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物語から伝説へ  作者: 愚者の夢
三章
18/32

三ー肆話・・・・・下宿先へ

 …階段を下りて行くとちょうどバータックさんも用事が終わったようで、待つことも待たせることも無く合流できた。

 

 お昼に近かったこともあり、そのまま街中の食堂に移動し、お昼ご飯を食べることになった。注文した料理を待っている間に、バータックさんはリリアの様子がムスッとして怒っているようだったので僕に小声で何かあったか聞いてきた。

 

「サークさん、ギルドで何かありましたか? なにやらリリアの機嫌が悪いような気がしますが…」

 

「特になかったと思いますが、確かに機嫌が悪かったですね。」

 

 僕も思いつく事がなかったので、そのままバータックさん返事をした。するとリリアから話し掛けられた。

 

「お父さん、サークさん、何を小声で話し合っているのですか?! 男同士で気持ち悪いです。」

 

「いやぁ、大した事じゃないよ。な、サークさん。」

 

「ええ、そうです。大した事じゃないです。」

 

 僕は大きく頷き返した。リリアはジィッと僕達を見詰めて

 

「なんか怪しいです。」

 

 バータックさんは話題を変えようとしたが、慌てていたのかリリアにそのまま聞いていた。

 

「それより、えっと、リリア、ギルドで何かあったのかい?」

 

 リリアは少し考えるようにしてから、いきなり僕の方を一瞥してから答えた。

 

「サークさんが不潔です。初めて会った女の人を触ったり、色んな女の人に囲まれて鼻の下伸ばしたりしてました。」

 

 バータックさんは少し驚いたようだったが、すぐに僕へと確認してきた。

 

「サークさん、本当ですか?」

 

「それは誤解です。リリアもあの時言ったよね。受付のお姉さんがボーっとしていて、僕に気が付いてくれなかったから、肩を揺すっただけだと。」

 

 僕は完全に否定をし、リリアに再度説明をした。

 

「それは…けれど、その後の説明の時は色んなお姉さんに囲まれた時はだらしない顔をしてました。」

 

 リリアは少し詰まったが、追い討ちをしてきた。

 

「あれも、説明を受けていただけで何もやましい事はないよ。」

 

 それも否定したが、リリアの追撃は終らない。

 

「説明を受けるのなら、1人のお姉さんで十分のはずです!」

 

「ッッッ!」

 

 確かに、僕は返答に詰まってしまった。説明の内容を思い出しても1人からの説明だけで十分だった。何故にあんなにお姉さん達が出てきて、入れ替わり説明してくれたか分からなかった。

 

「サークさんは無自覚に女の人に接し過ぎです。もう少し自覚を持たないと皆さんが不幸になります。」

 

 僕は何故に皆が不幸になるのか分からなかった。バータックさんも静かに事の成り行きを見守っていたが、僕に小声でアドバイスをしてくれた。

 

「サークさん、とりあえず謝る方が良いですよ。」

 

「わかりました…」

 

 僕もバータックさんに小声で返事をしたが、少し納得がいかなかった。

 

「リリア、ごめん。次からは気をつけるよ。」

 

「ええ、次からは気をつけて下さい。」

 

 リリアはそう言った後に小声で何か呟いたが僕の耳まで届かなかった。

 

「…バカ、サークさんの鈍感、女心が分からない、無自覚の三拍子が揃ってしまうのですね…」

 

 会話の流れを読んだかのように、注文した料理が運ばれてきた。リリアも何時も通りに戻って、食事は楽しい時間となった。

 

 食事が終わり、僕はバータックさん達と別れようとして

 

「バータックさん、お世話になりました。これから下宿先を訪ねようと思うのでこれで失礼します。それと、冒険者ギルドの登録では紹介状ありがとうございました。リリアもご飯とかありがとう。美味しかったよ。アイシャ、数日の間の旅だったけど楽しかったよ。」

 

 それぞれに感謝をし、頭を下げようとしたらバータックさんがストップの声を掛けてきた。

 

「サークさん、ちょっと待って下さい。何処を訪ねるかは分かりませんが、道案内で娘達を連れて行ってください。初めての王都では地理が分からないと思うので役に立つかと思います。私が案内できれば良いのですが、昼からは店に出なければいけないものですから。」

 

