魔法銃士ルーサー、クロリィちゃんと共にスケルタルナイト達を引き連れる
ついに俺は光輝の陣営の戦死者の集合墓地に辿り着いた。
この世界は魔王軍との苛烈で大規模な戦いがたびたび起こり、そのたびに各地でこういう集合墓地が作られる。
この墓地もドーラ奪還の際の激闘による戦死者5000名の遺体が眠っている。
俺は馬から先に降り、クロリィちゃんが降りるのを支えて手伝った。
そして二人で、等間隔で地面に延々と並ぶ木製の簡素な墓標を見回し、黙って手を合わせた。
ここには俺と顔見知りだった兵士達も何人も埋められている。
ドーラは魔王軍の攻勢を覆し、逆に攻め入る為の重要な拠点だった。
それ故に勇者サリー達も俺も血みどろの戦いを経て、多くの犠牲を出しながら奪取したのだ。
未来に有る平和を信じて。
これほどの犠牲を出して辿り着いた最前線のレッドホーン前哨基地から、サリー達が撤退をする選択肢は絶対に取らない。
俺は初めからそれは良く分かっていた。
「皆、安らかに眠っている所悪いが、もう一度だけ戦って欲しい。
ドーラの人々を守る為、そして人類を守り、平和な未来を勝ち取るために。
皆の力が無ければドーラは再び地獄へと堕ちる」
しばらくの黙とうの後、クロリィちゃんが前に歩み出る。
「それでは始めるぞぃ?」
パンッ!
クロリィちゃんは音を立てて合掌した。
そして両手を左右に広げたり、上下に上げ下げしながら呪文を唱える。
「エゴ テネブリス エト ソーレ。
ドミノ サヴィ インフェリス。
ソナム ベリトレム エト グラシア メイス ヴォックス イテレム ステービィ」
ザザ……
バキバキバキ……ゴト……
集合墓地にある無数の木の墓標が揺れ動き、土がモコモコと盛り上がる。
そしてその下からは鎧兜に身を包んだスケルタルナイト達が、盾と剣を携えて立ち上がる。
総数5000体ほど。
クロリィちゃんはさらに片手を斜め前に上げてスケルタルナイト達に向け、呪文を詠唱する。
「シヴィス メタハント フォルティス ジェジュニウム ヌティリビタスティア」
クロリィちゃんの手から無数の黒い人魂が飛び出し、スケルタルナイト達の額に次々と吸い込まれていく。
始めは普通のそれほど強くはなさそうなスケルタルナイト達だったが、黒い人魂を一つ受ける毎に魔力が増大して動きが機敏になって行くのが俺には分かった。
流石はクロリィちゃん。
このスケルタルナイトは一体一体が達人級、一体でベテラン戦士三人は相手出来るだろう。
「ルーサーさん、それでは戻るぞい」
「あぁ。
ほら、手伝うよ。よいしょっと」
俺はクロリィちゃんを馬に載せ、自分もその後ろに乗る。
そして元来た道を戻る様に馬を歩かせた。
ザザザザッ、ザザザザッ
5000体のスケルタルナイトは、風にでも乗ったように滑る様な機敏さで後ろを付いて来る。
しかも全員周囲への注意を怠らず、動きに無駄も無く、隙も無い。
統制された素早い動きは、そこらのダンジョンに出るスケルトンの比ではない。
うん。
こりゃクロリィちゃんが本気になれば町一つ滅ぼせるな。
***
ドーラ防衛本部では3名の兵士が報告に駆け付けていた。
「チェスターさん!
ゾンビ突撃の2回目が同じ場所に来ました!」
「どこだ?」
「ドーラの東、ケニーが守っている場所です!
2回目の特攻ではゾンビが3匹襲撃を仕掛けてきました!
ケニーが必死で防柵の隙間から槍で突いて対抗し、弓兵が矢を外しまくって苦戦してたところを巡回していた騎兵隊チームが見つけて援護に駆け付け、何とか撃退しました!」
「ケニーってあの……」
「うすのろケニーだな。
確かに敵は防衛の弱い箇所を見定めて探っているようだ」
チェスターは部屋の隅っこで待機していた待機槍兵隊の隊長を指さして指示した。
「次は大規模襲撃の可能性がある!
