視点変更もやり方次第だと思うんだわ。
城内の食糧が尽きて既に十日が過ぎた。
飲み水にも毒が投げ込まれ、住人達でまともに動ける者は俺を含めて居ない。
腹が減って死にそうだと良く元の世界では口にしたが、今は本当に空腹による死が目の前に迫って来ている。
ここから目に見える敵の砦ではあり余る食糧を食い散らかしているのだろう。
オレッチ・アルベルト・フォン・ヴァイスクルツ大公女と言う女の子を助け出そうと頑張ってはみたが、北篠と言う糞野郎の所為で叶わなかった。
俺はこの世界の勇者だ。
神様から与えられた最強の力でこの世界を救う筈だった。
でも、現実は違う。
最強の筈の俺が追い詰められていて、あの糞野郎は俺と正々堂々と戦わない。
これは話が違うだろう。
ああ……お腹が空いた……
ステーキ……ハンバーグ……カレーライス……トンカツ……
どれも違うな……
そうだ……
母さんの作るおにぎりが食べたい……
鮭と梅干しの入ったおにぎりが……
あと、お茶があれば、何も要らないな……
ううん、贅沢だな……
水……水が飲みたい……
◆◆◆
「ヒャッハー!!水だー!!!」
「水っすよー(((o(*゜▽゜*)o)))」
「閣下、あちらさんは水もまともに飲めないみたいです!何でなんですかねwww」
「噂によると城内の誰かが飲み水に毒を投げ込んだみたいっすよ〜怖いっすよ〜((((;゜Д゜)))))))」
「何て怖ろしい!そんな事をする人間の顔を見てやりたい!」
「そうっす!俺っち達はやってないっす!指示しただけっす( ̄ー ̄)」
「全く、勇者に正々堂々挑まないなんて男の風上におけぬ奴ですな」
「ふむ、その通りっす( ̄ー ̄)」
「しかし、飲み水も食うもんも無いのに、あいつら本当に良く粘りますよ」
「まあ、時間の問題っすよ!それにあいつらが飢えても、俺っちは水も飲めるし、美味しい物も食べ放題っすよー(((o(*゜▽゜*)o)))」
「はい!私も飲めます!ぶっちゃけ、真水なんか飲みたくないので、柑橘類のジュースにしましょう!」
「蜂蜜も入れて甘くするっすよ( ´ ▽ ` )ノ」
「はい!喜んでー!」
「美味いっすね( ´ ▽ ` )ノ」
「いや、マジで美味い!目と鼻の先で飢えまくってる奴らが居ると思うと最高に美味いです!」
「おうっ!ゲスな発言っすね♪( ´▽`)」
「勇者が自刃したら助けると言っても、一向に応じる気配もありませんしね。皆様で仲良くあの世に行って貰います」
「勇者頑張ってー!((((;゜Д゜)))))))」
◆◆◆
城内の食えるもんは本当に食い尽くした。
家畜や雑草、革製品に至るまで食べ尽くしている。
俺やカロリーナ王女に与えられていた食事の内容が変わった時には城内の住人達は本当に食べる物が無かったみたいだ。
あちらこちらに転がる屍の肉が削ぎ落とされている事が意味するのは一つだ……
嫌だ……もう嫌だ……
死にたくない……
でも、俺が死なないとこの城で生き残っている者達が助からない……
俺は間違っていた……
俺がどんなに強くても、戦場でどんなに敵を殺しても、勝てない奴がいる事に今気付いた……
俺が神様から与えられた魔法の力はあの大公女に通用しない。
俺があの女の子に勝てない唯一の力が魔法だ。
他の全てがあの女の子に勝る俺が今は死にかけで動けない。
今戦えば、あの女の子に負けるだろう。
でも、きっと彼女は俺を助けてくれる。
彼女は俺のハーレムに入る予定だ。
だから、俺はこんなところで死にはしない。
死ぬ訳が無いんだ!
◆◆◆
「中将〜今日の晩御飯は何すか?♪( ´▽`)」
「良くぞ聞いて下さいました。今日の晩御飯はこちらの豪華ディナーですよ〜」
「わ〜い!わ〜い!♪( ´▽`)」
「では、閣下……頂きますの合図をお願いします」
「うむっす。今日のは口に合わぬ……えいっすよ。どんがらがっしゃ〜ん( ´ ▽ ` )ノ」
「ああっ!豪華ディナーがwwwちょっと味見を……」
「大公女様の料理に手をつけるとは恐れ多いっす!((((;゜Д゜)))))))」
「あうっ……」
「よいか〜貴様らが飢えても大公女様は飢えぬ!!貴様らが死んでも大公女様は死なぬのだ!!((((;゜Д゜)))))))」
「……」
「……」
「良し!頂きますは済みましたね。では、あちらさんをあざ笑いながら美味しく頂きましょう!」
「は〜いっす( ´ ▽ ` )ノ」
◆◆◆
もう考えるのが億劫だ……
腕が自分の物とは思えないくらい重い……
立ち上がる気力も誰かに話し掛ける気力も無い。
もう俺に出来る事は壁に寄りかかり空を見上げるだけ。
瞬きも息をするのも酷く疲れる……
まあ、良い……
このまま眠れば、楽になれそうだ……
◆◆◆
「閣下、アンタ魔法だけは勇者に勝っとったんですか!」
「まあ、勝っとったっすよ( ̄ー ̄)」
「なのにフルボッコにされたんですか?」
「勇者の魔法だけは使えない様にしたんすけど、向こうの方が普通に強いんすよ。勝つのは無理っす( ̄ー ̄)」
「へ〜、勇者が魔法使わないのは正直助かりましたね。これは我々の取れる選択肢がかなり増えますよ」
「俺っち、実は大活躍っすよ♪( ´▽`)」
「さて、今回は視点変更を乱用してみましたが、閣下はどうでした?」
「視点をコロコロ変えるのは良くないっす!((((;゜Д゜)))))))」
「とまあ、大多数の皆様が仰いますけどね。【頻繁な視点変更にも作者の意図は存在する】もんなんですわ」
「作者の意図っすか( ̄ー ̄)」
「そう、作者の意図です。今回の場合は我々と勇者の対比を表現する為に視点変更を乱用した訳なんですね」
「勇者はシャレにならんくらい追い詰められてるのに、俺っち達はお馬鹿やり放題だったっすね♪( ´▽`)」
「こう言った全く異なる立場にある者達を描写するのも中々面白い物ですからね。たまにするのは意外と斬新だったりしますよ」
「普段からサイド方式使ってばかりだと効果は薄いっすからね〜♪( ´▽`)」
「まあ、参考までに例示となれば、幸いですね」
「つーか、勇者どうなったんすか((((;゜Д゜)))))))」
「明日には首が届きますよ。あちらさんはもう限界の筈ですから」
「俺っち、大勝利〜(((o(*゜▽゜*)o)))」
「閣下!油断はいけません!勇者とカロリーナ王女の首をこの目で見るまでが戦争です!」
「う〜、ごめんなさい……中将……」
「御理解頂きました事に感謝を」