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魔法銃士ルーサー、ニールの手下に探りを入れる

 俺はミツール達やココナ達と分かれ、森へと続く道の北側をカルーノと一緒に進んだ。

 もちろん先陣を切るのはクロリィちゃんの使役する5人組のスケルタルナイト。

 リスクのある先鋒を彼らが務めてくれるくれるならそれに越したことはない。

 木々の間の小道を進んでいるとカルーノは途中で足を止め、少し森に踏み込んだ場所に転がっていた1メートル四方は有りそうな巨石へと駆け寄った。


「どうした、何かあったのかカルーノ殿?」

「戦闘はいつ始まるか分からんでござるからな。

 戦闘用筋肉魔法の事前詠唱(プレキャスト)をさせて下され」


 カルーノは巨石の前に立ち止まると片手を振り上げ、チョップを放った。


「フンッ!」


 ボゴァ……。


 真っ二つに割れた石を一つずつ両脇に抱えて道に戻る。


「ずっと思ってたんだが、あんな巨石、そこらのベテラン剣士でも叩き切れ無いし、ポールアクスやウォーハンマーを使う大男でも真っ二つに出来る奴は少ないだろう。

 ひょっとしてカルーノ殿はそのまま敵をチョップした方が強かったりするんじゃないか?」


 カルーノは割れた石を両脇に抱えたまま再び進み始め、前方に注意を払いながら答える。


「筋肉魔法には筋肉魔法の成り立った歴史というものがあるのだ。

 ドワーフ族が歴史上戦ってきた敵には灼熱の炎を全身から噴出し続けるサラマンダー、猛毒の霧を噴射するドレッド・ポイズン・アナコンダ、死に際に大爆発して攻撃者を道連れにするニトロ・ロック・フェイスのような直接ぶっ叩くのが厳しい相手が数多くあった。

 多くのドワーフ族の戦士は気性の荒さと猪突猛進な性格故に犠牲となった。

 だが、ドワーフ種族の特性としてマナを蓄積して魔力を行使するのが苦手な上に、頑固で偏屈な者が多く、人間やエルフの助力を当てにできない。

 そんな中で編み出されたのが筋肉魔法だ。

 精霊使いが周囲の環境のマナを利用するように、筋肉魔法使いは周囲の環境を利用した遠隔攻撃を得意とする。

 ミスリル鉱山での糞尿ゴーレムとの戦闘でもそうだったであろう?

 近距離攻撃しか出来なければ手も足も出ない敵であった」


「確かにそうだが、カルーノ殿は直接攻撃してもそこらのドワーフの戦士より上だろう?

 俺は多くのドワーフの戦士を見て来たから分かる」

「弓使いや魔法使いを侮蔑しがちなドワーフ族の戦士達も、筋肉魔法使いには一目置く。

 それは並外れた筋力で遠隔攻撃を出来るからというだけでは無い。

 近接攻撃という戦士達の矜持を決して侵さぬという、厳しい戒律を守り続けるからでござる」


「それは知らなかった。

 筋肉魔法使いは近接攻撃をしてはいけないのか」

「左様。

 もちろん筋肉魔法にも至近距離を対象にした術は存在するが、決して武器を取って敵を直接攻撃したり、モンクのように直接打撃を与える事はない」


 ふと気づくと、俺達は膝程の深さの小川に到達し、掛けられていた丸太を並べただけの簡素な橋を渡っていた。


「おおっと、そろそろ敵と遭遇するかも知れない場所に出る。

 気を引き締めていくぞカルーノ殿。

 相手は恐ろしく得体のしれない魔獣を扱うネクロマンサーの中でも頂点に位置する者、一瞬の油断で即死が十分にあり得る」

「うむ。

 む?

 向こうから来ているのはオークスケルトンか?」


 ニールの送りこんだオークスケルトン3匹、頭をブランブランさせているオークゾンビ2匹、弓を持つケンタウロスゾンビ2匹のチームが道の向こうから現れた。

 そして先を行くスケルタルナイトとぶつかり戦闘が開始する。

 数や体格ではスケルタルナイト達がやや不利だが、クロリィちゃんが掛けたエンチャントと生前の練度の差があるのか、戦いは拮抗している。


「ルーサー殿、あのスケルタルナイト達を援護してやらなくてよいのか?」

「その必要は無いし、その余裕も無い。

 カルーノ殿もその岩はニールの送る雑魚アンデッドに使わずにキープしておいてくれ。

 その岩を投げて使い切った瞬間に、インフェクテッド・ウルフがタイミングよく茂みから飛び掛かってくる可能性があるし、ニールはそれを抜け目なく狙ってくる相手だ」


 俺達は敵味方のアンデッドの戦いを見守りつつも、周囲の森は奥へと続く道に注意を払い続けた。

 しばらくの時間が経ち、生き残ったスケルタルナイト1体とオークスケルトン1体が剣と手斧でお互いの頭を叩き切り、同時に崩れ落ちる。

 だが次のアンデッドチームが俺達の背後からも、ニールの本陣の方からも現れる。

 そしてニール側のアンデッドの背後には、まるでナーガというモンスターのように人の様な上半身と、蛇のように長い下半身をしたクリーチャーが尻尾をくねらせながら付き添っていた。


「ルーサー殿!」

「分かってる。

 スキル・ガンナー・アナライズ!」



【ガンナー・アナライズ、分析結果】


 種族名:Debug No.941F2D

 個体名:冥府の王キング・オブ・ハーデスドローラ

 危険度レベル:ΘA2FШロΛδハな9

 付加属性1:AssersionFailure

 付加属性2:AssersionFailure

 付加属性3:AssersionFailure

 付加属性4:フェイズ・シフト(被弾時)

 付加属性5:AssersionFailure

 付加属性6:AssersionFailure



 最悪の状況だ。

 俺は表示を見て項垂れながら舌打ちした。

 カルーノも表示を見て驚く。


「何だこれは!?

