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魔法銃士ルーサー、ミツールのスキル継承を見守る

 広場にて、ミツールとブラーディ、そしてミツールパーティーのメンバーと俺とナオミが集まっていた。

 中央ではブラーディ流の剣術スキルを教える為、ミツールと剣聖ブラーディが立っており、二人の前には2メートル程の間隔を開けて二つの丸椅子が置かれている。

 丸椅子の上にはそれぞれ火のついたロウソクの立つ燭台、火が付いていないロウソクの立つ燭台が置かれている。

 他の者は距離を置いてその様子を見守っており、フィリップさんだけは何かの本を熱心に読みながら書き物をしている。


「ブラーディ様、この二つの燭台でどうするんです?」

「まずはよく見ておくのじゃ」


 ブラーディ様は剣を抜いて持ち手を大きく後ろに引いた体勢で構える。

 そしてシュッと剣で二つの燭台の上を水平に薙ぎ払った。


 シュッ、ボワァ……。


 薙ぎ払いで最初に刃が通り抜けた燭台に灯っていた火が消え、代わりに後で刃が通り抜けた燭台に火が灯る。


「おおぉぉ!

 火が二つの燭台の間を飛び移った!

 手品ですか?」

「手品では無い。

 分かりやすくする為に、次はゆっくりとやるぞ?」


 ブラーディ様は今度は反対向きに剣を構え、超スローで水平に薙ぎ払う。

 炎が灯ったロウソクの上を刃が通り抜ける瞬間、炎は刃に吸い込まれるようにして移動した。

 そして次の燭台へと刃が動いている間、剣の先端がうっすらと小さな炎に包まれ、炎が揺らめいている。

 最後に次のロウソクの到達した時、今度は刃先からロウソクへと炎が飛び移った。


「おおぉぉ!」

「刀身にこの世の魔法で言う各種属性、エレメントを宿してから敵に浸透させる技じゃ。

 今は説明のためにロウソクの火を使ったが、そなたの鍛錬次第では魔法使いの放つ属性魔法や、凍てつく吹雪すらをも刀身に吸収し、敵の体内に切り放つ事が出来るようになるであろう。

 これぞスキル・エレメント・デタッチャーだ。

 そなたの実力と扱う刀剣の質に応じた大きさまで、自然の力や仲間の魔法を取り込んで斬撃の強化にも使えるし、敵の放つ魔法をそのまま取り込んで魔法防御から攻撃へと転じる事も出来る。

 何より属性攻撃でなければダメージを与えられないような特殊なモンスターやゴーストがそなたにとっての最初の天敵となるであろうからな。

 そもそもこの技の成り立ちは、ウィザードナイフと呼ばれる魔法使い専用のナイフを用いて魔法使いが魔法を……」


 ブラーディ様の講義がしばらく続き、次に指導に入る。

 ミツールはコツや集中の仕方を教わりながら、ブラーディ様と同じように剣を水平に振り回すがロウソクの火が瞬くか、消えるだけ。

 ブラーディ様の指導が続く。


 俺はふとフィリップさんの隣に移動し、熱心に読んでいる本を覗き込んだ。


「フィリップさん、その本は一体何です?」

「あぁ、ルーサーさん。

 私もミツールさんのパーティーに入って色々な経験を積んで思い知りましてね。

 やはりこのままでは駄目だ、恐れずに新しい事をどん欲に取り込んでいかなければ駄目だと実感しました。

 実際ルーサーさんが居なければ何度も死んでいましたし。

 今まではコーボル派マジックを使う事だけでずっと食って行こうとまぁ、甘えが有ったんですがね。

 これからの時代、それじゃぁ通用しない。

 だから新しい事を覚えるのは正直辛いんですが、ジャアヴァ式ルーンマジックを勉強し始めたんです」


「なるほど。

 確かにジャアヴァ式ルーンマジックは最近ちらほら聞くな。

 より複雑な術式を組んでオーブ・ジェクトルとか言う精霊を何体も呼び出せたり、類似のシィプラ式ルーンマジックのように難解なポイッタ理論を覚えなくてもいいのが利点とか」

「ルーサーさんは魔法にお詳しいんですねぇ」


「一応、魔法銃士マジック・ガンナーは半分魔法職みたいなもんだからな。

 それに使用する弾丸に魔法を込めて貰う時にルーンマジックを使う人に込めて貰う事もあったし、その時に色々話を聞いたりな」

「実際のところどうですかね?

