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魔法銃士ルーサー、クロリィちゃんを護衛して光輝の陣営戦死者の集合墓地へ向かう

 俺はドーラの町を一周し、目に付く防衛の粗は全て指摘して本部へと戻った。

 アンデッド軍の到着予想時間は既に差し迫り、ドーラ防衛本部には緊迫した空気が流れている。


「チェスター。

 既に戦闘は始まっている。

 気持ちを引き締めて全身全霊を掛けて指揮をするんだ。

 お前は伊達にドーラ防衛の総司令官を任された訳じゃない。

 お前の采配能力は十分に敵に通用する。

 決して恐れず、そして侮らずにかかれ」

「はい!」


「ユリアン、騎兵隊の隊長であるお前は常に危険な最前線へと駆け付ける事になる。

 時にはチェスターの指示を仰ぐような余裕の無い状況もあるだろう。

 その時はお前の本能に従って隊長としての判断を下せ。

 今このドーラを防衛する兵士の中で、お前は一番のベテランだ。

 全員がお前を頼りにしている」

「了解であります!」


「それじゃぁ俺は、クロリィちゃんを連れてドーラから3キロほどにある戦死者の集合墓地へと向かう。

 行きは馬で遅くとも10分で到達、クロリィちゃんがネクロマンシーの秘術を発動するのに……」

「5分じゃな」


「5分、そして戻りはスケルタルナイトは徒歩となる。

 おそらく40分程は掛かるか……」

「加速の術を使えば倍ほどの速度で動く。

 20分くらいで戻れるじゃろう」


「と言う事だ。

 合計で40分程、何としても耐え凌ぐのだ」

「はい!」

「守り切って見せます!」


「では俺達は出発する、5分置きに魔導通話貝で連絡するからな」


 俺はクロリィちゃんと一緒に本部を出た。

 そして外に用意してあった馬にクロリィちゃんを乗せ、俺はその後ろに乗って手綱を取る。


「レッツ・ゴー!」


 ヒヒィ~~ン!


 馬は走り始めた。

 しばらく進むと街路の途中でナオミが小走りで急いでいるのに出くわした。

 ナオミは俺に気が付いて立ち止まる。

 そして俺がクロリィちゃんと一緒に馬に乗っているのを見ると状況を察し、手を振りながら見送る。


「ルーサーさぁん!

 必ず無事に帰ってきてくださぁい!

 絶対!