 個体名以外意味が分からんぞ?

 いや、辛うじて付加属性4だけは分かるが……。

 一体これは何だルーサー殿!?」

「極まれに伝説級の魔術師が召喚する人造悪魔や、伝説級の精霊術士が召喚する人造精霊にこういうのが出る事がある。

 種族名、Debugなんちゃらっていう謎の記述だ。

 俺が過去に見たのは一度だけ。

 勇者サリー達と共にマリギニア地方で討伐した、ケツァコアトルがこういう表示だった」


「マリギニア地方のケツァコアトル!?

 それがしの国からは遠く離れていたとはいえ、その恐ろしさは伝え聞いているぞ!

 たった一匹で国と民を滅ぼしたあの伝説の魔獣か!?」

「そうだ。

 こいつも危険度レベル不明だが間違いなくとんでもなく強い。

 この手のモンスターは歴史上でいくつか伝承されているが、どれも桁違いの強さで桁違いの被害をもたらしている。

 付加属性もまともに表示されていないが、確実に6つ、恐らくとんでもない物を持っている。

 ちなみにフェイズ・シフトってのは攻撃を一発食らえば全身が霊体化して物理攻撃を完全に無効化、火地風水の基本四属性魔法に対して80%の耐性を得る。

 この状態は数十秒間続き、モンスター側には何のペナルティも無い」


「つまり物理攻撃であれば最初の一撃で仕留めなければほぼ回復されて倒せなくなるということか!?」

「察しがいいなカルーノ殿。

 こういう上級魔獣はほぼ例外なく自己治癒手段を持っているからな。

 そしてまだ、フェイズ・シフトの様にまともに表示されている属性はこいつの持つ中では一番弱い属性だろう」


「属性が分からぬと言う事はまともに攻撃も出来ないのではないか?

 この前のミスリル鉱山の時もそうであっただろう?」

「ああ。

 だが何とかして探らなきゃならないのがつらい所だ」


 ***


 森の奥のニール本陣にて。

 ニールはあぐらをかいたまま地面に置いた宝珠に両手をかざし、魔獣達やアンデッドのコントロールに集中していた。

 ウオラは恐怖で身動きが取れない状態のまま、ニールの宝珠を離れた場所から覗き込んでいる。


「む?

 ほぉぅ?

 3箇所に分かれて様子を見ようと言う事か。

 普通の相手ならば問答無用で3匹とも襲い掛からせる所だが、ルーサーとやらが何の手段も講じていないはずがない。

 特にインフェクテッド・ウルフは一度けしかけているからな。

 どこも一体で襲わせるのは止めておいたほうが無難か」


 ニールは宝珠をもって立ち上がった。

 そして自分自身に呪術のエンチャントを掛ける。


「クオデ ポテースタス ディアブリ トルコルプス メル イン ヴェイントゥム」


 ニールが上げた片手のひらから緑の霧が噴出し、ニールの体の周囲に渦巻いた。

 そのまま宝珠片手に自分の送った魔獣達の方へ歩き始める。

 ウオラは震える声で言った。


「ニールよ。

 一体どこへ行こうと言うのだ?

 この私を一人にする気か?」

「手駒が足りん。

 俺が直接向かうしか無いだろう?

 そういうお前もそんな所で情けなくへたり込んでないで戦ったらどうだ?」


「私は魔法は使えないし、見ての通り武術も嗜んでおらぬ。

 この体を見てお前も察しているだろう?」

「……受け取れ」


 ニールは懐から、きっちり栓のされた陶器の小瓶を取り出すと、ウオラの方へ投げて渡した。


 ヒュンッ パシッ


 受け取ったウオラは震える手でその小瓶を掴み、マジマジと見た後ニールに向き直る。


「何だこれは?」

「リッチ化薬だ。

 それを飲めばお前は生きながらにして死人の体となり、不老不死のアンデッドとなって二度と人間の体に戻る事はなくなる」


「ばっ、馬鹿め、そんなもの私が飲む訳が……」

「代わりに絶大な魔力を得る。

 その小瓶の中には捕らえて拷問に掛け、術を掛けて熟成したグランドマスター級のウィザードの魂20人分も封じられている。

 例えファイヤーボール程度の呪文すら知らないお前でも、この世の英知を極めたウィザードを遥かに上回る呪文をすらすら唱えられるようになるだろう。

 使うかどうかはお前次第だ」


 ***


 森を貫く3つの小道、その中央の道で、ミツール達は戦いを繰り広げるスケルタルナイトとオークゾンビ達の後ろにインフェクテッド・ウルフの姿を見ていた。

 インフェクテッド・ウルフはミツール達を睨みながら2、3回左右にウロウロ動いていたが、ゆっくり後ずさって距離をとる。

 フィリップさんは魔法障壁の呪文を事前詠唱(プリキャスト)して冷や汗を流しながらいつでも発動出来る様に身構えており、ミツールは剣を構えてインフェクテッド・ウルフを凝視。

 エリックやサーキやダイヤも武器を持って身構えている。


「ついに出ましたねミツール殿。

 正直言って私は見たく無かったですよ」

「あいつ、何で襲い掛かってこねーんだ?」


 インフェクテッド・ウルフを凝視し続けているミツールが言った。


「多分警戒してるんだ。

 ルーサーさんが僕達に、何か秘策を与えてるに違いない。

 そう思って、そう確信して警戒している」

「良く分かるわねぇそんな事」


「ブラーディ様の教えだ。

 真実を見極めよ」

「それだけニールはルーサーさんを警戒していると言う事でしょうね」

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