 ジャアヴァ式ルーンマジックをこのまま勉強していくので大丈夫そうですかね?」


「重要なのはそうやって新しい事に挑戦しようという姿勢だと思うよ?

 そのままジャアヴァ式ルーンマジックをものに出来て、それを使いこなして活躍出来る様になれば何が来たって怖いものは無いだろうさ。

 後目標が有ったほうがいいかもな。

 各国の魔法学校が主催しているルーンマジック検定試験のシルバーとかの合格を目指してみるとか」

「なるほど。

 ルーサーさんもやはり魔法職の一部と言う事は、そういうのに合格しておられるんですか?」


「い、いやっ……。

 俺なんか魔法銃士マジック・ガンナーのグランドマスターともあろう者が、そういうのを受けて滑ったら恥ずかしいじゃないか」

「ルーンマジック検定試験を受けに来るのは殆どがウィザードを目指す10代の若者ばかりと聞きます。

 おじさんの私がその中に交じって受けて、落っこちたら私も大恥ですよ。

 はっはっはっは」


 俺はいいんだよっ!

 今、やれてるからっ!


 ふと見ると、エリックもサーキもダイヤも座ってミツールのスキル継承のやり取りを眺めている。


「そういやエリック、ダイヤ、サーキ。

 お前達この後どうするんだ?」

「今回の色々な出来事でかなりのお金が入りましたからね。

 ミツール殿と相談してもう決めているんですよ」

「貿易都市『アイオラ・ポート』へ行くのよね」

「……」


「アイオラ・ポートと言うと世界最大の貿易都市、ここに集まらない品物は無いと言われる大都市だな。

 ひょっとして買い物か?」

「はい。

 そこには世界最高の武具が集まるというので、私達も装備の新調をしようと言う事になったんです」

「楽しみだわぁ。世界中の宝飾品のトップブランドが店を出して居るのよね」

「……」


「気を付けろよぉ?

 あそこは治安が悪いと聞くぞ?

 そういやサーキ、お前も装備を変えるのか?」

「ウチの武器はもう最終装備の木刀『怒慕琉挫悪(ドボルザアク)』が有るから武器はいいんだよ。

 ただこの制服はシルフィルドの裁縫職人にも見て貰ったけど、見たことが無い素材だから直せないって言われたんで、その町に来るっていう最高の職人に見て貰うんだよ」

「多分神器? なのよねその木刀」

「不思議ですよねぇ。

 鋼の剣を持った魔王軍相手に木刀で打ち合って、実際傷一つ付いてないですしねぇ。

 やっぱダイヤさんのそのティアラもそうなんですかね?

 多分ダイヤさんの頭の装備は最終装備ですよねぇ」


 確かに不思議ではある。

 どう見ても血の染み込んだこう言っちゃなんだが小汚い木刀にしか見えない。

 女神様の加護でもかかっているのだろうか?


