプの持つ石板に光る筆跡を残して新たな記述が増える。


 ――――――― インプの持つ石板 ――――――――


 回回回回回フィールドからの封印スキル回回回回回

 回 一、エクスプロード・ショット

 回 二、スモール・ストーン・スロウィング

 回 三、NULL

 回 四、NULL

 回 五、NULL

 回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回


 ―――――――――――――――――――――――――


「カルーノ殿、カルーノ殿も同じスキルでドローラを攻撃して見てくれ」

「あい分かった。

 しばし身代わり人形の集中を解くから用心されよ」


 カルーノは身代わり人形を左脇に挟むとしゃがんで小石を拾った。

 そして構える。


「むぅっ!?

 何故だ!

 それがしがこんな低級スキルを使えないとは!?」

「やはりそうか。

 恐らくコイツの持つ付加属性の一つ、デボウグ・スキル。

 敵からスキル攻撃を受けた際にその効果を無効化し、この一帯からそのスキルの使用を禁止させるんだ。

 最後の奥の手の必殺の一撃をもし撃っていたらヤバかったぜ。

 だがみたところ禁止できるのは最大5個。

 それが分かれば攻略は容易い」


 俺はデス・オーメンをホルスターに収めた。


「スキル・ハナクソ・ストライク!

 スキル・ロングレンジ・握りっ屁(カップ・ア・ファート)

 スキル・唾飛ばし(スピット)!」


 (デ・デ・デ・デボゥゥグゥゥ・スキルゥゥ……ルゥゥ……ルゥ……)


 ――――――― インプの持つ石板 ――――――――


 回回回回回フィールドからの封印スキル回回回回回

 回 一、エクスプロード・ショット

 回 二、スモール・ストーン・スロウィング

 回 三、ハナクソ・ストライク

 回 四、ロングレンジ・握りっ屁(カップ・ア・ファート)

 回 五、唾飛ばし(スピット)

 回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回


 ―――――――――――――――――――――――――


「よし、この付加属性は封じたぞ!」

「流石はルーサー殿!」


「再度攻撃する。

 カルーノ殿、身代わり人形を頼む」

「心得た!」


 俺は再びデス・オーメンを抜きドローラに向けて構えた。

 そして今度はそのまま引き金を引き、素撃ちする。


 ドゴォォ――ン!

 ゴヒュゥゥゥ!


 ドローラは弾丸を肩に受けてのけ反った。

 だがすぐに体勢を元に戻し、全身が半透明化する。

 フェイズ・シフトが発動したのだろう。

 だがデス・オーメンは通常の魔法弾(マジック・シェル)で素撃ちすれば死属性の弾丸を放つ。

 この状態でも何らかの打撃を与えるはずだ。

 俺は再び銃を構えた。


「待たれよっ! ルーサー殿!」

「どうした!?」


 振り向くとカルーノは身代わり人形を俺に掲げて見せた。


 地面から幾つもの長い霊体の腕が伸び、身代わり人形を四方八方からつかんでがんじがらめにしている。

 カルーノ殿が踏ん張って人形を動かそうにも、微動だにしない。

 そしてよく見ると身代わり人形がみるみる紫に染まっていき、ついには手足がボトボトと腐り落ちた。

 人形が完全にバラバラになると、霊体の腕は手を離して地面へと潜り込んで消えていく。

 地面に転がった人形の破片は全てクズグズと気泡を上げながら液体化して溶けて広がる。


「危なかった。

 何らかのカウンター系の属性が発動したな」

「恐らく攻撃へのカウンターは金縛りにしてから腐食性の猛毒を浴びせる効果でござる!

 だがこれほど即効性の強力な猛毒はそれがしは初めて見た。

 人が食らえば即死と考えてもよかろう!

 ルーサー殿!

 注意されよ!」


 慌ててドローラの方を振り向くと、ドローラは俺に両手を向けて何かの術を発動しようとしていた。

 慌てて身構えようとするが、一瞬相手の方が速い。


(スキル・死者の手(ハンズ・オブ・デッド)!)


 ボロッ ガシッガシッガシッ


 俺の足元が若干崩れ、地面から現れた無数の冷たい手が俺の両足首を掴む。

 激しい怨念がこもっているのか、逃れようにも逃れられない。


(スキル・幽霊の行列ゴースト・プロセッション!)


 ドローラの両手から無数の霊体が出現し、行列を作って地面を滑る様に俺の方へと押し寄せる。

 普段なら走って回避可能なスピードだが今の俺は動けない。


「ルーサー殿!

 ゴースト系の術は心身に大ダメージを与える上に厄介なデバフが付与される事が多いでござる!

 今向かう故なんとか耐えられよっ!」


 俺は片手でカルーノを制して留まらせ、懐からリングを取り出した。

 そして押し寄せるゴーストが目前に迫った瞬間に指にはめる。


 ビュオンッ!


 俺は離れた場所にテレポートした。

 通常、テレポートは魔法使いの専用技。

 だが、特定の魔法はアイテムにチャージする事が可能であり、このリングにはテレポートがチャージされている。

 チャージアイテムは非常に便利だが超高級品。

 それを作って商売する事を目標に魔法使いを目指す者すら存在するほどだ。


 俺に命中せずに突き進んだゴーストの行列は森の木々に突入していった。

 触れた木や草はみるみる枯れてしおれ、ついには腐り落ちる。


「やれやれ。

 やりづらい相手だ」



 

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