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魔法銃士ルーサー、割とシャレにならないピンチを迎える

 地面にへたり込むように蹲っていたブラッディ・マリーだが、瞬間的で絶大な回復効力のあるレアハーブを口に噛み、見る見る傷が塞がっていっていた。

 数の上ではこちらは俺とミナ、サーキ、エリック、ダイヤ、フィリップさんと3倍であり、内二人はグランドマスターの戦闘職で圧倒的に見える。

 ……素人には。

 だが俺とミナ、そして勇者のパーティーは多数の魔王軍のモンスターや時には強大なボスモンスターに立ち向かう為のスキル構成と装備をしているのに対し、ブラッディ・マリーとヴェスパー・ザ・ヴォイドが使う魔法剣闘術は人対人のデュエルに特化した装備と技と魔法を使う。

 俺が魔法銃士マジック・ガンナーとしてあらゆる状況に対する備えを持つように、彼らも獲物を狩る為の膨大なテクニックの蓄積を持つ。

 孤立して至近距離に入り込まれたらまず勝てず、オークやトロル相手に無双していた歴戦の戦士であろうとも狩られてしまうのだ。

 まだよちよち歩きのお荷物達を抱えて勝てる相手では無い。

 俺が出す決断は一つ。


「全員撤退するぞ!

 アサシン達の足止めを続けながら元来た場所に下がるんだ!」

「無理よっ!

 ヴェスパーに退路を防がれてるわルーサー!」


 ミナは後ろのヴェスパーに魔法銃を撃っているが尽く回避されており、しかもヴェスパーはフィリップさんの方へ徐々に距離を詰めてきている。

 とりあえず退路の確保が先だ。


「代われミナ!

 ちょっと前のデカい奴を頼む」

「はいよ」


 俺とミナは素早く位置を入れ替わり、ミナはその瞬間も無駄にせずに空になった片方のリボルバーに魔法弾マジックシェルを片手で再装填し、マリーに向けて撃ち始めた。

 師匠として、老練の魔法銃士マジック・ガンナーにしか出来ない秘術で俺がヴェスパーを追い払うしかない。


「スキル・死へ誘う6つの星シックス・スターズ・フォー・デス


 俺の片目に魔力が集中し、エイジド・ラブの銃口が向いた先に居るヴェスパーを恐ろしい殺気と共に睨み付ける。

 1、2、3、4、5、6。

 ヴェスパーを死へ追い込む6つの弾道が目に浮かぶ。

 スキル・死へ誘う6つの星シックス・スターズ・フォー・デスを使って敵の動きを看破すれば、相手がその場から立ち去らない限りは6発目が必ず致命打となって相手の脳か心臓を貫いて相手は必ず死ぬ。

 その前の5発は超自然的な閃きで浮き上がった、相手を追い詰める為の布石。

 多くの経験を詰み、その力が超人の域に達したグランドマスターの中でも最高峰の使い手でなければ極める事の出来ない高度な技である。


「ワン」


 パァン!


 俺がエイジド・ラブから一発発射。

 ヴェスパーは俺の目線を凝視しながら予知してたかのようにサイドステップで右へ飛び退く。


「ツゥ」


 パァン!


 再び一発発射。

 ヴェスパーは左斜め後ろにバックステップして回避。


「スリー」


 パァン!


「フォー」


 パァン!


 俺は立て続けに射撃し、ヴェスパーは右へ左へと全て回避する。

 だがそれは全て俺がスキル発動に成功した瞬間に予知した死への軌跡に過ぎない。


「ファイブ」


 パァン!


 ヴェスパーは飛び上がって天井に逆さま状態でしゃがんで着地する。

 片手の指で天井のブロックの隙間を掴んで張り付いている。

 そして俺を見ながら恍惚とした笑顔を見せ、快感に包まれるように半目で上半身をのけ反らせる。

 それを見てミナの銃撃に対応していたマリーが大声で喝を入れた。


「ヴェス!

 楽しむなっ!」

「いい所なのに――、ハッ!」


 ヴェスパーは最後の一発を撃たれる前に大きく横に跳躍して離脱し、俺のスキルの有効エリアの外へと逃げた。

 どうやら6発目に確実な死が待っている事は予感していたらしい。

 ドMだけあって分かっていながらその感覚を楽しんでいたようだ。

 が、退路は開かれた。


「撤退だ!

 走れ!」


 フィリップとダイヤとサーキとエリックはアサシン達を振り返りながらも慌てて元来た方へ走る。

 俺とミナは二人のアサシンに牽制を続けながらジリジリと下がる。


 シュバッ!


