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魔法銃士ルーサー、最後の強敵を仕留める

 ミツールは馬を走らせながら大量のオーク兵を切り捨てて突き進む。

 お祭り騒ぎ状態だったオーク兵達も異変に気付き始め、二人掛かり、三人掛かりで振り返ってミツールに向かって武器を振り上げ、襲い来る。

 だがミツールの集中力は今までに無い次元にまで高まっており、迎え撃つ剣筋の答えがはっきりと分かる程になっていた。

 オーク三人組を少しずつの時間差を作って切り抜けて、ミツールはついに開けた場所へと出る。


 そこで見たのは、双剣を持ったダークエルフと激しい戦いを繰り広げるサーキの姿であった。

 既にサーキはボロボロで全身から血を流し、負傷して動かなくなった右腕をだらりとさせながら左手だけで木刀を振るって何とか凌いでいる。

 だが相手のダークエルフもかなりの実力者、このままではサーキの敗北は必至、後ろで見守るサーキ隊が悲壮な表情で祈る様にサーキを見守っている。

 その様子を見たミツールは、後ろに付いて来る重装騎兵隊が想像もしなかった言葉を思わずもらした。


「なんだ!?

 あのサーキが放つ輝きは?」


 ブラーディが軽々と襲い来るオーク兵を切り捨てながら答える。


「ついにその境地に達したか、ミツールよ。

 そなたが見ているのはサーキの魂が放つ光。

 光輝の陣営を象徴する輝きだ」

「でもこのままじゃサーキは負ける!

 今すぐ助けないと!」


 ミツールは剣を構えて戦う二人の方へと馬を進めた。

 それに気づいたサーキはミツールを睨みつけながら叫んだ。


「ミツール、てめぇ!

 タイマン勝負の邪魔をするんじゃねぇ!」


 ダークエルフもサーキの叫びでミツールに気付き、振り返る。

 エリックもまるで自分の体が傷つけられているかのように苦しみに歪んだ顔で叫んだ。


「ミツール殿!

 サーキ殿と敵軍の対決に邪魔が入れば、周囲の全ての魔王軍が襲い掛かって来ます!

 私達もどうしてよいか!?」

「いいからてめえらはすっこんでろ!

 手を出すんじゃねぇぞ!

 こっ、こらっミツール!

 来るんじゃねぇっ!」


 ミツールは、馬の足を止めず、両手剣を振り上げながら叫んだ。


「嫌ですっ!」

「はぁ!?」


 ザクゥッ!


 ミツールはサーキと戦っていたダークエルフの特攻隊隊長、コルビヌを背後から切り捨てた。

 サーキはミツールの方へ走り寄って胸倉……っぽい鎧の突起を掴む。


「てめぇ!

 何しやがるんだ!」

「嫌ったら、嫌ですっ!」


 ミツールは両手剣でコルビヌの首筋に突きを放ち、止めをさした。

 一瞬その場が静まり返る。

 だが素早く周囲を見回したフィリップがサーキ隊の数少ない魔法兵達に呼びかけた。


「サーキ隊の皆さん!

 素早く集まって出来るだけ密集して下さい!

 サーキ隊魔法兵の皆さん!

 アンチ・ミサイル・プロテクションです!」

「了解!」

「了解!」


 魔法兵達が素早く空に向けて詠唱を開始する。

 それを見て、エルマーもミツールとミツール隊に叫んだ。


「ミツール殿!

 急いでサーキ隊に合流して密集するんです!

 時間が有りません!

 ミツール隊!

 サーキ隊を中心にサークル・ファランクス・フォーメーション!」

「了解! サーキ隊を中心にサークル・ファランクス・フォーメーション!」

「ラジャー! サークル・ファランクス・フォーメーション!」


 既にチラホラと矢が降り始める中、ミツール達と一緒にミツール隊もサーキ隊の周囲に集まり、ぴったり密集した円陣を組んで外からの攻撃に備える。

 ミツールはオロオロしながらエルマーに話しかけようとするが、エルマーは黙って手で制止した。

 そして必死で周囲をキョロキョロと見回しながら両方の隊の隊長格の連中に切羽詰まった声で言った。


「今、私達は一瞬で壊滅するかどうかの瀬戸際にありますっ!

 魔王軍の魔法兵を探して下さい!

 必ず今、複数人で軍隊魔法を詠唱し始めているはずです!

 出来る限り早くっ!

 そうしないと間に合いません!」

「あそこじゃないかしら?」


 ダイヤが南西に位置する建物の上を指さした。

 そこでは、7人程のオークメイジが両手を天にかざし、統一された動きで詠唱をし始めている。

 エルマーは数秒間その動きを凝視した後、大きな声で指令を下した。


「ミツール隊魔法兵!

 軍隊魔法・アンチ・ライトニング・フィールド!

 早く!」

「精霊界、サディ・ディス・エルトへのチャネリング!」

「「我らは次元を超える支配者なり!」」

「「「虹色に輝く精霊界、我らの魂よ、移動せよ、行き先はサディ大陸、中央のディス地方!」」」

「「「「「大地に眠るエレクトリック・ワームの支配者、エルトよ! 我らの呼びかけに答え給え!」」」」」


 ミツール隊の魔法兵が徐々に声を合わせて、一致団結して両手で空中にいくつものルーンを刻みながら軍隊魔法を詠唱し始めた。

 その間にも周囲の魔王軍は雨の様に矢を降らせ始めていたが、フィリップが主導するサーキ隊の魔法兵達がアンチ・ミサイル・プロテクションを張り巡らしているため、まだ何とか対処出来ている。

 ついにミツール隊魔法兵達の詠唱は完了した。


「「「「「「我らを守れ! アンチ・ライトニング・フィールド!」」」」」」


 ミツール隊とサーキ隊の周囲を取り囲むように、地面から何本ものうねる触手が生えた。

 触手はぐんぐんと巨大化して大木の様になり、枝の様な触手までが生え、まるでミツール達を守る森の木々の様である。


「なんだこれ?」

「軍隊魔法で呼んだ召喚生命体です!

