魔法銃士ルーサー、町の人へ襲い掛かるニールのアンデッド軍団を阻止する
ドーラの町の全方位から一斉に新米兵士達が走り、町の中心部分へと走り込む。
中心部分は4つの大通りに囲まれた区画となっており、2階建てや3階建ての建物が密集している。
主要な建物の入り口は板を内側から打ち付けて封鎖されており、家具を寄せ集めて補強してあった。
─────── ドーラ最終防衛線 ────────
回回死死死回回回回回回回回回回回回回回回死死死回回
回回死死死回回回回回回回回回回回回回回回死死死回回
回回_死_回回回回回回回回回回回回回回回_死_回回
回回___回回レ回回回回回回回回回回レ回___回回
回回_逃_回回回回回回回回回回回回回回回___回回
____________________逃_死死死
_逃_逃___________________死死
回回___回回回回回回回回回戦回回回回回_逃_回回
回回___回回レ回回回回回回槍回回回レ回___回回
回回___回回回回回回回回回|回回回回回___回回
回回___回回回回回回回回回魔回回回回回___回回
回回___回回回回回回回回回|回回回回回___回回
回回_逃_戦槍|魔||祈||祈||魔槍戦___回回
回回___冒冒冒冒冒冒冒冒|回回回回回回___回回
回回___冒冒冒冒冒冒冒冒|回回回回回回___回回
回回___冒冒冒冒冒冒冒冒|回回回回回回___回回
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回回___回回回回回回回回|回回回回回回___回回
回回___回回レ回回回回回|回回回回回回_逃_回回
回回___回回回回回回回回|回回回回回回___回回
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回回___回回回回回回回回|本本本本本本逃__回回
回回___回回回回回回回回魔本本本本本本___回回
回回逃__回回レ回回回回回槍本本本本本本___回回
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_______________________騎騎
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回回_死_回回回回回回回回|回回回回回回死_死回回
回回死死死回回レ回回回回回|回回回レ回回_死死回回
回回死死死回回回回回回回回|回回回回回回死死死回回
回:町の建物。中央部分だけあって全て2階建て以上の高さがある。
|:建物と建物の隙間の人が一人しか通れない通路。冒険者ギルドの腕自慢の戦士、槍戦士、魔法使い、僧侶やプリーストなどが死守している。今ばかりは普段のパーティーを越えた協力状態にある。
冒:冒険者ギルドの建物。ドーラ防衛本部のあるブロックとの間にある大通りへの出入り口を除き、完全封鎖されている。
本:ドーラ防衛本部。裏の細道に通じる扉以外は正面入り口も完全封鎖されている。勿論チェスターもこの中に居る。
柵:二つの大きなブロックに挟まれた通りを安全地帯とする為、臨時で作られた防柵。逃げ込む兵士達を中に入れれる様に扉が付けてある。
戦:冒険者ギルドに所属する戦士の中で選び抜かれたタンク職達が壁となり、細道へのアンデッドの侵入を防ぐために守っている。騎士、戦士、モンクやアサシン等、ギルド内トップクラスの実力者達が各所を守る。
槍:冒険者ギルドに所属する戦士の内、槍や長斧、ハルバードやパイクといった長物武器を得意とする戦士達が、木箱の上に乗って構えている。どれもオーガ程度相手なら戦える実力者達である。
魔:冒険者ギルドに所属する使い手の魔法使い達。攻撃魔法のみならず、戦闘の戦士達にバフを掛ける事が出来る実力者が選ばれている。
祈:冒険者ギルドに所属するヒーラー職、袈裟を着た僧侶も、白いローブで十字架を手に持つプリーストも一致団結して戦士達を守る。
レ:建物の屋根の各所に立つレンジャーギルドのレンジャーや、冒険者ギルドの弓使い達。冒険者ギルドから選ばれた3名は弓の得意なエルフ族であり、射程内ならば百発百中の腕前を持つ。
ナ:祈る様にルーサーの帰りを待つナオミ。
逃:ドーラ全周から逃げてきた新米兵士達。屋根の上のレンジャーや弓使い達に援護されながら、大ブロックに挟まれた安全地帯へ誘導されている。
死:大通りを埋め尽くしながら迫りくる、ニールの使役するアンデッド軍。
騎:間一髪で辿り着きそうなクロリィお婆ちゃんの操るスケルタルナイト達。ルーサーとクロリィお婆ちゃんはもう少し後方に居る。
─────────────────────────
殆どの新米兵士は冒険者ギルドのある大ブロックと、ドーラ防衛本部のある大ブロックに挟まれた大通りに逃げ込み終えており、今もまだ走っているのは最後の連中である。
加速ポーションを飲んで開幕に差を付けたとは言え、元々の才能や疲労、負傷で逃亡が遅れ、今にもアンデッドの大軍に追いつかれそうな者も居た。
一人が息を切らしながら後ろを振り向くと、ミュータント化したダークエルフゾンビが自分の方へ大ジャンプして飛び掛かって来る姿が見えた。
(せっかくここまで逃げて来たのに、もうお終いかぁっ!?)
