魔法銃士ルーサー、久々に畑を弄る
俺はニシキの一件が片付いた後、たけのこ村へと帰っていた。
再びおたゑちゃんに夕飯をご馳走になって眠り、翌朝起きて再び朝ごはんを頂く。
朝食はご飯に味噌汁、海苔に漬物、そして一夜干しした魚を焼いたものである。
「旨ぇ、旨ぇよおたゑちゃん。
こんなリッチな食事を食べる事が出来て俺は幸せもんだよ」
「ホヘフヒハホフヒャヒャ(ほめ過ぎだよルーサーさん)」
「いや、町の宿屋とか料理店では確かに見た目は旨そうな食事に見えるし、食べたらそれなりに錯覚するんだがな?
実際は連中も商売だからどれだけ安くて少ない材料で誤魔化すかを追求してる。
それに味付けも異常に甘み、塩気が多いから余計に喉が渇いたり、ご飯ものを追加注文したくなる。
味噌汁一つとってもだ、おたゑちゃんの作ったものはこれ、煮干しから出汁を取って葱や揚げだけじゃなく、小松菜やカボチャ、他にも色々入っているだろう?
町の味噌汁はもっと貧相な内容だよ。
町の飲食店は俺達をひたすら餓鬼のように飢えを誘いながらオーガの様に太らせようとして来る。
栄養も体への優しさも段違いだ」
「ホウハヘヘ、ハヒホホヘハホ(そうだねぇ。町の人は運動しない仕事の人は太っている人が増えてきているねぇ)」
「そうだろう?
あ、でも俺もおたゑちゃんにお世話になってばかりだと悪いからな、野菜を育ててたんだよ。
最近忙しくて離れてしまってた。
ちょっとこれ食べ終わったら見てくるぜ」
「フヒハヒハヘヘハ(無理はしないでねぇ)」
***
俺は食事を終えると、自分用の畑へ様子を見に行った。
ふと見ると既にノーバちゃんが畑の草むしりをしていた。
「おはようノーバちゃん」
「おはようルーサーしゃん。
久しぶりだねぇ」
「いやぁ、仕事で色々あって畑を弄れなかったんだよね。
さぁて、どうなってるかなぁ?」
――――――― ルーサーの畑 ――――――――
拡張レベル:1
土質:黒土
追加肥料:無し
マ葱葱葱葱葱葱葱マ
ニ黄黄金黄黄□□葱
玉赤木豆妖赤金赤玉
玉黄黄黄豆豆誇黄玉
ニ□青青金青青青玉
マニニ 赤白白白白マ
木:スモールトレント。
射程3の雑草抜きや害虫追い払いをする。
射程4に近づいた有害動物を叩いて追い払う。
射程5に近づいた有害動物には顔と声で威嚇する。
高さ120センチほどまで伸びてゆっくりした動きで周囲の雑草を抜いて食べている。
健やかな顔をしている。
誇:スモールトレント。
詳細はもう一つのスモールトレントと同じ。
ルーサーが畑に現れたのを見て、胸をはってふんぞり返り、ドヤ顔をしている。
葱:葱。高さ70センチほどまで伸びてきて青々と茂っている。
白く太い茎はどれもまっすぐに伸びている。
ニ:ニンニク。高さ50センチほどまで伸びてきて青々と茂っている。
球根部分、ニンニクの食す部分は丸々と大きく太っている。
玉:玉ねぎ。葉っぱ部分が高さ70センチほどまで伸びてきて青々と茂っている。
玉ねぎ本体も丸く大きく育っている。
赤:キュアハーブ。まっすぐ上に伸びた茎に、らせん状に赤く肉厚の葉っぱを茂らせている。
黄:ヒールハーブ。キュアハーブよりは細長い肉厚の青い葉っぱをびっしり茂らせている。
青:マジックハーブ。球根から多数の青い肉厚の葉っぱが伸びている。
白:ホワイトフラワー。高さ50センチくらいまで伸びて百合の様な花が咲いている。
マ:マンドレイク。高さ20センチまで育っており、根元では顔と胸部分が土から露出している。
豆:ソラマメ。高さ1メートルくらいまでまっすぐな茎が伸び、丸々太った鞘付きのマメがびっしり生えている。
妖:バンシュ地方に行ったときに貰ったピクシー・カタクリ。
白い花と花近くの複数の葉がゆっくりと踊る様に動き続けている。
金:ハーブが変異して、金色の薬草になっている。
これは超レアハーブのエリキシル草。
エリクサーの材料となり、超高価。
―――――――――――――――――――
「おおお、スゲェ。
もう全部収穫時期だよな?」
「そうだねぇ。
収穫しゅるなら間違ってマンドレイクば抜かないようにね」
「しかしこの金色の奴、エリキシル草だろう?
