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魔法銃士ルーサー、フェーズ1の作戦を開始する

 俺は森の方へと続く3つの道に注意を払い続けながら、ミツールや助っ人達に立ち回りの説明を行った。

 最初にインフェクテッド・ウルフの恐ろしさを俺から説明を受けた為、皆は緊張しつつ真剣な表情で俺に注目する。


「第一フェーズ、ニールの操る下っ端ゾンビではなく、人造魔獣の能力を探る時の立ち回りだ。

 これには全員の綿密な連携が必要不可欠となる。

 相手は人外の強力な魔獣、単独行動して不意に襲われてしまえばひとたまりもない。

 なのでこの信号ワンドを皆に配る」


 俺はペンサイズで赤、青、黄の三色に塗られた三本のマジックワンドをミツール、ココナ、カルーノさん、ピーネに渡した。


「このマジックワンドを上空に向けて指先でノックすれば小さなマジックアローが射出され、上空50メートル程の位置で花火の様に炸裂する。

 もちろん、そのワンドに塗られたカラーでだ」

「ルーサーさん。

 そんなの射出したら相手にも見えちゃうでしょぉ?

 こっちの動きもバレバレですよ。

 それは戦略として、どうなんですかねぇ?」


「時間が無いんだ。

 いいからまずは最後まで黙って聞けミツール。

 この戦いはこちらのチームが状況をいかに正確に把握して共有するかにかかっているんだ。

 鉄の結束を維持すれば、どんな凶悪な魔獣を相手にしても渡り合えるし勝つことが出来る。

 状況をしっかり把握して連携すれば、絶対に誰もハメられない。

 絶対に誰も殺されない。

 その為に使うのがこの信号ワンドだ」


 俺は青い信号ワンドを皆の前に掲げ上げた。


「青いワンドはポイント指示に使用する。

 要するに花火の炸裂した直下に、何かがある、もしくは何かをしろと伝える為だ。

 勿論敵にもその花火は見えるからむやみに使うな。

 これは基本は俺が多用する。

 皆の近くで炸裂すれば取りあえずそこへ移動してくれ。

 それ以外の用途に使う事もあるかもしれないが、それは状況から察してくれ」

「了解した」

「近くで炸裂すればその下に行けばいいのね?」


 次に黄色い信号ワンドを掲げる。


「黄色いワンドは注意喚起に使う。

 敵の魔獣がこの辺りに潜んでいる、ここで見失った、この辺へ向かった等を皆に伝えるんだ。

 これは極めて重要な戦術情報となる。

 皆は戦いや移動の最中も決して見落とす事が無いように。

 そして凶悪な魔獣の位置は常に皆に連携してくれ。

 この花火が一つ上がるかで、最悪味方が生きるか、死ぬかが関わって来る」

「分かったニャ」

「私が常に注意して見ていましょう。

 近接戦闘するミツールさんやサーキさんやエリック君やダイヤちゃんは見落とすかも知れないですからね」


 最後に赤い信号ワンドを掲げた。


「赤は警報だ。

 魔獣達が大挙して移動している、誰かを襲おうとしている時に警告する。

 これが近くで上がるのを見たら全速力で退却するか反対側に距離を取れ。

 見落とせばほぼ死ぬという状況だと心に刻むんだ」

「分かりました」


 今度は森へと続く3つの道を示しながら配置を伝えた。


「左側の道は俺とカルーノが行く、ミツールのパーティー、ミツールとエリックとダイヤとフィリップさんとサーキは真ん中の道へ。

 カルーノさんとココナは右側の道を進め。

 そして最前線、こちらのスケルタルナイトと、ニールの送りこむオークゾンビやスケルトンとせめぎ合いの起きているラインから決して前に出るな。

 その先は危険地帯だ。

 例外として俺とココナは安全に戻れる範囲を見極めて敵地に踏み込み、敵の魔獣に威力偵察を行う。

 それ以外のメンバーは最前線に目を光らせて、敵の魔獣の動きを見逃さずに情報連携するのが役割だ」

「皆さん、取りあえずインフェクテッド・ウルフを見たら今は逃げましょう。

 森に消えたらそっち方面の人へ注意喚起の連携を忘れずに」

「ルーサーさぁん」


「何だミツール」

「左の道はベテランでどんな裏技も知り尽くしてるルーサーさんがいるでしょ?

