プロローグ
_____肉の焼ける臭いがする。
辺りは真っ赤に染まり、建物であったものが、人であったはずのものが大きく火柱をあげて燃えている。ついさっきまで美しく輝いていた湖の水は、血で赤黒く濁っていた。
「母様!母様!」
大量の死体と血の海の中、1人の少女の声が響く。
少女の傍には少女の母親であろう女が血塗れで横たわっている。
「いやだ…いやだ!待って!待って!私1人じゃなんにも出来ないの!ダメな子なの!だから…」
もう肉体だけとなった体を揺さぶりながら少女は必死に叫んだ。
「だから…私を1人にしないで……!!」
_______ぴちゃ…ぴちゃ…
『っっ!!!』
何者かが血溜まりの上を歩く音が聞こえてくる。
姿は見えずとも、その人物が誰かは容易に想像できる。
____魔神だ…。
少女は懸命に足を動かし、その場を逃げ出す。
母の横たわる湖の傍を離れ、森へと踏み込む。
今までに出した事のない速さで走って、走って、走って、走って、走って。
しかし、おかしな事に、どんなに走っても後ろから聞こえる足音の大きさはずっと同じ。だが、向こうが走って来ている感じではない。
___こわい…こわいこわいこわいこわいこわいこわい!!!
追い付かれたら殺される。でも振り切れない。そんな恐怖心で溢れかえる脳では考えがまとまらず、逃げ切る方策が思いつかない。
頭に浮かぶのはただ1つ。
『逃げなきゃ…どこか遠くへ…っ』
そして少女は森を抜け、谷のある草原を走っていた。
いつもなら緑の広がる美しい場所は、今では赤黒く汚れている。
そう、血で濡れているのだ。
___ズルッ
『えっ…わうっ!!!』
逃げる事に夢中だった少女は足元に転がる内臓を踏み、草原を転がって行く。
そう、この草原は谷へと坂道になっているのだ。
『あぅっ、わっ、待っ、て!待って!』
立ち上がるにも、足が言う事を聞かない
『あっ、まずい…!』
そして少女は抵抗する術もなく、谷に落ちていった。
___あーあ。1匹逃がしちゃったよ。ざーんねん。