二ー伍話・・・・・戦いの後
…ライオウ達はゆっくりと森の奥に去って行った。
僕はリリア達の元に戻って声を掛けた。
「バータックさんの顔色も良くなったけど、近くの町に行ってお医者さんに診てもらおう。」
リリアは疲労で辛そうな顔色だったが、はっきりと返事をした。
「はい。」
アイシャは心配そうな顔で聞いてきた。
「お父さん、だいじょうぶ?」
「ああ。だいじょうぶだよ。リリアが一生懸命魔法を掛けてくれたからね。念の為にお医者さんに観てもらうんだよ。」
「うん」
アイシャは納得し、大きく頷いた。僕はバータックさんを背負い、リリア達に声を掛けて歩き始めた。次の町まではこのペースで数時間歩けば着くだろう。しかし、空気が重い。あんな事があった後だから仕方が無いとはいえ、気が滅入る。少しでも会話をして、雰囲気を変えようとした。
「…え~と、アイシャが普通に喋ってくれて良かった。僕を避けているのかなって思ったし。」
「え! そんなこと無いです…」
アイシャはやっぱりリリアの後ろに回り込み、小さな声で答えてきた。
「う! 避けられている。」
少しトーンの落ちた声を出した。
「この子、恥ずかしがっているだけですよ。さっきもサークさんのこと、お兄ちゃんって呼んでいたでしょう。」
「あう~、お姉ちゃん余計なこと言わないで! お姉ちゃんも昨日の夜に助けてもらってから、何回もサークさん、サークさんって言ってるくせに。」
「アイシャそれは内緒でって今日の朝に約束したでしょう!」
そんな姉妹の会話で先程までの重い雰囲気が無くなった。
「う…う~ん…ここは?」
背中からバータックさんの声が聞こえてきた。
「気づかれましたか、体はどうです?」
僕はバータックさんに声を掛けた。
「あ! サークさん、すみません、自分で立てますから、降ろしてください。」
バータックさんは僕の背中から降りようとしたが
「無理をしないで下さい。リリアの回復魔法で少しは回復しているかもしれませんが、医者に見てもらうまでは大人しくしていて下さい。」
そう言って止めた。
「「お父さん、無理しないで!」」
娘達に言われ大人しくおぶさった。
「…サークさん、他の子はやはり…」
バータックさんは言い辛そうに聞いてきた。
「はい…僕の力が足りませんでした。すみません。」
「いや、サークさんの責任では無いですよ。私があそこで休憩を取らなければ…」
「バータックさん、今はやめましょう。今は町に行くことを優先しましょう。」
「そうですね。けれど、どうやって助かったのでしょう? サークさんはもう一体と対峙していたはずですし。」
「いや、僕も記憶が飛んでいて、気がついたら傷付いてボロボロになっていたライオウ達の前に立っていたので。詳しくは、町に着いてからにしましょう。」
「ええ。」
…なんとか日が落ち暗くなり始める時に町に着くことが出来た。町の人に医者の居場所を聞き、すぐにバータックさんを連れて行った。そこには小さな病院があったが、光は消え暗くなっていた。玄関でノックをしながら呼びかけた。
「遅くにすみません。怪我人がいるので診てもらえませんか?」
すると、中から返事があった。
「誰じゃ、こんな時間に、今開けるわい。」
ドアが開き、中から初老の男性が出てきた。
「見慣れん顔じゃの」
不審者を見る様に、僕達をみる。
「旅の途中でモンスターに襲われました。その時に一人が怪我を負ってしまって、診て貰いたいのです。」
「まぁ良い。中に入れ。」
僕達は中に入り、診察室に通された。
「その男をベットに寝かせろ。」
バータックさんをベットに降ろし、診察してもらう。
医者はバータックさんの体を一通り診察し
「ふむ、大きな怪我は魔法で回復されとるな。二日ほど安静にすれば、傷も癒えるじゃろ。しかし、今日はこのまま一晩入院じゃ。」
医者はあとは大したことは無いと言って、診察を終えた。
「お前さん達は、宿でも行って休んで来い! 揃いも揃って顔色が悪い。飯食って、風呂は行って、さっさと寝ろ。」
医者は僕達に言い方は乱暴だが、気遣いをしてくれる。
「はい。ありがとうございました。」
僕は素直にお礼をいい、リリア達を連れて宿に向った。宿についてから、僕と姉妹の2部屋を取る事にした。それぞれの部屋に行って、手荷物を置いてから食堂に集まった。テーブルについて、それぞれ好きな物を注文した。
クゥー
誰かのお腹がなった。無理も無い。朝食べたあとは何も食べていないのだから。リリアが顔を赤くし、下を向いた。
「……」
「お姉ちゃんのお腹の虫さんが鳴いた~」
「アイシャ!」
僕は小さく笑ってしまった。
「サークさんも! 二人して、もお~」
僕は笑顔のままで
「ごめんごめん。悪気は無いんだ。今日はしょうがないよね。」
リリアは顔を横に背けて
「サークさんの笑顔はずるい…怒れないです…」
別の意味で顔を赤くし、最後は消えるような声で言ってきた。そんな会話をしていると料理がきて、食事を始めた。やはり、二人ともかなりお腹が空いていたみたいで、お喋りをせずに一心に料理を食べている。
