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魔法銃士ルーサー、クロリィちゃんの大技に驚く

 ニールは再び2匹のインフェクテッド・ウルフのコントロールに集中し、宝珠に手をかざしてと陶酔状態になる。

 彼に頼るよりほかないウオラ達は、内心のイラつきを押さえながら黙ってニールのやりたいままに任せていた。


「ん? ほぅ?

 コイツはいい物を見つけたぞ」

「なんだこれは……」

「恐らく野生の魔獣と思われます」


 宝珠には二本足でゆっくりと歩く、体高2メートル程の植物が映っていた。

 胴の直径1メートル程で頭が巨大な傘になったキノコの様な見た目をしている。

 そして人間の様な手は無いが、代わりに無数の小さなキノコが全身から生えてゆっくり波打つように動いている。


 グキュルキュルキュル……


 どこに目があるのか不明だが、自分に近寄るインフェクテッド・ウルフの存在を検知したその植物系モンスターは威嚇音を立て始めた。

 よく見るとその背後には同じ種類と思われるサイズ違いのモンスターが多数ひしめいている。

 群生地のようである。


 ***


 俺とクロリィちゃんはまだ警戒を解かずに周囲の様子を伺っていた。

 スケルタルナイト達も円陣を組んだままである。


「ルーサーさん、わしらには一刻の猶予も無いんじゃ。

 ニールは一旦立ち去ったようじゃし、先に進もう」

「そうだな。

 それじゃぁスピードを落として進むから、常に俺達を中心にスケルタルナイトに円陣を維持させたまま進軍させてくれ。

 敵の襲来を一瞬でも早く検知出来れば、それだけで取れる対抗策が大きく変わるからな」


「了解じゃ。ヴィクトム フォーメーション……」

「ところでクロリィちゃん、スケルタルナイトを分散させて周辺を探らせる事は出来ないのかい?」


「ネクロマンサーはアンデッドの視界を共有出来るが、それは腐っていても生の眼球を持つゾンビ等だけじゃ。

 このスケルタルナイト達は全員がほぼ白骨化しておる故に、わしの操作で遠くまで動かす事は出来ても情報を得る事は出来ん。

 ゴーレムの様に自動で戦う事は出来るがな。

 ニールが動きの遅いゾンビとスケルトンの混成部隊を編成していたのは、自分で戦況を観察して正確にコントロールする為じゃ」

「なるほど、そうだったのか。

 勇者パーティーでネクロマンサーと戦った事もあったが、そういうカラクリだとは知らなかった。

 勉強になるぜ」


 俺はクロリィちゃんと一緒に乗った馬を、スケルタルナイトが円陣を維持できる限界までスピードを落として進める。

 スケルタルナイト達は森の中にまで一部入り込んだまま円陣を維持し、木々は自動的に避けながらついて来る。

 ふと、俺は空気に微妙なカビ臭さを感じた気がした。

 そして周囲から不思議な音まで聞こえ始める。


 ワサワサワサワサ……

 プシッ プシィッ

 チュンチュンチュンチュン、ブモォ――


 クロリィちゃんも同じ様に異常を感じ始めているようである。


「なんじゃ?

 周囲全体から動物の声が響き始めて……体も揺れるように感じる」

「!

 マズイ!

