一ー弐話・・・・・王家の塔へ
……夜が明けて、間もない時間、僕はいつものように、鍛練に打ち込んでいた。誰かが近づく気配を感じた。
「へぇ〜 すごいなー」
カルロは感嘆を漏らすと、自分の槍を持ち出して
「一つお手合わせ、願いたい。」
「いいですね。こちらこそお願いします。」
僕は返事をし、久ぶりの組み手を楽しむことにした。
祖父が他界してから、組み手相手が父だけで物足りなく感じていた。カルロさんの気配からかなりの実力者だ分かり、自然と口元が緩む。
「ルールはどうします?」
「そうだな〜、寸止めの何でも有りでいいか?」
「はい。では、勝敗は参ったするまででいきましょう。」
僕達は5メートルぐらい離れ、互いの武器を構えた。僕は間合いを推し量るように少しづつ詰めようとするがカルロさんは槍を構えている為、間合いが広く、加えてなかなか隙がない。
…静寂に包まれた。
僕は、一瞬で間合いを詰めて、薙ぎ払ったが、カルロさんは冷静に槍の柄で受けた。
「くっ!」
小さなうめき声と共に、後ろに後ずさる。
「かなり重い攻撃だな。」
カルロさんは手の痺れを払う様に手を振りながら声を掛けてきた。
「いや〜、隙があまり無いから、防御ごと吹き飛ばそうかと。」
「おいおい、寸止めって言ってなかったか?」
「カルロさんはあれ位の攻撃、余裕で防御すると思いましたから。」
僕は仕切り直しとばかりに、武器を構え直す。
「先程までの隙の探り合いも鍛練の一つですが、攻防の鍛練の為、動いていきます。」
「ああ、こっちも攻めていくぞ!」
お互いの武器の特徴を活かし、遠くの間合いからの槍の一つ突き。僕はギリギリで回避してから、槍を引き戻すまでに間合いを詰めて、剣での連撃を放つ。カルロさんは連撃を柄でまともに受けずに、器用に受け流しをしている。連撃の隙を狙っての切り返しによって、再び間合いを空けられてしまう。
…30分後
「そろそろ終わりにしましょうか? 最後に少し本気でいきます。上手く受けてください。」
僕はそう言うと、カルロさんに向かって一気に詰め寄り、右に跳ぶ。相手には消えた様に見える移動術を使い、そのままカルロさんの背後に回り込む。そして袈裟切りを放つがカルロさんは反射的に僕の剣を受け止めた。しかし無理な体勢で受け止めた為、僅かな隙が生まれた。僕は間髪入れずに、足払いを放つとカルロさんがひっくり返えり、カルロさんの喉元に刃を突き付ける。これで勝負が付いた。
「…参った。強いな〜 良い練習になった。ありがとう。」
「こちらこそ、いつもは組み手相手が居ないので、今日は楽しかった。また機会があれば、お願いします。」
僕達は握手を交わし
「そろそろ、朝ご飯を食べましょう。食べ終わったら森の中の塔を目指しましょう。」
二人で家の中に戻って行った。
僕らが家の中に入ると、レイラさんが朝食の用意をしていた。
「おはよう。勝手に朝食を用意したが良かったかな?」
僕は用意された朝食を見ると、感心しながら
「ええ。ありがとうございます。僕が作るより、美味しそうです。」
そう言うと、レイラさんに笑顔を向けた。
レイラさんは頬を赤く染め
「…っ あ セシリア様を呼んできます。」
慌てて、呼びに行った。
僕は慌てさせる様なこと言ったかな? と頭を傾げていると
「くくく」
横でカルロさんが声を噛み締めながら、笑っていた。
「何を笑っているのですか?」
「いや、大した事じゃない。けど、あの『アイアン・メイデン』と呼ばれるレイラが照れて逃げ出したか。」
僕は何の事か分からなかったが
バン! バン!