 右の道は大量のオークのアンデッド兵を一撃でなぎ倒す神器みたいなヘビークロスボウ持ったピーネさんが居ます。

 中央の僕達は確かに数は多いですけど、まだそんな慣れてないと言いますか、その……」

「ビビってんじゃねぇよミツール!」


「いや、別にビビってないよ!

 剣聖ブラーディ様の弟子で、ミノタウロスとタイマンして勝った僕ですよ?

 でもやっぱ相手が物凄い頭良くて素早いそうだし、慎重になるのは仕方が無いだろう?」


 案の定ビビっているようだが、それを短絡的に恥としないのはいい傾向だ。

 ラッグとの戦いの経験が生きてきている。


「真ん中の道はいざという時は俺やココナがすぐに駆け付ける事が出来る。

 逆に右と左の道、端っこの方はいざ大勢に襲撃を受けた緊急時に、味方の応援が結集しにくい。

 だから厚めの布陣にしているんだ。

 よし。

 それでは何か質問がある者は?」

「ポーションとかの補給物資は本部から送って貰えるのでしょうか?」


「おおっとそうだった。

 俺の魔導通話貝をエリックに渡しておこう。

 一番兵団本部の建物を知ってて通話の為のイメージをしやすいだろうからな。

 指揮しているチェスターに必要なものは何でも頼んでワイバーンで運んでもらえ」

「分かりました。

 預かります」


「それでは皆、無茶はせず今は守勢に回る様に。

 よし、それでは作戦フェーズ1、開始だ!」

「おう!」

「行ってきます!」


 全員が自分の持ち場の道へと進んでいく。

 俺もカルーノさんと一緒に左の道へと移動した。



 ―――― ドーラ北東、ニールとの対決の森 ―――


 森川森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森

 森森ルカ塔騎死_______________森

 森森_森森森森森森森森森森森森森森森____森

 川川川川川川森森森森森森森森森森______森

 森森_森森川川森森森森森森森森__森森森_森森

 森店_森森森森川川森森森森__森森森森森_森森

 森森_森森森森森森川森森塔_森森森森森森_森森

 森森_森森森森森森森川川死森森森森森森森_森森

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 森森_森森森_騎森森森森森森森川森森森森_森森

 森森_森__森森森森森森森森森森川川川川川川川

 柵〇_騎_森森森森森森森森森森森森森森森_森森

 弩柵〇_____騎___ピコ____塔騎死森森

 _弩柵〇〇森森森森森森森森森森森森森森森森森森

 __弩柵森森森森森森森森森森森森森森森森森森森


 森:うっそうと茂る森

 柵:防柵

 弩:バリスタ

 川:森の中を流れる小川。ほとんどが浅瀬で一番深い所で人の胸ほどの深さ。

 塔:無人の石造りの監視塔。

 店:無人の錬金術師の店。

 カ:魔法職?でありながら先陣を切るカルーノ。彼の秘める実力と経験はその態度と自信から伺える。

 ル:常に周囲の気配を探りながら、いつでも魔法銃を抜ける緊張感を維持して移動するルーサー。

 ミ:川の直前、石の塔の傍で待機するミツールパーティー。スケルタルナイトとニールのアンデッドチームの戦いを取りあえず見守っている。

 コ:火力は凄いが打たれ弱いピーネを護衛するように、獣人族の発達した嗅覚と視覚と聴覚で周囲を探りながら進むココナ。

 ピ:緊張しているピーネ。この森の入り口まではイケイケだったが、インフェクテッド・ウルフの話を聞いて若干ビビってる。

 死:ニールの送りこむオークゾンビ、オークスケルトンなどの前衛5匹、ケンタウロスゾンビ等の後衛2匹のアンデッドチーム。

 騎:クロリィちゃんが送り込むネクロマンシーの秘術でエンチャントされてパワーアップしたスケルタルナイト5体のチーム。次々と断続的に後ろから送り込まれてきており、最前線のものはニールのアンデッドと戦いを繰り広げている。

