魔法銃士ルーサー、仲間達にニールを仕留める作戦を伝える
ドーラの町の中央、冒険者ギルドと防衛本部の間の広い道路上に、4匹のワイバーンが翼を羽ばたかせながら着地した。
新人兵士達が見守る中、現れたのは……。
「ルーサーさぁん、会いたかったぁ!」
「ドーラが陥落してなくて良かった」
「ここまでのアンデッドの大軍は私も初めて見ましたよ」
「ルーサーさん、上空からドーラの町見ましたけど、なんかすごい事になってますね。
ヤバく無いですか?」
「あぁ、ヤバイ事になっている。
ひとまずはクロリィちゃんのスケルタルナイトの援軍が周囲を守っているからドーラ壊滅は間逃れたが、親玉のネクロマンサーを討伐しなければならない」
ミツール達、『打倒アバドーン』パーティーだ。
ミツール、サーキ、エリック、ダイヤ、フィリップさんの5人が一体のワイバーンに運転テイマーと一緒に乗って来たのだ。
若いワイバーンは結構ヘバってしまっている。
「で、どうして僕を呼んだんですかねぇ?」
「どうしてもこうしても無いだろう?
今はドーラ、いや光輝の陣営の危機だ。
異世界転移者のお前とサーキが今戦わなくていつ戦うんだ?
それに博物館の件でもお前はドーラの町に借りがあるだろう?」
「……はいはい。そうすか」
ミツールとのやり取りを眺めていたサーキが俺に近づき小声で言った。
「ルーサーさん。
多分ミツールの奴、『お前を頼りにしている』って言われたかったんだと思うぜ?」
「……ふぅ。
頼りにしているぞミツール。
異世界転移者としてだけじゃなく、剣聖ブラーディ様の弟子となって腕を上げたお前の剣技に期待している」
ミツールはニヤケ顔で振り向いた。
「本当に?」
「あぁ、本当だ?」
「えぇ――。
どうしようルーサーさんに頼られちゃったよ。
どうしよっかなぁ?」
「(うっぜぇ)
そして来てくれた他の方々にも感謝する」
「ルーサーさんのお願いであればいつでも歓迎ニャ!」
「ミスリル鉱山を救ってくれたルーサー殿の為ならば、大陸の果てからでも駆け付けますぞ!」
「うぅぅ……ちょっと本体の根っこを風に晒し過ぎて気分が……」
ミツール達に続いて現れたのはハーフワーキャットの王女ココナ、筋肉魔法使いのドワーフ・カルーノ、ハーフドライアードのピーネだ。
ピーネは人間に見える体だけではなく、大きな木を一本、ワイバーンに持たせて運んできたようだ。
まっすぐに伸びた幅50センチ長さ5メートル程の幹に、広葉樹の葉っぱが青々と茂っており、根っこは土と一緒に布で包んで縛り保護されているが、一部根っこがはみ出している。
「大丈夫かピーネ?
しかしなぜそんな大きな木を運んで来たんだ?」
「これは私の本体です。
私達ハーフドライアードは人間の体は例え死んでもレベルダウンして復活しますが、それは本体の木が生きているから。
それに私達は、本体の木から離れて活動出来る距離に限界があります」
「そうだったのか。
そんなリスクを背負わせてしまっていたとは知らなかった。
無理を言ってすまなかったな。
おぉい!
周りの君達、今すぐこの地面を掘ってこの木を植えて水をやってくれ!
この木がハーフドライアードのピーネの本体らしい。
丁寧に扱うんだぞ?」
「分かりました!」
「了解!」
工兵の新人兵士達が駆けまわり、スコップで地面に大穴を掘ってピーネの本体の木を数人掛かりで植えにかかる。
「してルーサー殿。
そのネクロマンサーとやらはどこに居るのだ?
敵の戦力情報を某も、周りの者も何も聞いていないだろう?」
「そうだな。
だがその前に……」
俺は周囲の兵士達を見回しながら尋ねた。
「誰かドーラの防柵の外側でネクロマンサーのニールの本陣を見た者は居るか?」
「私の守っていた場所は序盤の数体のゾンビ以外何も現れませんでした」
「私の所はとんでもないアンデッドの大群が押し寄せてきましたが、後ろに本陣が有ったかと言われると、そうと言い切れる者は見当たりませんでした」
「ルーサー様!
私は北東を守っていました。
アンデッドの大軍こそ防柵までは押し寄せて来ませんでしたが、北東の森の道を遥か奥に行った場所には常に多数のアンデッドがたむろしていました。
いつこちらに襲ってくるかとヒヤヒヤしっぱなしでしたが最後まで防柵までは来ませんでした。
今思うとあれが本陣だったのかも知れません」
「北東?
