四ー肆話・・・・・湿地での出会い
僕は急いで家に戻り、準備をしてグレンさんから馬を借りた。目的の湿地に着くまでに3時間が過ぎていた。
シアンさんから依頼書を受けとった時に一緒に湿地の地図をくれたので、薬草の棲息場所までは迷わずにたどり着くことが出来るだろう。
湿地に入るといくつかの魔物の気配を感じる。強さはそこそこみたいだが数が多い。これなら確かにBランクでもパーティーを組んで来ないと危ないかもしれない。魔物達は野性の本能か、慎重なのか分からないが、すぐに襲ってくることはなさそうだ。
目的の薬草を採るために奥に進んでいくと、悲鳴が聞こえてきた。僕は悲鳴の聞こえた方へ、駆け出した。
近づくと襲われている声が、ハッキリと聞こえてきた。
「ミネア、防御をお願い!その間に少しでも倒すから。」
「ユーリー、私あまり魔力が残っていないから、どこまでもつか分かんないよ。」
襲われていたのは、二人の女の子だった。ユーリーと呼ばれた子は弓を構えて矢には炎を纏わせて回りの魔物に狙いを付け確実に仕留めている。ミネアと呼ばれた子は杖を構えて回りに風の障壁を張り、魔物が近づいて来ないようにしている。
しかし、数が違いすぎる。回りの魔物は三十体以上おり、弓矢の数はそこまでない。風の障壁も揺らいでおりそんなに長くはもたないだろう。
僕は剣を鞘から抜き出し、彼女達を助ける為に魔物達の中に飛び込み、切り捨てっていった。
「貴方は?」
障壁を張っている女の子が訪ねてきた。
「質問は後で! 今は回りの魔物を片付ける。君は障壁を張るのに集中して!」
魔物達は、障壁の外にいる僕の方が仕留め易いと思ったのか、一気に襲い掛かってきた。しかし、何の連携もない攻撃の為、攻撃と攻撃の僅かな隙を見つけ、回避しながら魔物達を攻撃していった。
◆ ◇ ◆ ◇
無駄のない回避と攻撃は、見る者に洗練された舞を連想させる。サークの回りの魔物達は劇の中の殺陣みたいに、まるで打ち合わせをしたかの様に次々と倒されていく。彼女達は次々と倒されていく魔物達の間を舞う様に動くサークに目を奪われた。
◆ ◇ ◆ ◇
「これで最後だ!」
僕は周りの気配を探り、魔物が居ないことを確認してから、彼女達の方を向き話し掛けた。
「君達、怪我とかはなかった?」
…彼女達から反応が返ってこない?近づいてから、もう一度声をかけた。
「君達、大丈夫? もう敵はいないよ。」
僕は、ユーリーの肩に触れて揺すってみた。するとようやく反応が返ってきた。
「…あ! あ…あ・ありがとう。助かりました。」
緊張しているのか少し顔が赤く、言葉を噛んだ。
「どういたしまして、そっちの君も怪我とかない?」
「は・はい!…怪我とかないです。助けて頂き、ありがとうございます。」
二人共やはりあれだけの魔物に襲われて神経が張ってているのかどことなく、ぎこちなさがある。
「気にしないで。困ったときはお互い様っという事で、それより無事でよかった。」
僕は二人に怪我がなく無事だったので、安心して笑顔で答えた。すると、二人の顔が先ほどより赤くなり、ユーリーは俯き、ミネアは目を輝かせて見つめてきた。
「ここには君達だけできたの?」
失礼かもしれないが彼女達だけでこの湿地に来るには力不足だと思い、他に仲間がいないか尋ねてみた。すると真剣な表情になり慌てて言ってきた。
「!!!仲間の3人が殿となって私達を逃がしてくれたんです。早く助けに行かないと!」
「どっちの方?」
彼女達は揃って指をさした。
「「向こうです。」」
方向を確認した僕は、すぐさま駆け出そうとした。彼女達も一緒に付いて来ようとしたので、ここで待っているように言った。
「しかし、君だけでは危ないよ。」
「そうです。私達も付いていきます。」
それでも付いて来ようとしたので少し厳しいが、僕はハッキリと言った。
「すまないが、君達がいると足枷になって、助けられる人も助けられなくなる。幸いこの回りには悪意のある気配は無いから大人しく待っててくれると助かる。」
彼女達はシュゥンと落ち込み、渋々ながら納得してくれた。
