私の正体。
何故こんな事になってしまったのでしょうか。
私はどうやらよりによって人間では無い何かに、生まれ変わっているようです。
私はザーッっという激しい音で目を覚ました。
あれ? 私は一体どうしたんだろう。
確か人を探して部屋を出たはずなのに。
私はゆっくり起き上がり辺りを見渡してみると、先程目を覚ました部屋のベッドの上に何故か戻っていた。
この部屋に時計と言う物は存在しない為時間感覚がどうもおかしくなってしまう。
ベッドの頭の上にある小窓から外を見ると辺りは暗く、ザーザー降りの雨だった。
ときより聞こえてくるゴロゴロと言う雷のような音が嫌な雰囲気が感じられる。
私はベッドから起き部屋の灯りをつけると、真っ先に全身鏡の前に歩いて行く。
鏡を見てみると、なにやら服装が前とは違う黒いベビードール型のワンピースみたいな物を着ていた。
幼い身体の私にはドレスよりもこっちのほうが可愛らしく見えるけど、いつの間に着替えたんだろうか。
うーん。
首を傾げながら考えていると、急に部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「きゃっ!」
私はその音にびっくりし、寝ていたベッドに潜り込むと顔を少し隠しながらドアの方を見つめた。
「シャロット様? お食事をお持ちしましたが、入ってもよろしいですか?」
お食事?
そういえば目が覚めてから何も食べてなかったっけ。
というか、誰だろう。
人を探しに行って誰とも会った記憶はないのだけれど。
もしかして、シャロットって私の事?
もう一度きょろきょろと辺りを見渡してみるも、やっぱりこの部屋には私しかいない。
「あ、はい。どうぞ〜」
私はとりあえず平常心を装いつつも、その明るく可愛い声の主を部屋に招き入れた。
部屋に入ってきた人物を見て私は少し思い出した。
先程私が謎な衝動にかられてしまった時に見た、メイド風の少女だ。
何やらコロコロと銀色の台車なような物に、食事らしき物を乗せてきた。
正直な所、このメイド風な少女を見たのは覚えているけれど、その後の事はまるで覚えていなかった。
「あ、あの!」
「はい? なんでしょうか? シャロット様」
私はベッドから身体を起こし少女に声をかけると、和かに微笑みながら答えてくれた。
「シャロットって、私の事ですか?」
「はい、そうでございますが。どうかされましたか?」
私はシャロットと言う名前に疑問を抱いていたのもあり、メイド風の少女に聞いてみると何故そんな事を聞くのか? と、少し戸惑いを隠せないような顔をしている。
とりあえず状況が掴めない以上、うかつに私は一ノ瀬鏡花です! シャロットじゃありません!は、まずい。
前世の話をした所で、信じてもらえるはずがないだろうし。
「どうかなさいましたか? シャロット様」
私が色々考えていると、心配そうに私に近づき、顔を下から覗きこんできた。
顔が近いです、そんな可愛らしい顔で見上げてこないで下さい! 目のやり場に困ります。
「あ、ごめんなさい! 少し考えごとをしてしまって、話してる最中なのにすみません!」
私がベッドの上でべこりと頭を下げると、少女は凄く驚いたような顔をして私に言った。
「シャロット様が私のようなメイドに頭を下げるなど、そ、そんな……」
えーっと、これはどういう事なのでしょうか。
名前に様をつけられた事などない私にとって、このシャロット様と言う呼び方は物凄く、身体がむず痒く感じられる。
「あの、様はやめませんか? シャロットでいいです、私の呼び方は」
「そ、そんな! シャロット様を呼び捨てなど……私にはできません!」
あっさりと断られた。
うーん、なんで様付けなんだろう?
私が小さな頭で、一生懸命考えていると、少女はまた私の顔を下から覗きこむと何やら恥ずかしそうに頬を赤らめながら言ってきた。
「シャロット様とお呼びするのは、その……ご迷惑でしょうか……?」
迷惑じゃないですとも!!