あぁ、覚えてるぞ。
三又の森の道が小川を横切っている地形の所だな?」
目を閉じてスケルタルナイトのコントロールに集中しながら、話を聞いていたクロリィちゃんが言った。
「恐らくそこにニールは居る。
敵のアンデッド群をコントロールしている大きな邪気を北東方面から感じるわぃ」
「そうか、ならほぼ確定と見ていいだろうな。
俺達は北東の防柵のあった付近まで戦線を押し上げて、ニール達を討伐に向かう」
「じゃが気を付けるのじゃ。
ニール以外にも巨大な邪気が複数うろついているのを感じる。
その内一体は仕留めそこなったインフェクテッド・ウルフじゃろうが、それ以外にも何か途轍もない物が居る。
わしが今まで感じた事の無い邪気じゃ。
わしの操るアース・ボーン・ジャイアントの様に、ニールも独自の術を開発して何らかのクリーチャーを使役している可能性が高い」
「なるほど。
だがそれは相手が一万のアンデッドを率いる力を持つ事と、最初のクロリィちゃんの話を聞いて想定していた事だ。
だからこそ俺は、数ある選択肢の中でこのメンバーを呼んだんだ」
「へぇぇぇ。
やっぱり僕の力が必要だからと……」
「(うっぜぇ)
取りあえず作戦については北東の防柵まで戦線を押し上げてから説明する。
クロリィちゃん、スケルタルナイトの援護を頼めるか?」
「大丈夫じゃ。
ただし、わしが今操るのは白骨化したスケルタルナイト。
進路を指定して進軍はさせるが、その場の状況を正確に判断して気の利いた対応は取れないぞぃ?
ドーラ最終防衛線の他の区域にも気を配らんといかんしのぅ。
「大丈夫。
ニール本陣があると想定されるこの場所に、常にスケルタルナイトの小隊を小分けにして進軍させ続けてくれればいい。
後はナオミが案内する安全な場所へ移動してスケルタルナイトのコントロールに集中してくれ」
「クロリィお婆ちゃん、こちらへどうぞ」
「すまないねぇ。
ルーサーさん、必ずニールを倒してくれ。
このクロリィはルーサーさんを信じておるからのぅ」
***
俺達はスケルタルナイト達に囲まれながら、ドーラ北東方面へと進軍していく。
ドッゴォォォ――!
バッキィ!
押し寄せているアンデッドの数は多いが、最前線を守られながら後方からピーネの放つアーティファクトのヘビークロスボウ、熾天使稲妻渦大砲の威力は絶大である。
密集したアンデッドの群れに一矢ごとに大穴が開いていく。
……ついでに後ろの建物も破壊しているが仕方が無いだろう。
ミツールは顔を引きつらせ、エリックは感心しながら尋ねる。
「凄いですねぇピーネさん。
目茶苦茶強いじゃないですか。
これ食らえば魔王軍だってイチコロですよ」
「ハァッ! ハァッ!
おらぁもっと来ぉ――ぃ!」
「そうだな。
今はピーネが主砲として、最も力を発揮できる状況にある。
それはミツール達のパーティー、ココナやカルーノ殿、クロリィちゃんのスケルタルナイト達がガッチリと周囲を固め、なおかつ前方から真正直に敵のアンデッドの大軍が押し寄せてくれているからだ。
だがこれから俺達が相手にするのはそれより上位の相手。
気を抜けば狩られてしまうんだ。
慢心はしてはいけないぞ」
***
俺達はついにドーラ北東の防柵まで戦線を押し上げた。
「ようし。
出来ればこの地点を確保したいところだが……」
クロリィちゃんの操るスケルタルナイト達は、機械的に全身を続け、三又の森の道それぞれに分かれて進んでいく。
俺が言葉で伝える作戦を理解して、その通りに従うような知性は無いようである。
「スケルタルナイト達にはそれは期待出来ないな」
「ルーサーさん。
ここを一つの拠点にしたいと言う事ですね?」
フィリップさんに何か案があるようだ。
「そうだ。
何か良い手段を思い付いたなら教えて欲しい」
「実は私はミルトン王国での一件の後、ミツールさんに従って色々な場所を回っている合間、合間にずっとジャアヴァ式ルーンマジックの勉強と修行を続けていたんです。
そしていくつかの術は使えるようになりました」
「えぇぇ、フィリップさんそんな事やってたんだ」
「努力家だなぁおっさん」
「皆さん、少しそちら側で離れて待っていてください。
我は定義するパブリックのクラス。
メインのルートよ、その力の門を開け。
我は定義する迎撃のクラス。
取り込むのは衝撃の力。
取り込むのは稲妻の力。
インプリメント 敵を察知する視界」
フィリップさんが呪文を唱えている間、周囲に幾つもの幾何学模様が渦巻いて流れ始める。
ジャアヴァ式ルーンマジック特有の詠唱だ。
これはそこそこ高度な術だったはず。
なんだ、別にフィリップさんは才能が無かったんじゃない。
やる気が無かっただけじゃないのか?
