破戒(下)
暇と金と睡眠欲が欲しい
ハイラルは先ず、俺に対して記憶操作を使うはず。記憶を改変して混乱させてくる。だけど俺にはそんなものは効かない。今の俺に負けは無い!
「今度こそ、俺が勝つ!」
バリバリバリ!
空気が破けるような音を立てながら俺の身体を覆う【絶対破壊】の赤い雷。これこそが俺の【破壊】。
「なっ……!?」
驚いているだろうな。何せ、【破壊】の性質が変わっているのだから。
「お前……なんで【破壊】に触れているのに平気なんだ?それに記憶操作が効かない……。……まさか!?」
「気づいたようだな。そうだよ、俺が使っているのは、【対象破壊】と【能力破壊】だ。」
「……!やっぱりか!!ふざけやがって……!強過ぎだろおい!」
【対象破壊】は選んだ対象を【破壊】する。【対象破壊】は対象にしていないものには効力はない。【能力破壊】は自分を対象とする能力を無効、【破壊】する。【対象破壊】や【能力破壊】などの【破壊】は魔力を消費して発動する。燃費も悪く、短時間しか使用出来ない。しかもそれぞれ2回までしか使うことは出来ない。考えながら戦わないと負ける。ハイラルの事だ、必ず突破口を見いだす。その前に潰す!
「食らえ!」
俺はただ壊すための【破壊】をまとめ2mある槍を形成し、ハイラルへ投合した。あいつは【破壊】(これ)を避ける。そこでハイラルが着地する地面に土属性を使い、地面を泥へ変え体制を崩す。身動きが取れないハイラルへ対象を魔力にして【破壊】をぶつける。そうすればあいつは戦う術がなくなる。
「勝たせて貰うぞ!」
「当たんねえよ!」
ズガガガガガガガガガ!!
放った【破壊】の槍は俺の想定通り地面を抉り、3mの深さを一直線に刻んだ。
「掛かったな!」
土属性の魔力を使いハイラルの着地する地面を泥へ変える。
「うおっ!」グチャ
「今度こそ食らえ!!」
ハイラルへ【破壊】を放った。
「ちっ!このクソが……」
ズガン!
大きな音と煙を立て直撃する【破壊】。
「……はあはあ……。」
たったこれだけでほとんどの魔力を持っていかれてしまうとは、我ながら情けない。
「だが、やっと、これで……。」
「努力賞かな?」
「なっ……!?」
驚愕した。身体の中の魔力は【破壊】したはず。魔力は言うなれば体力だ。魔力を行使すれば疲れるし、魔力を消費し過ぎたら命に関わる。俺はあいつの8割、要するに戦闘不能の状態になるほどの魔力を【破壊】した。
「なんでって言いたそうな顔をしているな。まあそうもなるか。俺がしたことは普通じゃ考えられないことだからな。」
わからない。考えられない。何故、お前が立っている。どうやってお前は破壊を凌いだ?
「教えてやるよ。お前は対象を俺の魔力にしただろう?そう、魔力なんだよ。なんであれ、お前は俺の魔力を対象にしたんだよ。例えそれが、俺が外へ出した魔力だろうとな。」
「…………!そういうことか……。俺が【破壊】したのはお前の魔力には変わりないが、その魔力はもう既にお前の身体にある魔力ではない。それじゃあ、一つしか【破壊】出来ない俺の【破壊】は、お前には届かないということか…………。」
「そういうことだ!お前はどうせ俺の魔力を【破壊】するだろうと予測はしていた。」
「……。っは、ははは……また負けてしまったな。」
「ああ、俺の勝ちだ。」
ああ、最高の気分だ。ここまで清々しいのは久し振りだな……。
「ほら、屋敷に戻るぞ。」
ニッコリしながら手を差し伸べて来たハイラルは父上に似ていた。