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物語から伝説へ  作者: 愚者の夢
四章
28/32

四ー陸話・・・・・依頼完了

 …僕は最後にユングに言葉をかけた。

 

「その傷ならもう助からないだろう。何か最後にあるか?」

 

「願わくは我を愛しい子達の元に運んでくれぬか?」

 

「ああ。どっちに運べはいいんだ?」

 

 ユングは震える手である方向を指し示す。

 

「ロベルトさん達はここで待っていて下さい。すぐに戻りますから。」

 

「それなら、俺も手伝うよ。」

 

「ありがとうございます。しかし、ユングにとって仇であるロベルトさんに手伝って貰うのはやめときます。」

 

「…それもそうだな。」

 

 僕は応急で止血し、ユングを抱きかかえて運んでいった。

 

 

 

 …ユングの言う場所は二十分ほど歩いたところにあった。湿地の中で土壌がしっかりしている所だった。その中央に踏み潰れていた植物がユングの子供なんだろう。その横にユングを寝かした。

 

「手間をかけた。我はここで残された時間、愛しき我が子と語りあう。」

 

「すまなかった。僕達人間が踏み荒らしたりしなければ…」

 

「貴様らを赦すことは出来ぬが、これも自然の流れじゃ。我より貴様が強く、貴様が生き残る。それだけじゃ。残りわずかな時間、我らのことはそっと…して…おい……」

 

 ユングは最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった…

 

 最後にユング達に黙祷を捧げ、この場を去った。

 

 …ロベルトさん達の所に戻ってきた僕はミネアに捕まり回復魔法を掛けられた。

 

「サークさん、左肩を見せて下さい。これはかなり酷いです。今、魔法を掛けます。」

 

「いや…」

 

 僕は魔法が効かないので遠慮しようとしたが、言葉の途中で魔法を掛けられた。

 

 パーン!

 

「「「え!!!」」」

 

 僕にとっては当たり前のことだが、三人は揃って驚いた。

 

「ああ、気にしないで。僕は魔法が効かない体質だから、ミネアの魔法が失敗したわけじゃないよ。」

 

 ミネアは自分の魔法で僕の怪我を癒せないことに気がつき青ざめた表情になった。

 

「そうすると、サークさんの怪我の治療がここで出来ないです。どうすれば…」

 

「ぼく、薬草を持ってるよ!これで王都までの応急処置をしとこう。」

 

 ユーリーは腰のポーチから薬草を取り出した。薬草を磨り潰して布に塗って、傷口を覆うように貼り付けた。僕はユーリーにお礼を言い、王都に先に戻らせてもらうと告げた。ユーリーは一緒に戻ろうと誘ってきたが、僕は依頼の件があると言うと、思い出してくれて納得してくれた。ロベルトさんは王都で改めて礼に向かうので、住所を聞いてきたが僕としては当たり前の事をしただけなので、何も教えずに別れた。

 

 目的の薬草も手に入り、一刻も早く王都に帰って、あの子達に薬草を渡そうと直ぐに出発した。帰りは傷の影響で来るときより、時間が掛かってしまい夜になっていた。



 

 夜の王都は昼間と違い大通りの賑わいはなくなり、人通りが疎らになって閑散としている。逆に繁華街にある一部の盛り場などは、今の時間帯が書き入れ時になり賑わいを見せている。

 

 依頼主の住所はそんな繁華街の裏路地を入っていった、奥にある集合住宅の一室だった。

 

 コンコンコン

 

「こんばんわ。冒険者のサークです。依頼の薬草を持ってきました。」

 

 すると、中から鍵を開ける音がし、今朝の男の子が顔を出してきた。

 

 ガチャ! キーィ

 

「あ! お兄ちゃん。薬草持って来てくれたの?」

 

 僕は男の子に目線の高さを合わせる為に膝を付き、安心させる様に笑顔で話し掛けた。

 

「ああ、これがそうだよ。」

 

 腰の鞄から薬草を取り出して、男の子に渡すと今にも飛び跳ねかねない勢いで喜んだ。

 

「お兄ちゃん、ありがとう!」

 

 男の子の素直な満面の笑顔でのお礼。この笑顔で今日の出来事で、複雑な心境になっていた僕の心の中は少し晴れた。男の子は早速母親にに薬草を届けようと走り始めたが、ピッタっと止まり僕の方を向いて薬草をどうすればいいのか、分からないと言ってきた。医師から何も聞いてなく、紙をもらったが字は読めなかったらしい。その紙を見せてもらったら、薬草の煎じ方が書いていたので、それを見ながら僕が煎じる事になった。煎じた薬を今度こそ母親のところに持って行った。

 

 …暫くして、奥の部屋から男の子と母親が出てきた。母親の足元はふらつき危なっかしいので、無理せずに寝てる様に勧めた。母親はせめてお礼だけでもといって、その場に留まって言ってきた。

