表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/153

魔法銃士ルーサー、山賊のアジトに殴り込む

 ゴルトバとジェイは人ごみに紛れ、馬に乗って走り去った。

 残されたのは地面に落ちた帽子と、馬の蹄の足跡のみ。

 ああいうやからのこういう時の行動は分かっている。

 恐らくもうドーラの町の中には居ないだろう。

 俺は勇者達との長旅でこういう場合、どういう連中を頼ればいいかは熟知している。


 ガラッ


「よぅ、誰かいるか?」


 俺はドーラの町の一角にあるレンジャーギルドの建物の中へと入った。

 中は酒場を少し貧相にしたような作りになっている。

 一人の女がカウンターでグラスを拭いており、一つの丸テーブルを挟んで軽食を取りながら話し合ってた男が二人。

 三人とも俺に注目して会話を止めた。


「誰か手を貸してくれないか? 至急追跡して欲しい奴が居るんだ」

「……」

「ひょっとしてあんた、勇者サリーと一緒に居た……」

「ルーサーさん? 魔獣に殺されたって聞いたぞ」


 おおっと、そうだった。

 俺は帽子を深くかぶり直して人差し指を口に当てた。


「おおっと、言わないでくれ。

 これは秘密の任務なんだ」

「……分かった。何か事情があるんだろう。

 いくら何でも勇者パーティーのメンバーがメイウィルドまで行く道中の魔獣程度にやられるわけが無いとは思ってたんだ。

 で、何を追跡するんだ?」


 俺はジェイが落っことしていった帽子を取り出した。


「こいつだ」

「ヴィッキィ、来い」


 一人の男に呼ばれ、建物の外で待機していた犬が一匹中へと駆け込んできた。

 男は俺から帽子を受け取り、床でお座りをする犬の鼻先に当てる。

 俺は男に言った。


「悪いな。今持ち合わせが無いが後で必ず報酬は払う」

「この町はあんた達のおかげで魔族共から解放されたんだ。

 金なんて取ったらバチが当たるよ。

 相棒のヴィッキィは10キロ先に逃げたトロルだって嗅ぎ当てる。

 俺達に任せな」


 ***


 ドーラの町から森の中の細い道を5キロほど進んだ先に小高い丘があった。

 その頂上には所々が焼け焦げ、草がぼうぼうに庭に生えたお屋敷があった。

 元々は裕福な貴族が住んでいたらしいが、ドーラの町が2年前に魔族に襲われて陥落した際、住人は町の人々と共に避難し、放棄されて廃屋となっていたのである。

 ドーラの町を魔族から奪還したのはほんの三か月前、ここはまだ危険が完全に去ったとは言えないので放置されたままになっている。

 だがお屋敷の中では大勢の人のバカ騒ぎをする声が響いていた。


 大広間の中ではどう見ても悪人面の山賊たちが30人ほど、家の中なのに焚火をして肉を焼きながら酒を煽っていた。

 その中にはジェイとゴルトバの姿もあった。

 山賊の頭と思われる無精ひげをぼうぼうに生やした男が、服にまで酒をこぼしながら酒のラッパ飲みをしながら尋ねた。


「どうよドーラの町は?

