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隣町の古本屋  作者: sima
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ちょっと、お茶いれてきてくれないか。

はい、ただいま。

部長ってほんと、私たちのことお茶くみとしか思ってないですよねー。

あら、ミキちゃんいつに増してご立腹ね。

だって!聞いてくださいよ!彼ったら・・・


また、つまらない人生に戻ってしまった。

いつもの繰り返し。

今の人生の中で、生きていると感じられるのは、あの一日だけ。

その日だけは、朝からもう私は物語の主人公なのだ。

朝、カーテンからこぼれる静かな木漏れ日で目が覚めて、トーストとコーヒーで朝食。

爽やかな衣装を身にまとったら、すこし古びた本を片手に電車に乗るの。

外はとても気持ちのいい天気で、窓を少し開けたらスーッと私をなでるように風が流れる。

そうして、少し物語を進めたら、少しだけ歩いてあの場所へ。

いつもと変わらぬ笑顔で、迎えてくれるの。


いらっしゃい


あなたのその声が私の物語をいっそう爽やかに仕立てる。

気まぐれなあなたは、奥の本棚が入り組んでいるところに引っ込んで一人読み物にふけっていたり、突然コーヒーをサービスしてくれたり。

いたずら好きなあなたは、私の頭の上にたんぽぽをのせたりしてくるの。


わぁ!


膝の上で寝ていた猫が飛び跳ねる。

びっくりした顔を見て、楽しそうにくすくす笑う。


やめてくださいよ、子供じゃないんですから。


すこし、頬を膨らませてわざとらしく怒ったように言うと


大丈夫ですよ、似合ってますから。

そういう問題じゃないですよ。


何も大丈夫じゃないわよ、私の心が。

そんな声が漏れてしまいそうで、


もう!


とだけ言って視線を本にずらすの。

本当は、満面の笑みでありがとう、なんて言えたら可愛いだろうな。

そんなことを思いながら、物語の中へ戻ってゆく。



あれ、今日はなんだか浮かない顔ですね。

今日は、外が雨だからね、こう、なんだか本と一緒に湿ってしまいそうだよ。

雨、好きじゃないんですか?

嫌いではないけどね、やっぱり、気分が少しじめじするよ。

私、雨、好きですよ。

あら、また変わった人だね、君は。

雨もまた、物語を演出してくれる素晴らしい素材ですから。


そう、私は雨も好きなの。

悲しい物語には最適だし、明るい物語にだって意外と合うものなのよ。

明るい物語に入り込んで、ふと外を見て雨が落ちていると、その物語は私の遠い過去のことのように思えるの。

ああ、こんなこともあったな。

猫が外へ出られないのを不満そうに窓際で寝ている。

思い出を掘り返すように、また物語の中へ戻る。


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