異世界転移者ミツール、アイオラ・ポートの裏路地でゴロツキに出会う
ミツール達はミルトン王国の一件で得たお金を元に装備を充実される為、アイオラ・ポートへと来ていた。
世界最大の貿易都市と言うだけあり、港を歩いても常に多数の貿易船が係留され、町はいくつもの大通り沿いに多数の商店が並び、下手をすれば迷いそうなほど広い。
ミツール達は大通りを歩いて既に3軒目の武器屋、5件目の防具屋を見終えたところであった。
「ミツール殿、やはりさっきの武器屋で決めてしまいませんか?
最初の2軒より段違いに安かったですし、防具込みでミツール殿もミスリルソードが買える範囲内でしたよ?」
「いや、まだこの町の大通りの半分も見てないからまだ激安店が有るかも知れないじゃないか。
時間はたっぷりあるんだし、全部の店を見てから決めるのは変えないから」
「ミツール、それじゃぁ日が暮れちまうぞ」
「私は全部の店を見回ってもいいわよ?
どんなブランド物のお宝が発掘出来るか分からないし」
「もう日が傾いてますし、宿屋の予約をしておいた方がいいですねぇ。
私が予約してきましょうか?
2番目道路にあったピエローハットホテル、あそこ良心的価格で設備も充実してますから。
何度か他のパーティーに居た時に泊ったことがあるので」
「すいません、お願いしますフィリップさん」
「フィリップさん、よろしく。
それじゃぁ次の店を探して……というかトイレ行きたくなって来たなぁ」
「分かりました、行ってまいります」
「冒険者パーティーの方ですかぁ?」
フィリップさんが立ち去った後、二人組の若くて露出の多い女性が歩み寄って話しかけてきた。
「押し売り? 僕達急いでるんで」
「そうは言わずにそこの店内にあの超有名芸術家、ミカエルシュタットのイルカの絵が何枚も置いてあるんですよ。
実物を見れる機会なんて滅多に無いですし、少しだけ見ていきません?
聞いたこと有るでしょミカエルシュタット、ね?」
「確かに聞いた事あるかなぁ」
「凄い綺麗で本物みたいなイルカの絵を描く人よね?」
「流石はお美しい姫騎士様!
美術に関する造詣が深いご様子!
少しだけ、いや、10分、10分間だけでいいから皆さんで見ていきましょうよ!
アクセサリーも有りますよ?」
「アクセサリーも!?
ねぇ皆ちょっとだけ行きましょうよ」
「あたしはどっちでもいいよ」
「ダイヤさん、そんな時間の余裕は無いですよ、ミツール殿、そうですよね?」
「……ちょっとだけ僕離れるんで、その間だけなら皆で見てていいよ」
「決まり!
さぁ、皆さんこちらへどうぞ――」
ダイヤ、サーキ、エリックは女の子二人に招かれて建物の中へと入って行った。
ミツールは周囲をキョロキョロ見回し、建物と建物の間、裏路地の奥へと駆け込む。
そして一番奥の大きな箱の影へ移動すると、おもむろにズボンを下ろし、いわゆる立っしょんをし始めた。
勿論この世界であっても人間の町では非常識な事で、普通はやってはいけない事である。
「ふぅぅ……、公衆トイレとか無いと困るよなぁ」
ミツールは用を終えると、箱の影から歩み出た。
「おうおうおう、兄ちゃん、街中で立っしょんなんざしちゃいけねぇぞ」
「あちゃー、こりゃ許されんよなぁ――!」
「こりゃ衛兵に突き出さざるを得ないよなぁ」
明らかに危なそうな3人組が立っていた。
中央の一人はミツールが見上げる程に身長が高くて体格も大きく、半分シャドーが掛かったようなサングラスをかけて、筋肉質な腕をポケットに入れて見下ろしている。
左の一人は痩せた男だが片手にナイフを取り出してチラチラ見せびらかしている。
右の一人は小柄なおとこだがニヤニヤしながらミツールを眺めていた。
「なんだよ、仕方が無いだろう?
我慢できなかったんだから」
「……っこいつビビってるよぉ!」
「ガハハハハハ!
兄ちゃんよぉ、怖くて震えてないでよぉ、有り金全部俺達によこせよ。
こんな怖そうな人たちに絡まれて、怪我したりしたくないだろう?」
「あんまり虐めてやるなよ、可哀相じゃねぇか」
「嫌だよ衛兵に言われるならともかくお前らは関係無いだろぉ?」
中央の大男はミツールの前、至近距離に歩み出て眉間にしわを立てながら至近距離で見下ろして威圧した。
「子犬が怖くて震えながらか細い声でキャンキャン吠えてるんじゃねぇ。
いいから有り金全部差し出しな、今すぐだ」
ミツールは少し黙ってから答えた。
「あんた強そうだなぁ。
今までずっと色んな怯える子犬を何人も威圧して、ボコって無敗って感じすか?