畑で生えているなんて聞いた事もねぇよ。
普通は断崖絶壁の半ばとか、凶悪な野獣が棲む山の奥地にしかないレアハーブだぞ。
これ元は普通のハーブだったのか!
しかし何が起こったんだ?
こういう突然変異って良くあるのかい?」
「何十年も農業ばやってきていちども見たこつが無いねぇ。
多分これはピクシー・カタクリの効果だねぇ」
「そういやハーフ・ドライアードのカメリアに貰った時、周囲の野菜の成長を促進する効果があると言ってたな。
こんな突然変異まで引き起こすのか」
「ほぉう。ルーサーしゃんはこればハーフ・ドライアードに貰ったんかえ?」
「あぁ、農地を使えなくしていた魔導起爆壺の除去、エビルアニマルの大群退治のクエストを終えた後にな」
「そのハーフ・ドライアードは年頃の娘だったかえ?」
「まぁ姿はそうだが、アイツらエルフと同様に長寿で若さを保つからなぁ。
年齢までは聞かなかったなぁ」
「ピクシー・カタクリの花言葉は初恋。
ハーフ・ドライアードの娘は普通はこんな貴重な花は、一生に一度、特別な相手にしかプレゼントしぇんよ。
花言葉通りの相手にしかね」
「……えっ?」
「はっはっはっは、ルーサーしゃんもモテモテだねぇ。
こりゃリンシンさんところのリンリーちゃんもうかうかしてられないねぇ。
ハーフ・ドライアードの娘は美人さんが多いからねぇ」
「そういう事か……。なんか受け取った時、態度が変だとは思ったんだよなぁ。
まぁいいや、取りあえずマンドレイク以外は収穫して錬金術師にエリクサーも作ってもらうか。
とっておきとして持ってた物はこの間使っちまったからな」
2本のスモールトレントはドヤ顔で無言でルーサーの方を見ている。
「分かってるよ。
お前らが俺が居ない間に丁寧に面倒見てくれてたんだろう?
ありがとうな。
また頼むぜ」
***
人里離れた山小屋で、全身に鎧を付けた5人の男が巨大な狼の体を押さえつけていた。
オオカミは口に太い棒を噛まされた状態で唸る。
グルルルルル! ウガッ! ガウウゥゥ!
オオカミは暴れようとするが、狼首根っこを一人が必死で抱え込んで押さえつけ、狼の手足を他の男達が必死で押さえつける。
最後の一人が震えながらポイズンランドシャークの牙を慎重に革袋から取り出し、狼のうねる背筋の上、首筋の後ろに隙を見て突き刺す。
ウガアァァァッ! ガアァァァッ!
狼はさらに暴れようともがき、男たちは必死でしがみ付いて抑える。
ガクガクガク……ドサッ
ポイズンランドシャークの牙の芯の空洞に貯め込まれた緑色の液体が半分注ぎ込まれる。
数秒の後、狼は泡を吹いてその場に倒れ、動かなくなった。
「急げ! 急いで布を巻いて目を塞ぐんだ!
目覚めたら手を付けられなくなるはずだ!
オーク兵達を殺戮して回る程の怪物に化けるそうだからな!」
「急げ! 布だ!」
「重てぇ、ちょっとそっちを持ち上げろ!」
男達は筋骨隆々としているが只の山男とは言えない綺麗な身なりをしている。
彼らはウオラ元王の忠実な部下であり、ウオラ元王がミルトン王国にも秘密にしている裏金で雇った、汚い仕事を高額で請け負う連中である。
彼らは牢獄でネクロマンサーのニールが作った魔道具と薬液でインフェクテッド・ウルフの作成をしていたのである。
近くには二つの巨大な金属製の檻があり、一つにはまだ施術されていない狼が入れられ、唸り声を上げながら男達を睨みつけている。
「ふぅぅ、終わったぜ。
生かしたままやるってのが大仕事だな。
討伐するほうがいくらかマシだぜ」
「この大きさになって来ると全身鎧で固めてても一人じゃやられるぞ」
「よし、もう一匹の方に掛かるぞ」