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主従天使  作者: 柚木芥
1/1

プロローグ

_____肉の焼ける臭いがする。





辺りは真っ赤に染まり、建物であったものが、人であったはずのものが大きく火柱をあげて燃えている。ついさっきまで美しく輝いていた湖の水は、血で赤黒く濁っていた。


「母様!母様!」



大量の死体と血の海の中、1人の少女の声が響く。

少女の傍には少女の母親であろう女が血塗れで横たわっている。



「いやだ…いやだ!待って!待って!私1人じゃなんにも出来ないの!ダメな子なの!だから…」




もう肉体だけとなった体を揺さぶりながら少女は必死に叫んだ。



「だから…私を1人にしないで……!!」









_______ぴちゃ…ぴちゃ…







『っっ!!!』







何者かが血溜まりの上を歩く音が聞こえてくる。

姿は見えずとも、その人物が誰かは容易に想像できる。




____魔神だ…。








少女は懸命に足を動かし、その場を逃げ出す。

母の横たわる湖の傍を離れ、森へと踏み込む。



今までに出した事のない速さで走って、走って、走って、走って、走って。


しかし、おかしな事に、どんなに走っても後ろから聞こえる足音の大きさはずっと同じ。だが、向こうが走って来ている感じではない。





___こわい…こわいこわいこわいこわいこわいこわい!!!







追い付かれたら殺される。でも振り切れない。そんな恐怖心で溢れかえる脳では考えがまとまらず、逃げ切る方策が思いつかない。


頭に浮かぶのはただ1つ。






『逃げなきゃ…どこか遠くへ…っ』






そして少女は森を抜け、谷のある草原を走っていた。

いつもなら緑の広がる美しい場所は、今では赤黒く汚れている。






そう、血で濡れているのだ。







___ズルッ








『えっ…わうっ!!!』







逃げる事に夢中だった少女は足元に転がる内臓を踏み、草原を転がって行く。


そう、この草原は谷へと坂道になっているのだ。







『あぅっ、わっ、待っ、て!待って!』








立ち上がるにも、足が言う事を聞かない





『あっ、まずい…!』












そして少女は抵抗する術もなく、谷に落ちていった。













___あーあ。1匹逃がしちゃったよ。ざーんねん。

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