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魔法銃士ルーサー、内部の攪乱に動く

 俺達はシルフィルドの北東へと馬を走らせる。

 しばらく走ると一旦分離したサーキ隊の軽騎兵達が破城槌を引きずりながら進んでいるのに出くわした。


「ようし、準備は整っているようだな」


 俺達は軽騎兵達に合流し、彼らを率いていた臨時隊長に現状の戦況を尋ねる。


「どうだ状況は?」

「はい!

 ミルトン王国主力軍が破城槌を用いて南の城壁、2、3か所を破壊して進入路を作り、攻撃隊がなだれ込みました。

 我々が借り受けた破城槌をここに持ってくるまでの時間でもさらに進入路は増えていると思われます。

 敵軍の攻城兵器対策だったオーク騎兵隊がミツール隊の活躍で壊滅して以来、一方的な状況だそうです」


「ミツール隊がか……、一体何をやったんだ?」

「詳しいことまでは聞いてませんが、重装騎兵を用いてオーク騎兵隊の退路を封鎖したそうです。

 ところでルーサー殿達の方は上手く行きましたか?」


「例のアサシンに妨害されてな。

 途中で撤退してきたところだ」

「なんと!

 よくご無事でしたね皆さん。

 『恐怖の申し子』のアサシンに襲われて生きていられた者など居ないと聞きますよ。

 厳密には勇者サリー様と戦闘鬼神テンライ様が生き残られたそうですが、その件は他言無用の極秘扱いだそうですし」


「まぁヤバかったがそこの異世界転移者のガッツで切り抜けた。

 それより次の作戦だ。

 北東の補修中の城壁を破城槌で壊して侵入するぞ」

「皆さんお怪我は大丈夫なのですか?

 連戦になりますよ?」

「深刻な負傷でしたが支給された薬品類と私の治癒魔法で皆回復は完了しています。

 まぁ厳密には長期的な肉体の生命力を先出しで治癒に当てていると言えるので、問題無しとは言い難いですが」


「という訳だ。

 では行くぞ」

「了解しました」


 ***


 シルフィルドの南側の城壁は5、6箇所が崩れ落ちて進入路と化していた。

 ミルトン王国主力軍が次々と守備のオークやダークエルフをなぎ倒しながら侵入していく。

 突入する他の隊を見送りながら呼吸を整えるミツールを見てブラーディが言った。


「どうした?

 行かないのかね?」

「もっ、もちろん行きますよっ!

 僕は今日何回も突撃したので、多少慣れました。

 やれます。

 やれるけど……やっぱちょっと覚悟が要るといいますか……」


「心は筋肉と同じじゃ。

 一時の蛮勇が永久に続く物でも無い。

 たるんで生きておれば退化する」

「そ、そうですよね。

 ちょっと期間開けるとまた勇気が要ると言いますか。

 最初のオークの大群に後退せずに切り込む修行なんて今思い出してもぞっとしますよ」


「だからこそ、再び行くのだ。

 だからこそ、剣と武を極めるのであれば、その人生を戦いの中に置かねばならぬ。

 さぁ、そなたの呼吸が整った瞬間で構わぬ。

 号令をかけて突入せよ。

 狭い箇所から侵入するのだ、二列縦隊、ツー・カラム・フォーメーションでな」

「ふぅ――。

 ふぅ――。

 ふぅ――。

 よしっ。

 ツー・カラム・フォーメーション!」

「ツー・カラム・フォーメーション、了解!」

「ラジャー! ツー・カラム・フォーメーション」

「了解!」


 重装騎兵達はミツールと剣聖ブラーディを先頭にした二列縦隊を作った。


「僕達も突入するぞぉ――!」

「おおおぉ――!」

「お――!」


 ミツール隊は城壁の破壊された裂け目を目指し、走り始める。


「ミツールさぁん! ミツールさ――ん!」

「ん?」


 ミツール隊では無い一騎の騎馬が、離れた場所からミツールの方へと走って近づいて来る。

 乗っているのはそこそこ高級そうなフルプレートに身を包んだ若い騎士に見える。

 騎士はミツールに並走して並び、ヘルメットの面を上げた。


「お前は……たしか……」

「マクシミリアン総司令官の部下のエルマーです。

 作戦会議の時はお世話になりました」


「あぁ、エルマー君か。

 何か用?」

「私もお供させて下さい。

 これでもミルトン王国軍の人間です。戦闘術の訓練は積んでいます」


「いやっ、生半可じゃ通用しないからさ。

 危ないから本陣に居ろよ。

 僕だって戦いながら君を守り切れる程の実力者でも無いからさ」

「いえ、邪魔にならない様にしますのでお供させてください。

 僕も軍司令官の端くれです。

 机上の空論だけではなく、この目で実際の最前線の状況を見ておきたいのです」


「ブラーディ様、彼あんな事言ってますけど」

「構わんじゃろう。

 そんな事よりもまず戦闘に集中することじゃ。

 戦いにヌルい物なぞ無いからの」

「よろしくお願いします」


 ミツール隊はエルマーを加え、崩れた城壁の隙間からシルフィルド内へと突入して行った。

 城壁付近は先行部隊が既に敵を壊滅させ、オークやケンタウロス、ダークエルフの死体が転がるのみである。


「突入して見たはいいものの、これからどっち行った方がいいですかねぇ?」

「これは修行じゃ。

 そうじゃのぉ……あの方向が良いのぅ」


 ブラーディは1時方向を指さした。

 ただしミツール達は3階建ての建物に囲まれた通りを走っており、ブラーディの指さす方向、建物の裏側の様子も、そこへ至る道も分からない。


「まいったな、シルフィルドの町って結構込み合ってるんだよな。

 初日結構迷ったと言うか、嫌がらせとしか思えない通路になってて下水入り口に辿り着けなくて涙目になりましたよ」

「それならば……」


 エルマーが9時方向を指さした。


「こちらの道から回り込みましょう。

 それが最短距離です」

「えぇ?