怖いもの無しですか?」
「当たり前だろう、お前はその何百人もの怯える子犬の一人でしかねぇんだよ。
早く金出せやコラ」
ミツールは答えた。
「怖くてチビりそうな強敵と勇気を出して震えながら戦った経験も無い様な、温室育ちのヘタレなんて眼中に無いすね。
お前らじゃ相手にならないから黙って道を開けてくれる?」
それを聞いた左のやせ男が刃物を見せびらかしてミツールの方に突き出しながら大声で叫んだ。
「おおぅ? イキっとるんじゃうぞぅ? コラ?
八つ裂きにすっぞ!?」
ミツールは腰に下げた剣に一瞬手を掛けそうになったが、やっぱり近くに立て掛けていた棒を拾って言った。
「君らのせいで大勢が泣いたんなら、少々痛めつけてあげないといけないかもね。
それにしてもたった3人で優勢取ってるつもりすか、お笑いですね」
「何だとコラ!
おらやっちまぇぇ!
ボコボコにして骨折させて血達磨にしたれやぁ!」
ゴロツキ3人組は揃ってミツールに飛び掛かった。
ミツールはさっとすり抜けて中央のデブの頭頂部を、頭蓋骨を割らない程度に手加減して棒で殴った。
バコッ!
「ぐああああぁぁぁ――!
畜生コラ舐めんじゃねぇぇ――!」
中央の漢は足をガクガクさせながらもちっぽけな根性で振り向き、ミツールに掴みかかろうとする。
だがその手の動きは、修羅場をくぐりブラーディの修行を耐えたミツールから見れば戦闘というものを舐め切った無器用なスットロイ動きであった。
バキッ
中央の男の手首を多少強めに叩き落とす。
ちょっと骨が一本くらいはイッたかも知れない。
「アギィィィ――!
ヒィィ――、いってぇぇぇ――!」
中央の男は地面をのたうち、ゴロゴロ転がりながら悲鳴を上げた。
「おらぁイッたるぞコラァ!」
左のやせ男がナイフを突き出して来る。
そんなもの、オーク正規兵が振り回す斧や鉈に比べればハナクソみたいなものである。
バキィ!
「ギャアアアア――!
いってぇぇぇ!
いてぇよぉぉう!」
「戦場じゃそんな痛がって泣きわめいて地面転がってたら死ぬよ?」
右の最後の一人は冷や汗をかきながら後退し、反転して逃げ出そうとしていた。
だがその走りは子供の掛けっこレベル、命懸けでミノタウロスの踏みつけを走り回りながら回避してきたミツールは一瞬で追い抜き、その小男の脛を棒で殴った。
バコッ!
「いってぇぇぇ――!
ヒィィィ――!
許してくれぇ、許して下さいお願いします。
お願いしますぅぅ」
「アホか。
戦場で敵が許してくれるわけねぇだろ。
お前らに比べればオオネズミのラッグの方がはるかに大物だよ。
これに懲りたら二度とこんな真似すんな。
また僕がこの町にくる機会があったら、お前らがまだ続けてたら次は無事じゃ済まさないからね」
「助けてくれぇぇ、もう重傷だよぉぉ」
「……ったく、重症なんだった勝手に死んでろ」
ミツールは裏路地から大通りへと戻った。
エリックとサーキとダイヤは既に店の中から戻り、大通りでミツールを待っていた。
「終わったの?」
「ミツール殿……なんか100万ゴールドとか300万ゴールドの絵を物凄い売り付けられそうになりましたよ……」
「巨大な絵画の前に座らされてさぁ、『どうです? この絵が貴方の部屋にあったらステキでしょう?』って言われてさぁ。
要らねぇっての」
「アクセサリもいかにも安物の粗末な作りでちょっと3000円じゃ買う気にならなかったわねぇ。
あんなの子供の玩具かお菓子のオマケレベル。
私の鑑定眼を舐めすぎよ」
「そうかぁ、じゃぁ次の店いこうか」
「そうですね」
「フィリップさんが予約してくれたホテル、お風呂が綺麗だといいなぁ」
ミツールは自分が異世界に来た当初夢見ていた、いわゆる定番展開をごく当たり前に行った。
だが想像と違ったのは、ゴロツキが恐ろしくて憎い相手では無く、只の弱者、一般人以下の弱者でしかない事であった。