食事が終わった後それぞれの部屋に戻り、少し休憩をしてからお風呂に入りに行く。お風呂は中々の広さのある大浴場で、リラックスして入ることが出来た。部屋に戻り、今日の事を考えていた。短い間だったが、一緒に過ごした人が大勢死んだ。
僕は敵を討つ事が出来たがしなかった。
これが正しかったのかは、まだ分からない。あの時どうすれば正しかったのか、これから先も考えていくことになるだろう。そんな事を考えていると、自然と意識が眠りへと落ちていく…
「いやーーーーーーー!」
夜中、隣の部屋から響いた叫び声。僕は隣の部屋のいるリリア達の元へ向った。部屋の前でノックし、呼びかけた。
「リリアどうした?」
中から返事が無く、何か啜り泣きするような声が聞こえた。
「中に入るよ。」
僕は返事を聞かず、中に入っていく。中では姉妹がお互いに抱き合い、慰め合う様に泣いていた。僕はどうしたのか分からず、近づいていった。
「二人とも大丈夫?」
「み…みんなが…いなく…」
「…目の前で…赤く染まって…」
二人が僕に抱きついてきた。二人が昼間の出来事を思い出し、恐怖心に駆られていると分かった。僕はなるべく落ち着くように、優しく諭すように声を掛けた。
「大丈夫だから、心を落ちつけて。全て終っているから。」
ゆっくりと安心する様に時間を掛けて、二人の頭を撫でた。二人が落ち着いてきた時に、いきなり声を掛けられた。
「お客さん、何かありましたか? 入りますよ。」
宿の主人らしいが、今の僕の状況は少し、いやかなり不味いのでは?
「や、ちょっと、ま・待って!」
「お客さん! こんな小さな娘さん達になんて事を!!」
「いや、違います。訳を聞いて…」
主人は問答無用と睨み付けてきた。そして拳を握り僕の顔に見事なストレートをぶち込んできた。
「この変質者がーーー!」
僕は咄嗟に回避しようとしたが、リリア達に抱きつかれているので…無理……覚悟した。
…あんた、いい右を持っているぜ!
「え! ええ~! サークさん」
「サークお兄ちゃん!」
二人が吹っ飛ばされた僕を起こしてくれる。
「お嬢ちゃん達、危ないからその男から離れなさい。」
主人はリリア達の事を心配して声を掛けてくれている。リリアは僕起こしながら、訳を説明してくれた。
「違うんです。わたし達が怖い夢を見て、大声を出したのでサークさんが心配して、見に来てくれたんです。」
「そうだよ。サークお兄ちゃんが慰めに来てくれたんだよ。」
アイシャも僕のことを説明してくれた。主人は慌てて頭を下げ、僕に謝罪をしてくれた。
「お客さん、すみませんでした。状況が状況だけに勘違いをしてしまって。」
僕は主人の謝罪を受け入れた。
「いや、もう良いです。悪意でなった訳でなく、リリア達の事を心配してくれた結果ですから。」
「はぁ、ありがとうございます。でも、お客さんも人が悪い。一言言って頂けたら、誤解だと分かりましたのに。」
おいおい、最初から変質者と決め付けて、説明も聞かずにストレートをぶち込んだのは誰だ。
不条理を感じたがこんな時間から、言ってもしょうがないので、主人にはささっと退室願おう。
「こんな時間にお騒がせして、こちらこそすみませんでした。もう休むのでお休みなさい。」
「そうですね。では、ごゆっくりと。」
そう言うと、主人は部屋の外へと出て行き、自分の部屋へと戻っていった。
「さてと、僕も自分の部屋に戻って、寝るよ。」
「サークお兄ちゃん、まって、一緒に寝ちゃダメ?」
「え!」
アイシャは少し涙目で訴えてきた。
「だって、また思い出すと怖いから……ダメ?」
「う~ん。」
僕は少し悩んだがリリアも居るから不味いなと思い断ろうとした。
「それは流石にまず…」
「わたしからもお願いします。」
僕の言葉を遮って、リリアが言ってきた。
「え~! まずいよ。」
「サークさんなら大丈夫です! わたしも思い出してもサークさんが居れば安心できます。」
二人に頼まれて断るに断れない。それに、二人が安心して休めるならと思い一緒に寝ることにした。
「わかったよ。今日だけは一緒に寝るよ。」
二人は手を取り合って喜んでくれた。二人の喜びようを見て僕はこの判断は良かったんだと思い顔が綻んだ。二人はベットをつなげて、僕を真ん中に寝るように勧めてきた。少し緊張するが、ベットの真ん中に入った。すぐにアイシャは僕の腕に抱きつき、寝息を立て始めた。
「サークさん、不安なんで、手を握っていて良いですか?」
反対側ではリリアが僕の手を握ってきた。
「いいよ、安心してお休み。」
「はい」
暗くてよく見えないが、リリアは笑顔で答えたように思う。暫くして、リリアからも寝息が聞こえてきた。
さて、ここからが問題だ。
僕はアイシャはまだ子供だからいい。しかし、リリアは女の子の成長が始まっており、意識すると緊張してしまう。
僕はこの子達の保護者だ、保護者、保護者・・・・頭の中で何度も呟く。ここで間違いを起こせば、主人が言ったように変質者だ。保護者、保護者・・・
そんな事を考えているうちに、いつの間にか僕も寝てしまった。




