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ルビー・アレクセル

 ピタ。ピタ。ピタ。


 赤黒い液体が、俺の二の腕の辺りから流れ出し、地面へと流れ落ちる。


「ぐ……ああ……。」


 今まで味わった事のないような、強烈な痛みを受け、俺は悶える。


 ガランと音をたて、俺の二の腕を引き裂いたハルバードが地面へと倒れる。


 流れ出る血を止めようと、左手で傷口を抑える。べっとりとした、生温かく、嫌な感触が左手に広がる。


(俺……馬鹿だろう……。子供じゃないんだから……。)


 書斎の次は、こっそりと武器庫へと忍び込んだ。危険な場所だ。レプリカでは無く、実際に戦で使う、武器達が置かれているのだ。子供が入っていい場所では無い。そうだと判っていながら、本物の武器を見てみたいという好奇心に勝てず、俺は武器庫へと忍び込んでしまった。


 そして、不注意から壁に立てかけてあった、ハルバードが俺の方へと倒れてきてしまったのだ。人の力が加えられていない、重力に引かれての落下。それでも、子供の腕を引き裂くには十分な威力だった。


 当たった場所が、斧の部分では無く、先端の槍のような部分だったのは、幸いと言える。もし斧の部分だったら、腕が断ち切られていたかもしれない。


 痛みに耐えるように、背中を壁に預け、うずくまる。


(この怪我……どうしよう……放っておいたら、使いものになったりしないよな……)


 折角、異世界転生出来たのに、これからって時に片腕を無くすのは非常におしい。そもそも、このまま大量出血で死んだりしないだろうか?


(ここでみっともなく泣き叫べば、誰かしら助けに来てくれるだろう……その後、医者に診てもらって……)


 そこで俺ははたと気付く。


(あれ、この世界ってまともな医療が受けられる環境にあるのか? 外科的治療がなくても魔法なら……そもそも、そういうのが使える人間がそう簡単に見つかるのか?)


 どんどんと嫌なこと考えてしまい、先が真っ暗になる。


 そう思った時だった。右腕の痛みが、スーッと抜けていった。俺は驚き、右腕を見た。傷口を抑える左手には、べっとりと血が付いたままだった。


 おそるおそる左手を退ける。


(え……?!)


 俺は眼を疑った。傷口が無くなっていた。右手を濡らす、血が傷を負ったことを示しているが、何処に血を流すような傷口は見当たらなかった。



「私……怖いわ。日に日にあの子……ルビー様の不気味さが増していくわ……。まるで本物の『悪魔フィーンド』みたいで恐ろしいわ」


「ほんと、あんな『悪魔の子(デーモンリング)』を生んでしまうだなんて……セラ――」


「しー! その名前を口にしてはいけませんわ。もし、マーセス様に聞かれでもしたら……」


「あ、申しわけありませんわ。私とした事が……。」


「この話はもうおしまいにしましょう。あまりいい気分はしませんわ」



 武器庫の外、廊下の方から使用人の話し声が聞こえてきた。


 『デーモンリング』聞いた事のない言葉だった。そして、その言葉の正確な意味が分からなかった。今まで、聞いた事のない言語の言葉であっても、どんな言葉も理解できたにもかかわらず、こと言葉だけは『デーモンリング』としか分からなかった。おそらく、自分の知る言葉で、それに対応する言葉がないと意味が読み取れないのだろう。あまり良い印象を受ける言葉ではない事だけは理解でき、それが暗に俺を差した言葉であることは、はっきりと分かった。



 俺は……人間とは程遠い存在なのだろうか……?



 怖くなった。自分が人間であることを、確認しようと、手で頬を触れる。口、髪の毛、目、鼻。すべて人間のものだと思える。



「うそ……だろ……」


 人間の物とは思えないものがあった。どうして今まで気付かなかったのだろうか? 俺の両手は人の物とは大きくかけ離れたものだった。


 黒く、岩肌とも鱗とも思える肌が、肘の腕から指先までを覆っていた。そして、指は細長く、爪は、鋭く鋭利な形をしていた。


 視界の端に、鏡のように綺麗に磨かれた盾が映った。俺は、気が付くとその盾に、自分の姿を映し、己の姿を確認していた。


 白い肌に、子供らしく中性的でかわいらしい容姿。銀色の髪に、左が赤で、右が青のオッドアイ。厨二的でほれぼれする容姿だった。


 けれど、人の物とは思えない部位が見受けられた。


 エルフのような細長い耳。左右非対称な、頭部に生えた一対の黒い羊のもののような角。腕と同様に、鱗とも岩ともつかない肌に覆われた、二股に分かれた尻尾が生えていた。およそ人とは大きく外れた容姿だった。悪魔的な容姿は、厨二的と言えるかもしれないが、リアルなその容姿はとてもそう思えるような物では無かった。


 この世界の人間がそういう容姿なのかというと、もちろんそういうわけではない。数えるほどしか目にしていないが、父親であるマーセスも、兄であるウィリオンにもそういった特徴は見られない、普通の人間だった。


 ずっと父親や、兄、使用人から避けられている気がしていた。その意味を、俺はこの時ようやく理解した。



 『デーモンリング』この言葉の意味を正確に理解したのは、大分あとのことだった。悪魔の血をその身に宿した、悪魔の落とし子。それが『デーモンリング』という存在だった。

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