 クロリィちゃん、服の袖でも何でもいい、厚手の布を出来れば何重にもして鼻と口を塞げ!」


 クロリィちゃんは風呂敷を取り出して折り畳み、鼻と口を覆うように頭に巻き付けた。

 俺も慌ててポンチョを脱ぎ、自分の鼻と口を覆うようにぐるぐる巻きにする。


「コイツはレベル65の植物型魔獣、マッシューマーの出す幻惑ガスだ。

 自分が追い詰められたり、傷つけられた時の防衛時に噴出する。

 あっという間に広範囲に広まって人の視界を覆い、ガスの幻覚成分で人の正確な状況認識能力を失わせる。

 本体は超すっとろい歩く巨大キノコお化けでしかないが、本体の攻撃自体よりもこのガスが危険で、遭難や崖からの転落での死亡者が多い。

 絶対にまともにガスを吸うんじゃないぞクロリィちゃん。

 手遅れの中毒症状になれば、一週間は後遺症が残って目の前の人すら認識できずに幻覚と戦い続けたり怯えて逃げ惑い続ける事になる」

「何でよりによってこんな時に出るんじゃ。

 本当についてないわぃ」


 周囲の空気が紫のガスで染まっていく。

 どんどんと紫の霧のように視界を狭めていく。

 おかしい、紫の霧が濃すぎる。

 既に5メートル先すら見えなくなった。


「やられたぜ。

 こんな時期に、この場所でマッシューマーを好き好んで攻撃する奴なんていねぇ。

 動物だって自分から逃げる。

 多分これはニールの仕込んだ罠だ。

 俺の魔法銃は視界が奪われれば当てる事は出来ねぇ。

 視界3メートルになりつつある今じゃぁ、近づくインフェクテッド・ウルフに遠くから魔法弾(マジック・シェル)をありったけぶち込む事も出来なくなった。

 クロリィちゃんはどうだ?」

「元々眼球の無いスケルタルナイト達は暗闇同様にいつも通り戦えるが、インフェクテッド・ウルフ相手には大した抵抗にならん。

 周囲の様子が分からないのはニールも同じ……と言いたい所じゃが、インフェクテッド・ウルフは鼻が良いからのぅ。

 元々犬やオオカミは目よりも鼻で状況を認識する割合が大きな生き物。

 そしてアンデッドに幻覚成分など効かん。

 このままじゃ一方的にやられてしまうぞぃ」


「やむを得ない、急場を凌いで対策を考えなきゃならないな。

 スキル・ガンナートランス・イージス!」


 俺は銃を持つ両手の動きをスキルで練り上げたマナにゆだねて待機した。


 バキャァッ ドカァ

 グルルルァァッ!


 紫の霧の中、右斜め後ろから突如インフェクテッド・ウルフの巨大な頭部が現れて俺達に食いかかろうとする。


「バレット・バリア!」


 ダァン!


 俺の右手が自動的にインフェクテッド・ウルフに照準を合わせ射撃。

 攻撃力度外視の、防御特化の激しい衝撃波で一瞬ウルフの突進を躓かせた。


「オズ ムロス!」


 クロリィちゃんの呪文で瞬時に骨の壁がオオカミの頭の前に組み上がり、押し戻す。


 グルルルル……ガウッ、ガァァァッ!

 ドンッ! ドンッ!

 ガキィ、ゴリゴリィ、パキ


 至近距離でウルフが何度も骨の壁に食らいついて激しい音を立てるが、骨の壁はクロリィちゃんの絶大な魔力で強化されている上に多少欠けても次々と骨が組み上がって塞いでいく。

 ウルフは諦め、一旦は引き下がって紫の霧の中へと消えた。

 だがその瞬間、左前方の霧の中からもう一匹のインフェクテッド・ウルフが飛び出して襲い掛かる。


 グルルルァァッ!


「バレット・バリア!」


 ダァン!


「オズ ムロス!」


 何とかこちらも防ぎきる。

 だが状況は非常に悪い。

 持久戦には耐え切れない。

 クロリィちゃんの集中力がいつまでもつか分からないし、そもそも俺の魔法銃の弾丸が尽きる。

 ガンナートランス・イージス発動中はマナを消費し続ける上に、銃を持つ手をスキルで自動操作しているからリロード出来ないのだ。

 だがスキルを解けば、この至近距離からの突発攻撃に反応しきれねぇ。


「……クロリィちゃん」

「……テラ ギガントゥム レプータタ……」


 クロリィちゃんは何か長い詠唱、大技を試みているようだ。

 詠唱を潰されない様に守り切るしかねぇ。


 グルルルァァッ!


「バレット・バリア!」


 ダァン! パァ――ン!


 ゴガァァァッ ガアァッ!


「バレット・バリア!」


 ダァン! パァ――ン! パァン! ダァン!


 前後からの同時攻撃。

 今度はクロリィちゃんの支援もねぇ。

 使用する弾丸の量も倍増、カートリッジの弾ももうすぐ尽きる。


 キャゥンッ!


 後ろから襲い掛かっていたウルフが突如悲鳴のような叫びを上げ、姿を消した。

 それを不審に思ったのか、前から襲っていたウルフも身を引いて距離をとる。

 そしてようやくマッシューマーのガスが尽きたのか、徐々に周囲の紫の霧が晴れていった。



 ―――――――― 森の小道 ――――――――


 _______木______骨マ______

 __マ骨_______骨__木骨木_____

 木_骨木___骨______________

 _____骨______骨____腕____

 _________骨_____狼腕_腕___

 ____骨__骨______狼狼___肩__

 ____骨_____クル__狼狼___頭__

 ________骨______狼腕_肩___

 _____骨_____骨_____腕____

 __木骨木_________骨_______

 ___マ骨____骨____木__木骨___

 _______木_________骨マ___


 木:森の木々

 マ:足をもがれて横たわるマッシューマー。全てスケルタルナイト達が見つけて戦い止めが刺されている。おそらくインフェクテッド・ウルフが足をもいで木に隠しながら配置したのだろう。

