魔法銃士ルーサー、クロリィちゃんと共にたけのこ村へ帰還する
「お婆ちゃんっ! お婆ちゃんっ!」
牛車に乗ったまま俯いていたクロリィお婆さんに、何人もの人々が駆け寄った。
「お婆ちゃん、これ、お婆ちゃんの大切な家宝なんだろう?」
「ここにもあるよ」
「俺も7個集めてきた」
クロリィお婆さんは驚いた顔で人々を見回した。
一番前に居たのは質屋の主人。
黒い袋を広げて皆の持ってきたゴールデンボーンを寄せ集めた。
「どうして……一体なぜ」
質屋の主人が言った。
「お婆ちゃん、あの二人組に騙されてたんだろう?
私がこのドーラの町の商店街の店主たちに声を掛けて集めて貰ったのさ。
金の骨を拾った人々も皆、事情を話せば快く返してくれた。
何割かの人たちは言われずとも衛兵に届けてくれてたんだよ。
さぁ、これで最後だ。
お婆ちゃん、ちゃんと全部そろってるか確認してくれるかい?」
クロリィお婆さんは受け取った袋を開け、小さなしわくちゃの手でゴールデン・ボーンをより分けて数えていく。
「……204……205……206……。
うっ、グズッ。
全部じゃ。
全部そろっておる」
「そりゃ良かった。
んで、換金して貰った宝物品だけどさ、こればっかりは私も商売なんで、商店街の皆で力を合わせて補填して貰おうという話に……」
「おぅ、丁度いい所に居た。
質屋の旦那、今日換金して貰ったクロリィちゃんの宝物品全部、買い戻させて貰うぜ」
ズシッ、ズシッ
俺は山賊から取り戻した金貨の詰まった二つの麻袋を渡した。
「おぉっ! 分かりました。
では今日頂いた物全て、お返しいたします」
***
俺はクロリィちゃんと一緒に牛車に大量の宝物品を積み、たけのこ村へ向けて街道を移動していた。
「グズッ……ありがとうルーサーさん。ありがとう」
「気にするなよクロリィちゃん、そんなに泣いたらチャーミングな顔が台無しだぜぃ?」
「ゴールデン・ボーンも絶対に戻って来るとは、全部が戻って来る事は無いと諦めておったんじゃ。
でも質屋の主人も商店街の皆も、こんな身寄りのないゴミみたいなババァなんかの為に店を閉めてまで助けてくれて……。
ドーラの町の人々は皆ええ人じゃ。
ええ人ばっかじゃぁぁ――。
いっそヤケになって町をアンデッドの軍隊で滅ぼしてやろうかとか、2、3回考えたわし自身が恥ずかしいわぃ!
ウェェェ……」
「まっ、まぁ今度からはもうちょっと気を付けなよ?」
***
たけのこ村へ到着すると、おたゑちゃんを先頭に村の全婆さん達がクロリィちゃんを出迎えた。
「なんじゃ? 皆どうかしたのかえ?」
「フホフェイファンファファフェファファ(クロリィさん、悪い詐欺師に騙されていたんだって?
ごめんねぇ私達ももうちょっと注意しているべきだったねぇ)」
「正直このおばば、あの二人怪しいとは思っていたんじゃが、余りにクロリィさんが楽しそうな顔でいたから、悪い事なぞ言い出せなくてな。すまんかった」
「金に困ったら遠慮せずに私の所へきんさい。
同じ村の住人じゃ、悪いようにはせんよ」
「わたしから、クロリィさんにプレゼントがあるよ、受け取って頂戴ねぇ」
おていちゃんが黄色の花が植えられた植木鉢をクロリィちゃんに手渡した。
「悪いねぇ。これは……いい香りがするねぇ」
「どんな臭いも消臭してくれるファブリ草だよぉ」
俺は少しクロリィちゃんの体の匂いを嗅いだ。
「ん? ひょっとしてクロリィちゃんが皆と心の壁がある気がするって言ってた原因って……。
おろっ、クロリィちゃんうなじと着物の隙間になんか指が張り付いてるよ。
これ、死体の指か?」
「皆言い出せなかったんだけども、この際言ってあげるべきだという事ねぇ」
リンシンちゃんがクロリィちゃんの肩に手を置いた。
「お主、死臭が漂っておるぞ。
死体弄りも程々にな」
「ほわ。臭いじゃったんか」
「簡単な事じゃないか。臭いが無くなれば、消えてなくなる問題だったんだよ。
それにしても何故、俺達が帰って来る前にクロリィちゃんが騙されてたことが伝わったんだ?」
「ファフォフィフォハヒハオヒヘヘ(あの人達が教えてくれたんだよぉ)」
おたゑちゃんはクロリィちゃんのボロ屋を指さした。
そこには何人もの大工の若集が集まり、家中を調査していた。
クロリィちゃんは大工の親方に歩み寄る。
「わ、わしの家がどうかしたのかい?」
「ドーラの町の商工会の依頼でな。
クロリィお婆ちゃんの家を修理することになった。
見たところ木が腐っている所、何者かによって意図的に柱を削られて危うい所もある。
このままでは倒壊の危険もあるからな」
「じゃが、わしはあまり金に余裕があるわけでは……。
宝物類も本来、残りの余生を過ごすのに必要な財産で」
「知らなかったかい? クロリィお婆ちゃん。
魔獣やモンスターに破壊された建物の再建には王国の商工会で集められた義援金が支払われる。
クロリィお婆ちゃんは1ゴールドも払う必要は無いんだよ」
「し、しかし、わしの家は魔獣に襲われた訳では……」
「親方――!」
家の床下から別の大工の声が響いた。
「なんだ? どうした!?」
「家の床下の柱、多分これ尿が頻繁に掛けられてて腐り始めています。
これは魔獣の仕業に違いありません!」
「そうか! 魔獣の仕業であれば仕方が無い。 そこも義援金を用いて修理することとする」
「親方――!」
「今度は何だ?」
「ここのふすま、ボロボロになって穴だらけです」
「ふむ。これは恐らく腐食ガスを噴出する魔獣マッシューマーの仕業に違いない。
そこも義援金を適用する!」
クロリィちゃんは再び泣き始めた。
俺はむせび泣くクロリィちゃんを抱き寄せる。
「クロリィちゃんよ、これが人間。
こいつは天の祝福って奴だ。
世の中、悪い奴ばかりじゃねぇし、そんな奴は俺が放っておかねぇよ」
クロリィちゃんの悪落ちの危機は回避した。
下手すると俺はクロリィちゃんではなく、ドーラの全住民を救ったのかもな。
いや、違うか。
むしろドーラの全住民が自分たちを救ったのだ。
「2114年スラムのバイク便」
これは私が一番最初に書いた小説です。
初めてというだけあって今見れば拙い表現、文章な場所が多々あります。
しかし死にゆく幼女から受け取ったビー玉を報酬として、マフィアに単独戦いを挑み、そのボスの心臓に弾丸をお届けする。
私の理想とするヒロイズムの原型がここにはあります。
この作品の主人公が乗るバイクをMMD用のモデルとして作成していますが、元々は「2115年、アンドロイドの救世主」そのものをMMDドラマにしようという無謀な事を考えていました。
その為にMMDやニコニコ系のパロディが各所に混じっていたり、シーンを見せる事を意識した展開・描写になっています。
まぁ小説で書いてもいまいちなろうで受けてない状態なのに、莫大な労力をかけてドラマを作っても結果は見えていたことでしょう。