 

「この度は息子達の無理な依頼を聞いてもらい、ありがとうございます。お蔭様で私も薬が効き、起き上がることも出来ました。」

 

 母親は僕に向かって、深々と頭を下げてお礼を言ってきた。

 

「僕は冒険者として依頼を果たしただけですから、後でギルドからもちゃんと報酬を貰うので気にしないで下さい。夜も遅いのでこれで失礼します。お体をお大事に。」

 

 僕はそう言って、この家から出て行った。もう夜になっているので、冒険者ギルドへの報告は明日にしようと思い、今日のところは家に戻って休息をとることにした。

 



 次の日、朝起きると肩の傷は完全に塞がっており、肩を回してみたが多少違和感が残るぐらいだった。朝の修行の際にグレンさんには一目で肩の不調を見抜かれた。それでもグレンさんは攻める手を緩めず、むしろ弱点を攻める様に厳しい攻撃が続いた。

 

 後で聞いたら実践で体調が万全の時の方が少ない。どんな状況であっても対処できるだけの応用力を身に付ける為だと言っていた。

 

 いつもの様に冒険者ギルドに行き、昨日の依頼を無事に終えたことを報告する。

 

「シアンさん、おはようございます。昨日の依頼は無事に完了しました。」

 

 僕は依頼書をシアンさんに渡した。

 

「おはようございます。って! もう終わったんですか?」

 

「ええ、無事に昨日の夜に薬草を届けましたよ。」

 

「あの湿地には多くの魔物がいるのに、襲われなかったんですか?」

 

「多少は襲われましたが、湿地で出会ったパーティーの方に薬草を分けて貰ったので、薬草を捜す時間は省けました。」

 

「そうですか。じゃ、今回の報酬の2Sシルバーになります。今日は他の依頼を請けますか?」

 

「いや、今日は知人を訪ねようと思っているので、また明日にでも請けに来ます。」

 

 シアンさんは一瞬、凍てつく様な雰囲気を纏った。

 

「サークさん、知人の方はもしかして女性ですか?」

 

 表情は直ぐにいつも以上の笑顔になったが、僕は今までに感じたことのないプレッシャーに身構えてしまった。僕は肯定の言葉を口にするのがやっとだった。

 

「ええ…」

 

「酷いです。他の女性に会いに行くなんて!」

 

 シアンさんは次は泣くふりをしながら、僕を非難してきた。

 

「え~! ちょっと待ってくださいよ。なんで僕が責められるんですか?」

 

「今、私と喋っているのに他の女性に会いに行くって言うなんて酷いです!」

 

 …約30分はシアンさんに無実の僕は責められ続け、今度の休みに買い物に付き合うことで許された。朝から精神的に疲れた…

 

 冒険者ギルドを出た後、僕はある場所に向かうことにした。

 

 向かう途中、色々なお店の前を通ると顔馴染みになった店員達から口々に、次はいつ手伝いにきてくれるのと声をかけられた。僕はみんなに近い内に手伝いに行きますと答えていった。男性の店員さんは答えるだけで済むが、女性の店員さんはお客として寄っていって、腕を組んできてお店へと誘ってくれるので断るのに苦労をした。…っていうか、明らかに女の子からお声が掛かるのが多く、お店の並ぶこの区画を抜けるまで、通常の倍以上の時間が掛かってしまった。

 

 お城の近くまで来るとお城勤めの居住区となり、先程までの商業区とは変わって人通りも減り、静かに歩く事ができ、ここ数週ギルドに通ったことを考えていた。結論として、お城からの依頼は全然無いということだ。そこで僕はレイラ達に相談しに行こうと思った。

 

 豪華な造りのお屋敷が多い中、周りに比べると簡素な造りであるがお屋敷自体の機能美というか、豪華さとは違う美しさのあるレイラ達のお屋敷が見えてきた。お屋敷の前で呼び鈴を鳴らし、少し待つと中からメイドさんが出て来てくれた。

 

「何か御用でしょうか?」

 

 メイドさんは少し怪しむように僕を一瞥し尋ねてきた。僕はあまり不安がらせるのも、怪しまれるのも不本意なので、なるべく笑顔で答えるようにした。

 

「僕は冒険者のサークって言います。カルロさんかレイラさんにお会いしたいのですが、いらしゃいますか?」

 

 メイドさんは急に目を逸らし顔を背けた。顔を背ける前、メイドさんの顔が少し赤かったような気がするが…

 

「申し訳御座いませんが、本日はお客様のご来訪をお伺いしておりません。それと私からはあるじの予定をお伝えすることが出来ません。」

 

 メイドさんに顔を背けられたことに僕は少しショックを受けながら、それを顔に出さずに笑顔のまま話を続けた。

 