固く目を閉じる。
ピシャァッ
グギャァァァァッ!
ダークエルフゾンビは空中で脳天を射抜かれて後ろへ吹き飛び、襲い来るアンデッドの群れに飲み込まれた。
2階建ての建物の屋根の上で、長耳のエルフが次の矢を矢筒から引き抜きながら叫ぶ。
「急げ!
そのまま真っすぐ、もう少しだ!
冒険者ギルドの南の通路に防柵を作って安全地帯にしている!
早くっ!」
新米兵士は見上げながらそれを聞き、再び立ち上がって走る。
***
最終防衛区画の建物の屋根を走り回りながら、冒険者ギルドのサブマスター、ワスプが町を守る冒険者達に指示を続けていた。
「北東方面と南からもうすぐアンデッドが押し寄せます!
魔法使いの方は戦士の方達の前に魔法障壁を張って下さい!
ヒーラーの方々は先頭の近接戦士に可能な限りのバフを!
我々は只の一人の犠牲も望みません!
よろしくお願いします!」
「プロテクション!」
「リジェネレーション!」
「ソーン・シールド!」
カボチャほどもある巨大な鉄球付きのメイスと、鋼の盾を装備したマッチョで巨体の戦士が身構える。
彼の目の前を最後の新米兵士が駆け抜け、直後に大量のアンデッドが津波の様に押し寄せた。
「待ち望んだぜ!
この血の滾る瞬間を!
ウォォーラァァ!」
ドガァッ! バギィ!
次々と目の前に現れるオークゾンビやオークスケルトンを、ほぼ一匹一撃で粉砕していく。
遠い間合いでケンタウロスゾンビが弓を向けるが、屋根の上のレンジャーに額を撃ち抜かれて倒れた。
だが戦士が重いメイスを大振りした直後、オークゾンビの背後からダークエルフゾンビのミュータントが飛び上がる。
「や、やべ」
「スキル・ハンドレッド・スパイク!」
ザクザクザクザク
ピギャァァ
巨体の戦士の背後に居た槍使いの冒険者がダークエルフゾンビを空中で穴だらけにして葬った。
「助かったぜ。オメェただのカマっぽいキザ野郎じゃ無かったんだな」
「そんな事は私の冒険者ランクを見て察したまえ!
ほら、よそ見をしている余裕はないぞ!
スキル・インペイル!」
***
中央通りの安全地帯にて、ナオミは合掌しながら祈っていた。
そこへ最後の新米兵士が駆け込む。
「助かったぁ――! はぁ、はぁ」
「オメェで最後か?」
「そうだ、俺の後ろは居ない。はぁ、はぁ」
「冒険者ギルド内で手当てを受けられるからさっさとそこに入って治療を受けて、次の戦いに備えろ!」
「えぇ、また戦うのかよぉ」
「つべこべ言うな。
あとナオミのお嬢さん、あんたも早く建物の中へ隠れるんだ!」
「ルーサー様が必ず帰ってきます!
私はルーサー様が来るまでここで待ちます!」
「強情な嬢ちゃんだ。
だからなぁ……」
「よそ見するな!
来たぞぉ!」
あっという間にアンデッドの群れが防柵の前に押し寄せた。
一瞬で通りは歩く死体達でギチギチの混雑状態になり、防柵がギシギシ揺れ始める。
「こ、こりゃぁ想像以上だ!
おい休憩が終わった新米兵士は手伝え!
