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勇者パーティー、魔王軍の総攻撃に備える

 光輝の陣営と魔王軍の戦争の最前線のレッドホーン前哨基地。

 指令室の机を勇者サリー、辺境の魔導士キャロル、戦闘鬼神テンライ、奇跡の聖女セレナと、スラール隊長を含む多数の将軍達が取り囲んで座っていた。

 現場にはビリビリと張り詰めた空気が流れ、机に広げた周辺地図の上には光輝の軍と魔王軍を示す駒がずらりと並んでいる。

 招集可能な全戦力を集めたとはいえ、戦力差はおよそ5対3で不利。

 そしてその状況に加え、さらに悪い知らせ、ドーラへのアンデッド軍襲撃予測の報が伝わった直後であった。

 将軍の一人が冷や汗を流しながら言った。


「サリー様。

 ドーラが落ちれば我々は補給を断たれ、数手先ではじり貧からの挟撃を受けます。

 そうなれば我々が壊滅して連鎖的に魔王軍の侵攻が起こり、今までの戦争で築き上げた全てを失い、光輝の陣営の全ての国が魔王軍に屈する結果になりかねません!

 何としても援軍を送るべきです」


 スラール隊長も震える声で訴える。


「この間はたまたま魔王軍のスパイによる光輝の陣営戦力情報の持ち出しが冒険者ギルドの力で阻止されました。

 秘密が守られたお陰で攻められずに済んでいますが、本当は際どい箇所が多いのです。

 しかし最前線が落ちて魔王軍が侵攻し始めれば全てが露見するでしょう。

 そうなれば世界に地獄が訪れます。

 ここはその……勇気をもって全軍でドーラまで後退すべきです」


 サリーは呻くように言った。


「駄目よ。

 今の戦力での戦いですらギリギリの状況。

 ドーラへ割ける兵など一人として居ないわ。

 そしてドーラへの後退もあり得ない。

 このレッドホーン前哨基地と周囲の地形が最も迎撃に適しているのよ。

 川や海、山や崖といった天然の要塞で進入路が制限されつつ、私達の得意とする突撃しての奇襲作戦に出れるルートも多い。

 それに対してドーラでは多数の魔王軍相手に凌げる優位な地形とは言えない。

 私達がドーラまで後退したところで、魔王軍全軍の襲撃に対して持ちこたえられない。

 壊滅を早めるだけよ」


 キャロルが将軍達を見回しながら言った。


「本当にもう戦力は残ってないの?

 ほんの搾りかすほども?」

「全ての国が出せる戦力全てを出しています。

 ジョロネロ国やミルトン王国もです」


「冒険者ギルドや傭兵ギルドは?」

「私が冒険者ギルドの志願兵の代表です。

 国から高額報酬が提示されていたので実力と自信のある者はほぼ集まって来てると言えるでしょう。

 聞くところによれば他国の冒険者ギルドも同じとの事」

「私は傭兵ギルドの代表です。

 こちらも同様、名の有る兵団全てが参加しています」


 テンライが腕組みしながらしかめっ面で言った。


「アンデッド軍のリーダー、ニールと言う奴について知っている者は?」


 小太りの男が手を上げて答えた。


「情報源は明かす事は出来ませんが、ニールと言う男についてこちらで調べ上げています。

 彼は以前、サリー様達を苦戦させた魔王軍幹部にてネクロマンサーのバルバトスの弟子であり、バルバトスが率いる戦いに何度も追従して何十と言う戦場での戦いを経験しています。

 バルバトスにも最も実力がある弟子だと有望視されていたそうです。

 ミルトン王国を襲撃した際、死んだオーク兵やケンタウロス兵をアンデッドにして戦う事を提案し、他の将軍達全員の反感を買って全権を剥奪されていたそうです。

 彼はアンデッド軍を率いる将として、戦争を知り尽くしています。

 内部的に干されてはいましたが、おそらくミルトン王国襲撃に参加した中では一番の隠れた実力者であったと思われます」


 サリーはため息をつく。


「で?

 今のドーラの総戦力と指揮官は?」

「スラール隊の訓練生300名程。

 総指揮をするのは士官候補生のチェスター。

 彼は2年の兵団所属経験があり、何度か魔王軍との戦いに参加しましたが後方支援と輸送隊の防衛だけ。

 本当の実戦経験はオーク兵30体から輸送隊を守った一戦のみ。

 勿論戦いの指揮の実戦経験は有りません。

 さらに残された訓練生も5割ほどは素振りを覚え始めて2週間と言うレベル。

 まだ統率の取れた行動を出来るレベルに有りません。

 とても実戦など無理で足手まといにしかならないと思い、この最前線への招集から外しているのです」


「……馬鹿じゃないのっ!

 そんな奴らにアンデッド軍1万から町を守り切れるというのっ!?」

「……ごもっともです」


「士官候補生一人に全権任せて上手くいく訳が無いでしょう!?

 せめて……せめて退役した老人兵士でもいいから補佐に付けなさいよっ!

 戦争を甘く見てるんじゃないの!?

 どうなのよスラール!?」

「……私としても苦渋の選択で……」


「兵を率いた経験者くらい探せば何処かにいるでしょう!?」

「……はい。

 今、チェスターの傍にはルーサー様が付いています」


 サリーは一瞬あんぐりと口を開け、苦し気に俯いていたテンライ、キャロル、セレナが一斉に顔を上げた。

 サリーは少し声を落ち着かせて言った。


「ルーサーがドーラに居る?

 そしてその士官候補生の補佐をしている。

 間違いは無いわね?」

「はい」


 サリーは背筋を伸ばして息を吸った後、落ち着いた強い声で言った。


「ドーラへの増援は無し。

 私達はこのレッドホーン前哨基地を全力をもって死守します」

「ま、待って下さい!

 ドーラを見捨てるとおっしゃるのですか?

 テンライ様、セレナ様、キャロル様。

 本当に良いのですか!?」


「ルーサーが後ろを守ると言ってヘマをした事は無い。

 俺達はいつも通り目の前の敵との戦いに集中する」

「あの人なら何とかしてくれそうな気がしますね」

「何故か分からないけどあいつ、守るのが上手いのよね。

 ほんっとに何故か分からないんだけど信じられない状況で勝つのよ」


 サリーが言った。


「私は攻撃の戦いを得意として数多の戦場を巡り、攻撃の兵法を蓄積している。

 ルーサーは防衛を得意として防衛の兵法を蓄積している。

 だから私は攻撃の戦いではアイツに分からない先が見えるけど、防衛の戦いではアイツに見えている先は私には分からない。

 今、この瞬間にアイツを超える防衛戦の軍師は世界に居ないわ。

 私にはまったく勝ち筋は見えないし、どうやるのか見当もつかないけど、アイツは恐らくドーラを守り切る。

 予想外な展開だけど、ルーサーを残してきて結果的には良かったわ」

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