 〇:フィリップさんがジャァヴァ式ルーンマジックで召喚したオーブ・ジェクトル。近寄る敵には激しい集中砲火を浴びせるので、ニールの操る通常のアンデッドがここを越える事はまず無いだろう。


 ―――――――――――――――――――――――


 ***


 ニール本陣にて。

 ウオラの近衛騎士は二人共地面に倒れて痙攣を繰り返していた。

 既に人の言葉を出す事は無くなり、白目をむいた状態で口から泡を吹いており、中の寄生虫に動かされる昆虫の死骸のように、自分の意思ではなく操られているように見える。

 ニールは二人の方を向いて胡坐をかいたまま両手を左右上に掲げ、二つの紫の炎を手の平に宿したまま呪文を唱え続ける。


 グチ……パキパキ……ズリュリュリュリュ

 モコ……キュゥゥゥ――パチン、バチン!


 二人の体は徐々に変化していく。

 一人は胴体が蛇のように伸びながらとぐろを巻いていき、全身の皮膚に人面瘡じんめんそうが浮かび上がる。

 そして体からは怒りと憎悪に満ちた無数の怨霊がウオラ王にも見える霊体となって飛び出そうとして両手をもがかせ、再び体に引き込まれるのを繰り返す。

 もう一人の体は風船のように膨らみ続け、鎧や衣服はついにはじけ飛び、3メートルはある肉達磨の様な化け物に変化する。

 しかも顔と口が異常に拡大しながら普通の人間でいうお腹の位置に移動し、イノシシですら一飲みにしそうな巨大な口がおぞましいうめき声を上げた。


 (オオオォォ……、フオオォォォ――! オオオオ……)

 (フシュルフシュルフシュルフシュル……)


 あまりにもおぞましく恐ろしい光景に、ウオラ王は無意識に後ずさりしながら、震える声でニールに尋ねた。


「ニールよ。

 一体それは何だ?」

「お前達は知らないであろうが、魔王領には魔王領独自の語り継がれる歴史がある。

 何千年と続くその地獄の歴史の中で、巨大な力を持ったネクロマンサーは何人も登場した。

 そしてそのネクロマンサーが使役するオリジナルの人造魔獣の中でも、特に強大な力を持ったものはまさに伝説となり、一部亜人の中では何世紀にも渡って神とあがめられる程の存在になる。

 俺は今まさにそれを生み出したのだ。

 その名前はまさに今、お前がインスピレーションを与えてくれた。

 冥府の王キング・オブ・ハーデスドローラ!

 地獄の司祭(ヘル・プリースト)ファゴス!」


「ウゥオォ――――クルルルルルゥ……!」

「ウボオォ――!」


 2体の化け物はニールの呼び声に呼応し、雄叫びを上げた。

 震えるのを必死で隠そうとするウオラに背を向けたまま、ニールは町へと続く3つの道を指さして命令する。


「光輝の勇者共が身の程を知らずに俺を討伐にこちらへ向かっている。

 奴らを始末するのだ」


「グォゥ! フシュルフシュルフシュル……」

「ウゥオォ――――クルルルルルゥ……!」

「ウボオォ――!」


 蛇の様な胴体を持つ化け物、冥府の王キング・オブ・ハーデスドローラは北の道。

 インフェクテッド・ウルフは中央の道。

 巨大な肉達磨の化け物、地獄の司祭(ヘル・プリースト)ファゴスは南へ向かう道を進み始めた。


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