その可愛い声と顔で見つめられたら、誰も駄目なんて絶対言えないと思いますよ! 犯罪級です、その笑顔は!
「あ、迷惑なんかじゃないですよ? 様でいいです!」
駄目です! 私には絶対この少女の笑顔には勝てる気が全くしません!
とりあえず呼び方については後でもう一度考えよう。
私がそう思っていると少女はゆっくりと台車の方へ歩くと、部屋にある高級感溢れる木製のテーブルの上に、食事がのせてある食器を並べていった。
「シャロット様、冷めない内にお食事のほうをどうぞお召し上がりくださいませ」
お召し上がり下さいって言われましても。
今の私には家族みたいな人達はいないのでしょうか?
部屋で食事をするのは初めてだ。
前世の私はいつも家族とリビングで食事をしていたし、なんか寂しく感じる。
「どうかなさいましたか……?」
メイド風の少女が、私が浮かない顔をしているのが気になったのか、心配そうな表情で私を見つめていた。
「申し訳御座いません、シャロット様。奥さまより、今日はお部屋で食事をさせなさいとの事ですので……」
あ、一応家族はいるんだ。
良かった〜と少し安心するも、後半の言葉が凄く引っかかる。奥さまって言うのは恐らく母親の事だと思う。
だけど、部屋で食事をさせなさいって、どう言う事だろう?
「どう言う事?」
私は全く覚えていなかった。
一体何があったのだろうか。
もしかして、何か失礼な事をしてしまったのだろうか。
「覚えていらっしゃらないのですか? 実は、昨日の夕食の時の出来事でした。シャロット様がいつも通りお食事を旦那さまと奥さまとなされているときに、メイドの者がトマトジュースを初めてシャロット様にお出ししたのですが……」
「トマトジュースって、ちょっと待って! もしかして私、トマトジュース飲んだんですか?」
気になったので聞いてみる。
「は、はい。わぁ、美味しそう! と、ごくごくと飲み干されましたが、その後シャロット様の顔色が悪くなり、急に意識がおなくなりになりまして……」
あ、当たり前だーー!!
私はトマトが大がつくほど嫌いなのだー!!
その話を聞いて、私は少し理解できた。
どうやら、大嫌いなトマトジュースを私は在ろう事か飲んでしまった事により意識を失い、ショック的な物なのかはわからないけれど、前世の記憶が蘇ってしまったらしい。
それにしても、なんと言うか。
前世の私の体質を引き継いで生まれ変わっているとは。
記憶が蘇る前の私に御愁傷様ですと、凄く言いたい。うん。
でも、前世の記憶が蘇った事に関しては素直に嬉しい。
前世が高校生で終えてしまったであろう私が、こうしてまた違う所で第二の人生を送る事が出来るのだから。
そう思っていたのだけれど。
食事をとりはじめた私は、テーブルの上に置いてある白いお皿の中にある、真っ赤な液体のような物が物凄く気になる。
メイド風の少女に聞いてみる。
すると、想像を超えた答えに開いた口がふさがらなかった。
「これって、トマトジュースですか?」
「あ、いえ、これは奥さまがシャロット様がまだあまり上手く血を吸えないからとの事で、お皿に血を移し替えた物で御座います」
へぇ〜! これって血なんだ〜ふう〜んって!!
あのあのっ、今この人なんて言いました?
さらりと恐ろしい事を言ったような。
しかも、吸えないってどう言う事!?
あはは、私の聞き間違いですよね?
きっとそうだ。そうに違いない……うん。
「あの……なんで血が?」
「えっ? それは、シャロット様は吸血鬼ですし……」
「きゅ、吸血鬼?」
吸血鬼ってもしかして、あの人の血を吸うって言うあの映画とかによく出てくるあれですか?
「えぇーーー!? 嘘だーーー!!」
「シャ、シャロット様!? 急にどうされたのですか!?」
「いやぁぁぁぁぁー!!」
「きゃあああああ! シャロット様!? しっかりしてください! シャロット様ー!!」
私のそのまま、意識を失ってしまった。
お願い、夢なら覚めておくれ。