「気にするな。楽しくなりそうだ。」
カルロさんはそう言って、僕の肩を叩いてきた。
「気になっていたんだが、俺達にも敬語はいらないぞ。年上と言っても一歳しか変わらないんだし。」
叩かれた肩を摩りながら
「わかった。それより、力入れすぎ、痛いって。」
「おお! 悪かった。」
カルロは素直に謝ってきた。
しばらくして、レイラさんはセシリアと共に戻ってきた。僕はセシリアと挨拶を交わした。
「おはよう。夕べはよく眠れたかい?」
「はい! 色々とお世話になり、ありがとうございます。」
「気にしないで。それよりレイラさんが朝食を作ってくれたから、食べよう。」
皆が揃ったので、朝食を食べ始めた。用意された御飯は、どれもオーソドックスな料理だが、丁寧に調理されているのが分かる。
僕は一口食べてみる。
モグモグ……ゴクン
「うん! 思った通り、美味しい。あれしかない食材を上手いこと使っているな〜。」
レイラさんに向かって、声をかけた。
その後に何気なく言った言葉と最高の笑顔が、爆弾となり派手に爆発した。
「これなら、いつでもお嫁さんになれますね。旦那さんになれる人は羨ましいな〜」
バン!
「レイラさん、貴女これを狙って、朝食の準備をしたのですか?」
セシリアは食卓に勢いよく手をつき、レイラさんを問い掛けた。
「…ぇ! え! いえ、そんなことは無いです。泊めて貰っているので、お礼のかわりと思いまして。」
レイラさんは僕の顔を見たまま固まっていた為、反応が遅れた。
「サークさん、私の料理も今度食べて下さい。料理は得意なんです。」
セシリアはサークに顔を近づけて、迫る様に言ってきた。
僕は少し怯みながら、だが反面近づいた顔のアップにドッキッとして
「あ・ありがとう。期待してるよ。」
と応えた。
僕は泊めたお礼に、二人してそんな事しなくても良いのにな〜 と考えていた。
「くくく…」
カルロが先程みたいな笑い声を漏らし
「セシリアにレイラが…サークやるな。」
小さく呟いている。
「「カルロは黙っていて(下さい)!!」」
セシリアとレイラは同時にカルロを怒鳴りつけた。
「はいはい 要らないことは言いません。」
両手を口の前に持って行き、言わ猿のポーズをして言った。
賑やかな朝食も終わり、僕達は王家の塔に向かって、出発をした。
…王家の塔に向かう途中、僕は後をつける気配を感じ取った。
カルロも気配に気が付いたみたいで、僕に目配せをし
「すまん。少し先に行っててくれ。直ぐに追い付くから。」
セシリアは、少し考える様な仕草をし
「う〜ん、何かありましたか?」
「いや、ちょっとした事だ!」
「???」
セシリアは余計に分かりませんって顔をした。
「サーク、セシリア達の案内、よろしく!」
「うん。分かった。直ぐに戻って来いよ。置いていくよ。」
「ああ、大丈夫だ。直ぐに戻る。じゃ!」
カルロは片手を軽く上げ、森の中に入って行った。
「一体、何があるんでしょう?」
セシリアは納得がいかない顔をしている。
カルロは気配を感じる方へ一気に駆け寄る。
「さてと、そろそろ出て来たらどうだ。」
すると、木の影から黒い衣装を纏った、いかにも暗殺者という者が出て来た。
「用件は分かっている。雇い主は誰か答えろ!」
カルロは槍を構え、何時でも動ける様にする。
「愚かな。依頼を遂行するのみ。」
暗殺者は低い声で言い放つと、短剣を構えつつ、火の魔法を放った。
「炎の矢よ!」
ボォォォォ・・・
カルロは迫り来る炎を、槍で払いのける。
「無駄だ!」
「いや、十分役に立ているよ。魔法で気が逸れたお陰で、身を隠せた。」
男の声が辺りに響き、距離と方向が掴みづらい
カルロは神経を研ぎ澄まし、相手の出方を伺う。しかし、相手は闇に生き、陰に潜む暗殺者だけあって、動かなければ気配が読めない。
シュッ!