 僕はバータックさんの申し入れを遠慮しようとしたが、バータックさんは自分達が受けた恩はこれくらいじゃまだまだ返しきれないと言って、リリア達を僕の道案内に付いていくように言った。この時、僕はバータックさんがリリア達に一つの指示を出していたことは知らなかった。僕の住む所を調べておく事を… 


「リリア、アイシャ、二人とも頼んだよ。しっかりサークさんの道案内をするんだよ。私は今から店に行って来るよ。夕ご飯までには戻るから。」

 

「「はーい!」」

 

 二人はバータックさんの言葉に返事をし、僕の道案内を引き受けてくれた。リリアは僕が何処に行きたいか住所を聞いてきた。住所を伝えると少し遠いので王都内を巡回する馬車に乗ろうと提案してきた。僕は反対する理由もないので馬車に乗ることにした。目的地に着くまでの間はリリア達二人の観光案内を聞いて楽しんでいた。観光気分も終わり、目的地周辺までやってきたので、僕達は馬車を降りて、歩いて下宿先を探すことになった。暫く探したが分からなかったので、近所の人に案内してもらった。

  

 着いた先には思ったより…いや、それ以上に立派なお屋敷があった。父さんからは昔お世話になった上司の方しか聞いていなかったから、人並み以上に裕福な家かなとは思っていたが、これは家でなくお屋敷だった。案内してくれた人にここで間違いないかと尋ねたら、やはり間違いは無いですと返ってきた。リリア達もお屋敷を見て感想を漏らしていた。口々にお爺様のお屋敷ぐらいかしらとか、お爺様のお屋敷の方が派手ですとか、あそこに見える噴水はお爺様のお屋敷に在るのと同じような形をしてるとか…平民である僕には、凄いお屋敷に来た。それだけで頭がいっぱいになった。

 

 僕がボーっとお屋敷を眺めていると、リリア達は門の側にいる守衛さんに声を掛けに言った。僕が正気に戻った時には門は開かれており、ひつじ…じゃない、執事さんがお屋敷に中に招いてくれている。執事さんに案内されるままお屋敷の中を歩いていくが、見たことも無いような豪華な装飾品でいたるところが飾られている。僕はあれを壊したらいくらするのかなとか、萎縮しながら庶民的なことを考えていた。リリア達は逆に落ち着きながら、お爺様のお屋敷のより大きい物があるなど色んな会話しながら、案内を受けている。その様子は慣れたものであり訳を聞いてみると、お爺さんの実家はここと同じ規模のお屋敷で、そこには良く遊びに行ったり、他にもバータックさんと一緒に貴族のパーティーなどもよく参加しているのでこれくらいは珍しくないようだ。住んでいる世界の差を感じた…

 

 執事さんに案内された部屋は、かなり大きく意味も無く落ち着かなかった。ソファーに腰を掛けて待つように勧められ、執事さんは部屋を後にした。程なく、メイドさんが飲み物を持って部屋に入ってきた。メイドさんの動きは、優雅でそれでいて無駄が無く見ていて美しいとさえ思った。その様子を眺めているとメイドさんと目が合った。メイドさんは頬をほんのりと赤く染めて、何事もなかったかのように飲み物を並べるが、少し手際がぎこちなくなった。並べ終えたメイドさんは何かあれば、テーブルの上の呼び鈴でお呼び下さいと言い残し、深くお辞儀をして部屋の外に出て行った。扉を閉めるときに再び目が合ったと思ったら、軽くウィンクをしてきた。

 

「ぃったー!」

 

 いきなり、脇腹に痛みが走り声を上げてしまった。その後、冷や水を浴びせられる様な冷たい声色で

 

「メイドさんを見つめ過ぎです。不潔です。」

 

 リリアのお叱りを受けた。アイシャからは冗談交じりに

 

「お兄ちゃん、わたしがメイドさんの格好でお世話してあげようか?」

 

 からかわれてしまった。僕はやましい気持ちで見ていなかったので、否定の意見を述べた。

 

「僕は別に疚しい気持ちで見てなかったよ。ただ、執事さんにしてもメイドさんにしても動きに無駄が無く綺麗だと思ったから見ていただけだから。」

 

「え~でも、執事さんの時よりお姉さんの方が夢中に見ていた様な気がするよ。」

 

 僕は慌てながら答えた。

 

「そ・そんな事はないよ!」

 

