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魔法銃士ルーサー、異世界転移者を説教する

 チュンチュン……


 格子戸のある窓からの明るい陽射しに顔を照らされ、俺は布団の中で目覚めた。

 もう朝らしい。

 ふと横を見ると衝立ついたての向こうの布団はもう片付けられており、おたゑちゃんの姿は無い。

 俺は眠け眼をこすりながら起き上がり、居間へと向かった。


「ホファヒョウ(おはよう)、フーファーファン(ルーサーさん)。

 ヒョウホフノフンヒハヒヘホヘ(朝食の準備は出来てるよぅ)」


 今の中央のちゃぶ台にはご飯、みそ汁、漬物に海苔、そして焼いた魚の切り身が並んでいた。


「おぉぅ旨そうじゃねぇか。しかし悪いな、居候の俺にこんな料理まで出してもらって。

 俺ももうちょっと早く起きて気付いていたら手伝ったんだが」

「フィフィハンホハハヒヘホレ(ミミちゃんも手伝ってくれるから大丈夫だよ)。

 フィフィハン、フーハーハヘヒヘホ(ルーサーさんにお茶を入れて上げておくれ)」


 リスザルのミミちゃんが急須を持って現れ、俺の湯飲みにお茶を注いだ。


「キキッ」

「おう、悪いな。

 それじゃぁ、おたゑちゃんとミミちゃんが作ってくれた朝食、頂くとするか」


 俺は茶碗をもって箸で漬物をつまみ、鼻先に近づける。


「いい香りだ、これは何か酒のような香ばしい香りがするな」

「ファーファフヘヒヘ(ナーラー漬けと言うんだよ。酒粕を使ってるからそういう香りがするねぇ)」


 コリッ、パキッ


 旨い。

 そして白米を箸でかき込む。

 まさにご飯が進む漬物だ。


「んっ、この漬物何かカットしてあるな」


 次々と漬物とごはんを食べていた俺は手を止める。

 箸の間にはハート型にカットされたナーラー漬けがあった。


「ハファフィハフェ(当たりだねぇ。照れくさいよ早く食べとくれ)」

「おぉっ当たりか! 今日はついてるぜ。

 旨い、魚も旨いな。

 それよりおたゑちゃん、今日は何をする予定なんだい?

 俺が手伝える事があれば何でも言ってくれ」


「ホウハホットホヘハホヘハ……(今日はドーラの町に買い出しに行こうと思ってたんだよぅ。

 味噌も塩も、乾物のストックも少なくなってきたからねぇ。

 ルーサーさんも一緒に来るかぃ?)」

「よし、じゃぁ俺も行くぜ。

 ここんとこ立て続けに魔獣が出てる、絶対に安全とは言えないからな。

 護衛は必要だろう」


 ***


 俺は食事を終えた後、おたゑちゃんと一緒にドーラの町に来ていた。

 おたゑちゃんは知り合いが多いのか、町中を少し歩いては出会った人々と話し込む。

 魚屋の主人と談笑を続けるおたゑちゃんを見ながら俺は考える。

 ずっと世話になり続ける訳にもいかない。

 俺も何か金を稼ぐ手段、食い扶持を見つけなければならないな。

 一人の男として。

 だが俺に出来る事……魔獣退治か?

