四ー伍話・・・・・ユングとの戦い
…間に合わなかった。
魔物達に囲まれ、奥から親玉らしき魔物が現れた。現れたのは体中に蔦を巻き付けような女性の姿…ユングだった。
ユングは単体の戦闘力は、Bランク数人分に匹敵し、何より厄介なのは魅了攻撃をしてくるとこにある。今回、これだけの魔物達が襲ってきたのもユングの魅了で操られていた為だろう。
「ミネア、誰かが魅了されると厄介だ。僕を外して障壁を張って! 早く!」
一瞬、躊躇し掛けたミネアを急かし、障壁を張ってもらった。僕は剣を静かに構え、戦闘態勢をとった。不意にユングが声を掛けてきた。
「貴様達が我の下僕を倒したのか?」
本で読んだ中には、人語を話すとは書いていなかったので純粋に驚いた。
「へー驚いた。人語を話せるんだ。」
「我の質問に答えるのじゃ。」
「そうだ。この人達が襲われていたので助ける為に僕が倒した。」
ユングは少し考える様な素振りをし
「その答えだと、貴様は後ろの者達と関係は無いようじゃな。どうじゃ、貴様は見逃してやる。その代わり後ろの者達は置いていくのじゃ。」
僕に提案してきた。話の流れでは下僕を倒した僕より、ロベルトさんのパーティーに恨みがあるように思える。そんなことより、その提案に乗るわけにはいかない。
「僕だけ助かる話なら断る。逆にこのまま見逃してくれないか? お互いにこれ以上被害を出さないですむと思うが…」
「無駄じゃ! 我の意思は変わらぬ。」
「交渉決裂か…実力行使で行く。」
話の終わりが戦闘の開始となった。
控えていた魔物達は一斉に僕に向かって、襲い掛かってきた。先ほど戦った時と違って、攻撃と攻撃の隙が少ない。多分、ユングが戦闘を見ながら魔物達を直接操っているので、無駄が少ないのだろう。敵の動きを観察し、予測していく。グレンさんとの修行のお陰で攻撃を避けることに集中すれば問題が無い。
◆ ◇ ◆ ◇
俺達は信じられない状況を見ている。サーク君は魔物達の攻撃を避け続けている。
多くはBランクの冒険者でなんとか倒せるような魔物だが、中にはBランクの俺でさせ相手するのが厳しい魔物もいる。それを避けることに集中しているとはいえ、普通これだけの攻撃を完全に見切るのは不可能だ。しかし、目の前で現実に起きている。
「彼はいったい何者なんだ?」
俺は誰に尋ねるも無しに呟いていた。当然答えなど返ってくるはずも無く、ミネア達の方をを見てみた。ミネアは俺達が教われないように障壁を維持するのに集中していた。一方、ユーリーはサーク君の戦う姿に見とれていた。
その時、状況が動いた。サーク君が攻撃を避けてすれ違いさまに
シュンッ
一閃だった。魔物は動きを止め、首が胴から離れ静かに倒れていく。
それから、サーク君の攻撃が始まった。
◆ ◇ ◆ ◇
サークくんはぼく達を庇って一人、魔物達の前に出てくれた。先ほど戦っている姿を見ているのでこの中の誰より強いことは知っているが心配してしまう。でも、これだけの魔物相手にぼくが出てっても邪魔にしかならないと思う。せめて、応援だけでも頑張ってしよう。そう思って戦いを見ていると攻撃を避ける姿、反撃に移った姿、先ほども思ったが動きが洗練されており、人はここまで美しく舞うことが出来るのかと見惚れてしまう。ぼくにはサークくんが幼い時に読んでもらった物語から抜け出してきた勇者様に思える。
◆ ◇ ◆ ◇
僕は避け続けて魔物の攻撃に慣れてきたので、そろそろ反撃を開始した。
攻撃をする時は僅かながらでも隙が出来る為、無駄に攻撃をする訳にもいかない。確実に倒せるように攻撃していかなければ、皆を守りきれない。僕一人だけなら多少無理してもこの魔物達から逃げ切る自信があるが、そんな訳にはいけない。
避けることに集中し、僅かな隙を狙って魔物を倒す。これを繰り返し魔物の数が半数以下になった。
「そろそろ終わりにしないか? 今いる魔物達では僕を倒すことは出来ないと思うよ。」
僕は今一度、提案をユングに言った。ユングからの返ってきた言葉は全く違った言葉だった。
「何故じゃ! 何故、我の魅了が効かんのじゃ!」
「僕は魔法とかは生れつき効きにくいから、魅了も魔力を使っているのであれば、たぶん効かないよ。」
ユングはショックを受けた様で、半歩後退った。
「魅了も効かない、魔物を操っても倒せない。大人しく引いてくれたら僕も大人しくこの湿地を出ていくよ。」
「駄目じゃ! 貴様はそれでも良いが、後ろの者達はこのままでは許せぬ!」
やはり話し合いでは平行線を辿るしかない。しかし、許せない事とは何だろう? 僕は疑問に思ってユングに聞いてみる。
「許せない事とはいったい何の事を言っているんだ?」
「この者達は我が子達を踏みにじった。何の抵抗も出来ぬ幼子をじゃ! 我は許すことは出来ぬ。例えこの身が果てようと、我の愛し子の為仇を討つのじゃ。」
どういうことだ? ユングの言った事が本当なら恨む理由としては十分だ。しかし、つい先程出会った人達だがそんな残酷なことをする様には思えない。念の為にロベルトさん達に確認をしてみよう。
「ロベルトさん、ユングの言っていることに覚えがありますか?」
ロベルトさんは寝耳に水といった様に驚いた顔をしていた。
「いや、急に言われても…いくら魔物であっても無抵抗な、それも子供を手に掛けた事は無い! それだけは断言できる。」