ケニーの所に20名援護に向かわせるんだ!」
「了解です!」
チェスターはさらに後ろに並んでいる兵士二人に尋ねる。
「あと他に2回目の襲撃が来た場所はどこだ?」
「ドーラ北西!
防柵に接する倉庫が有る場所です!」
「ドーラ南西!
テレンス爺さんの家のある崖に挟まれた道の先です!」
チェスターとユリアンは腕組みして一瞬沈黙した。
「ルーサー様が防衛計画を見て指摘した2箇所がピンポイントで狙われている……」
「ドーラ北西の倉庫は撤去しろと言っただろう!?
まだモタモタしてるのか!?」
兵士はユリアンに若干気圧されながら答える。
「私が報告に来る直前に持ち主の了解が取れました。
今頃は倉庫は撤去を行っているはずです」
「すぐ後ろの2軒の家はどうなんだ!?」
「それはその……流石に家を撤去することまではどちらも了承してくれませんでしたので、そのままです」
「なんだと!?」
「ユリアン、もう今からでは間に合わないだろう。
騎兵隊を率いて北西の援護に向かってくれ。
ルーサー様が指摘した一番の危険地帯の一つ、激しい戦いになる可能性が高い。
この町で一番の戦力である君の騎兵隊の力が必要だ」
「分かった!
今すぐ向かう!」
ユリアンは兵士と共に部屋を出た。
チェスターは最後の兵士に尋ねる。
「テレンス爺さんが立ち退く気配は全く無いのか!?」
「あの爺さんを説得するのは不可能です!
もはや出口付近のバリスタをもう一個追加するなりして固めるしかありません!」
チェスターは困り顔で目を閉じ、腕を組んでしばらく黙り込んだ。
そして熟考の末、兵士に指示する。
「ルーサー様の指摘通り、渓谷部分を町側に抜けた位置に防衛線を下げる。
既に防柵と落とし穴は準備出来ているな?」
「はい。
しかしテレンス爺さんを見殺しにするのですか?」
「あの手の爺さんは実際に見るまで分かってくれない。
妥協案として常に渓谷の外にある柵の様子をテレンス爺さんに見張らせろ。
ドーラの住民として最低限の使命、ドーラ防衛総指揮官の命令だ」
「了解しました!」
「そしてバリスタは内側の防衛線へと移動、弓兵20名を援護に向かわせる」
***
ドーラ北東の森の奥、少し開けた広場でミルトン王国の元王ウオラと二人の護衛騎士、そしてネクロマンサーのニールが陣を張っていた。
何十体というオークスケルトンとケンタウロスゾンビが三人を取り囲んで護衛している。
その中央でネクロマンサーのニールはあぐらをかいて両手を広げて上に上げ、アンデッド軍団を操りながら目の前の地面に置いた宝珠に集中している。
ウオラと二人の護衛騎士は傍に座って同じように宝珠を覗き込んでいる。
宝珠にはニールが視界を共有したゾンビやインフェクテッド・ウルフの見た光景が映っていた。
ウオラは不満そうにニールに言った。
「そんな1体ずつとか、3体ずつとかゾンビを送り込んでも意味が無いだろう?
私はドーラの住民が心底震えあがって怯え、恐怖と絶望で嘆き苦しむ様子が見たいのだ。
もっと大群を送ってプレッシャーを与えてくれなければつまらぬ」
「これは偵察。
故にあえて少数のゾンビを送っているのだ。
1体のゾンビが来たところで敵は舐め腐って気にしない、それが狙いだ。
裏に1万体のアンデッドが居るなど、しかもそれが実際に押し寄せるとどうなるかなど、想像もつかないで居て貰ったほうが都合がよい。
もし下手に警戒されてその地点の防衛をさらに固められては襲撃の本体がスムーズに入り込めないしな。
だが安心しろ。
お前の望むような恐怖と絶望のアンデッド襲撃は必ず行う。
突破するのに最良のポイントも2箇所ほど特定している。
ここへの襲撃を予測する事も、いざ襲撃を受けて対応しきる事も素人には不可能だ。
まして兵力の大部分が最前線に取られている状況で、お留守番の新米兵士共が守り切れるものではない」