 そろそろ襲撃する価値が出てきたか?」

「女は、女はいいのが居たかよ? どうなんだ?」


 他の山賊に比べて場違いに感じるほど小綺麗な恰好をしたジェイとゴルトバ。

 その正体はドーラの町の襲撃の為の下見を行う、山賊団のスパイだったのである。


「えぇ、厄介な勇者一行は二日前にメイウィルドへと旅立ちました。

 滞在していた兵士達も更なる魔族への攻勢を掛けるため、8割がたメイウィルドへ移動が終わったところです。

 最後の一陣が立つのが明日。

 つまり、明日になれば……」

「町に残るのは女子供と僅かな衛兵のみという事か」

「魔族様様だな」


「ようし、所で以前言ってた哀れな婆さんは元気してたか? ちょくちょく金騙し取ってたんだろ?」

「中々金の在り処が分からなかったが今日、隠し蔵から全財産を出してくれたよ。

 それがこれというわけだ」


 ジェイとゴルトバは隣に置いていた麻袋を持ち上げて自分の前にズシンと置き、袋の口を開く。

 そこには光り輝く黄金、大量の金貨が詰まっていた。


「ほおぉぉ!」

「すげぇぇ」

「さすがは我が山賊団一の頭脳派よ」

「完全に俺達を親切な若者と思って信頼してたし、まったく傑作だったよなぁ」

「あんなしわくちゃババァに誰が好き好んで優しくするかっての。

 裏があるに決まってるだろ。

 年だけ食って本当に世間知らずだぜ」


「よし、明日の襲撃の景気づけにパァ――っといくか。

 ちょうど今日ドーラの町に首都の方から物資運んでた荷車を襲って手に入れたんだよ。

 大量の酒と……山ほどのおみくじクッキーをな」

「ガハハハ、クッキーかよ」

「ほれっ、お前らも開けてみろ」


 山賊の頭は傍にあった籠に山ほど積まれたクッキーをとってジェイとゴルトバに投げて渡した。

 二人がクッキーをパキリと折ると、折り目から紙が現れた。

 揃ってその紙を引き抜いて、開く。


「大吉、何をやっても上手くいきます……だとさ」

「俺も大吉、特に金運が最強だと」

「おぉっ、当たってるじゃねぇか」

「ガキかよ、こんなもの最前線の兵士の士気高揚のための景気づけ、悪い物なんて入ってねぇんだよ」


「よう、悪いがクロリィちゃんを騙して奪ったその金貨、返してくれるか?」

「誰だっ!」


 俺は山賊共の注目を集めながら大広間の中央まで歩み出る。

 そして中央の焚火の傍に立った。


「周囲を警戒しろっ!」

「ここが嗅ぎ付けられたかっ?」


 何人かの山賊が部屋を飛び出す。

 だがしばらくして腑に落ちない顔で戻って来た。


「誰も居ねぇぜ」

「こいつ一人か?」


 山賊の頭が傍の鞄の中から大筒、火薬で大口径の玉を発射する銃を片手に取った。

 この世界、火薬の技術と銃の技術はあるにはある。

 それが武器として一般化しないのは、必中の魔法の方が威力も信頼性も有効射程も上だからである。

 また、火薬がそもそも高級品で軍隊レベルの組織と資金力が無ければ運用出来ない。

 さらには魔力の籠る毛皮を有する魔獣、ミスリルなどの鎧相手には無力でもある。

 通常の鉛の玉を使う前提であれば。


 山賊の頭は大筒で自分の肩を叩きながら俺に尋ねた。


「お前、マジで一人で来たのか?」

「悪いか」


「まじかよ! バッカだろコイツ」

「大人しくクロリィちゃんの金を返しな」


「プッ、はっはっは、この俺に憐れみまで感じさせるとは、お前大した馬鹿だ。

 アッハッハ。

 ヒィ――、苦しい」

「聞こえなかったか?」


「ヒッ、ヒッ、まぁこれでも食って落ち着け」


 山賊の頭は俺におみくじクッキーを投げてよこした。

 俺はそれを片手で掴むと、バリッと半分かじる。


「おい、こいつをハリネズミにする準備を!