 ほぼ逆方向じゃないか。

 この町設計した奴どんな頭してんの?」


「町は城の一部、意図的によそ者の侵入者が迷うように作られているんですよ。

 一見すると右から回り込んだ方が早そうに見えますが、そこは侵入者を迎撃するトラップを容易に仕込める造りが有ります」

「そうなのか……」

「ほっほっほ。エルマー君が居て良かったのぉ」


 ミツール達は街中でさ迷う何体かのオーク兵、ケンタウロス兵を切り捨てながらもさほどの抵抗もなく建物を回り込み、ブラーディが指さした方角へと走り出た。

 そこは大きな広間になっていた。

 そしてその中央に立つのは……。


 プルルルロオオオオオオオオオオ――――!!


 大槌を持った見上げるような巨体のミノタウロス、魔王軍の攻城兵器兼戦略兵器ともいえるモンスターである。


「勘弁して下さいよブラーディ様ぁ……」

「フォッフォッフォッフォ」

「あれと戦うのですか?

 魔王軍のミノタウロスは兵士個人が戦う相手じゃ無いですよ?

 大量のバリスタで迎え撃つとか、魔法兵部隊が遠くから軍隊魔法で戦う相手です」


 ブラーディはひとしきり笑った後、ミツールに言った。


「隊長は一時的な権限移譲をしっかり宣言しなければならぬ。

 ミツールよ、エルマー君に一時的にミツール隊の重装騎兵の指示を任せるのじゃ。

 ミツールとあのミノタウロスとのタイマン勝負が邪魔されない様に、敵を入れさせない様にな」

「タイマン……嘘でしょう?

 無理ですよぉ……」


「ほれっ、早く!」

「ミツール隊!

 これから僕があの化け物とタイマンするから邪魔が入らない様に守れ!

 指示権限は一時的にこのエルマー君に託す!」


 エルマーはブラーディの言う事に驚きながらも周囲を見渡し、声を張り上げた。


「ミツール隊!

 ミツール隊長とミノタウロスを中心に、サークル・フォーメーションを取れ!

 二人の戦いの邪魔にならない様に、邪魔を入れさせない様に気を付けろ!」

「まじかよ……了解! サークル・フォーメーション!」

「うっそだろおい! ラジャー、サークル・フォーメーション!」

「いいの? まじでいいの? 死んじゃうよあの転移者。

 あっ、サークル・フォーメーション!」


 兵士達は驚愕しつつもミツールとミノタウロスを中心に距離を置いて円陣を組み、外から襲い来るオーク兵やケンタウロス兵から守り始めた。


 ***


 北東でサーキ隊は補修中で脆くなっていた城壁を破城槌であっさり破壊し、中へと突入していた。

 シルフィルド内部はもう混乱状態、走り回るオークやゴブリンがチラホラいるが統制の取れた軍隊行動をしているようには見えない。

 それらを切り倒しながら町の内部に走り込んだ後、一旦軽騎兵達を止めさせた。


「サーキ、これから俺とミナは特殊作戦の為に魔王軍の中枢近くに侵入する。

 ここから先はお前がサーキ隊を率いるんだ。

 この作戦、サーキ隊の役割は陽動だ。

 少しでも危ないと感じれば迷わずに離脱しろ。

 そして別の箇所を荒らすのを繰り返す。

 そうすれば魔王軍は混乱し、ミルトン王国主力軍が反対側から壊滅させる」

「分かったぜ。

 任せな」


「エリック、ダイヤ、フィリップさん。

 サーキのサポートを頼む。

 そうそう、常に皆で動いて狭い屋内や路地で孤立するような事は避けろよ?

 またあのアサシンが襲ってくるかも知れん」

「うーん、大丈夫でしょうか?

 また襲われてルーサーさんとミナさんが居ないと逃げられる気がしません」


「それは軍隊を甘く見過ぎだ。

 この数の兵士達、手練れの軽騎兵達に囲まれていたらアサシンと言えどもそう手出しは出来ん。

 ま、常に注意はしろ。

 そして居る気配があれば全力で離脱するんだ。

 流石のあいつ等も馬の足には追い付けん」

「分かりました。

 ルーサーさんもミナさんも頑張ってください」

「気を付けてね」

「また会いましょうルーサーさん」


「じゃぁな」


 俺はミナと一緒にサーキ隊を離れ、路地の中へと走って進んでいく。

 隣で馬を走らせながらミナが聞いた。


「ルーサー、ヴェスパーのカタールを受け止めた時に、探知用の呪術インクをかけてたよね?」

「よく見てるな。

 あのアサシン二人共気が付かなかったと思うぞ」


「昔から器用で小手先のトリックが得意だったよねルーサー。

 どうして探知ワンドをサーキって子に渡さなかったの?

 近寄れば分かるから逃げられるでしょ」

「いや、多分アイツに渡したら、あのアサシンを探知したら自分から向かって行く。

 今回の件で性格は掴めた。

 まぁ、ワンドの反応は無いし多分アサシン共はこの町に居ない。

 離脱したんだろう。

 状況が混乱してきてあちこちに軍隊が暴れまわっているから、暗殺どころの状況では無いからな」

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