 効果はすぐに分かります!」


 オーク魔法兵達も詠唱を終えた。

 ミツール達の上空100メートル程に暴風が吹き荒れてグルグル激しく対流する黒雲が発生した。


 バリバリバリバリィ!

 バリリリィ!

 ドォン!

 パチッ! パチッ!


 凄まじい勢いで稲妻が雲から地面へと走る。

 その密度は時間が経つほどの高くなり、周囲全体が眩く輝き続け、絶え間なく雷光のフラッシュが瞬き続ける。

 だがすべての稲妻は、地面から生えた蠢く触手達が受け止め、吸収していた。


「うわっスゲェ。

 これもし、触手が無かったら……」

「私達は全員黒焦げで壊滅していたでしょう。

 それが軍隊魔法です。

 私はオーク魔法兵の詠唱を見て、カウンターとなる防衛用の軍隊魔法を使わせたんです」


「他の種類も有るの?」

「はい。

 もしも相手が火炎系の軍隊魔法とか、物理系の軍隊魔法を発動していたら、この触手達では防げなかったでしょう。

 敵の使い得る軍隊魔法の種類と、詠唱を覚えるのは士官としては必須です」


「まじか……、剣だけじゃどうにもならなくなるって事か……」

「それよりも今はまだ、ミツール隊とサーキ隊の即死、壊滅を逃れただけ。

 次の動きを考えなければなりません!」


 ドガァッ!


 突如、ミツール達に矢の雨を降らせていたケンタウロスの集団の方で激しい戦いの音が上がった。

 次々とケンタウロス達が切り捨てられ、ミルトン王国の別の重騎兵部隊が顔を出す。

 ヘルムから髭もじゃをはみ出させた太った将軍が大声で叫んだ。


「加勢に来たぞ!

 これは魔王軍の最後の悪あがきだ!

 もうしばらく耐えられよ!」


 ザクッ ズシャッ

 ヒギャァァl


 左右の建物の屋根の方でもオーク弓兵やゴブリン兵が叫び声を上げる。

 血を吹き出して次々ぶっ倒れる、その後ろから現れたのは全員が双剣を構えた兵士達、ミルトン王国の精鋭グラディエーター隊である。

 その隊長と思われる人物がオークメイジを切り捨てながら叫んだ!


「異世界転移者のミツール殿! サーキ殿!

 ご無事か!?

 よし、生きておるな!?

 屋根の上の連中は我らに任せるのだ!」


 状況が変わったのを見てエルマーがミツールを振り返る。

 ミツールは言った。


「分かってる!

 ミツール隊!

 あっち側のオーク兵を殲滅だぁ!」

「了解!」

「了解!」


 サーキ一人を相手にした優勢が完全に崩れた魔王軍の兵士達は、あっという間に総崩れとなった。

 攻守は交代、サーキもエリックからヒールを受け、サーキ隊と共に残った魔王軍の追撃に向かう。


 ***


 元々全体での情勢はミルトン王国に圧倒的に優位、あっという間に魔王軍はほぼ壊滅した。

 オーク兵を切り捨て終わったミツールにエルマーが駆け寄る。


「どうやらほぼ片付いたようですね」

「いや、まだ気になっている事が?」


「と言うと?」

「ルーサーさんは今、大丈夫なんだろうか?」


 それを聞いて隣に佇んていた剣聖ブラーディ―が笑いながら答えた。


「ふぉっふぉっふぉ。

 そなたはもう一人のそなたの師を馬鹿にしておるのか?

 既に向こうでも激しい戦いの決着がつこうとしておる」


 ブラーディ―はシルフィルドの町、中央方面を指さした。

 そこでは、高い建物の天辺の屋根から何かのスキルによる魔法の助力を得て空中に飛び上がるルーサーの姿が有った。

 空中で逆さになって両手の魔法銃を地面に向け、何かを叫びながらドリルの様に回転しつつ乱射しながら降りていく。

 それを見てミツールは手の平を向けて顔を隠しながら呻いていた。


「なんだっ!?

 なんだあれっ!?

 太陽!? 太陽が町の上を飛んでいる!

 眩しい!

 眩しすぎて目を開けていられない!」

「ふぉっふぉっふぉ。

 長く一緒に活動しておきながら、今になってようやく本当のルーサー殿の姿が見れた様じゃの。

 あれが光輝の陣営の勇者パーティーの元パーティーメンバー、魔法銃士ルーサー殿じゃ」


 ***


 ドガドガドガドガ!


 俺は体の急所、全てが穴だらけになったユニーク個体のミノタウロス、その死体の上に立っていた。

 ミナが駆け寄って来る。


「ふぅ、結構ヤバかったぜ……ってミナ、おーい」


 ミナはわき目も振らずにナイフを取り出し、ミノタウロスの死体の高級素材のある部位を切り開き始めていた。

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