 ***


 シルフィルドの隣の都市で、シルフィルド陥落時に人々が難民となって避難をしたノームピック。

 その郊外には臨時の捕虜収容所が作られていた。

 丸太の杭を打ち込んで300メートル四方程の敷地を取り囲み、簡易テントが建てられている。

 当然四方には監視塔が有ってミルトン王国軍が常時監視し、有事にはいつでも駆けつける事が出来るように兵士達も近くに駐屯している。

 その収容所のすぐ隣には石造りの監獄がある。

 これは元からあった建物で、隊長級、将軍級の捕虜は尋問のためにこちら側の牢獄に幽閉されていた。

 そして元ウオラ王と側近の騎士二人も同じ建物に幽閉されていたのである。


 ―――――― 深夜の監獄内部 ―――――――


 窓回回回回回回回回回回窓回回回回回回回回回窓

 ―――――回――――――――――回―――――

 ――魔――回――暗―――豚―――回―――――

 ―――――回――――召―――――回――魔――

 皿皿皿皿皿回皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿回皿皿皿皿皿

 ――――――――――――――――――――――

 ――――――――――――――――――――――

 皿皿皿皿皿回皿皿皿皿皿皿皿皿皿皿回皿皿皿皿皿

 ―――――回騎―――ウ――――騎回―――――

 ―魔―――回――――――――――回―魔―――

 ―――――回――――――――――回―――――

 窓回回回回回回回回回窓回回回回回回回回回回窓


 回:監獄の石造りの壁

 皿:鉄格子

 窓:高さ3メートルにある小さな窓。勿論鉄格子がはまっている。

 ウ:鉄格子を掴んで向こうの召喚術士と小声で話すミルトン王国元国王ウオラ。

 騎:看守が来ないか見張るウオラ御付きの騎士2名。

 召:ウオラの話を聞くダークエルフの死霊召喚術士。要するにネクロマンサー。

 暗:へたりこんでぼけーっと天井を見ている隊長級ダークエルフ。

 豚:腕を枕に寝転がって寝ている隊長級オーク。

 魔:捕虜の隊長や将軍級オークやダークエルフ。


 ――――――――――――――――――――――


 ウオラは向かいに居るネクロマンサーに小声で話しかける。


「そなたは昼間、尋問部屋から牢屋へ看守共に引きずり戻されて暴れていたが、その時こう申しておったな?

 『俺がその気になれば、もしここを抜け出せたなら1万に近い軍隊をすぐに用意して兵士共を蹴散らしてこの町程度簡単に蹂躙出来る』」

「何だ?

 嫌味のつもりか?

 貴様も結局牢屋で臭い飯を食わされてる同レベルの立場だろうが」


「その言葉、本当か?」

「何が言いたい?」


「もしここを抜け出せたら、1万に近い軍隊を用意する程の力が有るというのは本当か?」

「だったら何だ?」


 ウオラは左右を見回して看守や起きて聞いている囚人が居ないのを確認後、より慎重な声で言った。


「取引をせぬか?

 私ならばそなたをその牢から出す事は可能だ。

 看守の内一人を既に手懐けておるからな。

 だが私一人で抜け出したところで既に私に王としての実権は無い、それだけでは意味が無いのだ」


 ネクロマンサーは身を乗り出し、格子を両手で掴んで答えた。


「近場に巨大墓地が作られ、6000体のオークやダークエルフが埋葬されている。

 私がミルトン王国軍に取り上げられた宝珠を手にすれば、それら全てを再び立ち上がらせてしもべとする事が可能だ」

「死体はそうかも知れん。

 そなたが魔王軍のネクロマンサーであると言うのならな。

 だが隣の敷地に居る3000体の捕虜は、果たしてそなたの言う事を聞くだろうか?

 元々オーク共は脳筋な連中で、そなたの様なやせ細った術士は軽んじられがちだと聞いたぞ?」


「あの豚共が生きていたらな。

 だが全員が死んでしまえば……俺の命令に絶対服従する奴隷となる。

 そうすれば約1万の軍勢の出来上がりだ」

「ふぅむ。

 よいぞ。

 よいぞ!

 ふふふふふふふ!」


「一体俺に何をさせようと言うのだ?」

「私を愚弄した者共に、いや、あのルーサーに、カエデに絶望を味合わせてやるのだ!

 たけのこ村、いやその前にドーラの町だ。

 そこを襲い、町の人々を全て根絶やしにしてくれる」


「ドーラの町か……勇者サリーのパーティーが居る最前線への輸送の中継地だな。

 悪くない話だ。

 魔王軍の本軍と連携を取れば、光輝の陣営を最前線に釘付けにしたまま、背後を断つことが出来る。

 入念な準備が必要だ」

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