 弾丸が有ればできるが、正直言って赤字だろう。

 魔獣を倒して得る報奨金や素材と、俺が消費する魔法弾マジックシェルの値段が釣り合わない。

 国家的な支援のある勇者パーティーに居たからやれてたが、ソロじゃ無理、俺のような魔法銃士がこの世界に少ない理由だ。


「あんた、あんたルーサーさんだろ?」

「ん?」


 ぼぅっと考え事をしていた俺に、横から若い兵士が話しかけてきた。


「お、おぅ。あんま大きな声で呼ばないでくれ。

 俺も色々気まずい事情があるからよ」

「すいません、気を付けます。

 で、ルーサーさん、伝説の勇者パーティーメンバーだったルーサーさんと見込んでお願いしたいことが有るんです」

「『だった』な……。お前も分かってるじゃねぇか」


「実は異世界から転移してきたという少年がこの町に現れまして、その対応に苦慮しているんですよ」

「異世界から転移? なんだそれは?」


「どうも数百年に一度あるらしいんです。

 異世界、つまりこの世界ではなく別の次元から神の加護を得て現れる者。

 例外なく勇者レベルか、それ以上の実力を持っているそうです。

 魔王討伐を行った事も何度も有るとか。

 で、その……例外なく性格に問題があるそうで、今回も……」

「俺に何しろって言うんだ」


「彼は転移者とは言ってもこの世界の事を何も知りません。

 潜在能力は極めて高いはずだそうですが、戦闘技術も魔法もまだ身に着けておりません。

 なので彼を教育して頂きたいのです。

 我々兵士達も、上官たちや司令官たちもみんな委縮してしまって、まともに対応出来そうな人がいないかと言う話になってそれで……。

 報酬は払います。

 ルーサーさんもお金には困っているでしょう?」

「くっ。

 仕方が無い、これも何かの縁だ。

 おたゑちゃん、悪い、ちょっと用事が出来た。

 ちょっと兵舎の方に寄って来るよ」

「ハンハッヘフェ(頑張ってねぇ)」


 俺は兵士に連れられ、兵舎へと向かった。


 ***


 俺は兵舎の奥、食堂に通され、丸い机の奥でコップに入ったジュースを飲む少年の前へ案内された。

 少年は見たことも無い服装をしており、不思議な染め物のデザインのされた服を着ている。

 見たことも無い素材だ。

 そして腕も足もまるで筋肉の存在が感じられない、若干デブで幼い顔の少年だ。


「で、異世界からの転移者というのはお前か?」


 俺は少年の隣に座る。


「はい、彼が転移者のミツールさんです」

「どうも、よろしく。ミツールです」

「俺は魔法銃士のルーサーだ。よろしく。

 で、年は?」


「23歳」

「えっ?」

「えっ?」


「何か?」

「いっ、いえ、さすが転移者殿ともなれば若々しく見える」

「で、俺はこのミツールが魔王を倒せる戦力になるように育てれば良いのか。

 だがその前に本人の意思はどうなんだ?」


「ミツールさん、魔王を倒して頂けますよね?

 そうおっしゃいましたよね?」

「えぇ、まぁ。

 でももうちょっと若くて色っぽいお姉ちゃんに教わりたかったなぁ。

 はぁぁ……なんかハズレ引いちまった」

「ミツールよ、お前は武器は何を使うんだ?」


「何がカッコイイかなぁ。

 やっぱ主人公なら剣でしょ。

 両手剣?」

「両手剣……うーん。ゴルムス兵長とかならば両手剣の達人なんですが、今最前線のメイウィルドに居ますしねぇ」

「まだ素人なんだろう?

 問題ない、俺が教えてやるよ。

 俺は今は魔法銃マジック・ピストルを使ってるが新人時代は他の人達同様に剣を使ってたからな」


「それは有難い! ルーサーさん、よろしくお願いします。

 ミツールさん、これからしばらくはこのルーサーさんが君の教師だからね」

「……チッ」

「……」


 ミツールは不満そうに舌打ちし、その場の空気がしばらく冷え込んだ。

 無言の時間が続き、視線を前にそらしたまま沈黙していたミツールがふんぞり返りながら大声を上げた。


「おいっ! ルーサー!

 雑魚の分際で偉そうにするなよっ!

 俺のグラスにジュースを注げ!」


 パァァ――――ン!


 俺の平手が素早く飛び、ミツールにビンタをかます。


「る、ルーサーさん、二人とも落ち着いて!」

「ひっ、ひぃぃぃぃ」

「調子に乗るなよ? 小僧。

 それは自分の『師』となる者に対する態度では無いぞ?

 お前の世界ではそんなことも教わらなかったか?

 どうなんだ?」


「なっ、殴らないで、ご、ごめんよぉ」

「いいか、俺は別にちゃんと敬語を使えとか、そんな表面だけの煩わしい事はどうこう言わねぇ。

 だがお前のハートが魔王に立ち向かう光輝の陣営にふさわしく無いと感じれば容赦なく指導する。

 まぁ今日は日曜日だし、世界的に休日だしな。

 只の顔合わせだからこのくらいにしておこう。お前も休日を堪能しろ。

 俺も土日問わず修行しろというほど鬼じゃない。

 それじゃぁ、明日の月曜日、またここで会おう」

ようやくデスマーチが終わり、一か月連続土曜無し、3週間連続日曜無しというあり得ない状況は過ぎ去りました。

が、この先まだ不透明……。

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