…彼女達の示した方向へ暫く走って行くと、遠くに魔物達と戦っている男性を発見した。男性は左腕を失い、遠目にもわかるぐらい至るところ怪我をしており、体が出血で真っ赤に染まっていた。
男性の回りには倒された魔物達の屍が無数に転がっている。しかし、まだ十体以上の魔物達が回りを囲んでいる。
「加勢する!」
僕は一言言い放ち、戦いに加わった。先程とは違い魔物達は僕を避けて、男性の方を攻撃しようとする。必然的に男性を守りながら戦うようになる。彼女達を連れて来なくて正解だった。もし連れて来ていたら、全員守りきれなかったかもしれない。
全ての魔物達を倒し、男性を見ると僕が来た方へ、ふらつきながら歩いている。僕は男性に駆け寄り肩を貸した。
「無理をしないで下さい。しっかりと止血しなければ、危険ですよ。」
「助けて…もらっ…感謝……いる。・あの娘…助け…行か…」
男性は満足に声を発する事も出来ない。しかし、言いたいこと、思いは伝わってくる。僕は安心させる為に彼女達が無事なことを伝えた。男性は安心して緊張が解けたのか気を失った。そして男性を担いで彼女達の所に戻った。
「兄さん!」
「ロベルトさん!」
彼女達は僕達を見つけると駆け寄ってきた。男性の状態を見て、彼女達の顔が真っ青になった。しかし、男性が息をしているのに気が付くと、すぐに回復魔法を掛けた。すると傷はみるみる塞がり、これ以上の出血の心配は無くなった。
男性の容態も安定し少し落ち着いたので、僕は彼女達に駆け付けた時のことを伝えた。三人が残っていると聞いていたが僕が着いた時には、一人しかいなく他の二人は見当たらなかった。
「……すまなかった。」
僕は居た堪れなく、最後に一言詫びた。
「謝らないで。僕達三人が助かったのは、君のお陰だよ。ありがとう。」
「そうです。貴方が助けてくれなければ、私達は死んでいました。あ! すみません。助けて頂いたのに名前も伝えていませんでした。私はミネア。この子はユーリー、そして兄のロベルトです。貴方は?」
話の途中で思い出したようにミネアは紹介をしてきた。
「僕の名前は、サーク。見ての通りの冒険者だよ。」
「サークさん、改めて御礼を言います。助けて頂いて、ありがとうございます。何か御礼出来れば良いでのすが…」
ユーリーは名案を閃いたとばかりに言ってきた。
「そうだ! 僕、サークくんのお手伝いをするよ。ミネアはロベルトさんを連れて先に戻っていて。」
「気持ちだけありがたく貰っておくよ。僕の依頼は簡単に終わるから。」
「この湿地での依頼だったらBランク以上ですよね。サークくんの依頼ってどんなの?」
ユーリーは興味津々という顔で聞いてきた。僕は別に隠しておく理由もないので答えた。
「Dランクの依頼ですよ。」
「「え!え~~~~!!」」
彼女達、二人揃って大きな声を上げて驚いた。
「サークさん、ここはBランクの冒険者でも危険なエリアですよ。どんな内容か知りませんがここに来るだけでBランクは確定しているのでは?」
ミネアに続いてユーリーもおかしいと声を上げている。
「サークくん、それ絶対におかしいよ。ギルドもそんな無茶な依頼受理するはずないもん。」
僕は二人に落ち着いてと言い、依頼内容を明かす。
「依頼は単純に薬草を依頼者に渡すだけ、入手方法は指定されていないんだ。」
二人はどういう事なのか分からず、詳しい説明を求めてきた。僕は子供に出会ったところから説明し、彼女達は納得してくれた。するとユーリーが求めている薬草をたまたま採取していたので、分けてもらうことになった。僕も目的の薬草を手に入れたので、皆で王都に帰ることとなった。
…僕はまだ意識が戻らないロベルトさんを抱えて、彼女達とこの湿地を出ようと歩いていた。その間、僕は彼女達にいろいろと話しをしていた。
