宝ちゃん。
「宝くじちゃん。」
皆は皮肉をこめて、そう私のことを呼ぶ。
私は大阪の母一人子一人の家庭で生まれ育った。小中高と順序良く進み、大学まで進学したが、自分を見失い、やがて欝になり中退。その後は様々なバイトを転々としながらなんとか生活していた。
あるとき、母親にお遣いを頼まれた。「バイト帰りに宝くじを買って来て。」と。
私は宝くじの販売所に行った。母親に頼まれた分の宝くじを購入した。そこまではよかった。次に私の目に映ったのは好きに数字を選んで当選できるという数字選択式宝くじだ。私は宝くじ自体にに全く興味がなかったが、CMでたまに見かけるこの数字選択式宝くじには興味があった。「一回やってみよ。」そんな軽い気持ちで適当に数字を書いた。
すると、当たってしまった。母親の宝くじではない。自分の興味本位でやった宝くじが当たってしまったのだ。まだ三百円程度ならいい。三億だ。三億当たってしまった。私はとりあえず母親においしいご飯をご馳走し、当たってしまったことを話した。母親は気が動転していたが、とても喜んでいた。
次の日、バイトから帰ると、母親は私の三億入っている通帳と共に姿を消した。
もともと私が生活費に困ったら母親にお金を入れてくれるために作ってもらった母親名義で開いた口座だったので持ち出すのは簡単なことだった。
私はショックだった。ずっと育ててくれた母親が裏切った。私はしばらく放心状態だった。母親が裏切ったということを忘れるためにバイトに打ち込んだ。そして経済的に少し余裕が出てきたときに、また宝くじ販売所が私の目に入った。
さすがに二回目はないやろ。でも気休め程度にいっぺんやってみよ。もし外れたら、いや、外れてください。そう願って。
また当たった。しかも今度はキャリーオーバーで六億。ふざけるな。なんで当たる。また誰かに裏切られるかもしれないじゃないか。
一度はその六億当選のくじを捨てようかと考えたが、それは良心が痛むので、私は自分用の口座を作りそこに六億をぶちこんだ。
私が六億当たった噂はなぜか広まり、親戚、友達は皆私のことをからかい、皮肉をこめて「宝くじちゃん」と呼ぶ。私は宝くじちゃんではない。ちゃんとした「富永サキ」という本名があるのに。
これが、私の「宝ちゃん」のはじまりである。