「ヴォーパルソード」
XX年、XX日、晴れ時々塩化竜巻
主人公は粗末な寝台から起きて、慣習的に窓を開けて空を見た。いつもと変わらぬような青空が広がっていた。しかし、あることを発見すると、「大変だ」というようなことを叫んだ。集落から数マイルの集合農地には、竜巻が起こっていたからである。この星の竜巻は何種類かあるが、今起こっているものは、惑星の竜巻中で最も悪質で農業を阻む竜巻、その名も塩化竜巻であることをその竜巻が緑色であることから主人公は発見した。微量だが塩素を含む雲を多く巻き込んだ竜巻は、塩化雨を降らせ、塩害を引き起こす。比喩ではなく作物が全部、それどころか畑が全部向こう数年間ダメになる凶悪すぎる自然現象にして、食糧難が起こるまで、この星で農業を営むものが皆無だった理由のひとつである。早く集落の皆に知らせなければ、と思って外に出ると、すでに集落の、農地を望む丘には人だかりができていて、皆が話しかけがたい位鬱々とした雰囲気に包まれていた。口々に「もう終わりだ・・・」だの、「神よ・・・」だのと言っている。文言を唱えて一心に祈りを捧げる僧侶もいた。実は、この塩化竜巻、別に、そこまで珍しい自然現象というわけではない。ただ、農地をこの現象に襲われた集落はほとんどの場合飢饉で皆死に絶えるので、経験したことのある者自体の数は少ないというだけの単純な話である。今後、食べれるものがないかもしれないという最も根源的な恐怖に襲われている集落の人々は、しかし次の瞬間目を見張った。竜巻の中、宙を舞う巨大な生物がいたのである。これは何だ?
誰に聞いても知らないので、主人公は集落の長老の元を訪れることに決めた。丘の人だかりにはいなかったが、そもそも長老は何をしているのだろう?今、集落が存亡の危機に瀕していることをどこまで知っているやら・・・。まあ、かかる過酷な環境にあって、今まで集落、そして集落の人間を、知恵だけでここまで生き延びさせてきた人間であるから、知らないということはないだろうと主人公は思った。多分、こういう事態になったときの切り抜けかたも知っているだろう。長老の家は一際大きい菩提樹のそばにある。「この木は、神が植えたもうた神代のその日から、枯れたことがないのじゃ」とか言ってたっけな・・・。その辺の記憶は曖昧である。長老の家につくと、何やら物音が聞こえてくる。しきりに独り言をいっている。入ろうとしてドアを開けると、真正面に長老がいた。「おお、XX、よくぞ来た、何が起こったかは知っておるな。」「ええ、そのことで---」「村の北西へ向かうぞ。」
随分と唐突であったので、呑み込むのに色々と時間がかかったが、要は、備蓄食料が少しあるので、少しずつ食いつなぐという作戦らしい、その食料を取りに行くそうだ。そんなことをしても問題は先延ばされるだけで、じきにジリ貧に陥るのでは?と怪訝に思いつつも、長老についていくと、まず方角からおかしい。向かっている方向は絶対に北西ではない。森にわけいる。それについていく。しばらくして山があって、それにまたついて行き、山の頂上につくと向こうになにか見える。山を下っていって、全貌が明らかになると主人公は驚いた。そこには、非常に奇妙な建物が連なる廃墟があった。鏡張りのような、非常に高い建物がいくつかあって、その高さは少しずつ違う。神殿であろう、一つずつ違う神を宿しているのだな、と主人公は思った。それにしても豪華で、そして罰当たりではあるが率直に申し上げて奇妙だ。地面はなんというか、鼠色の石のようなもので覆われている。「長老様、これは---」「古代の神が暮らしていた街じゃよ、驚いたか?」「ええ、それで、ここに食糧があるのですか」「いや、ここには武器しかない」「え、それでは、森の動物を仕留めるのですか、森には、春以外は動物を見かけたためしはありませんが」「おかしいのう、君は、あの、竜巻の中、宙に舞う龍をみはしなかったのか」
主人公は絶句した。あんな狂暴そうなものと戦うのか、というかあれを食べるのか・・・。色々と問題があるだろう。「いいか、まず、扉を破るぞ」「へ?」「あの高い建物じゃ、あそこのすべての部屋には古代、私たちの先祖である神々が住んでいらっしゃった」色々と罰当たりすぎるだろう・・・。「なぜそのようなことを」「龍と戦うための武器がある」やっぱり戦うんだ・・・。
地面と同じような鼠色をした高い建物には外側に階段があった。扉が並ぶなか、一つを選んで蹴飛ばした。ドアは簡素な作りのようで、簡単に蹴飛ばせた。室内は比較的地味なような気もする。武器らしきものは壁にかけてあった。
---【神器「ヴォーパルソード」
空を飛ぶ蟲に有効、投げつけて使うタイプの武器。
武器が返ってくるときに、使用者自身の首がはねとぶ事件があとをたたない。
くれぐれも気をつけてお使いください。】---
~ハンティング社基本対蟲兵器セット説明書より引用~
部屋を出ると、街では竜巻が起こり、竜が暴れていた。
主人公は、外の廊下から竜に向けてやみくもにブーメラン状のその武器を投げた。
すると、武器は横に放物線を描いて竜に向けて飛んでいき、竜の首を真っ二つにした。
---【「竜蟲ジャバウォック」
大抵バンダースナッチとジャブジャブ鳥と行動を共にする。単体はまれであるが、竜巻と共に単体で現れることはままある。基本的に、森の縄張りに踏み込まれなければ、人間に襲いかかることはない。】---
~ハンティング社狩猟ガイドより引用~
主人公は建物の階段を降り、建物を出て、竜が墜落した、街の石造りの大広場の方へ歩み寄った。見た目は非常にグロテスクだが、ひきずるなり修羅を使うなりして村に持っていけばしばらく食料には困らない大きさだ。これで、食料問題は当面解決か・・・?と考えていると、山の方から鳴き声が聞こえて、何か飛んでくるのが見える。ああ、巣穴があるのか・・・。新しい畑を開拓するのは当分後で良さそうだと、主人公は思った。竜巻が止んで、にわか雨が降りだしていた。