 絶対ですよぉ――!」


 俺は黙って片手を上げて答え、先へと進む。

 ナオミはドーラ防衛本部と町の人々との連絡役に当てられた。

 これはチェスターのアイデアだが、ナオミはドーラの町一番の美人、故にまぁモテる。

 そしてナオミの姿を町の人々も、訓練生達も目にする事で指揮が上がる。

 決してアンデッドを町に入れはしない……とな。

 立場的には冒険者ギルドのワスプさんとかの方が上ではあったんだが、彼は今頃は町の人々に万一に備えた自衛策を建物内でレクチャーしている事だろう。


 俺とクロリィちゃんはあっという間にドーラの門へと到達し、守っていた訓練生がさっと門を開けて敬礼する。

 そして俺達が門を出るとすぐさま門は閉じられた。

 集合墓地へと続く道を走りながら、目の前で背を向けているクロリィちゃんに語り掛ける。


「クロリィちゃん、協力してくれてありがとうな。

 クロリィちゃんがいなければ完全に詰んでたぜ」

「ドーラの町の皆はとても良い人々ばかりじゃ。

 自分達になんの得にもならないこのババァを案じて皆で気に掛けてくれたし、黙って持ち去る事が出来たゴールデン・ボーンを一人残らず自分から返してくれた。

 わしの家も今や新築同様、もうわしより先に崩れ落ちる事もないじゃろう。

 こんな良い人々を殺そうとする奴らなぞ、このクロリィが決して許さんわぃ」


「そうだな。

 俺もそんな事はさせはしないさ。

 ところでどうだ、今回襲ってくるであろうニールっていうネクロマンサー。

 何か知ってたりしないか?」

「あまり知らん。

 流石に師であるバルバトスの名は有名じゃがな。

 じゃが1万ものアンデッドを統制出来るとなれば、間違いなくネクロマンサーとしては上位、人々が言う所のグランドマスタークラスの使い手じゃ。

 そのクラスになればただ死体を操り、全ての既存のネクロマンシーの秘術を扱うだけの次元は越えておる。

 独自の術を開発したり、未知の死霊を使役したり、スーパーアンデッドレベルのクリーチャーを合成したりはやっておるじゃろう。

 そうなれば全てのネクロマンサーが知っている共通の知識の範囲外となる。

 そしてそれが、グランドマスタ―クラスのネクロマンサーの怖い所じゃ。

 奴が何を繰り出して来るかはこのわしにも予測不可能。

 気を抜けない戦いになるじゃろうな」


「やれやれ……厳しい戦いになりそうだな……。

 おっと、そろそろ5分か」


 俺は魔導通話貝を取り出した。


 カカ……ゴト……カチャ


「こちらルーサー、今のところ順調だ。

 そっちの様子は?」

「はい。

 ゾンビが一匹、北西の防柵へとフラフラと寄ってきていましたが近づかれる前に弓で倒しました。

 あと、西と東で巨大で毛の抜け落ちた狼、恐らくインフェクテッド・ウルフを目撃したそうです。

 遠巻きに見て防柵へ近づく様子は無く立ち去ったとの事。

 恐らくクロリィお婆さんのいう偵察ですよね?」


「5分の間に西と東に登場したか。

 つまりインフェクテッド・ウルフは2匹居ると言う事。

 そして西と東に同時に放って外周の偵察を行ったと言う事だ。

 決して気を抜くな、敵は今も襲い掛かる隙を伺っている」

「心得ました!

 それではどうかご無事で。

 ルーサー様とクロリィお婆ちゃんが速く戻られる事を祈っています」


 ***


 俺とクロリィちゃんは、平原を抜けて森の中の小道を馬で進んでいた。

 今の所自分達を襲うようなモンスターの気配はない。

 いや、静かすぎる。

 動物の気配すら感じない。


「こりゃぁ、森の動物達も危険を察知してどこかへ避難したのかもしれないな」

「確かに動物はカンが鋭いからのぅ。

 こんなヨボヨボのわしごときに、大きなイノシシすら全速力で逃げていくわい。

 逃げた跡に小便までまき散らしておったのは少し可哀相になったのぅ」


「はっはっは。

 実際クロリィちゃんに向かって突進してたらそのイノシシはどうなったんだ?」

「ボーン・マジックで仕留めてから、死体となったイノシシにしばらく自分で歩いてカフェーに来てもらって、おていさんに捌いて貰ったじゃろうな」


「命拾いしたな、そのイノシシ。

 おっとそろそろ5分か」


 カタタタ、ガチャ


「こちらルーサー、今森の道を進んでいるからあと少しで集合墓地へと到着する。

 そちらの様子はどうだ?」

「はい。

 あちこちでゾンビが防柵へと単独突撃をしているようですが、たった一体のゾンビ程度はバリスタを使うまでも有りません。

 弓兵訓練生達が尽く仕留めています。

 確かにアンデッド軍が攻めてきては居るのですが、ひょっとすると相手は用兵を知らない素人なのではないでしょうか?

 術者としては凄いのかも知れませんが、単独突撃なんて悪手もいいところです。

 ルーサー様、これは良い傾向ですよね?」


 いや……最悪の状況だ。


「ゾンビはドーラのどの方面に今まで攻めてきた?」

「そうですねぇ――、全周くまなくですかねぇ。

 大体の場所でゾンビ一匹登場と撃退の報告が上がっています」


「気持ちを引き締めるんだチェスター。

 そのゾンビは全て威力偵察、ドーラの町の防衛、連携、個人の実力や注意力の弱い『穴』を探っている。

 ネクロマンサーのニールの情報が乏しくて実力までは推測しきれなかったが今回の動きで分かった。

 相手は相当に戦争に慣れている、いや、慣れ切った古参の将軍級の実力者だ」


「ええぇぇぇ!?

 どっ、どうしましょう?

 私はどうすれば良いですか?」

「落ち着け。

 いいか?

 そのゾンビの単騎突撃、2度目が同じ箇所に来たら要注意。

 即座に防衛の援護に入れるように騎兵や待機兵を近くに移動させろ。

 そしてゾンビの単騎突撃、3度目が同じ箇所に来たら警報だ。

 それは敵にとっての最終確認。

 遠くない未来に大軍での激しいラッシュが来る可能性が高い。

 相手は1万体居る。

 気の遠くなるような激しい持続戦闘も出来るし、見た者が意識を失いそうになるほどの大群となって押し寄せる事も出来る」


「な、なるほど!」

「敵軍の突撃のサインを決して見誤るな!

 必ず大群がどこかに押し寄せる。

 それを撃退出来るかどうかは、お前の判断と采配に掛かっている!」


「はい!

 必ずカウンターとなる兵士達を突撃ポイントにピンポイントで当てて見せます!」

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