「いでよ!
新たなインスタンス!
いでよ! ニュー、オーブ・ジェクトル!
いでよ! ニュー、オーブ・ジェクトル!
いでよ! ニュー、オーブ・ジェクトル!
いでよ! ニュー、オーブ・ジェクトル!」
フィリップさんの右側3メートル程離れた場所に2個、左側も同様に2個。
直径1メートル以上はある光球が出現した。
まるでウィスプのように瞬きながら強い光を発し続け、空中に浮いたまま静止している。
「凄いな。
ジャァヴァ式ルーンマジックの秘術、オーブ・ジェクトルの召喚。
4つも連続して行うなんてかなりの魔力が必要だぞ」
「私も魔法使いとしての経歴だけは長いですからね。
そこらの者に簡単には負ける気は無いですよ」
「これ、どんな効果があるの?」
スケルタルナイトの進軍を上手くかわしたのか、ニールの操るオーク・スケルトンが2匹フラフラと現れてこちらに近づいて来る。
だがある程度近づいたところで、4つのオーブ・ジェクトルが激しい点滅を始め、衝撃波と稲妻を乱射して迎撃し始めた。
シュバシュバシュバシュバ!
バリバリバリバリ!
バキャァ! カランコロン
オーク・スケルトン2匹はあっという間に粉砕されて地面に転がる。
「すげぇ」
「フィリップさん、これはどれくらい持つんだ?」
「1時間は持つと思います。
召喚した物が結構状態が安定しているのがジャァヴァ式ルーンマジックの特徴ですからね。
暴走も少ないし」
「素晴らしい。
それならばこの場所は俺達の拠点、安全地帯としてしばらく持つだろう。
で、作戦についてだが」
全員が俺に注目して真剣な顔で聞き入る。
「俺達が相手にするのはニールとニールが使役する人造魔獣達だ。
オークやケンタウロスのアンデッドの処理は基本、クロリィちゃんのスケルタルナイトと、フィリップさんのオーブ・ジェクトルに任せろ。
そして未知の敵と戦う時、絶対にやってはいけない事がある」
「何すか?」
「相手の能力を知らずに突っ込む事だ。
俺が指示するまでの間、相手の能力を探り、引き出す事に集中しろ。
例え倒せそうに思えても、深追いをしてはいけない。
第一優先は生存と逃亡。
これは絶対に守ってほしい。
特にサーキ、お前は突進しがちだ。
パーティーリーダーであるミツールに従い、方針を絶対に守る事。
いいな?」
「しょうがねぇなぁ。分かったよ」
「ちゃんとリーダーに従えよサーキ」
「この相手の能力を探るのを第一フェーズとして、そのメインは俺とココナが行う」
「ニャ!?」
何を思ってか知らないが、ココナが目を輝かせて俺を見る。
「俺は戦闘経験と知識が多く、敵が罠に嵌めに来るのを見破る手段も、逃れる手段も数多く知っているからな。
そしてココナはハーフではあるが獣人族の血のお陰で反射神経と運動能力が高い。
それに敵から逃れる術は豊富に持っているだろう?」
「どうしてルーサーさんはその事を知ってるニャ?」
「ココナと最初に出会った時にココナが見せた体術で実力は察する事が出来た。
それにあのペッパーワーキャットがウヨウヨ居るところで女一人で住み続ける事が出来たんだからな。
ミツールも納得だろう?」
「確かに……そう考えると、ココナさん凄いですね」
「逆にミツール達は常にパーティーで行動し、皆で知恵を出し合って行動するんだ。
なるべく得体のしれない異様なクリーチャーを見たら近寄るな。
お前達はまだ経験が浅い。
悪辣な敵と対抗するには仲間同士の協力が不可欠だ。
そしてカルーノ殿とピーネは基本、敵から距離を置いてくれ。
もし追われている気配を感じれば一目散にオーブ・ジェクトルが守護するこの本陣まで逃げ帰るんだ」
「しかしそれでは某達が来た意味がないのではないか?」
「いや、相手の能力を明らかにした後、仕留めに掛かるのが第二フェーズ。
その時に活躍して貰う事になる。
そうだ、ピーネ、第二フェーズでの仕留めに入るまで、なるべく自分の持つ弓の技を敵に見せない様に注意して欲しい。
俺達が必死で相手の手の内を探るのと同様に、こちらの手の内を相手に見せない事が最も重要だ。
その結果の読み間違いで勝負が付く。
それが上位の戦いだ」
「了解した」
「分かりました」
「あと、俺が知っているニールが使役する魔獣の一つ、インフェクテッド・ウルフの特徴について伝える」
俺はインフェクテッド・ウルフについて知り得る全ての情報を皆に伝えた。
フィリップさんやエリックはそれを聞き、真剣な顔で対策を練り始めていた。