 ……で、知性の足りないあんちゃんよ、おみくじの結果はどうだった?」


 山賊たちが俺の周囲を取り囲んでクロスボウを構える中、俺はおみくじを開いた。


「凶、貴方は何をしても裏目に出るでしょう。今日はおとなしく家に籠っていましょう。

 だとさ」

「おぉぉっ! 凶なんて入ってたのかよ。

 他に引いた奴居たか?」

「居ねぇよ。多分、1、2枚くらいしかねぇんじゃねーのか?」


 山賊の頭はさらに1個、俺にクッキーを投げてよこした。


「悲観するな馬鹿にいちゃんよ、さっきのは偶然、今度こそ本当の運命だ」


 ニヤニヤする山賊の頭の前で、俺はさらにクッキーをかじる。


 バリッ、カサカサカサ


「大凶、死の危険があるので大人しく寝てましょう」

「ぷっ!」

「もう一回、もう一回チャンスをやれよ」

「仕方が無い、もう一回だけだぞ」


 俺はさらにクッキーを受け取った。


 バリッ、カサカサ


「凶、全財産を失う危険があるので今日は物を買わないように……」

「ププッ! お前超運がいいな。

 さすがに次も凶だったら褒めてやるよ」

「いやいや、さすがにそれはないだろう」


 さらに受け取ったクッキーを開ける。


 バリッ、カサカサ


「大凶、家族を失う危険がありますが悲観しないように」

「すっげ……」

「お前マジ本物だわ」

「あり得ねぇだろ、俺達誰も凶なんて引いてないんだぜ?」


 俺は腰の両サイドから魔法銃マジック・ピストルを引き抜き、自分に全方位からクロスボウを構える山賊たちに向けて、左右にまっすぐ腕を伸ばして構えた。


「悪運の山は越えた。そろそろ揺り返しが来る頃だ」

「何言ってんだお前」


「スキル・最後に立つ男ラスト・マン・スタンディング

 纏めて相手にしてやる。

 死にたい奴からかかってきな」

「カッコつけやがって。

 野郎共、やれ」


 カチャ、カチャ、カチャ、カチャ


 全方位からクロスボウで俺を狙う音が響いた。


「Let’s Rock!」


 周囲から無数の矢が俺に向けて飛び出す。

 俺は素早く両手に構えた銃で撃ち返す。


 パパパパパン!

 ダシュッ! ダシュッ!


 俺が両手をあちこちに向けて銃を撃ち、その俺の体をかすめて無数のクロスボウの矢が飛び、全てが逸れる。

 最後に立つ男ラスト・マン・スタンディング、それは全方位への正確なカウンター射撃だけでなく、それまでに蓄積した不運の揺り返し、幸運の量に応じて偶然の回避能力を上昇させる。


 ドサドサドサドサッ!


 次々に山賊達は倒れていき、辺りには銃口から漂う煙が充満して霧のように濃くなっていく。


「てめぇっ! 頭ごと吹っ飛ばしてやる!」


 棒立ちで左右に向けて銃を撃つ俺の顔面に、山賊の首領が大筒を向けて引き金を引いた。


 カチッ!


 不発である。

 俺は最後に生き残っていた首領に二丁の銃を向けて乱射した。


 パパパパパン

 ドサッ


 山賊の首領は倒れ、周囲には死体のみが残された。


「ヒュ――! ラッキーだったぜ」


このお話は残り1話じゃ無理でした。

次のお話でクロリィちゃん編完結です。


で、私がエタってる連載小説ですが

「イモータルズ 不滅の肉獣は世界を覆う」  ……不気味なディストピアホラー

「レシプロ・ポリス『クリフ・ファルコンズ』」……リア充パイロット視点の町の動乱を俯瞰する物語

「「虚無と深淵の書」マシス・オクロス手記」 ……異端の魔術師が絶大な魔力を手にして騒動に巻き込まれる物語


とありますが、完全に執筆をやる気がない訳ではありません。

ただ連載が多すぎて、リアル都合もあり書けていませんが、現在連載中のメイン3本のどれかが完結したらその分の1本連載を続けようと思っています。

まぁ一番完結の見込みがありそうなのは世紀末悪役令嬢伝説ですかね。

あと2国制覇で大陸制圧ですし。

マジックナイトストーリーは2章の中盤にも達しているか怪しい上に戦乱編の3章も考えてますし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