「お兄ちゃん、そんなに慌てて否定しても誰も信じないよ~。」

 

「信じられないです!そんなにメイドさんが良ければ、私がサークさんに…」

 

 リリアは言葉の途中で口を押さえて、顔を真っ赤にして言葉を止めた。

 

 コンコン

 

 扉をノックする音が聞こえたので、返事をすると執事さんが入り、ご主人様が間も無く来られますと告げた。執事さんが少しして扉を開けるとそこには歳を感じさせない筋肉質の男が立っていた。男は部屋に入り、僕に声を掛けてきた。

 

「よく来たな。ワシがグレンバッハ=リカルドだ。」

 

 発せられた声には歴戦の兵としての自信と風格が宿っていた。僕は失礼の無いように片膝を付きながら、頭を下げて礼をとった。

 

「そんな礼を取る必要は無い。ワシは軍を辞めた唯の隠居爺だ。」

 

 僕は礼を解き、改めて名を告げた。

 

「私は王家の森から来ましたサークといいます。リガルド様、今回の下宿の件につきまして、有難う御座います。」

 

 リカルド様は何か懐かしむ様な温かな目で僕を見つめてくれている。

 

「気にするな。大した事ではない。見ての通りこの家は広さだけはあるから、妻と2人では寂しいくらいだ。それにお前は覚えておらぬかも知れぬが、小さい頃に何度か祖父殿と一緒に来ていたぞ。妻もお前が下宿しに来るって聞いて、一日千秋の思いで待っておったぞ。それより、先程も言ったようにワシは唯の隠居爺だから、グレンでよい。」

 

「でも、それでは・」

 

 僕の言葉はリカルド様に遮られた。

 

「ワシがよいと言ったらよい!」

 

「では、グレン様、これからよろしくお願いします。」

 

「様もいらぬ! それより、こちらの小さな淑女達は何処の何方かな?う~ん何処かで見た覚えがあるような無いような?…」

 

 グレンさんはリリア達を見て、僕は一人で来ると聞いていたのにおかしいなという風な疑問を浮べた顔になっていた。僕は自分のことだけで、二人の紹介ができてなかった事を思い出し、慌ててそれぞれの紹介をした。

 

「こちらの二人は、王都に来る途中で護衛の仕事を引き受けた方の娘さんです。王都に着てから色々とお世話になっていました。」

 

 僕の紹介もそこそこにリリア達はそれぞれ自己紹介をした。

 

「私はリリア=ファミルと申します。サークさんには危ないところを助けて頂いたので、少しでも恩返しを出来ればと思い一緒に居させてもらいました。」

 

「わたしはアイシャ=ファミルっていいます。よろしくお願いします。」

 

 そこにはいつもの雰囲気とは違う二人が貴族の令嬢顔負けの丁寧な挨拶をしていた。

 

「おおぉ! ファミル殿のお孫さんか、なるほどならば何処かの舞踏会で見かけた事があるかも知れんな。」

 

 グレンさんは、何度か頷きながら納得顔になっていた。僕一人だけ今の状況が把握できないでいた。僕の様子を見たグレンさんはファミル家のことを説明してくれた。

 

 ファミル家はこの国最大の商人ギルドの代表であり、この国の経済を支えていると言っても過言ではなく、ファミル家の行動、言動の一つ一つがこの国の経済を左右している。その辺の貴族より発言力は強く、王家の信頼も厚い。

 

 僕は驚くしかなかった。確かにバータックさんは、お父さんがギルドの代表していると言っていたが、この国最大のギルドとは言ってなかった。自宅も普通の家だったし、そんな素振りも無かった。後で聞いたが、お爺さんの教育方針で商いは民衆がいてこそ成り立つ。贅沢な暮らしをして金銭感覚を麻痺させては、商売が出来なくなる。民衆の中で生活し、何がいくらで必要になるかを体に染み込ます為に、今の生活をしているらしい。

 

 一通り自己紹介が終った頃にグレンさんの妻、カーラが焼きたてのクッキーを持ってきて、メイドさんがお茶を入れ直してそのままお茶会となった。

 

 日が傾き、夕暮れ時になってきた。グレンさんはリリア達を家の者に送らすと告げ、馬車の準備をさせた。別れの際にカーラはいつでもこの家に遊びに来ても良いからと伝え、皆で見送った。

ここで読んで頂き、ありがとうございます。

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