「いてっ!」


 エリックが片足を抑えてしゃがみ込んだ。

 ふくらはぎにマリーが投げたスローイングナイフがぶっ刺さっている。

 サーキが撤退を止めてエリックに駆け寄る。


「大丈夫かぁ!

 ほら、肩を貸せ、逃げるぞ」

「ぐあああぁぁぁっ!

 ナイフに多分何か毒が塗られてます!

 途轍もなく痛い、体に回っていく!

 いてててて!

 だっ、駄目だ!

 正気を保てないです!」


「いいから動くんだ!

 ほらっ、立て!」

「無理っ! 無理ですぅぅ!

 私を置いて逃げて下さいサーキさん!

 貴方はここで殺されちゃ駄目です!

 異世界転移者なんですからっ!

 いててててっ!

 ぐあああっ!

 はっ、はやく行ってください!」


 エリックは全身から脂汗を流しながら手足をガクガクと震えさせ、動くどころか立ち上がる事すら出来ずに倒れ、のたうち始めた。


「フッ! シッ! ファイッ!」


 マリーはいつの間にか両手に持ったナイフでミナに切りつけ攻撃をしており、両方の魔法銃の弾を撃ち尽くしたミナは辛うじて回避しながら時折銃のグリップやフレームで受けている。


「早く下がって! ちょ、ちょっともぉ限界!

 スキル・イベージョン!」


 ミナは回避スキルも織り交ぜて頑張っているがマリー相手に何時までも耐えられないだろう。

 そうしている間にもヴェスパーが俺に向かってリープアタックで襲い掛かる。


「ヒャオウッ!」


 狙っている先は俺の背の後ろ、地面でのたうつエリックに寄りそうサ―キ。

 俺が避ければ不意打ちがサーキに決まる。


「くそっ」


 ガキィィン!


 俺は両手の魔法銃のフレームとグリップで、ヴェスパーの両手のカタールを受け止めて耐える。


「フフフフフフフフ……」


 至近距離で俺の顔を覗き込んだヴェスパーは笑った。


 バシュゥ!

 ザクザクザク!


 ヴェスパーの腹が爆発して裂け、中から多数のブレードが飛び出し、俺の腹部に突き刺さる。


「ぐふっ、くそっ、こんな……」

「ゴポッ……痛い?

 痛いのぉおおぉ?

 ウフフフフフフ!」


 結構ヤバい致命傷だ。

 俺はその場に崩れ落ちた。


「ちょっ、ルーサー。

 まっ、たっ、タンマ!」


 ズシャッ、ザクッ、ドサッ


 マリーの猛攻を受けていたミナも重傷を受けて倒れる。


「ルーサーさぁん!

 あんの野郎!」

「フムムムム!」


 退路の細いトンネルに逃げかけていたダイヤとフィリップも振り返り、応援に近寄ろうとする。

 だがそれを見たヴェスパーが片手で魔法を詠唱し、通路をストーン・ウォールで封鎖した。


 ガンッ ガンッ


「開けなさいよ!

 このっ!」


 無事なのはのたうつエリックに付き添うサーキのみ。

 近寄って来る気配に気付き、木刀を構え、大女のマリーを睨みつける。


「この野郎!

 覚悟は出来てるんだろうなぁっ!」

「スキル・イリュージョンアーツ!」


 マリーの手足が分身を作り始め、あちこちからナイフ攻撃や回し蹴りが放たれる。

 喧嘩慣れして多少はブラーディの指導を受けたサーキとはいえ、こんな攻撃など見るのも初めてであった。

 木刀を振り回すが尽くスカり、頭に、横っ腹に強烈な蹴りを受けて膝を落とした。


 ズブッ


 サーキの前でしゃがみ込んだマリーはナイフをサーキの腹に突き立てる。


「グプッ……」


 笑いながらサーキの苦悶の表情を覗き込む。

 なぜマリーが即死級の急所では無く、最も死に遠い部分を狙いすましてナイフで刺したのか。

 そのおぞましい意図は言われずとも俺もサーキも感じ取っていた。

 極めてヤバい状況だ。

 既にほぼ無力化された俺達を二人のアサシンが見下ろしている。

 こういう誰もが諦めてしまう危機で心を折らずに立ち向かえる力、それは理屈で説明しても教えられるものではない。

 実戦と経験を重ねなければ身に付かない。

 俺は地面に倒れて蹲っているミナの表情を伺った。


 ミナも傭兵として経験をかなり積んだようだ。

 折れてはいない。

 だが今多少足掻いたところですぐ傍のアサシンに阻止されて止めをさされるだけ。

 きっかけが欲しい、何かきっかけが欲しい。

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