彼女達のパーティーはロベルトさんがリーダーで、行方不明の二人と彼女達の五人で組んでいる。彼女達はCランクの冒険者だが、もう少しでBランクになれるらしい。今回はこの湿地の調査依頼で危険はあるが、彼女達にBランクの依頼に慣れる為に請けてきた。本来ならBランクの三人とBランク目の前の二人で行くなら大丈夫だっただろう。別に指定されている目的もなく、何かあれば直ぐに撤退することも可能だから…しかし、今回は多くの魔物達が襲いかかってきた。原因は全く分からないらしい。
「う~ん。…君は?」
抱えていたロベルトさんが気がついたみたいだ。
「僕はサーク、冒険者です。」
「確か先ほど助けてくれたね。ありがとう。一人で歩けるよ。」
そう言うと、ロベルトさんは自分で歩こうとしたが足元が少しふらついている。
「兄さん、あまり無理をしないでよ。魔法で傷口は塞いでいますが、かなりの出血で血が足りていないんだから。」
「これ以上、サーク君に迷惑を掛けれないし、冒険者として出来ることは自分でする。」
ロベルトさんは無くなった体力を気力で補うようにして1人で歩くようにした。ユーリーがロベルトさんに近づいて悲痛な面持ちで声を掛けた。
「ロベルトさん、ごめんなさい。役に立つどころか足を引っ張ちゃって…」
「気にするな…って言っても無理だな。しかし、俺達は冒険者だ。どんな時でも命の危険はある。それを覚悟していた。違うか?」
「それはそうだけど…」
ロベルトは残った右手でユーリーの頭を撫でて慰めている。
「あいつらの事は悔やんでも悔やみきれないが、今は俺達が生き残った事が重要だ。」
「兄さんもあまり無理をしないでね。2人共幼い時からの親友だったんだから…」
重い雰囲気に僕は黙って居るしかなかった。
「サーク君、身内の話ですまなかった。おっと!まだ名前を言ってなかった。俺の名前はロベルトだ。よろしく。」
それから歩くのを再開して少ししたら
ザワッ!
嫌な気配を感じた。
「ミネア! ユーリー! ロベルトさんを連れて先に行って!!」
「急にどうした!」
「何かあったの?」
説明する時間もなく、魔物達に囲まれていくのを感じた。魔物達の中に一際大きな気配を感じ、全員を無事に帰せるか不安を覚えた。希望としてはミネアの魔法だが、いったいどれだけの時間が稼げるだろう?
「間に合わないか…… ミネア、防御魔法をどれくらいの時間使える?」
「兄さんに回復魔法を使ったから、魔力がほとんど残っていないです。魔力を回復させたり、増強するような魔法道具も持っていませんし…」
僕はその言葉を聞き、自分が持っている宝玉を思い出した。
「ミネア、この宝玉を使ってすぐに魔法を使って!」
僕は持っていた【ライオウの結晶】を渡した。ミネアは宝玉を受け取ると感じる魔力に驚いた。
「サークさん、この宝玉は?」
「今は説明している時間が惜しい。早く障壁を張って!」
ミネアは僕に急かされ、障壁を張ろうと呪文を唱え始めた。
「サークさん、あまり離れられると障壁の外に出てしまいますよ。」
ミネアは言われた通り魔法を使おうとしたのに、僕が離れていくので呼び止めた。
「魔物達に囲まれている。ここで障壁を張って、待っておいてほしい。僕はその間に親玉を倒してくる。」
気配からして多くの魔物達はミネアの障壁を破ることは出来ないだろう。僕は一際大きな気配を放つ魔物を倒すべく、向かおうとしていた。
「なら俺も行く。あいつ等の仇を討つ。それにサーク君だけを戦わすことなんて出来ない。」
「ぼくも一緒に戦うよ! 今度は足手まといにならないようにがんばるから。」
ロベルトさんやユーリーは戦うと言っているが、気配の数は先ほど襲われた時より多いだろう。それなら僕だけで戦ったほうがやり易い。
「気持ちは分からないでもないですが、今回は我慢して下さい。その怪我では満足に戦うことが出来ないでしょう? 一緒に来てもらっても庇いながら戦うことになるので、ハッキリ言って足手纏いになります。」
今は時間がない。話し合っている間に魔物達が近づいてくる。ここはハッキリと言ってすぐに親玉の方に向かわなければ!
「しかし、1人では無茶だ! 俺はついて行く。もし足手纏いと思ったら見捨ててくれてもいい。」
ロベルトさんはせめて自分だけでも戦闘に参加すると言ってきた。
…間に合わなかった。