槍で突くか、柵を押し支えるんだ!」
「くそぉ、ちくしょぉぉ!」
防柵を守っているのは新米兵士よりは腕の立つ戦士系冒険者である。
だがアンデッドの圧倒的な数の暴力の前には、その力など誤差のようなものである。
ナオミの目の前で、その戦士はケンタウロスゾンビの矢を肩に受けた。
「うぐっ」
続けてオークスケルトンが防柵の隙間から手を入れて振り回したナタが戦士の胸を切り裂き、血しぶきが飛び散る。
戦士は何も言う暇もなく、地面へとぶっ倒れた。
顔面蒼白なナオミは必死で戦士を逃がそうと片手を引っ張るが、巨漢の戦士が重武装している上にトゲトゲ付きの鎧を付けているのである。
どうしても動かす事が出来ない。
ギギギギギ……
そうこうしている内に防柵が軋み、斜めになってナオミの方へ倒れ始めた。
四つん這いのダークエルフゾンビがその防柵を這いあがり、ナオミを見て口を大きく開け、ベロ攻撃をしようと構える。
「スキル・シルフの迷惑な贈り物」
ダークエルフゾンビは側頭部を魔法弾で撃ち抜かれて、人形のように崩れ落ちた。
ナオミははっとして右側を見る。
そこには大量のスケルタルナイトを引きつれた、ルーサーとクロリィお婆ちゃんの姿があった。
「ルーサーさぁん!
皆さん!
ルーサー様が帰って来られました!」
「おおおぉぉ」
「あのスケルタルナイトの鎧兜、光輝の陣営の兵士のものだぞ!」
クロリィお婆ちゃんが協力なバフを掛けているスケルタルナイト達は一体一体が達人級である。
隊列を組み、次々とニールのアンデッドを打ち倒し、その屍を踏みながら進軍していく。
最終防衛区画の建物の2階で震える人達、その中の一人の子供が打ち付けられた板の隙間から外の様子を伺っている。
「坊や!
危ないから窓から離れなさい!
弓を使うアンデッドもいるのよ!?」
「ねぇ、アランおじちゃんが助けに来てくれたよ」
「馬鹿言ってんじゃないの!
アランおじちゃんは戦争で亡くなったのよ!?」
「本当だよ!
あの兜の飾りはアランおじちゃんだもん!」
子供の母親は子供を押しのけ、恐る恐る外の様子を見る。
通りでは、多数のスケルタルナイトが、多数のオークゾンビやオークスケルトンを切り払いながら前進していた。
その中に一体、何度も見おぼえのある鎧兜、何度も見たロングソードを振るう、見覚えのある体格のスケルタルナイトが居た。
「……本当ね。
あれはアランおじさんに間違いないわね」
隣の窓では質屋の主人が涙を流していた。
「ライアンが……息子のライアンが私達を助けに来てくれた」
質屋の主人が見つめる先では、一体のスケルタルナイトが次々と空中回転を繰り返しながらケンタウロスゾンビを葬っていく。
「お前は立派にドーラの為に戦い、死んで再びドーラを救った。
パパはお前を誇りに思うぞ」
***
スケルタルナイト達はあっという間にドーラ最終防衛区画の全周を覆った。
ニールのアンデッド達はまだ押し寄せているが、完全に形勢は逆転している。
俺はクロリィちゃんと一緒に中央の安全地帯へと入り、馬を降りてクロリィちゃんが降りるのを助ける。
「ルーサーさぁん!」
ナオミが背後からしがみ付いてきた。
(やれやれ)
「怖い思いをさせて済まなかったな、ナオミ。
だがもう大丈夫だ。
ここはもうこのクロリィちゃんが居る限り陥落する事は無いだろう。
だがクロリィちゃんがスケルタルナイトのコントロールに集中する為に静かな部屋と椅子が必要だ。
そして万が一が無いように使い手冒険者の護衛もな。
用意してくれるか?」
「はい!
ルーサーさんはどうするのですか?」
「ニール本体を叩かなければならない。
その為の応援ももうすぐ来る頃だろう。
ほぉら、あそこに来ている」
俺が指さす方の空では、何匹もの若いワイバーンが羽ばたきながらこちらへ向かってくるのが見えた。