 骨:スケルタルナイト達。視界がほぼ無い中、インフェクテッド・ウルフだけでなくマッシューマーとも戦っていたらしい。彼らが止めを刺したお陰で噴出する幻惑ガスが収まったようだ。

 ク:大技を使って少し披露気味のクロリィちゃん。

 ル:残弾が尽きて冷や汗状態で後ろを振り向くルーサー。

 頭、肩、腕:上半身だけが地面から生えた形の、骨で出来た巨人。巨体のインフェクテッド・ウルフの頭と腰を巨大な手で掴んで持ち上げ、捻っている。

 狼:骨の巨人に掴み上げられて捻られて手足をジタバタさせているインフェクテッド・ウルフ。もう一匹の方は遠くに逃げた。


 ――――――――――――――――――――――


 霧が晴れて行く中、俺は後ろを振り返って仰天した。

 タイタンやミノタウロスに匹敵するサイズの骨の巨人の上半身が地面から生えてインフェクテッド・ウルフの頭と腰を両手で掴み上げ、捻り潰そうとしている。


 ギリ、ギリリリリ

 ゴキッ キャゥン

 ポキッ ゴキィ


 インフェクテッド・ウルフは手足をジタバタさせているが、只空中をひっかいているだけである。

 骨の巨人の握力は強く、どうあがいても逃れる事が出来そうにない。


「クロリィちゃん、これクロリィちゃんのネクロマンシーの術か?」

「はぁ……はぁ……。

 そうじゃ。

 スケルタルナイトを150体程消耗してしまったがな。

 アース・ボーン・ジャイアント。

 自分が生えている地面から動く事は出来んが手の届く範囲内ではこの世で最強の力持ち。

 城の城壁だって粉砕するじゃろう」


「凄いな。

 過去に魔王軍のネクロマンサーと何度か戦ったが、こんなものは見たことが無いぞ」

「わしは既にネクロマンサーの求道者じゃ。

 故に独自の術を追求し、アース・ボーン・ジャイアントもその過程で生み出したわしのオリジナル人造魔獣。

 ニールとやらも度肝を抜かれたはずじゃ」


 ゴキゴキゴキゴキィ

 ボタボタ クピィ

 グチャッ! ブチィ!


 アース・ボーン・ジャイアントに掴まれていたインフェクテッド・ウルフは胴体を2回ほど回転するように捩じられ、二つに折りたたまれた挙句、4本の脚、胴と頭をモギモギされて地面にバラバラに転がった。

 もうこの様子では戦えないだろう。

 俺は空のカートリッジを排出し、火炎弾(ファイヤ・シェル)のカートリッジをリロードした。

 そして銃口をバラバラになったインフェクテッド・ウルフの死体に向ける。


「取りあえずまた繋ぎ合わさって追いかけて来ないとも限らねぇ。

 完全焼却するぜ」


 パァン ボワッ!

 パァン ボワッ!


 火炎弾(ファイヤ・シェル)が命中するたびにインフェクテッド・ウルフの死体から上がる炎が大きくなり、焼き尽くしていった。


 ***


「……巨人の骨の匂いが周囲のスケルタルナイトと同じだったから出現に気付かなかったぜ。

 中々やりやがるあのババァ。

 やはり既に求道者だったという訳か。

 だがそれは俺も同じ事」

「ニールよ、やり方に口出しはしないが結果は出して貰わなければ困るぞ」


 ニールは宝珠に向き合ったまま視線を動かさず、不気味なオーラを漂わせながら言った。


「至急、今から言う素材を追加で集めさせろ。

 ムラサキハリガネムシ2匹、先端の細い金属製の針、3センチサイズのエメラルド2個、ベノム毒1瓶に牛の脂、最後の素材は後で教える」


 二人の近衛兵は抗議した。


「そんな物、急に言われて集められるか!」

「インフェクテッド・ウルフの素材だって見つけるのに苦労したんだぞ!

 何十という人間に手配して、何日もかけて」


 ウオラは黙って自分の被っていた王冠を外した。

 そして中央の突起部分の飾りの一部となっていた、二つのエメラルドを強引に外し、宝珠の方を向いたままのニールに手渡しする。

 そして血走った目で二人の近衛兵を睨みつける。


「近くに錬金術師の店があったし、ハリガネムシがいそうな川もあっただろう。

 早く探してこい」

「りょ、了解しました」

「行ってまいります」

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