背後から、飛来する物を感じ取った。それをギリギリ回避すると、背後に向き直す。向き直るタイミングで反対側から、短剣を構えた男が接近し攻撃をしてきた。カルロは暗殺者に近づかれ槍が思うように振れない。カルロは槍を手放し、相手の攻撃を完全に見切り、相手を捕まえて地面に叩きつけた。
「ゴホォ…くぅ! 確実に逆のタイミングだった…。」
「おまえに付きやって、かくれんぼをしている時間が勿体ないから、隙を見せただけだ。」
「さてと、もう一度聞くが雇い主について、喋るきはないか?」
「無い。商売柄、口は堅い方だ。死んでも話す気はない。」
「そうか。ならば死ね。」
カルロは何の感情も浮かべずに告げ、相手を放し、風の魔法を放つ。
「風よ、竜巻となりて、我が敵を刻め」
男は素早く逃げようとしたが、それより早く魔法が発動し、竜巻にのまれて、断末魔の声を上げた。
「グゥギャーーーーー」
竜巻によって、物言わぬ紅い肉塊になったのを見て、カルロは
「まぁ〜、喋っても喋らなくても、結果は同じだがな」
表情は何の感情も無しに、言い放った。
「さて、急いで戻るか。」
カルロはその場を後にした。
…一方、サーク達は森の中心部向かって進んでいく。
「カルロの用事って何かしら?…」
僕は考えながら歩くセシリアに声を掛ける。
「セシリア、考え事をして昨日みたいに、はぐれないように!」
「はい。…そうだわ!私に名案があります。」
セシリアは僕の側に来て、僕と手を繋いで、笑顔を浮かべた。
「こうすれば、はぐれて迷子になる事はありません!」
自信満々に言い放つと、僕の顔を伺った。
「…御迷惑でしたか?」
僕がドキドキして、返事が遅れると不安そうな声で聞いてきた。
「あ…うん。別に構わないよ。」
「セシリア様! 男の方と手を繋ぐなんて、うらやッ、うんん…自覚がたりません。」
レイラさんが手を繋ぐ姿を見て、駆け寄って言った。
僕はレイラさんが、一部言い直した事に、気が付いたが触れずにいた。
セシリアはここぞとばかりに
「レイラさん、今の言葉の中で何か言い直しをしましたか?」
レイラさんは最初の勢いを無くし
「あの、その、…」
吃った返事しか返ってこなかった。
「レイラさん、素直になりましょう。サークさんの手は一つ空いていますよ〜?」
セシリアは天使の笑顔で、悪魔の囁き唱える。
レイラさんは少し迷ったが、悪魔の囁き乗ってしまった。
「失礼します!」
顔を赤らめながらレイラさんは、僕の空いている手を握ってきた。
僕はレイラさんも迷子になることがあるのかな? って心の中で思っていた。
そんなやり取りをしていると、不意に声を掛けられた。
「お!サーク、両手に花で羨ましいな〜」
声の聞こえた瞬間、レイラさんは僕の手を放した。
「カルロ、おかえり。どうだった?」
「駄目だな。収穫無し。後片付けはちゃんとしたが。」
「そうかぁ、それは残念。セシリア、もう少しで塔が見えてくるよ」
少しして、木々の間から塔が見えた。
僕達は塔の前に着いた。塔には入口は無く、セシリアに聞いてみた。
「昔から、この塔に入口が無いから、どうやって入るのか、疑問に思っていたんだ。」
セシリアは直ぐに応えてくれたが
「サークさん、この王家の塔は、王族の者しか入れませんよ。」
僕は軽くショックを受けた。
「そうなんだ。中がどうなっているのか興味があったんだけど、入れないのか〜。残念だな。ところで、この塔の中で何をするの?」
「すみません。秘密です。」
セシリアは申し訳なさそうに謝ると、塔の中に入る為の準備を始めた。
前の6話から9話までをまとめました。