「兄さん達とパーティーを組んでいましたが、無闇に魔物を狩ることは無かったです。」
ミネアも庇うように言ってきた。
僕はどっちも嘘をついている様には思えない。ならば、僕の知らない事があるはずだ。ユングにもっと詳しい事情を聞くことにした。
「すまないが、もう少し詳しい状況を教えてくれないか?」
ユングは少し考えてからその時の状況を話し始めてくれた。話をまとめるとユングは生まれて数年は普通の植物と変わらない状態で成長するらしい。その頃は今の様に移動することも、喋ることも出来ない。当然、他者に被害を与えることもない。
しかし、ロベルトさんのパーティーは赤ん坊とも言えるユングの子を踏みにじって行った。ロベルトさん達は知らずに歩いただけかもしれないが、ユングからしてみたら愛しい我が子を踏み殺されていったに違いない。
僕は迷った。ロベルトさん達のパーティーがわざとやった事ではないけど、ユングにすればそんなことは関係ない。
このユングは親であり、子を思う気持ちは人と変わらない。魔物だから殺されて当然みたいな考え方は僕は間違ってると思う。
当然、自分の子を殺されて、わざとじゃなかったとしても、怨みも怒りも無く許せる親なんているはずもない。
僕は自分の答えが出せずにいた。ユングの気持ちはわからないでもないが、だからといってロベルトさん達を見殺しにするようなことは出来ない。
自分勝手かもしれないが、ユングと和解出来ないか尋ねた。ユングからは単純で残酷な回答しかなかった。
「貴様がいくら言葉でこの場を収めようとしても、我が子は生き返らぬ。生き返れば貴様が言うように後ろの者達を赦す事もできよう。貴様が大人しく後ろの者達を渡さないと言うなら、我も我が子の仇の為、戦うのみじゃ。貴様も守りたければ、我を倒すのじゃな。」
ユングの表情には目に見えての変化は無いが、逆に怒りと憎しみ、そしてそれらを上回る深い悲しみの感情を感じる。
僕は自分の考えが間違ってる事に気が付いた。
ここで相手を倒したくない、話し合いで解決する方法が無いか考えたところで、それは僕自身の身勝手な考えでしかない。
人とユングの思考、思想自体が違うのに僕の考えを押し付けても解決にはならない。
それこそ、ユングが言ったように子供を生き返らせて、ユングの元に戻らせない限り無理だろう。
…僕は覚悟を決めた。ロベルトさん達を守りきる。その為にユングを倒す。
昔からある自然の理。
…弱肉強食。
単純だが確かに一つの真理である。強者が生き残る為に弱者を糧とする。勝者のみが生き残る自然の掟。
僕は自分の力の無さを痛感していた。しかし今は嘆くことより、守る為に出来ることに集中しよう。
「わかった。僕は今から全力を持って倒す。」
僕は改めて剣を構え直した。それが再開の合図のように、再び戦いが始まった。
ユングは魔物を操るのと同時に体中に巻き付いている蔦を鞭の様に振ってきた。
先程までの戦い方の様に後の先みたいに避けてから攻撃をしていたら、いずれ詰んでしまい攻撃を受けていただろう。しかし、今の僕は敵を倒すことを優先している。近づいた魔物に攻撃される前に切り裂いていく。
魔物の攻撃の死角をつくように振るわれる蔦による攻撃。正直こっちの攻撃の方が厄介だった。それに蔦を切り落としても直ぐに再生され数が減らない。
逆に倒せる魔物達は確実に切り裂き、数を減らしていった。最後の1体を倒し、僕はユングと無言のまま向き合った。
僕達の間にはもう無駄な会話はない。お互いに倒すか、倒されるかしかない。
多くの魔物を相手にしたので、僕は息が上っている。一気に決める為、大きく息を吸い込み間合いを詰めた。
地面に違和感を感じた瞬間、地面の中から何かが僕に向かってきた。
ザッ! ザッ! ザッ!
ユングも僕の攻撃を予測したのか、地面の下から蔦が槍の様に突き出してきた。左右正面から突き出してきた蔦はそれぞれ頭や心臓、腹部を正確に狙っていた。
全てを避けたり、防ぐことは出来ない。ならば!
…一閃
シュン!
正面と右の蔦を一刀に切り裂いた。しかし、左から心臓を狙っていた蔦は体を捻って、かわすのが精一杯だった。
ザシュッ!
だが、かわし切れずに左肩に蔦が突き刺さり浅くない、いや深い傷を負ってしまった。血が溢れる様に流れ、このままでは残りの体力も尽きてしまう。ここで焦って攻撃に出ると先程と同じ結果になってします。冷静に間合いを詰めて接近戦に持ち込まなければ!
ジリッジリッ…
僕が間合いを少しづつ詰めようと近づくと、ユングは蔦による攻撃を津波の様に仕掛けてくる。幾重にも幾重にも折り重なるように仕掛け、意識がその攻撃に集中した時は不意に別方向や地面の下から襲ってくる。多様な攻撃は回避が困難で、致命傷を負わずに潜り抜けるのがやっとであった。体力と出血による思考の低下で少しづつ、傷が増えていった。
やっと自分の間合いになった。ここから反撃を開始できる。僕の斬撃で、今まで攻撃に集中していたユングは防戦一方になっていった。ユングは蔦で防御をしても切り裂かれるので、鎬に蔦を当てて軌道を変えて斬撃を防いでいたが、徐々に斬撃の速度に追いつけずになっていった。
…数度の攻撃後、大きな隙ができた。
ザシュッ!
僕はその隙を逃がさずに袈裟斬りを放ち、ユングに致命傷を与えた。
ユングはゆっくりとその場に崩れ落ちた。