「そうですか。それならば、執事のロイドさんに取り次いでもらう事が出来ますか?」

 

 メイドさんはそれなら可能ですと言って、お屋敷の中に戻っていった。それから暫くして先程のメイドさんが、何故か笑顔で戻ってきた。

 

「大変お待たせ致しました。お屋敷の中に案内させて頂きます。」

 

「いいえ、大したこと無いですよ。約束も無く尋ねてきた僕に非があるのですから。」

 

「では、こちらにどうぞ。あ! 私はこのお屋敷でメイドをさせて頂いています、メイリーです。」

 

 メイドさんは自分の名前を名乗り、僕の手を引いてお屋敷の中へと案内しようとしたが、僕は流石に手を引かれて案内される様な子供でもないので、そこは丁寧に遠慮させてもらった。メイリーさんは少し残念そうにしたが、そのまま僕を案内してくれた。メイリーさんは案内中に色んな事を聞いてきた。主に僕自身の事で特に付き合っている女性がいるかどうか確かめようとしているみたいだ。

 

 僕は段々と答え辛くなってきたので話題を変えようとお屋敷の内装に目を向けた。お屋敷の中は無駄な装飾品は無く、きらびやかさは無いが清掃の行き届いた清潔な雰囲気に落ち着いた美しさを感じていた。

 

「前に訪れた際も思いましたが、このお屋敷の清潔感、落ち着いた雰囲気は良いですね。」

 

「お客様にそう言って貰えると私達も光栄です。宜しければ、私が個人的にサークさんの…」

 

 光栄ですの後の台詞は声が小さくなり、聞き取り辛かった。そして、メイリーさんは両手で頬を押さえ、首を左右に振りながら進んで行く。

 

 応接室の扉の前で僕は止まり、メイリーさんに声を掛けたが気が付かずに進んで行く。何度か声を掛けて気が付き慌てて戻ってきて、応接室の中へと案内してソファーに座るように勧めてくる。僕はソファーに座るとメイリーさんは飲み物を用意すると言って、部屋を出て行った。

 

 少し待つと、軽く扉を叩く音がする。

 

 コンコンコン

 

 扉が開き、レイラが入ってきた。

 

「失礼する。」

 

 レイラは僕の対面に座る。

 

「急に訪ねてきて、ごめん。ちょっと相談したい事があって少し時間あるかな?」

 

「そんなにかしこまらなくても、いいでしょう。知らない仲じゃないんだから。で、相談って?」

 

 レイラの言葉が嬉しく自然と笑顔になりながら、御礼を言う。

 

「ありがとう。助かるよ。…?」

 

 レイラは僕の顔を見たまま反応が無い。僕はあれ?っと思ったが、メイリーさんが扉を開けてお茶を持ってきてくれた。

 

「失礼します。お茶をお持ちしました。」

 

 メイリーさんが部屋に入ってきた時にはレイラの様子は何時もの通りだった。いや、少し熱っぽいのか顔が先程より赤くなっている。

 

 メイリーさんは僕達にお茶とお菓子を配り、僕の後に控える。何故に?

 

「ご苦労様。こちらはいいので自分の仕事に戻りなさい。」

 

 レイラが言うとメイリーさんはここにいることが当然という様に答えた。

 

「お嬢様、お客様のおもてなしも私共の仕事の一つです。何かご要望があれば直ぐに対応させて頂く為にこちらに控えさせて貰っています。」

 

「何か用事があればこちらから呼ぶから、部屋から出て行きなさい。」

 

 レイラはメイリーさんに部屋から出て行くように命じた。

 

「そうですか、分かりました。サークさん、どんな些細なことでも構いませんから、呼んで下さいね。お待ちしております。」

 

 メイリーさんは凄く残念そうにし、僕に声を掛けてから退室した。メアリーさん、貴女はここの使用人なのにそんなことを言い残して去られても…

 

 …レイラの視線が痛い。何か責める様に見つめてくる。

 

「レイラさん、僕何かしました?」

 

 恐る恐る聞いてみる。

 

「知りません!」

 

 レイラの語気は荒々しく、怒りの感情がこもっている。

 

「何か怒っているみたいですが?」

 

「いいえ、怒ってなどいません! ただ、相談をしに来ているのに内の使用人を口説くなんて、不真面目ではないかと思いますが!」

 

「いや、ちょっと待って! そんな事は絶対にしていない。メイリーさんにはここに案内してもらっただけだから。」

 

「メイリーさん?…いつの間にかに名前まで聞き出して、油断も隙も無い!」

 

「それはメイリーさんから名乗ってくれたので、聞き出した訳ではない。」

 

 …それから暫くの間、メイリーさんのあの態度についてのいい訳みたいな弁明が続いた。

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