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魔法銃士ルーサー、なんとかアサシン達からの離脱に成功する

 膝立ち状態のサーキはブラッディ・マリーにナイフを腹に突き立てられ、項垂れていた。

 サーキの目の前にしゃがみ込んだマリーはナイフをグリッと動かし、笑みを浮かべながら顔を横に向け、ロングヘアーで隠れて見えないサーキの表情を伺う。

 サーキは項垂れたまま大きな声を出し始めた。


「サーキ隊……総長……。

 雨宮紗季!

 元は秋田の獄門院東高校の三年の番長として4つ、5つの敵対レディースや暴走族相手に喧嘩に明け暮れさせて貰っていたが、訳あって命を落とし、何の因果かこの世界に異世界転移者サーキとして送られた」


 ザクッ


 マリーはニヤついた笑いの表情のまま一旦ナイフを抜き、再びサーキの腹部の別の箇所を刺した。

 サーキは衝撃で少し体が揺れたが、再び語り始める。


「故あってこちらの世界でも授かった光輝の陣営、総長の大役、果たす覚悟で生きている。

 お前如きにその道を阻まれる気は毛頭ないが……」


 ザクッ


 マリーは再びナイフを抜いて刺した。

 やせ我慢をする人間の心が折れる瞬間を見るのがこの上なく楽しい、言わずとも態度がそう語っていた。


「お前のようなニヤついて人をいびって楽しむ小せぇカスは、昔っから気に食わねぇんだよ……」


 ガッ


 サーキは両手を伸ばし、マリーの両腕の上から胴体を抱え込み、力強く抱き寄せた。

 そしてマリーの顔の至近距離で頭を上げ、座った目で睨み付ける。


「舐めてんじゃねぇぞ! この野郎!」


 ドガアッ!


「ブプッ!」


 サーキはマリーに腹を刺された状態のまま、マリーの胴を腕ごと抱き寄せて顔面にヘッドバットを食らわした。


「舐めてんじゃねぇぞ! この野郎!」


 ドガッ!


 マリーの鼻が折れ、鼻血が噴き出す。

 予想外の強い力でホールドされ、マリーは焦りながらも再びナイフを抜いて別の場所に突き立てる。

 だがサーキはヘッドバットを繰り返す。

 マリーの顔面は血まみれだが、サーキの額も切れて血が滝の様に顔面に垂れ落ち始めている。


「舐めてんじゃねぇぞ! この野郎!」


 ドガッ!


 マリーの手足が少し痙攣し、動きが鈍る。

 効いている。

 抵抗しようにも上半身ホールドされてヘッドバットを食らい続け、魔法詠唱も道具の使用もさせていない。

 情勢が少し危ういかとヴェスパーが助けに近寄ろうとした瞬間、ダイヤとフィリップを隔離していた魔法の石壁が時間経過で崩れ落ちた。

 サイレンスの魔法が解けたフィリップが呪文詠唱し、ダイヤがレイピアを掲げてヴェスパーの方に走る。


「ファイヤーボール!」

「覚悟しなさいこのド変態!」


 ヴェスパーはフィリップのファイヤーボールを雪玉でも食らうような態度で受けながらも攻撃魔法を詠唱し、片手のカタールを強く握ってダイヤの方に向き直る。

 隙が出来た。

 俺はミナの目を見た。

 師匠として弟子に教え続けた心掛けがある。

 やる事は語らずとも伝わる。

 俺とミナは同時に懐から小型のガラス管を取り出し、コルクを抜いて一気に飲み干した。

 エリクサーだ。

 超高速で全身の傷も毒もデバフも取り除き、一瞬で癒す超高級品である。


 ミナは背負っていた散弾魔法銃スカッター・マジック・ガンを素早く抜き、起き上がって片手でサーキの胴体を抱きながら、マリーの腹に銃口を当てて撃った。


 ドゴォォン!


 高威力の魔法散弾でマリーの腹に穴が開き、勢い余って後ろに吹っ飛ばされる。


「スキル・パラライズショット!」


 空中を後ろに吹っ飛んでいるさ中のマリーに俺が銃撃を浴びせる。

 狙った先は手足の神経の通る位置。

 とっさのアイテム使用をさせない為だ。

 マリーの手足の付け根に4発の弾丸が命中し、操り手の居なくなったマリオネット人形のようにぐにゃりと地面に転がった。


「とどめだっ! 行くぞ!」

「イェアッ!」


 俺とミナは同時にマリーに銃口を向ける。

 だが直後に目の前に石の壁が出現して攻撃を妨げた。

 後ろの状況に気付いたヴェスパーがマリーを守るために詠唱キャストしたのである。

 同時に俺とミナの足元で煙玉が炸裂した。


「ゴホッ、くそっ。

 エリック、立てるか?」

「はぁっ、はぁっ、何とか痛みが治まってきました。

 立てます」


「サーキ、これを飲め。

 エリック、サーキを連れて元来た方向へ撤退だ。

 スマート(・・・・)に逃げるんだぞ?」

「分かりました。

 サーキさん、立てますか?

 急ぎましょう」


 俺はサーキに高級回復ポーションを飲ませてエリック達と共に逃げさせる。

 アサシンはそれほど甘くない。

 俺がエリクサーで一瞬で復活したように、仕留めそこなって一呼吸の猶予を与えてしまえばケロリとした顔で元のポテンシャルを保ったまま襲ってくるのだ。


 ドゴォォン!

 ガラッ、ガラガラガラガラ……


 ヴェスパーがマリーを救出に向かった隙を突き、ミナが機転を利かせて散弾魔法銃スカッター・マジック・ガンで天井を撃って破壊した。

 多数の瓦礫と土埃がアサシン達の上に降りかかる。


「俺達も行くぞ! 急げ!」


 俺とミナはエリック達の逃げる方向へと走った。

 俺は逃げながらも殿しんがりとしてアサシン達の方への注意を怠らない。


 ヒュン!

 ヒュン!


 ほぅら、投げナイフが飛んできた。

 俺は飛んできた二本のナイフを撃ち落としながらも後退する。

 土煙の中から二つの影が飛び出し、全速力でこちらに迫って来る。

 さっきまで生き人形状態にまで追い詰められながらもあっという間に完全復活、これだから知恵と技術のある戦闘職ってのは厄介だ。


 サーキ隊メンバーは次々とワイヤーやトラバサミをすり抜けて逃げる。

 マリーとヴェスパーはあちこちにあるトラップに気付き、追跡の速度を落とした。

 その全てが機能しているように見えて機能していないと言うのは、俺達だけが知っている事なのだ。


 ***


 俺達は無事下水から脱出し、小屋の裏に止めていた馬に乗ってその場から離脱した。

 後ろを振り返ると、既に下水へ向かう小屋は遥か彼方である。

 ほっと一息つきながらダイヤがエリックに聞いた。


「エリック君大丈夫だったの?

 物凄いのたうち回って苦しんでたようだけど」

「最初は地獄でした。

 心臓が止まるかと思うくらいの激痛が全身に回って死ぬ覚悟もしてたんですが、しばらく転がっていたら痛みが徐々に消えて行ったんです」

「恐らくレッドキャップ・マッシュルームから抽出した毒だ。

 普通の毒と違って血液が凝固しないので全身に素早く回って激痛を引き起こす。

 だがその成分が体に素早く回る特性故に、2、3分で効果が消滅する。

 アサシンが獲物を捕らえる為に吹き矢や投げナイフに塗ってよく使うんだ」

「畜生、あの口裂けメイクの大女野郎!

 次有ったらぜってぇ許さねぇ!」


「サーキちゃん、酷い傷を受けてたけど大丈夫なの?」

「ルーサーさんが飲ませた高級回復ポーションで窮地は脱しました。

 もう少し安全な場所で私がさらにヒールを掛けますよ」

「大した根性だったサーキ。

 お前があの時踏ん張らなければどうなってたことか。

 よく頑張ったな」


 サーキはしばらく黙り込み、項垂れる。

 そしてぼそっと言った。


「でもルーサーさん。

 逃げるなんて納得いかねぇよ」

「サーキ、お前なら分かっているはずだ。

 今のお前より相手の方が実力では格上だ。

 あの場で残って戦っても勝てる相手じゃない。

 無事に逃げ切った事すら奇跡みたいなもんだ。

 なんせ俺やミナ、いや、勇者サリーや戦闘鬼神テンライですら半殺しにされた相手なんだからな」


「戦闘鬼神テンライ……」


 サーキは拳をぐっと握りしめ黙り込んだまま馬を走らせる。


「今はその悔しさは、戦闘の大局で勝つ事ではらすんだ。

 見ろ、恐らくグラディエーター隊が反対側の下水道からの侵入作戦に成功したようだぞ。

 魔王軍の対空兵力のドラゴンフライが潰されて暴れ放題だ。

 あの化け物アサシンをこちらに引き付けておいたかいがあったな」


 俺はシルフィルドの城壁の向こうに見える城の天守閣を指さした。

 その周囲には数騎のミルトン王国軍のドラゴン竜騎兵が飛び回り、ドラゴンブレスを盛大に吐きまくっていた。

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